4. 誘拐されてしまうなんて
お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
僕が学生の時、暇さえあればリュック一つを背負って世界中を旅して歩いていたわけだ。短期間でお金が稼げる家庭教師のバイトは、僕にとって本当に都合が良かったんだけど、そこで稼いだお金は飛行機代として吹っ飛んでいった。
現地に到着したら、安宿に泊まりながらバスで移動をしていくことになるんだけど、旅行中はそりゃ危ない目に遭うこともあるわけだよ。
トルコに行った時のことになるんだけど、向こうの人って結構日本人に対して好意的だったりするんだよね。だから、お茶とか無料で振る舞ってくれることもあるわけ。
同じような旅行者から聞いた話になるんだけど、出されたお茶をうっかり飲んでしまって意識消失、次に気がついた時には、ケツ丸出しの状態で知らない部屋に放置されていた男性旅行者がいたっていうんだよね。
「睡眠薬を盛られて貴重品全てを持って行かれるだけで済まないこともあるから、気をつけた方がいいよ〜」
と言われたんだけど、こえーわっ!僕は教えられた教訓を胸に、旅行中は絶対に知らない人から出された物は飲むまいと心に誓うことになったわけ。
異世界転移を果たした僕だけど、これは現在も実践しているわけだ。白髪のイケメンが純白の歯をキラキラさせながらシャンパングラスを渡そうとして来たけど、僕は絶対に飲むまいと心に決めた。
「うちの商会でも水の国への輸出事業を拡大させようかと思っていたところなのですが、貴方を市場で見かけたところ、随分と調味料などに造詣が深そうに見えたので〜」
と言っていたけど胡散臭いと思っていたし、あまりのイケメンぶりに冒険者ギルド長の巨乳でウサ耳のカミーユさんの言葉が脳裏を過っていったんだよね。
「女は黙っていても寄って来るピョンけど、男は自分から攻め落とさないと陥落しないピョン。そこの恋の駆け引きにハマるエルフは意外なほどに多いのだピョン」
自分が男にモテるとは思わないけれど、警戒するに越したことはない。バーテンダーにアイスティを注文し、目の前で用意されたアイスティーを飲むことになったんだけど、一口でブラックアウト。ここでトルコ式を使われるとは思いもしなかったよ。
そんな訳で、次に目を覚ました僕は、慌てて自分のパンツを確認した訳なのだが、どうやら僕の貞操は大丈夫だったらしい!有難う!神様!
「「「先生!西山先生!」」」
僕に飛びついてきたのが女子生徒三人、牢屋の向こう側からも、生徒が僕に向かって声をかけてくる。
岩肌が剥き出しになったような自然の洞窟を無理やり牢屋にしたような場所に監禁されたらしく、三年三組の生徒たちが泣きながら僕の方に手を伸ばしている。
「先生!助けて!」
「死にたくない!俺!まだ死にたくないよ!」
阪口先生がカジノで借金を抱えて、その借金のカタとして連れて行かれた生徒たちが牢屋の中に入れられている。どの生徒も衛生状態が良くないまま放置されたらしく、げっそりとして痩せ細って見えた。
「つまりはどういうこと?」
「トカゲたちは、先生もオークションにかけるって言って、先生をここまで連れて来たんです」
ポロポロと涙をこぼすのは三組の土屋美波だ、こいつが阪口先生を後ろ盾にした後は、乃木あやみ方式で好き勝手やっていた話は聞いている。
「えーっと、君たち目当てで吸血鬼王がやって来るとか言っているオークションの話だよね?それに僕も出品されるわけ?」
僕の質問に土屋が答えようとすると、突然、薄暗い牢屋の奥の方から笑い声が漏れ出して来たのだ。
この時の僕は知らなかったのだが、吸血鬼たちが生徒たち(汎用性がある人族)を狙っているのは周知の事実だった為、オークションの主催者側が人族に関しては吸血鬼たちに見つからないようにする為に、神殿の地下にある聖なる地(牢屋)にて保護をすることにしたそうだ。
金を払わずに攫われては堪らないということなんだろうけれど、高値で売り飛ばす予定の割には、生徒たちは杜撰な管理を受けていたようだ。
神殿に祀られた神の力により探索を拒絶する場所だった為、ここを探り当てることが出来なかった吸血鬼王だったんだけど、連れ去られる僕を追いかける事でようやっとこの場所を見つけたみたいなんだ。
「うふふふふふ、何処に隠されているのかと思ったら、こんな場所に隠されていたのか」
闇の中から現れたのは白髪のイケメンで、プールサイドに居た時にはなかった犬歯が口の端から大きく出ていた。
全身を漆黒の革で出来たズボンやらシャツやらでコーディネイトしているので、一見するとモデルとか、ロックスターみたいに見える。
「えーっと、やっぱり貴方が噂の吸血鬼王ということになるんですよね?」
僕の問いかけにイケメンは無言で微笑を浮かべると、その後に現れた二人の女吸血鬼が、
「ああ〜らっ!人族のピチピチの雌が6匹もいるじゃない!子宮が6個も使えるわね!」
と、喜びの声をあげ、
「我らが王よ、人族は捕まえてこのまま移動をいたしましょう!」
と言って、恭しく辞儀をする。
「貫通魔法!」
僕が手を前に出しながら厨二病発言をしていると、女吸血鬼が、
「無理無理無理無理!首に魔力を封じる首輪をしているからね!」
と、自分の首に指を向けながらニンマリと笑う。
僕は自分の首に手を回して気がついた、確かにベルベッド素材のチョーカーのようなものが巻かれている。
「『この人』がリヤドナに到着する前に、さっさと回収してしまおう」
「火の国の王が到着する前に、移動をしてしまいましょう」
この人さんはすでにリヤドナに来ているんだけど、吸血鬼たちは知らないのだろうか?
ニヤニヤ顔で二人の吸血鬼が手を翳すと、あっという間に鉄格子が錆びて、朽ち落ちていく。
「「「「キャーーーーーーーッ」」」」
生徒たちの悲鳴を聞きつけた大蜥蜴の獣人たちが、牢屋の入り口である扉の方までやって来たみたいだけど、牢屋へと通じる扉は全く開く兆しがないようだ。
「さあ!男は内臓を切り出して瓶詰めにし、残りは神への供物としてしまおう!」
「さあ!女は子宮を取り出して産み腹とし!体は死ぬまで男どもの玩具としてしまおう!」
渦巻くどろどろの魔力を感じながら、相変わらず僕の頭の中では、いつものメンバーがぐるぐる回り始める。僕だって誘拐されているんだ!命の危機なのは間違いない!だけど僕が教師ってだけで、全部はお前の責任だ!みたいな感じで言われることになるんだな!
「絶対そんな事はさせない!責任問題となったら誰が追及されることになると思っているんだ!生徒たちの自己責任なんか追求されやしない!絶対に引率者だった教師が迷惑をこうむることになるんだからな!」
生徒を押し退けて牢屋の通路の方へと出て行った僕は、ありったけの神の針を三人の吸血鬼に向けて放射し続ける。
貫通魔法は魔力を使ったきちんとした魔法になるんだけど、神のなんたらシリーズだけはそういうものとは逸脱しているんだと『この人』さんが教えてくれたのだ。
魔力を封じるチョーカーが付けられていたとしても、金色の光の針が放射状となって吸血鬼たちに襲いかかる。
正直に言って、僕は吸血鬼というものを軽く見ていたのかもしれない。吸血鬼卿のロザミアに始まり、ショタのレオニート君、阪口先生に取り憑いていたカチェリーナとかいう吸血鬼、三匹を倒すことが出来た僕は、今回もなんとかなると思っていたんだ。
だけど・・
『クワッ』
白髪イケメンが口を開けて何かを発射しただけで、僕の左手は吹き飛んだ。
前へと差し出した左腕を消滅させられた僕は、血を撒き散らしながら、崩れ落ちる壁の中へとのめり込むようにしてふっ飛んだのだ。
ここまでお読み頂きありがとうございます!
モチベーションの維持にも繋がります。
もし宜しければ
☆☆☆☆☆ いいね 感想 ブックマーク登録
よろしくお願いします!





