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15マルセル

「あー……」


説明不足だったと反省したが、後の祭りだ。

かなり魔力が限界だったので、説明するより先に、前回同様、隠蔽の魔法をかけたのだ。

これはかなり魔力を消費するので、ちょうどいいと思ったのだが…。


今回は、素早さを上げてるわけでもないし、姿が見えなくてもこちらが話したことは聞こえるのだから、とりあえず魔力回路への負荷を下げてから説明しよう、と思ったことが失敗だったようだ。


異常なまでに魔物に出会わないな、と思ったときに、いざとなったら隠蔽の魔法を使う、と、みんなに伝えておけば良かった。


それにしても…あのそそっかしさでは、あのデニスという冒険者は大成しないな…とため息をつく。


私もダンジョン脱出アイテムは持たされているけれど、高価なものだし、それに私が脱出したところで意味がない。

ダンジョンの外では魔法を思う存分には使えないから。


それより、早く次の階層に進んで、魔物と戦わなければ…。


私のダンジョンでの運は、いい方だ。

トラップダンジョンでもないので、ヒントもないが警戒すべきものもない。


そして本来警戒すべき魔物に出会いたいのだから…私は分岐がある度に、深く考えずに足の赴くままに進んでいった。


このダンジョンのマップが同じままでいてくれるのは、最短で2時間。最長で12時間。


ついさっき、マップが変わる地響きと共に、あちこちの壁が消えたり現れたりしたのを目の当たりにしているので、冒険者とダンジョンの外にでてしまったローズさん達が、さっき歩いた道順を頼りに私のところに来てくれる、という見込みもない。


私の魔力の変化を計測していた研究員もダンジョンの外に出されてしまったので、もう実験として成り立たなくもなったわけだし。


自分のことだけを考えるとするか…。


私はそう腹をくくって、ダンジョンを進んでいた。


幸い、魔力がいっぱいになる前に、階段を見つけてホッとした。


そして、二階層に入ってみれば、ちゃんとすぐに魔物に行き当たった。


この階層でレベル上げしているようなパーティーはいないらしい。


まあ、ここの二階層には、ごく稀に厄介な魔物が出るのでレベル上げには向かないから、だろうが。


厄介な魔物というのは、一階層にもいる、頭や尻尾がなくてどっちが前なのかわからない四つ足の動物みたいな魔物と共生関係になっている、寄生魔物のことだ。


そいつがものすごく弱いくせに、魔力を尋常じゃなく持っていて、四つ足魔物を一撃でやっつけられない場合は回復魔法を使われて戦闘がずっと終わらなかったり、意識を失わせる魔法を使われて、気を失っている間にこちらがやられてしまうのだ。


まあ、俺にとってはそんなのが出たとしても、厄介でもなんでもないが。


ホッとした俺は、のんびりと歩き出した。


定期的に魔物が見つかるので、魔力が増えた分くらいをちょうどいい感じに消費できている。


ふと。

誰かに呼ばれたような気がした。


でも、一人で攻略しているダンジョンで、そんなわけないな、と数歩進んで。


また、誰かに名前を呼ばれた気がした。


「ん?」


立ち止まって、耳を澄ませてみる。


やっぱり、私の名前を呼んでいるように聞こえる…?


身体強化をかけて、聴力を上げてみた。


「マルセルさあーん、どこですかぁ…?」


「はあ?あの声は…ミリアン?」


まさか、そんなわけが…。


じゃあ幻聴なのか?

だったらなぜそんな幻聴が?

そんな姑息な手をつかうような魔物は、このダンジョンにはいないはずだが…。


かなり警戒しながら、声の聞こえる方に向かってみる。


私もあの声に引き寄せられているが、魔物だって同じように声を聞きつけたら引き寄せられているはずだ。


…そう思い至ったら、走っていた。


迷路の角を曲がり、その通路のかなり先の方に、人影が見える。


ミリアンの悲鳴が聞こえる。


案の定、魔物と戦っているようだ。


あの魔物はよりにもよって、滅多に出ない厄介な奴がくっついているじゃないか!

ミリアンの手に負えるようなものではない…!


身体強化を足にかけて、一気に駆け寄ってみれば…ローズさんが魔物の魔法によって昏倒しており、ミリアンがローズさんを庇うようにうずくまったところだった。


走りながら得意の雷の魔法を落として、魔物とミリアン達の間に体を割り込ませる。


幸いにして、雷の直撃を受けて、魔物は即死したようだ。


「大丈夫か?!」


すぐに振り向いてミリアン達の無事を確かめると、ミリアンが涙でぐしゃぐしゃの顔を上げて私を見て…さらにぼろぼろと涙を流した。


「マルセルさん!」


ミリアンは、ホッとした顔をすると、ふぇーん、と声を上げて泣き始めた。


戦闘終了によって、魔法で意識を失っていたローズさんも目を覚まし、体を起こした。


「あー油断したわね…。そして、良かったー、再会できたわ…。追いかけてダンジョンに入ったものの、会えなかったらどうしようかと思ったわ。まあ、ラスボス倒したりしないで適当なところで諦めてアイテムで脱出しただろうけど!」


私には隠蔽の魔法がかかっているので、魔物は私に気が付かない。

だから余計に楽勝なのだが…二人はここまでどうやってきたのだか。


「その、ミリアン、ケガはないか?」


ミリアンはローズさんによしよし、と宥められながら、ハンカチで顔を拭いている。


そして、じっと私のことを見上げてくるので、その濡れたまつげとか、まだ潤んだ瞳とかに、なんとなく落ち着かない気持ちになってきて、慌てて目を逸らした。


「ケガは無いですけど…。心配でした…」


「わ、私を心配したのか?」


こんなレベルのダンジョンでは、どうにかなることもないが…。


「魔力暴走してないか、を心配してたのよ。一階層があんなだったから」


私の表情から、正確に私の考えたことを読み取ったらしいローズさんに言われて、あ、そっちか、と納得する。


「まあ、この子は本当にただ純粋に、一人でダンジョンに入るなんて、って心配もしてたみたいだけどね」


「あ!マルセルさんには、…心配することがむしろ失礼だった…みたい、です、か…」


しょんぼりとしてしまったミリアンに内心では慌てながら…どうしてミリアンがダンジョンに入るようなことになったのかを、ローズさんから聞いた。


「まあ、確かに私の魔力痕を追うことができるのは、ミリアンしかいないのか…」


まるっきり、あの最初の実験のときの繰り返しだ。

私が隠蔽をかけて、ミリアンが魔力痕を追ってきて…。


「とりあえず、すまないが、話し込んでいる間にまた魔力があふれそうだ。ミリアンに隠蔽をかけていいか?」


「え?わ、私にですか?」


「あら、ついでに私にもお願いするわ」


二人に隠蔽をかけたら、魔力をかなり消費して、余裕ができた。


「そういえば…ここまでくる間の魔物は素人二人でどうしてたんだ?」


「あら?嘘でしょ、マルセルちゃん、私、一年だけ冒険者してたこと忘れたの?」


「うん?………あ!」


そういえばそうだった。

ローズさんの母親と私の母親が友人同士なのだが…似た者同士の子ども達は似たように育ったらしく、ローズさんも、塔に入る前に、学院を卒業してから一年間だけという親との約束で冒険者をしていたのだった。


そういう経緯も似ていることもあって、ローズさんが口利きをしてくれて、10年も冒険者していた私が特例で入塔試験を受けることができたのだ。


魔術研究所なら、すんなりと試験が受けられたらしいのだが、伝統ある塔の場合は、難しかったのだ。

でも、カミーユ君とヴィリエ氏の娘が研究所を選んでいるのを見たら…そっちでも楽しかったのかもしれないな、とちょっと思う。


でもまあ、一年間程度の経験でも、このダンジョンのレベルで、しかも一階層にはほとんど魔物がいないというのであれば、なんとかなったのだろう。


測定機器をローズさんが持っていたこともあり、データとしては中抜けにはなるが、無いよりまし、ということで、私の魔力の測定は再開していたし、そして謎の、私が戦っているところが見たい、という訳の分からないリクエストを受けて…。

しばらく二階層で私が魔物を倒して歩き、うっかり階段を見つけたので三階層までは降りてみたけど、そこでようやく魔力の増加が止まったので、私たちはアイテムを使ってダンジョンから出たのだった。


ちなみに、冒険者のデニス君は、必要ないタイミングで高価な魔道具を勝手に使ったということで、今回の報酬から脱出アイテム代を差し引かれたそうだ。

まあ、そうだろうな。


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