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12マルセル

今日はローズさんが昨日迷惑をかけた関係各所にお詫びをして回るというので、一応ついて回って、一緒にお詫びをしておいた。


良くあるようなことではないものの、大事に至らなかったし、試作段階での予想外の副反応ということで、大体の反応は気にするな、というものだった。


「はー。私達凡人と、マルセルちゃんみたいに魔力が多い人では反応が違うのかしらね」


「いや、私の推測だと、ちゃんと魔力を使い切らずに使ったのが良くなかったのではないかと…」


「あ、そうなの!一応それも検証中なのよ」


「でももしそうだとするなら、実戦には使えないな…じわじわと回復するあのスピードなら、戦闘開始と同時に飲んでおかないと間に合わないが、それで魔力暴走を起こしてしまっては意味が無くなってしまうし…。まあ、ラスボスとの戦いとかなら生きるか死ぬかのことも多いし、それでもかまわないこともあるだろうが…」


「そうよねえ…はあ…アプローチを変えないと、だわ…」


「でも、むしろ、完全なる魔力枯渇のとき、今はただひたすら食べて横になっているしかないが、その回復を早める薬、というものにしてしまえばいいのではないか?」


「やっぱりマルセルちゃんもそう思う?私達は戦闘中に魔力を回復させる薬を作りたいのだけど…これは戦闘中じゃないときの、魔力回復薬になっちゃいそうね…」


「うーん…あとは一度に摂取する量の調整、とか?」


「ええ、そこも検討するわ。あそこまで作り上げるのにも、結構時間とお金かけてるのよね。だから、なんとかこの失敗を活かしたいのよー」


「ああ、あと、被験者の性別が偏ってたのも気になったから…そこも検証した方が良くないか」


「そうしたいけど、今回のことのカタがつくまでは、しばらく新しい人での実験はしないつもりなの。はあ…出口が見えたかと思ったらまた逆戻り。ま、研究職の宿命ねー。今日はありがとね。明日以降、色々また検証のためにお邪魔するから」


ローズさんと別れたあと、まだ挨拶に行っていない人物がいたことに気が付いた。

さっきローズさんと研究室に挨拶に行ったときに、いなかったのだ。


既に昼休憩の時間になっていたこともあり、もしや、と裏庭にまわってみた。


案の定…。

ベンチに座って、膝の上にお弁当を乗せ、小瓶を手の上に載せて、なにやら術を展開しているミリアンを見つけた。


…相変わらず、構築がへたくそだな…何年も前の出来事も思い出して苦笑してしまう。


前と違って、なんとか成立はしているものの、半分近くが無駄だ。無駄を省いてスッキリさせれば、消費魔力量も一気に減る。


眉間にしわを寄せて、何やら考えこみ、小瓶をおろしたので、話しかけようとしたところ…。


こちらが話しかける前に気が付いてもらえたのはいいものの、ものすごく驚かせたようで、むせさせてしまった。


慌てて背中をさすって…その小さな背中にぎょっとする。


なんだ、この筋肉もなければ…骨も細そうな体は…ダンジョンになんか入ったら、最初の戦闘で死んでしまいそうだな…。

そんなことを考えつつ、声をかけそびれていた言い訳を口にした。


「昨日の礼をと探していたのだが…集中しているようだったので声をかけそびれてしまったのだ」


咳が落ち着いたところで見上げられ…。

その目の周りが赤い涙目の顔で見上げられて…ドキッとする。


そして、まだ背中に触れていたことに気が付いて、慌てて手を離した。


お礼を言いに来たのに、むしろミリアンに心配されたり、気を遣わせてしまった。


とりあえず筋肉痛や腱を傷めたといったことがなかったかを確認すると、なんともないというので安心した。


そして…じっと見られてしまって…思わず、さっきの術のアドバイスを申し出てしまった。


何年か前のときは失敗続きだったので、見かねて声をかけたものだったけど、今日に関しては無駄が多いにしても一応は成立しているので、余計なお世話といえばそうなる。


でも、帰ってきた反応は、実に好意的だった。

期待にキラキラと輝いた目で見上げられて、一瞬固まってしまった。


なんだ…子犬か…?


小首をかしげて見上げる様子は、遊んで?と小枝を咥えてこちらを見上げる子犬のようだ。


視線をずらしたら、その視線につられるように後ろを振り向いたりして、素直にもほどがある。


そんなことでは魔物の攻撃のフェイントにあっけなくかかって、すぐに死んでしまうぞ。


…まあ、こんな子がダンジョンに入ることなんてないか。

そんなことになったら世も末だ。


「あー…頻繁に開封する前提の封印、だろうか?」


「あ、そうです!できれば、流布されているやつじゃないのがいいなあと思っていて…」


さっきの術式をみれば、どんなものを作ろうとしていたか一目瞭然なのに、すごい、なんで分かったのかしら!という顔で見られて…思わずよしよし、と頭を撫でそうになった自分を必死に止めた。


無駄を省いたものを例として教えてやると、目を輝かせて、早速試し、成功させた。

構築はへたくそだけど、能力そのものはあるのだ。


「わあ!ありがとうございます!助かりました」


「いや、こちらこそ大したことはしていないが…。それにしても、そんな小さな瓶に一体何を封印するのだか…って、ああ、立ち入ったことだな。失礼」


あまりに大喜びされて…ふと気になったことが口から出てしまった。


すると、思いもかけない理由を聞かされた。


「お見合い…」


驚いた。

のんびりした子で、なんの悩みもなさそうに見えるのに…家が借金を抱えているらしい…。


私が驚いたのを見て、あはは、と明るく笑ってみせたりするので思わず謝ってしまった。


「私が勝手に話をしただけですよ」と笑っていたけれど。

…若い娘が借金のかたに嫁がされるなんて、無くはないけど良くある話でもない。


まだ結婚に夢を抱いていてもおかしくない歳じゃないか…?と思ってから…同期なのだから、もう22か23歳なのだと気付いて…女の子ならば腹をくくらねばならぬ年齢なのか、と思うと、なんだかもやもやした。


私は33歳でもまだフラフラしているというのに…。


ミリアンと別れたあと、もやもやがおさまらず、職員名簿でミリアンの家名を調べ、実家にミリアンの家のことについて調べてほしい、と手紙鳥を飛ばしてしまった。


どうしてそんなことをしてしまったのか、と自分でも首を傾げながら。


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