巣籠もり
グルルルルルッ グルルルルルッ
御嶽山の火口から200メートルほど降りた岩床にベヒーモスは横たわっている
湧き立つ溶岩の熱により、他の生物の生存を許さない超高温の環境で 少し離れた岩棚に3つの卵を産み
火山の地熱を利用して抱卵としていた
そして本来であれば、あらゆる傷を数時間で完治させることの出来るはずの肉体が
己の知らない魔力を帯びた刃物で切付けられ、その傷が未だ完治せず 静養を余儀なくされていた
己の肉体が変化している あの赤い霧状の。。。。視認できるほどの強い怨念が己の体内に融合した事で飛行能力を手に入れた さらに明確な事は、今しているように思案する事が出来るようになっている
本能に従い動くのではなく 己の意思を持ってここに留まり 静養をしている
驚くべき変化だ!? 進化というのだろうか?
ここは安全だろう しかし己が産み出されたサランドルダンジョンからの因縁の赤いオーラを持つ、あの連中ならば
ここまで追って来れるかもしれない この環境でも戦えるのかもしれない 警戒しなければならない
己を縛り付ける術を持ち 己の肉を抉る剣を持つ しかしながら思考と警戒を手に入れた己は
生物として数段の進歩を遂げているのだろう
だがしかし 唯一厄介な物も手に入れている それは感情だ
己は、この卵達が可愛くて仕方がない 己の命と引き換えにしてでも この卵を守りたいと思うほどに。。。
グルルルルルッ 守らねばならない これは感情なのだろうか? 本能なのだろうか?
《あんた面白い物を持っているんだね? 空間を歪ませて物を収納できるなんて 私も入れて運んでおくれよ》
「構わないが、生物は死んじまうようだぞ? 玉は、生物なのか精神体なのか微妙なところだからな。。。実験も兼ねて入ってみるか??」
《いや。。。遠慮しとくよ それよりこの山を越えると
御嶽山が見えてくるよ これだけ離れているのに嫌な気を撒き散らかしているねぇ 私の国を我が物顔で飛び回りおって!》
「火口から侵入して、出てきていないんだよ 傷が癒えるまで大人しくしているのか。。。あるいは、本当に産卵して巣ごもりをしているのか。。。」
《産卵だって? あんなのが増えるなんて我慢ならないね
卵のうちに壊すっていうのは、どうだい?》
「あそこで戦うのは、あまりにも俺たちに不利だからな
あの中で戦うには、天女の加護を何重にも掛けてもらって
なんとか動けるようになるくらいだからな 出てくるのを
待つより無いよな。。。」
駿河 井伊谷城
「義母様 天女様より、私に文が届きました 鳴海城に来るようにと」伝書鳩で届いた 小さな文を握りしめ 井伊直虎の居室に駆け込む 井伊直政
「天女様がお呼びとあれば、すぐにでも出立せねばならないが
いったいどのような御用だろうね?」井伊直虎が首を傾げる
「どのような御用であれ、天女様のお役に立てるのでしたら
これ以上の誉れはございません」
「ふむ お前が、こうして生きていられるのも天女様のおかげ
出立の用意をおし」
信濃 上田城
「母上、父上より文が届きました 読んで下さい」
「幸村、父上が鳴海城にてお待ちです 長旅になりますが
行きますか?」
「父上がお呼びでしたら、何処へでも行きますが 何かお役に立てることがあるのでしょうか?」
「貴方も真田の男児です 父上のため、真田のため精進してきなさい」
「はい 母上、行ってまいります」




