従属
バァーン!! 鉄砲の音が鳴り響く
カーーーンッ 5メートルほど離れた木製の古い胴鎧に着弾する
服部半蔵が胴鎧の着弾点を確認する
「あの。。。傷1つ無いのですが。。。」消え入りそうな声だ
「あっ?」馬場信春が胴鎧に顔を近づけ目を凝らす
「外したようじゃな もう一回じゃ」
「「「「「いやいや カーーーンっていったし!!」」」」」
一同、一斉にツッコむ
本丸西側の弓道場に集められた 大将以上の家臣団 約200名が実験に立ち会っている
「天女様の加護を戴いた鎧じゃ、効果は見ての通り種子島(鉄砲)でも傷1つつけられん」
山県昌景が声を張り上げる
「服部半蔵殿 お主の、そこにある槍で その銅鎧を突いてみてはくれんか 本気でな」
「え? 私がですか? こんな大勢の前で。。。出来れば遠慮したいのですが。。。」
そう言いながらも、渋々といった体で、壁に立て掛けられた愛槍を手にする
「半蔵殿、銅鎧を貫いた経験は?」挑発をする 山県昌景
「何を言われます山県様! この服部半蔵 このような古びた鎧 木っ端微塵にしてご覧にいれましょう!!!」
槍を手にした途端 声量が3倍に骨格や面構えまでが別人に見える
『『『『『二重人格かよ!!!!!』』』』』 皆が心の中でツッコむ
息を大きく吸い込み 丹田で気を練る その気を下半身から腰へと 十分に力を伝達させながら 肩そして腕へと
力を伝え 槍を扱き すべての力を載せ 一気に爆発させる ドッゴンンンッ!!
確かに並の鎧では、木っ端微塵であったかもしれない
しかし結果は、鎧が括りつけられた杭が前後に揺れているだけである
服部半蔵はというと、あまりの衝撃にヘタリ込み 痺れた両の手を見つめている
馬場信春が胴鎧に顔を近づけ目を凝らす
「外したか?」 血も涙もない一言を叩きつける
「見ての通りだが 服部殿が弱いのではない ここに集まった者の中でも3本の指に入る剛のものである事は
間違いない 他に挑戦してみたいものは?」
本多忠勝が愛槍【蜻蛉切り】を手に鎧に歩み寄る 穂に止まった蜻蛉が2つに切断されて落ちたという
逸話を持つ名槍だ
「本多殿 まだ体調が万全ではなかろう?」
「万全でございます 天女様のご加護をこの身を持って知りとうございます」
弓道場の入り口の扉が開き ざわめきが広がる
現れたのはお館様こと武田信玄公と眩いばかりの緋袴の天女様である
片膝をつき礼を尽くそうとする家臣を手で制する 信玄
「ほ〜う 面白いところに来たようじゃの」楽しげに笑う 信玄
「只今 床几(ショウギ 折りたたみの椅子)を用意いたします」慌てる真田幸隆
「よい 年寄り扱いするな 水を差してすまぬな 本多殿、続けてくれ」
信玄とエヴァに一礼をし、鎧と向かい合う忠勝
短く切った【蜻蛉切り】の巨大な穂先を鎧に向ける
両足の裏から大地の気を吸い上げる 脛、膝、太腿、腰、丹田、胸、首、頭へとゆっくりと気とともに上げていく
頭頂部で気をしばらくの間 止め ゆっくりと息を口から吐き出す 練った気を丹田まで降ろし 更に練る
肺に溜まった空気をすべて吐き出し 足先から膝 腰 肩 腕へと練った気を巡らせ 全身の可動域すべての
うねりを気とともに穂先に乗せる ドッガァァァンッ!!!!! 強烈な炸裂音が道場内に木霊する
槍を左手に持ち替え 鎧に一礼をする 本多忠勝
馬場信春が胴鎧に顔を近づけ目を凝らす
「穂先が鎧を貫通しておる!! 腹までは届かんがのう」
おおおおぉぉぉ!!!! 歓声が上がる 忠勝に対する歓声なのか 鎧に対する歓声なのか
おそらくは、その両方なのであろう
「驚きました! 強いとは聞いていましたが これほどとは」エヴァが素直に賞賛の声を上げる
「ふむ 天女殿には、大筒でも砕けぬと聞いていたが 良いものを見せてもらった」
本多忠勝が2人の前に片膝をつき 頭を下げる
「武田信玄公と天女様。。。我が殿に救って頂いたこの命 さらに精進を重ね 必ずやお役に立ちまする」
「ふむ 励まれよ」信玄が忠勝の肩に手を叩く
「皆のもの見ての通りじゃ 天女様のご加護を頂いた装備で常勝である!!!」山県昌景が吠える
おおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!! おおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!! 雄叫びで 建物が揺れる
本多忠勝の人外の力の正体は、エヴァと交わした【従属の契約】により 常時発動の〈筋力強化〉と〈身体硬化〉
の賜物であった つまりエヴァから契約を破棄しない限り本多忠勝は死ぬまでエヴァの意に背く事は出来ない
エヴァは、人知れず そっと袖で顔を隠して舌を出していた




