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13.

 朝日が昇る。

 夜半に2時間ほど仮眠をとったきり、幾つかの技術提供と資金援助の契約をとりつけたり、関係各所との連絡と裁決を行っていたため、ろくに寝ていない。

 太陽が黄色い。

 雨が上がった路地の石畳は太陽の熱で乾き始めており、冷え切った身体を湿気が心地よく包む。


 「熱が出ていらっしゃいます。本日の面会は御容赦下さい。」

 早朝である。

 訪問するには早すぎる時間だったにも関わらず、戸を叩くとテルセラは10秒と置かずに顔を出した。

 獣人の面相は、とかく表情が分かりにくいが、冷ややかな眼差しは言外に俺を責めている。慇懃無礼に断られた。


 「……っ、そういう時こそ会わせろよ! 」

 「薬湯をお飲みになって、丁度先程、また休まれたばかりです」

 殊更に冷ややかさが増した気がする。


 「はぁ!? ……お前、ハルカに触ってねぇだろうな」

 「何を仰います。触れねば汗を拭いて差し上げることも出来ますまい」

 「……うううっ! 」


 ──こいつ……触ったのか! なんてやつだ!


 任せたのはこちらなのだ。

 仕方がないとは頭では分かっているつもりなのだが、心情的には許せない。

 嫉妬やら独占欲やらがグルグルと渦巻いて、激昂しかけているところに、テルセラは溜息をひとつ落とす。


 「……泣いていらっしゃったご様子ですよ」


 ──やっぱりか。


 ズキリと胸が痛み、自分のふがいなさに息が詰まりそうになる。

 直ぐにでも側に行きたかったのに。


 「原因は? 」

 「私にはわかりかねます。……が、イェスタ様の演武を見ていたあたりから、ご様子が」

 「……何故」

 「さあ。お話し頂けなかったので……私も、出来ればお慰めしたかったのですが」

 「……それは俺の役目だ。手ぇ出したら、お前でも許さねぇからな」

 「……いえ、それは……」

 言いかけたのを、片手で遮る。

 「あーいや、今のはナシ。……口が滑った」

 

 獣人であるテルセラも、異界渡りだ。


 彼は、渡ってくる前に既に婚姻を交わしており、子もひとり居たという。相思相愛のすえ結ばれ、妻の身体には次の子が宿っていた。

 王に仕官し、乱れていた国が落ち着いたところで妻子に恵まれ、幸福の絶頂ともいえる、そんな時に異界に流された。

 彼が現実を受け入れるまで、短くはない時間が必要だった。……否、まだ全てを受け止め切れてはいない。時折、遠くを見る目がそれを語る。


 ……戦乱で首を断たれた方が、どんなにか「まし」だったろう。

 

 「……イェスタ様は異界渡りの者の心情について、今少しお考え頂いた方が良いと思われますね」

 目を細め、いかにも怒った、傷ついたといった風に軽く睨み、わざとらしく誤魔化そうとする。

 そうして、彼はこの微妙な空気を紛らわせようとしているのだ。

 わかっていて、俺はそれに乗ってやる。

 「う、すまなかった。悪かったってば」


 彼が俺なんかに剣を捧げたのも、生真面目に自分の役割にのめり込もうとするのも、彼が過去を断ち切ろうともがき、傷が癒えていない証拠だ。きっとこれからも痛みを抱えたまま生きていくのだろう。

 ──異界に帰る術は、いまだ発見されていない。


 「イェスタ様には、何かお心当たりは御座いませんか」

 逆に聞き返され、

 「……ねぇよ」

 むっつりとふて腐れてみせたが、本当に心当たりは無い。


 「だから、本人に聞いてみるしかねぇだろ。会わせろ」

 「いいえ。……今は休まれてますから、一旦、屋敷の方へお戻り下さい。大丈夫です。熱が続くようでしたら医者を手配します」

 本当に融通が利かない。起きていなくても、側に居てやりたいだけなのに。

 再三の要求にも全く動じない部下に、結局は折れて引き下がるしかなかった。


 ……引き下がる?

 いいや。そんな選択肢は、この俺には皆無だ。

 これは退却ではなく転進である。

 援軍を率いて出直すまでだ。


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