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チャプター24

ー裾野の森・深部ー



 先ほどまで見せていた時は何処へやら、エルリッヒは淡々と話し始めた。

『じゃあ、まずは竜人族の説明から。これは、竜と人との間に存在する種族。人によく似た姿をしているが、人よりも長い寿命と強い力を持ち、人の言葉と竜の言葉の双方を理解する。この国には棲んでいないようだけど、他の土地には当たり前に存在していて、人間社会にとけ込んで暮らしてる』

『……』

 ドラゴンはドラゴンで「何がしたいのか?」と、目的を計り兼ねているようだったが、話が終わればすぐに葬ってやる、という心づもりがあるからか、大人しく話を聞いていた。もしかしたら、自分の体力が回復するのを待っているのかもしれない。大きなダメージは追っていなくても、相応には負傷していたし、体力は減っていた。

 しかし、エルリッヒはエルリッヒで、これを好機と見た。自分の目的のため、進めたい話の方向性のために、まずは話を聞かせなければ。

『次に、竜使いについて。これは人間共の職業の名前だ。竜を使役し、魔物と闘う。お前達のようなドラゴンの背中に乗って戦場を飛び回り、竜の炎と騎士の剣で闘う者や、ゴールドドラゴンのような巨大な竜をそのまま使役し、炎や爪によって魔物と闘う者など、色んな連中がいた。この連中は、竜言語を使い直接ドラゴンと意思疎通を図っていた。ちょうど今の私のようにな。と言っても、もう百年以上も前に廃れ、人間の間には竜言語も伝わっていないようだけど。そして、ドラゴンを使役するためには、強い力と心が要る。もし未熟な者が使役の契約を結ぼうとすれば、その者はドラゴンの炎に焼かれるか、ドラゴンの下僕となって、ドラゴンライダーとして無差別に人を襲う魔物となる』

『……』

 ドラゴンは、自分が知らない知識の話をされ、あながち無駄話とも思えなくなって来た。最後まで聞いてやるのも面白そうだ。こんな人間の小娘が自分の知らない同族に関わる知識を知っていて、それを竜言語で話されるのは癪だったが。そして、ゆっくり話を聞かせることが目的だとしたら、まさに術中に嵌っていることになる。いずれにせよいざとなればあっさり殺してやることができるが、そうでないならよいのだが。

『さあ、話を続けよう。最後は、古龍について。古龍とは、遙か古より生きる大いなる生命。その存在は並の竜を遙かに凌駕するほど大きく、自然を操る不思議な力を持つ。雷、嵐、炎、その他様々に。そして、不思議な力だけでなく、そもそもの力でも、並の竜では束になっても敵わないとされている』

『フン、古龍くらいは知っておるわ。キサマのような小娘に説明されずともな。それで、それが何故キサマが竜言語を操れる事の説明になる。それが本題だろう?』

 話を終えて、威嚇とばかりに口元から炎をたぎらせる。普通の人間なら、それだけで怖じ気づいてしまうような威嚇だが、先ほどの咆哮に続き、エルリッヒは動じない。

『それを今から説明してやろうと言うんじゃない。手短に教えてやろう。私は竜族、いやさ竜王族だ』

『人間の小娘が大それた事を。キサマのどこが竜族だというのだ。冗談も度を過ぎると、一切面白くないぞ!』

 一見、一世一代の告白のようだったが、当のドラゴンは一切真に受けていなかった。エルリッヒの瞳がどれだけ真剣でも、話が突拍子もない内容であれば、信じてもらえないのも無理はない。少なくとも、当のエルリッヒ自身はそれを十分に理解していた。

 手先で不思議な印を結びながら、目を軽く伏せた。

『ま、信じないのも無理はない。じゃあこれを見ろ、若造』

 印を結んでいた手が赤く光り、足下の地面が不思議な空間と繋がった。そして、証拠とばかりにその地中から取り出したのは、一振りの大きな剣だった。漆黒の刀身と、見事な装飾の柄。その刀身も印象的だったが、何より特徴的だったのは、刀身に纏う、不思議な赤黒い雷だった。それはまさしく、ゲートムントの振るう槍と同じ力だ。しかし、その勢いは比較にならなかった。

『……なんだ、それは』

『これは伝説の剣、あるいは伝説の魔剣。世間では、ドラゴンスレイヤーとして伝わっている物だ。最強の竜殺しの剣として、かつて千人の竜の首を取り、血を吸って来た剣。名前くらいは、聞いた事あるんじゃないか?』

 自分の身の丈ほどもある巨大な剣を手に、エルリッヒは伏せた目を上げ、ドラゴンを見上げた。ドラゴンも、生理的に嫌なものを感じたのだろう、刀身からあふれる竜殺しの力に、表情を歪めた。もしかしたら、先ほどゲートムントからもらった槍のダメージが、無意識に嫌な感覚を呼び起こしたのかもしれない。

『この剣は、我ら竜族に絶対的な効果を持つ、不思議な力が宿ってる。それも、ゲートムントが使ったあの槍を、遥かに超えるほどのね。これで斬りつけられたら、いかに屈強なドラゴンと言えど、タダでは済まない。もちろん、そんな力に頼らずとも、この剣はドラゴンの硬く分厚い鱗や甲殻をいとも簡単に切り刻み、貫いてしまうがな』

『そんな物を、何故キサマが所有している』

 少なくとも、ドラゴンには人間の小娘にしか見えない。それなのに、これほどまでに強い力を秘めた武器を何故所有しているのか。いや、それは初めから興味のない人間社会の事情がからむのかもしれないから小さいことだ。そもそも、今の話のどこまでが本当なのかも疑わしい。しかし、この剣と闘うのなら、覚悟をしなければならない。それだけは間違いなかった。刀身から溢れ出る竜殺しの力だけでも、確実に危険なものだ。

『その昔、私の先祖が竜殺しの勇者を屠り、手に入れた。それだけの事だ。ここでまた昔話に戻ろうか。かつて、竜族の一派が群れを離反して、人間に危害を加え始めた。この剣の元の所有者は、人間の中で勇者と呼ばれ、自分達に牙を剥く竜族を数多葬った。結果、この剣は元から強力な竜殺しの剣だったけど、竜の血を浴びに浴びことで、ただの名剣から伝説の剣になった。でも、竜殺しの旅の最後、離反した一派の長を倒した後に、竜の群れが暮らす土地に到達した。そこで、私の先祖と闘い、ご先祖様はこれに勝利した。それ以来、この剣は我が一族が所有し、竜族が同じ竜のならず者を捌くための剣として使われている』

『はったりを! そのような言葉を、信じられるというのか?』

 淡々と説明を繰り返すエルリッヒに、逐一信じないと返すドラゴン。こんなやり取りが、続いていた。頭が固い、ということではないのだが、繰り広げられる話は、ことごとく荒唐無稽だった。

『さて、話を先に進めよう。どのみち、信じる信じないは別だからね。じゃあ、今から一つだけ、選択の余地を与える。今のままの、人間の姿の私に、この剣で殺されるか。それとも、本来の竜の姿で相対して、消されるか。さぁ選べ! 人に仇なす竜の若造!』

『小賢しい! キサマが本当に竜族の娘だというのなら、そのような下等で脆弱な姿などではなく、本来の、竜の姿を現せ! 小娘!』

 売り言葉に買い言葉。このドラゴンはエルリッヒの話に乗っかってしまった。その叫びはそのまま雄叫びとなって、周囲に響き渡る。もちろん、エルリッヒはその程度の音圧などなんでもないというように、一切動じない。

『いい選択だ、若造。なら、見せてやる! わたしの本当の姿と、その力を!』

 返す言葉が、今度はドラゴンすらたじろぐほどの雄叫びとなって響き渡った。周囲の鳥が、ザワザワと飛び立つ。



 エルリッヒの瞳が、青く光った。




〜つづく〜

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