表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/31

チャプター22

ー裾野の森・深部ー



 もうもうと立ち上る煙。それを三人は心配そうな面持ちで見ていた。ゲートムントとツァイネは、一応武器を構えたままである。ドラゴンが無事だった場合を考慮して。

「やったと思う?」

「ダメージを与えた、という意味ではやっただろうな。倒したか、っつー意味なら、お前は出直した方がいい。どっちだった?」

 軽口を叩くも、表情は全く穏やかではなかった。今まさに煙の向こうからドラゴンが突進して来るかもしれないと思うと、一分の油断もできない。

 煙が少しずつ晴れて来ると、その向こうにドラゴンのシルエットが見えて来る。二人の不安は的中する。それは戦士としての勘が正しかった事を意味しているが、その反面で、絶望的な局面が近付いた事を意味していた。

『ドラゴンはまだ元気だ』

 状況を確認しようと目を凝らしてみると、頭の甲殻が壊れていたり、翼が所々焼けこげていたり、チラホラとダメージを受けた痕跡はあるため、明らかに「効いて」はいるのだろう。だが、大ダメージと取れるような形跡はなかった。

「うーん、やっぱりこの程度か。まだまだ頑張らないとだな」

「だね。じゃ、まずは足でも狙う? 転ばせれば攻撃のチャンスも増えるでしょ」

 軽くため息をつきながら、ツァイネは武器を構えて駆け出す。多少はダメージを受けているのだから、それを積み重ねて行けば、というわけだ。結局は地道な作戦が一番だと実感すると、やはりため息が出る。

「はぁ。っと、嘆いても仕方ないか。じゃ、俺は右足を!」

「いや、できれば二人で右足をやろう。両足を別々に攻撃するより同じ足を二人で攻撃した方が転倒させやすいでしょ?」

 二人はそれぞれで意見を出し合いながら作戦を決めて行く。これは普段のスタイルだ。緊張していても、冷静だった。右足を集中攻撃と決めたからには、一直線だ。攻撃の隙を与えないよう駆け寄る。

「うりゃぁああ!!!」

「とりゃぁあああ!!」

 さすがのドラゴンもダメージの蓄積があったようで、二人の攻撃には即座に対応できないでいた。回転攻撃は身を屈めれば回避できるが、突進や飛翔はそうもいかない。これは幸運だった。

「だぁ!」

 ツァイネが鋭い一撃を振るう。切っ先から激しい雷が迸る。

「そら!」

 ゲートムントが槍を振るう。先端から赤黒いエネルギーが迸る。

 二人はお互いを攻撃しないように気をつけながら、しっかりとダメージを蓄積させて行った。

「やっぱりこの不思議なエネルギーはかなり効いてるぞ! よーし、それなら! ツァイネ、屈んでろ!」

「え?」

 おもむろに槍を頭上に持ち上げ、それを振り回し始めた。こうする事で、一度の威力は落ちるが素早く無数の攻撃を繰り出すことが出来る。槍としての「斬りつけるダメージ」よりも、「不思議なエネルギーによるダメージ」を優先させた結果の攻撃だった。

 この作戦がどれほど有効かは分からない。それでも、せっかく手に入れた力、試してみたいと思った。

「おりゃあぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 力を込め、振り回し続ける。そろそろドラゴンも反撃の手を考え始めている頃だろう。何かされないためにも、早めに転倒させなければ。姿勢の都合で何もできないツァイネはもどかしい思いを抱えていた。

「この体勢から出来る事は……小型爆弾の設置くらいか。でも、取りに台車に戻る余裕はないし……魔法石の交換くらいか」

 もどかしい思いをそのままに、ツァイネは剣の柄にはめ込まれた宝石を取り出した。それはもう、宝石というより石にしか見えない。そして、懐から新しい石を取り出し、それをはめ込む。今取り出した石の元の姿とよく似た宝石だった。

「お疲れ、さんっ!」

 取り出した方の石は、屈んだまま攻撃を入れていない左足に投げつけた。コツンと言う軽快な音と共にヒットする。

『グアァッ!』

 本当に小さなダメージだったのだが、それが何かの境界を越えたらしい。小さなうめき声を上げた。

「お!」

「あんなのでも効くんだ! じゃあ、足下の小石を拾って投げつければ!」

 本当は剣で散々斬りつけてやりたい所だが、それができないので仕方なく小石を拾って投げつけた。これもまた、小さなダメージの積み重ねだ。

「ほら、ほら、ほら!」

 小石は的確にヒットする。そして、その間もゲートムントは攻撃を続けていた。

「そろそろいいか。二人で重たい一撃を出すぞ」

「待ってました!」

 ゲートムントは槍を勢いよく突き刺す。ツァイネは武器にたぎらせた雷の力を全力で込めて斬りつける。普段の威力よりスピード、手数を優先させた攻撃ではなく、盾を足下に捨てての両手持ちによる攻撃だ。

「「たあぁぁぁぁぁぁっっ!!」」

 それが決め手になった。激しい音を立て、激しい土煙を上げながら、ドラゴンは転倒した。立ち上がるべくもがいているが、四つ足歩行ではないドラゴンはなかなか起き上がれない。もっと姿形の小さい種族だが、同じ骨格のドラゴンなら過去に闘った事のある二人は、経験則でそれを知っていた。

「ゲートムントは休んでて。俺は尻尾を斬って来る!」

「そっか。任せたぞ!」

 尻尾は回転攻撃における重要な武器である。これを切断するという事は、相手の武器を弱体化させ、攻撃を緩和させる事にも繋がる。足下の盾を拾い上げると、それを装備しながら尻尾へと駆け出した。

「たあっ! そりゃ!」

 ドラゴンの尻尾は、大の大人の胴体と同じくらいの太さがあり、切断と一言で言っても容易ではない。何度も何度も斬りつけ、ようやく切断するのだ。いくら斬れ味抜群の剣と言っても、尻尾への蓄積ダメージが少ないだけに、手間がかかった。

「ツァイネー、俺も手伝おうかー?」

「いや、いいよ! さっきので疲れてるでしょ! 尻尾を斬ったらまた大変なんだ、転んでるわずかな間だけでも休んでて!」

 ゲートムントの提案は頑として聞かない。これからの事を考えれば、体力の回復も重要な行動なのだ。そして、自分は屈んでいる間に少しでも回復できた。お互い、交代で休む事の重要さが分かっていればこそである。

「悪い! でも、こいつもう少しで起き上がるぞ!」

「分かった! 急ぐ!」

 刃は随分と深くまで及んでいる。切断するなら一番簡単な関節部分がよい。骨を切るよりも関節を斬った方が容易い。それ故に、尻尾の動きを見極め、関節の位置を把握する。そして、そこにもう一度の先ほどの両手持ち攻撃を繰り出した。

「そりゃぁ!」

 次の瞬間、ツァイネの青い鎧が赤く染まった。激しい出血とともに、尻尾は先端部の数メートルが斬り落とされた。

「よし!」

 ガッツポーズのゲートムントを他所に、ドラゴンは傷みのあまり勢いよく駆け出した。どうやら傷みが起き上がる動作を早めたらしい。それがいい事か悪い事かは分からないが、まずは一歩進展である。




「うわ、グロ! てゆーか、残酷……」

 茂みに隠れ、尻尾切断の一部始終をただただ見ていたエルリッヒは、複雑な気持ちに襲われていた。討伐が目的なので仕方ないのだが、こうして真っ赤な血を噴き出させながら尻尾を切断され、傷みの余りに飛び出す様は、やはり痛々しいものがある。

 つい、目を背けてしまう。

「案外辛いわー」

 闘いに目を背け、座り込みながら呟いた。次の瞬間、激しい爆音と共に視界が暗く彩られた。

「なっ!」

 そして、凄まじい爆風がエルリッヒの赤毛を大きく揺らす。

「何? 何?」

 何事だろうか。急いで振り返る。すると……

「何、これ……」

 視界に飛び込んで来たのは、焦土のようになった辺り一面と、尻尾からダラダラと血を流しながらも、怒気を含んだ顔をしたドラゴン。そして、吹き飛ばされ別々の場所で横たわっている、ゲートムント達二人。気絶しているのか、ぴくりとも動かない。

 炎を吐いたのだろう。突進もしたのかもしれない。とにかく、ひどい有様だった。

「ゲート……ムント? ツァイネ……君?」

 二人の事が心配で、思わず茂みから出て来てしまった。

『グルルルル……』

 がさ、という物音でエルリッヒの存在に気付いたのか、ドラゴンがこちらを向いた。

「これは……お前がやったんだな……」

 ドラゴンと向き合ったその時の声は低く、激しい怒りに満ちていた。

「だったら、許さない。絶対に許さないからな!」

 心の底からの怒りを叫びに変えて、ドラゴンと対峙した。



〜つづく〜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ