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チャプター21

ー裾野の森・深部ー




 ゲートムントは槍を構え、一人突っ込んで行く。いまだ目がくらんだ状態で、一人回転攻撃を繰り出しているドラゴンに対し、タイミングを伺い懐に鋭い突きを繰り出した。

「たぁっ!!」

 ブスリ、という重い感覚と共に、槍が突き刺さる。すると、切っ先から赤黒い雷のようなエネルギーの奔流が噴き出した。そして、ドラゴンが低くうめき声を上げる。

『グルルルル……』

 今深追いして攻撃を重ねても、危険が増えるだけだ。今はこの一撃を確認できればそれいい。槍を引き抜く勢いを利用して、そのまま飛び退る。その刹那……

「あれは……!」

 間合いを取ったゲートムントが、武具を拾い終えたツァイネに叫んだ。

「ツァイネ! 見ろよ! あいつの翼!」

「え、翼?」

 うっすら血管の透ける翼は、とても大きい。その途中にある関節部分には鋭い爪が……なかった。あるはずの爪が、なかった。

「そういえば、爪……」

「そうだ! こないだ俺が槍で破壊したのが、そのまんまなんだ! 行けるぞ! ダメージは蓄積されてるんだ!」

 ツァイネは思わず笑いそうになる。爪はそう短期間には生え変わらない。それでも勝利の確信を得てしまう楽天さや、自分と同じに前回与えたダメージの痕跡を見つけて嬉しくなる所など、まさに友人と呼ぶにふさわしかった。

「俺も思ったよ! 二人揃った所だし、本気で行こう!」

 ダッシュしてゲートムントの側に駆け寄る。ここからが本番だ。



「んじゃ、作戦はどうする?」

「まずは、もらった道具を使い切ろう。体力を温存するんだ」

 二人の間には、ただそれだけの相談でよかった。普段から色々な依頼に赴いている二人は、作戦に対する役割分担もきっちり決まっていた。防御可能なツァイネがゲートムントを守り、その隙に罠や爆弾を設置する。ゲートムントは早速駆け出し台車に向かった。

「ツァイネー! 大丈夫だ! 今からセットするから、それまでしのいでてくれ! 終わったら言うから、今度はそこまでおびき寄せてくれ!」

「りょーかい! 幸いまだ目が慣れてないみたいだから、少し余裕あるよ。でも急いで!」

 じっとドラゴンの動向を警戒しつつ、ゲートムントは罠を持ち出し設置し始める。ツァイネを信用していればこそだ。




「なるほど、ツァイネ君が見張りをしている間に罠を設置するのね。確かにツァイネ君は盾を持ってるからその方が有利か」

 いまだ茂みに隠れたままのエルリッヒは冷静に状況を分析していた。じっと待っているなんて、元来の性格からすれば、暇で暇でしょうがないのである。本当はフライパン片手に一緒に闘いたい所を、二人に迷惑は掛けられないと、耐えていた。

「う〜、じれったいわ……」

 攻撃を喰らわない保証はない。二人のように鎧を着ていない。これでは戦列に参加しても、二人が自分を気にして本気で闘えないだろう。そもそも二人に負けない戦果を上げられると思う事自体があり得ない思い上がりなのだ。そう思えばこそ、我慢も致し方ないと思っていた。

 しかし、これでは。

「う〜、じれったいわ……」




「よし、設置完了だ! ツァイネ! 頼む!」

「ああ! こっちも目が慣れて来たみたいだ! んじゃ、引き付けるから万事よろしく!」

 ゲートムントが罠から退避するのに合わせて、今度はツァイネがドラゴンの懐で攻撃を繰り出す。こうして注意を引き付ける。そして、一瞬ひるんだ隙に急いで退避し、罠の方へ向けて駆け出した。

「さあ、追って来い!」

 その目論み通り、ドラゴンはツァイネを追って突進して来る。とても恐ろしい猛攻も、目の前に見える罠の性能を信じればこそ、怖くない。

「後少しだー!」

 全力で駆け抜ける。そして、罠を踏み越え、最後は全力で飛び込むようにジャンプした。重量で作動するタイプになっているこの罠は、追っかけて来たドラゴンが踏んだ瞬間、発動した。激しい雷の力が、全身の動きを止める。

「よっしゃ! 成功だ!」

「ツァイネ、さっさと起き上がれ! 今のうちに爆弾を設置するぞ!」

 武器を即座に背中に納めると、即座に台車に駆け寄り、今度は爆弾を用意した。大きなタルに強力な火薬がぎっしりと詰まったもので、横にし、転がして持ち運ぶ。

 慌てて起き上がり、同じように武器を鞘に納めたツァイネも合流し、出来る限りの速度で爆弾を転がした。あまり激しく動かすとその衝撃で爆発してしまう事もあるため、慎重を期す。出来る範囲での全力で、二人は二つずつの爆弾をそれぞれ設置し終えた。

「よし、設置完了だ。罠が壊れないうちに起爆するぞ!」

「うん! でも、起爆って、いつも何を使ってたっけ?」

 二人ははたと気付く。起爆には、相応の衝撃が必要になる。ここに火気はない。であれば、激しい衝撃が必要である。二人の攻撃であれば、十分な衝撃を与える事は可能だ。しかし、それでは自分達が巻き添えを食ってしまう。なんとか、外から強い衝撃を与えなければ。考えている時間は、そう多くはない。

「う〜ん」

「どうしたらいいかな〜」

 暢気に腕を組み、首を傾げて知恵を絞っている。もらった道具の中に、それに役立つものはなかった。せめて、フレイムリザードとの闘いでこげた前の槍でもあれば、十分な衝撃になったのだが。

「う〜ん」

「う〜ん」

「二人とも、罠が壊れるよ! 離れて!」

 突如として声を掛けて来たのはエルリッヒである。草葉の陰で見ていたはずである。ふと振り返ると、確かに草葉の陰に赤毛が見える。という事は、そこから叫んだのか。なんという声量か。まるでその場にいるようだった。

「早く! 早く離れて! ここから起爆させるから!」

 なんという提案だろう。ずっと闘いを見ていたというのなら、確かに自分達の状況を察してくれているかもしれないし、何か考えがあるのかもしれないが、それでも、自分達が二人合わせても思い付かないのだ、そうそう簡単に思い付くとは思えない。

「ほら、もう罠がもたないよ! 急いで!」

「あ、ああ」

「エルちゃんを信じるからね!」

 足下の罠は、小さく爆発して壊れた。もともと、そこまで長い時間拘束していられる程の耐久性はないのだ、爆弾設置が間に合っただけでも、十分な働きをしてくれたと言える。二人は、エルリッヒをただひたすらに信じ、大きく飛び退った。爆風の被害を受けないためである。

「じゃ、行っくよー! それっ!」

 茂みから飛び出したエルリッヒは、手にした小石を思い切り投げつけた。ここは森、足元を見れば、投擲に適した小石などいくらでも落ちていた。なぜ二人がその存在に気付かなかったのか、それは不思議でならなかったが、言っても仕方がない。食堂の主として鍛えたこの細腕、見せてやろうではないか。

 風を切って飛んで来た小石は、四つのタルを貫き、ドラゴンの足下を的確に撃ち抜いた。それ自体のダメージは小さいものだが、爆弾を起爆させるのには十分だった。

「っっ!!」

「いつもながら、すごいっ!」

 轟音を上げ、四つの爆弾が爆発した。炎と爆煙はドラゴンを包み、爆風はゲートムントたちを軽く吹き飛ばす。爆心では一体どれほどの衝撃が発生しているのか。三人は、それを想像し、それぞれ身震いした。

「とりあえず、煙が晴れるまでは警戒だな」

「うん、そうだね」

 警戒態勢のまま、二人は爆煙が晴れるのを待った。そして、エルリッヒは再び草葉の陰に隠れた。これで、この闘いは一気に有利に傾いただろうという、確信とともに。




〜つづく〜

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