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食料泥棒1



 今日は朝から晴天だった。太陽の光がさんさんと地上に降り注ぎ、少し動くと背中にじっとりと汗をかくくらいだ。

 この時期は比較的晴れの日が続き、過ごしやすい気候が続く。

 これを超えると、雨期に入る。二月は雨ばかりの憂鬱な日が続く。これがないと、迎える短い夏が深刻な水不足になるので、文句ばかり言えないのが辛いところだ。

 雨季は暴風暴雨によって外に出ることもままならない日もある。外仕事などは、限られた日にしかできない。今のうちにできる限りやれることをやって備えておこう、と私は朝食後薪割りに精を出していた。

 家の横に小さな物置小屋がある。その前は草の多い茂った周囲と違い、茶色い地面がむき出しになっている。そこに手ごろな切り株を据え置いて薪割りの場所としていた。

 長く無心に斧を振るっていた私は、近づいてくる人の気配に気づいて動きを止めた。


「精が出るな」


 大股で歩いてきたのはオニティスの町で自警団長勤めているケインだった。日に焼けて黒くなった顔には、いつもと変わらない快活な笑みを浮かべている。

 斧を切り株に突き立てて、軽く会釈をする。客が来たからには、もてなさなければなるまい。

 茶菓子になる物は何かあっただろうか。茶葉はある。火種はまだ残っているはずだ。

 私の家は、オニティスの町の住宅地から一つぽつんと離れた場所にある。来るのも行くのも一苦労という我が家を訪れる人は少ない。

 久々の来客に、表面にこそ現さなかったが内心慌てていた。

 とりあえず散らかった薪を手早くひとまとめにして、簡単にその場を片付ける。律儀に私を待っていてくれたケインは、何も言わず薪割り場を出た私の後を文句も言わずついてきた。

 こういう時、一言いらっしゃい、と言えればいいのだが。つい行動が先に出てしまいいつも後悔することになる。


「仕事の邪魔して悪かったな」


 思わず眉を顰めた私を誤解したのだろう。ばつの悪そうな顔をしたケインにそんなことはない、と首を横に振った。

 気の利いた言葉を添えられない自分が心底恨めしい。

 居間にケインを案内し、台所へと飛び込む。

 幸い冷水で冷やしていた香草茶が残っていた。茶請けには、昨日買い物に出た際に購入した木の実を混ぜたグタム〈柔らかい焼き菓子〉を用意した。


「悪いな。急に押しかけたのにもてなしてもらって」

「いや」


 客をもてなす物があってよかった、と胸をなで下ろした私に、ケインが苦笑いをした。

 突然の訪問に、私はよほど慌てていたらしい。きまりが悪くなり、返事がぶっきらぼうなものになった。

 とは言え、彼が私の家を訪れるときはいつも前触れはない。ふらり、と姿を現す度に私はバタバタと出迎える。

いつもの事と言えば、いつもの事なのだ。

それなのに、わざわざ彼が律儀に頭を下げるとは、九割の確率で何か事情があると見て間違いない。

 過去同じようなことを繰り返してきたため、おおよそのパターンは読めていた。それに対応しきれない自分の用量の悪さは、この際棚の上に置いておく。

 今日はどういった用件だろうか。うっかり飲み代を費やし過ぎたことがばれ、怒り心頭になった奥さんからかくまってほしい、というような理由だったら即刻叩き出そう。

 良妻賢母と近所で評判の彼の妻は、控えめな容姿とは裏腹に言うことは言う、やる事はやる、という快活な女性だ。そして、ケインが絶対に勝てない相手でもある。


「ちいっと力を貸してもらいてえんだ。今町で起きてる騒動は知ってるか?」


 そう言えば、昨日買い物に出た時、店先で最近町に泥棒が出て世間を騒がしている、と言っていた。

 自警団関係で今最も関心が向いている話題と言えば、これだろう。

 どうやら家から叩き出すような用件ではないようだ。


「泥棒か?」

「お。聞いてたか。なら話ははええ。悪いが、協力してくれや」


 ケインは片目をつむり右手で私を拝んだ。軽い言動と裏腹に、目は真剣だった。

 臨時団員である私に声をかけてくるということは、事態は意外と深刻なのかもしれない。

 怪我を負ったものが出たのだろうか。

 私の考えを読み取ったように、ケインが不機嫌そうに腕を組んだ。


「怪我人は今のところゼロ。狙われたのは主に台所や備蓄倉庫の食料だ。金銭や建物への被害はいまんとこ報告されてねえ」


 ケインの説明に私は首をかしげた。思ったよりも軽い被害状況だ。

わざわざ私の下に来るくらいだから、凶悪な犯人なのかとも思ったがどうやらしが違うらしい。

私の疑問を読み取ったケインが 彼らしくない疲れを隠さないため息をついた。

「盗みに入られた家の中に、貴族の別邸があったんだよ。運悪く夫人が滞在中でな。幸い侵入があった時は外出中だったんだが、被害届を出されちまってな」


「とばっちりを受けたのか」


 案に圧力をかけられたのか、と聞いた私に、ケインは頷いた。


「まあな。どっちにしろここんとこ犯行が目に余るようにはなってきていたからな。そろそろ〆時だ」


 権力者の機嫌を損ねてまでのんびりと構えるような案件でもない。いままで人的被害がなかったからよかったものの、この先この幸運が続くという保証もない。

 ここらで片を付けようということなのだろう。

 その為の人手が欲しくて私にまでお声がかかったというところか。

 さしあたって、優先しなければならない用事もない。

 私は、ケインの要請に是、と応じた。



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