試験終了
試練開始から一年が経過した。王宮では、今回の試練について最終的な評価が行われた。
国王と宰相の前に、ヴェンツェル、トビアス、ローデリヒ、オスヴィン、そしてエルヴィーラが集められた。
「まず、ヴェンツェル」
国王は、息子に視線を向けた。
「そなたは、密命を受けた当初、婚約者にどこまで話すべきかを考え、許可を求めた。調査の過程では、怒りに任せて不適切な案を思いついたが、それを指摘されて改めた。自分の判断を見直すことが出来た点は評価しよう」
「ありがとうございます」
「エルヴィーラ嬢」
国王は、続いて彼女を見た。
「そなたは、周囲の反応をよく観察し、相手の言葉だけでなく、その意図を見極めようとした。感情に流されず、必要なことを指摘し、王太子の判断を正すことも出来た。見事であった」
「恐れ入ります」
エルヴィーラは、静かに一礼した。
「ローデリヒ、オスヴィン。そなたたちは、命令の内容だけでなく、その影響が婚約者に及ぶことも考えた。必要な相談を行い、秘密を守りながら信頼関係を損なわぬよう努めた。合格とする」
二人は、深く頭を下げた。
「ありがとうございます、陛下」
「トビアス」
最後に、国王はトビアスを見た。
「そなたは、命令を受けてすぐに行動した。だが、命令の意図を考え、周囲への影響を見通すことについては、まだ不足がある」
トビアスは、表情を引き締めた。
「……申し訳ございません」
「謝罪を求めているのではない。今後、考えて行動することを求めているのだ。今回は条件付き合格とする。引き続き観察を行い、改善が見られなければ、側近候補としての適性を改めて判断する」
「承知いたしました。必ず、改善いたします」
トビアスは、深く頭を下げた。
試練が終わったあと、エルヴィーラはヴェンツェルと並んで王宮の回廊を歩いていた。
「終わりましたわね」
「ああ」
ヴェンツェルは、どこかほっとしたように息を吐いた。
「君には、随分助けられた」
「私だけではありませんわ。ローデリヒ様やオスヴィン様も、よく考えて行動なさっていました」
「そうだな。トビアスにも、これから学んでもらわなければならない」
二人は、窓の外に広がる庭園を眺めた。
「父上は、今回の件をどうお考えなのだろうな」
ヴェンツェルが呟いた。
「王太子と、その婚約者。側近候補たち。次代を担う者が適切な年齢になったころ、こうした試練が起きる。誰かが仕組んでいるわけでもなく、特定の組織が動いているわけでもない」
「この国では、昔からそうしたことが起きると伝えられているのでしょう?」
「ああ。20年ほど前にもあったそうだが、詳しいことは解らない。父上たちは、それを神が与えた試練だと考えている」
エルヴィーラは、静かに頷いた。
「ならば、私たちに出来ることは、与えられた試練に向き合うことだけですわね」
「そうだな」
ヴェンツェルは、彼女の手を取った。
「これからも、私を支えてくれるだろうか」
「勿論ですわ。ですが、殿下」
エルヴィーラは、いたずらっぽく微笑んだ。
「私が間違いを指摘したときは、きちんと聞いてくださいませね」
ヴェンツェルは、思わず笑った。
「約束しよう」
二人は、再び歩き始めた。
王太子として、王太子妃として。そして、これから国を支えていく者として。
今回の試練は終わった。
だが、これからもまた、彼らの前には様々な判断が求められるだろう。そのとき、何を信じ、何を守り、どのように決断するのか。
それこそが、次代を担う者たちに求められるものだった。




