最終話 復讐の果て
音もなく、気配もない。
身体の感覚が、ない。
私は どうなったんだろう
死んでしまったのだろうか
魔王は?
焦る一方で、まったく力が入らない。
立ち上がり方も分からない。
手の感覚もない。
立って
立って、戦わなくては
魔王を 殺すんだ
たとえ私が どうなっても
やがて視界が戻ってきた。
麻痺していた感覚が戻りつつある。
魔力衝突に吹き飛ばされた私は、仰向けに倒れていた。
立ち上がろうとして、手を突こうとするが、まったく腕の感覚がなかった。
目を向けると、魔王に突っ込んだ方の腕の、肩の付け根から先が――なかった。
もう片方の腕は繋がっているものの、肩を深く切られてしまっていて、痛みがひどく動かせる状態ではなかった。
「く……ぐぅっ……!」
それでも何とか身体を起こし、周囲を確認する。
上体を起こすと、すぐそばで、首から上が吹き飛んだ、魔王の身体だけが直立していた。
鮮血を吹き出し、バランスを失ったそれは後ろに倒れた。
倒した。
魔王を。
ヴァレリアの仇を、この手で。
「……は……はは……やっ……た……ヴァレ……リア……」
でも、まだ残っている。
きっと、この城のもっと奥にいるはずだ。
魔王の、家族が。
どうにか立ち上がり、道具袋から止血剤と痛み止めを出す。
傷は治らないが、無理やり動かせるようにしなければ。
魔王の遺体のそばにあった、ヴァレリアの剣を拾って、私は玉座の奥の間へと進んだ。
今度こそ、すべてを終わらせるために。
――――――――――――
すべてを終わらせて、私は魔王の遺体がある玉座の間へと戻ってきた。
もう止血剤も効かない。
痛み止めはかろうじて効いているけれど、もう助からないからかも知れなかった。
鍛冶屋の店主の顔と言葉が浮かんだ。
「ごほっ……行けなく……なっちゃった……なぁ……でも……やっ……たよ、ヴァレ……リア……」
倒れこむように玉座に座り込む。
もう
終わったんだ
すると突然あたりが明るくなり、時が止まったかのような感覚に襲われた。
いったい何が起きたのか。
その答えは、目の前に現れた。
「……いま、さら……出てきて……何の用事、ですか、創造主、様……?」
あまりにも神々しい姿で、輪郭さえ捉えられないが、存在感でそうだと直感した。
光の塊が直接頭の中に語り掛けてきた。
「然り。創造主である。汝、此度の勇者よ。そなたはやりすぎてしまった。魔王一族の命をすすり、その闇をますます濃くしていきながら、一人、また一人と命を奪い続けた。皆の希望となるべきそなたは、闇へと堕ちてしまったのだ……これでは、世界のバランスは保たれない」
突然出てきて
何のことだろう
世界……?
バランス……?
私は、成し遂げたというのに。
「だから……何、ですか……?何も、何も、してくれなかった……のに、全部、終わってから……のこのこと……出てきて……貴方が、本当に、神なんだと、したら……貴方が、何もしなかったから!!助けて、くれなかったから……!!彼女は……私の、身代わりになって……殺されたんだ!!」
「……愚かなり、人の子よ。神にとってはこの世界の命の循環の維持こそが命題なのである。勇者と魔王、対となる力が生み出す循環こそが世界を回し続ける」
私の命が、もう尽きかけようとしていた。
それでも、私は叫ばずにはいられなかった。
魔王だけじゃなくて……神様さえ、ヴァレリアの命を、どうでもいいと、言っていたから。
ヴァレリアの命も……私たちが、歩むはずだった、未来も、全部。
「……だから、だから、何も、しなかった、と?魔王による……被害も!私の……村が……私以外……皆殺しに……された、ことも……私が……生き残ったのも……全部、全部……貴方の、都合なのか!!一定、周期で……必ず、勇者と、魔王が……生まれ続けるのも、全部全部……」
許せなかった。
魔王に踏みにじられただけじゃなかった。
この世界を創ったはずの神様さえ、私たちの未来は、どうでもいいと切り捨てた。
この世界は、私にとって、ヴァレリアにとって、とても素晴らしいものだったはずなのに。
それなのに、私にはもう、神様を殺す力は、残っていない。
もう、目の前が見えない。
でも、そこに降臨した神様から来る、強烈なプレッシャーだけは感じていた。
「……そなたには失望した、此度の勇者よ。今一度、勇者と魔王の降臨の儀式を行うのみ」
「ま……待て……」
その言葉を残し、創造主はその場から消えた。
「はぁ……はぁ……く……そ……ヴァレ……リア……」
視界がかすむ。
真っ白になって、もう何も見えなかった。
わずかに、形見の剣を握る感覚だけが残っていた。
ねぇ、ヴァレリア。
創造主は、殺されたあなたを生き返らせてはくれなかった。
それどころか、私たち勇者と魔王が殺し合うように仕向けていた。
あれだけあなたのことを願ったのに、神様なんか、もとからいなかったんだね。
私、全員、だれひとり見逃すことなく殺してきた。
魔王の子どもたち。小さかったよ。可愛かったけど、逃げられないようにしてから全員殺した。
魔王の臣下だか家来だか分からないその他大勢も。全員、一人残らず殺し尽くした。
あなたの、あの酷い殺され方よりも、簡単に死なせてなんかやらなかった。
私、弱かった昔の私を、許せなかった。
あなたに庇われるしかなかった、あの頃の私が、どうしても許せなかった。
だから強くなって、あなたを殺した魔族を、一人残らず殺すことにした。
長かった。
でも これでやっと私も休める。
今ならあなたも殺されることもないのに――
なのに
あなたは もうここにはいない。
魔王にも家族がいて、大切な人もいた。
でもそれは私も同じ。
魔王が私の大切な人を奪ったから
私は魔王のすべてを奪いつくした。
これでよかったのかなんて分からない。
ただ私の復讐は成った。
憎しみにこの身体を焼き尽くされそうなのも、やっと終われる。
あなたのいないこの世界なんて
もう私には……
故郷にももう誰もいない
友人と呼べる人たちもみんな殺された
私はこの世界で ただ一人残されてるんだ
ふと、ドワーフの店主を思い出した。
魔王を倒したら、お祝いをしてくれると言っていた。
身寄りのない、ただ一人の、私に。
「ごめんね……行けない……や……」
ヴァレリアの仇を討てた私にはもう
生きる理由が ないんだ。
手に残る感覚を頼りに、すっと剣を取り、刃を自分の胸に当て――
そのまま、突いた。
「ぐっ……ごふっ……!」
焼けるように、胸が 痛い
あなたも こんなに苦しかったんだろう
こんなに 痛かったんだろう
ううん もっともっと苦しくて 怖くて 辛かっただろう
ねぇ どうして私たちだったんだろうね
どうして私が勇者だったんだろうね
ただあなたと生きていければよかったのに
きっと私は あなたとは一緒には行けない
あまりにも殺しすぎたもの
なのに
「あ……あぁ……来て……くれ……た……」
大好き だった あな た
堕ちた 私の とこ ろ へ
あり が と
Fin
ご無沙汰しております。桜宮です。
今回も無事参加できてうれしいです。ありまさんありがとうございました。
モチーフはお気づきかもしれませんがドラゴンクエストⅣです。
キーワードの「恋」よりももっと重い話になってしまいましたが、読了ありがとうございました。




