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【コミカライズ連載中】追放された悪役令嬢は【錬金スキル】で華麗なるチート生活を満喫する  作者: 朝月アサ


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69 チェス大会準備進行中





「さてと、会場を作らないとね」


 ――告知期間と準備を考えて、大会開催は一か月後に決定した。


 予選は約10日間を予定。アグスティア公爵領内の公共施設――図書館や屋敷、学校講堂を利用して行う。上位8名が本戦へ進出する。


 本戦は劇場型スタジアムを建造し、予選を勝ち抜いた8名で勝ち抜きトーナメントを行う。

 こちらを、王国全土に魔導放送する。


 チェス初心者にも状況がわかりやすいように、スクリーンには選手の姿や表情と共に、盤面も放送する。そして同時に実況解説も付ける。


 実況解説役は執事ルドルフに依頼した。ルドルフは父のチェス相手も務める巧者。アンリエッタにもよく指導してくれた。彼なら子どもにもわかりやすい実況と解説をしてくれるだろう。


 ――大会準備が始まって五日後。


 会場になるスタジアム建設予定地には、すでに大量の資材が運び込まれていた。周囲を立ち入り禁止にし、アンリエッタとダリオンがその場に降り立つ。


【錬金術の極意】

 ――サブスキル発動――【魔構築制御】【精密合成】【空間操作】


 空間が軋み、地が震える。微細な震動が広がり、周囲の大気が淡く光る。

 積み上げられた石材と鉄骨が一斉に輝きを帯び、ふわりと宙へ舞い上がった。


 まるで見えざる手がそれらを掴んでいるかのように、資材は互いに引き寄せられ、噛み合い、結びついていく。

 石は石と、鉄は鉄と、まるで設計図に従うように正確に。


 数分後には、舞台、観客席、制御室までを含む構造体が形成され、巨大な劇場型スタジアムの骨格が大地に出現した。


「はい、基礎完成ね」


 アンリエッタが手を下ろすと同時に、地響きが止む。

 隣に立つダリオンは、わずかに眉を上げて呟いた。


「――君のやることは、本当に常軌を逸している」

「わたくしだから当然ね」


 アンリエッタは胸を張って言い放ち、次の行動に移る。


「次は外壁資材を運んでもらって組み上げて……その後は内装。でもその前に、次の目的地に行くわよ」


 言って、『空飛ぶ絨毯』を取り出す。


「……あの浮遊城に?」

「ええ。あそこにマナ結晶があったでしょう? あれを中継基地にするの。魔道ネットワークの起点にして、王国全土への同時中継を可能にするのよ」


 ――大空を飛び、『空飛ぶお城』に到着したアンリエッタは、ダリオンと共に中央に安置されている巨大なマナ結晶に手をかざす。


【錬金術の極意】

 ――サブスキル発動――【高速演算】【魔導接合】【同期構築】


 光が走り、結晶の内部に高速で回路が構築されていく。

 人の手を介さずとも、最適解を演算した魔導回路が自動で組み上がり、装置としての機能を獲得する。


 そして次にメガリアとミミウスの入力情報を、マナ結晶を中継させて投影装置(スクリーン)に映す。


 ――成功。


 続けて投影装置(スクリーン)と中継用結晶を合体させたものを同時大量生産。


【錬金術の極意】

 ――サブスキル発動――【精密複製】【均質生成】【魔導式記録】【大量生産】


「――よし。これで魔導中継ネットワークが、王国全土へ敷けるわね。つまり、チェス大会の様子を王国中に同時に見せることができるようになるわけよ」

「……君は本当に恐ろしいな」


 ダリオンはどこか遠い目で、ずらりと並ぶ中継結晶を見つめた。


「――この技術が流出する恐れはあるのか?」

「マナ結晶がコアになるから、そのままの複製は無理ね。大天才錬金術師なら、このアイデアを自分なりに再構築できるかもしれないけれど」


 発想力と技術、そして財力がありさえすれば。


「ポスターが完成したら、各地にこの中継投影装置(スクリーン)を設置しにいくわ。王都に複数、主要都市、そしてアグスティア領の市町村に!」

「領内に多く敷くのか」

「ええ。領内の市町村に設置しておけば、今後のアグスティア家からのお知らせを素早く届けられるでしょう? ふふっ、これは投資よ!」

「情報伝達の革新か……それが可能になるなら、領内は本当の意味で一つになるな」

「そういうことよ」


 自信満々に頷くと、ダリオンは何か言いたげな目でアンリエッタを見つめていた。


「……どうかした?」

「いや、自分の素性も能力も隠したがっていた頃とは違うなと思っただけだ」

「……あの頃は、どうしても正体がバレるわけにはいかなかったもの」


 死を偽装して国を出たばかりの頃。

 あの頃は、どうしてもアグスティア家の娘だと知られるわけにはいかなかった。

 そして、ひとりで生きていくことにまだ不安だった。

 だから、契約という形で、ダリオンの命を救い、彼を縛った――……


「契約、まだ覚えてる?」

「忘れるわけがない」


 ダリオンはほんの少し笑みを浮かべながら、どこか遠い眼差しを空に向ける。


「――君を傷つけない、君の秘密を口外しない、君を裏切らない――……そして、君の命令には絶対服従だったか」

「…………」

「この命に代えても、契約を破るつもりはない」

「……本当に、変な人よね」


 こんな一方的に不利な契約を、まるで大切な約束のように口にするのだから。



◆◆◆



 チェス大会の実行委員が一堂に会した第四会議場――進捗確認のための第一回定例会議の場に、ぱっと華やかな色彩が差し込んだ。


 中央の卓上に広げられたのは、完成したばかりの大会ポスター。


 描かれているのは、勝利を象徴する女神――

 深紅のドレスに金のティアラ、チェス盤を見下ろすその姿は、どう見てもアンリエッタその人である。


「まあっ、いい出来じゃない」


 アンリエッタは手を叩き、満足して声を弾ませた。

 ポスターの下部には、公式マスコットキャラクター、忠犬騎士ワンリオンと猫姫にゃんりえったが可愛らしく並んでいる。


「やっぱり公式マスコットキャラクターは正解ね。親しみやすさが違うわ。着ぐるみも作らないとね」


 ちらり、と隣に座る長身の騎士に視線を向ける。


「ダリオン、入ってくれる?」

「……断る」

「冗談よ。一般参加選手に、着ぐるみの中身をさせるわけにはいかないもの」


 アンリエッタはひらりと笑って肩をすくめた。


「……大会期間中はね」

「不穏なことを言わないでくれ……」

「わたくし、大きなぬいぐるみに抱き着いて寝るのが夢なのよね」

「……ぬいぐるみじゃなくても抱き着いて寝てるだろう。あれだけ熟睡しておいて、不満があるとは言わさない」

「ちょっと! 人前でそういうこと言わないの!!」

「先に言ってきたのは君だ」


 焦ったアンリエッタがばしばしと机を叩くも、ダリオンは涼しい顔のままさらりと返す。


「――お嬢様、次の議題に……」


 セラが言いにくそうに声をかけてきて、ようやくアンリエッタは我を取り戻した。


「そ、そうね。その前に、優勝賞金は金貨2000枚に決まったわ。ポスターに追記しておいて」


 王都に家が建つ金額である。トロフィーも含めると、優勝者が得られる財は相当なものになる。しかもルールを知っている人間なら誰でも参加可能。


 さらに、主催者は何かと注目のアグスティア公爵家。


 ――人々の話題に上らないわけがないのである。


「貴族への招待状送付リストはできているかしら」


 貴族は社交が重要である。

 招待状は全貴族に送ることになっている。ポスターと、特別席案内状を添えて。


 ――それはもちろん、王家にも。






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