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【8/6書籍発売】追放された悪役令嬢は【錬金スキル】で華麗なるチート生活を満喫する  作者: 朝月アサ


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61/84

61 防衛計画実現中




 ――翌日から、さっそく計画を実現させていく。アンリエッタ自身が言った期限は二日。ゆっくりしている暇はない。


 冒険者ギルドで受注していた依頼の完了手続きをしてから、建設予定地の砦付近まで『空飛ぶ絨毯』で移動する。


 まずは、各地に見張り塔と土塁の作成。道の整備。

 石材や土や木材を使うものたちなので、材料はその場にある。簡単なものだった。


「それじゃあ、さっそく塔を作ってしまいましょうか」


 さっそく実現させていこうとするが――


「――待て」


 ダリオンにいきなり止められる。


「その力は軽々に使うものではない。人払いをし、夜間に行おう」

「大丈夫よ。いまのわたくしは錬金術師ローズですもの」


 公爵令嬢アンリエッタではなく、ただの冒険者であり錬金術師のローズ。

 誰に見られても、すごい錬金術師がいると尊敬の眼差しで見られるだけである。


「何も大丈夫ではない。君はただでさえ目立つ。何事にも慎重を期するべきだ」

「場所と時間を選んだとしても、いきなり塔が現れるのは変わらないじゃない? 誰がやったかわかるだけよ」

「そのわかることが危ないと言っている」

「危ないなら、あなたが守って」


 にっこり笑う。

 ダリオンは小さく息をつき、目を伏せた。


「……君は、本当に……」


 アンリエッタは深紅のローブを翻し、建設予定地を見つめた。


【錬金術の極意】

 ――サブスキル発動――

【構造解析】【素材強化(耐衝撃/耐火/耐腐食)】【重量制御】【魔力誘導】


 まずは基礎固定。弱い地盤に重量物を置いたら沈む。

 石を強化石材ブロックに変形させて浮かばせ、積み上げていく。

 外観や構造は城の見張り塔の記憶と設計図を参考にした。


 そうして――数十秒の内に見張り塔が組み上げられる。


「完成――『アグスティア式見張り塔』よ!」


 見張り塔はまるで初めからそこにあったかのように、堂々とそびえ立っていた。


「な、何をやったんだお前たち」


 砦に常駐していた兵士の一人が、驚きの声を上げながら近づいてくる。目を見開き、腰に下げた剣に思わず手を伸ばしかけていた。


 ダリオンがアンリエッタを庇うように前に出る。いつでも剣を抜ける格好で。


 アンリエッタは堂々と依頼書を掲げてみせた。


「砦を建てたのよ。公爵様のご依頼で。こちらが正式な依頼書。アグスティア公爵の署名もあるわ」


 やましいことも嘘もない。

 力強く言い切ると、兵士が迫力に気圧されたかのように一歩後ろに下がる。


「わたくしは錬金術師のローズ、覚えておくことね。さあ、次に行きましょうか」


 再びローブを翻すと、アンリエッタは歩き出した。

 残された兵士たちの前で、ダリオンは静かに額に手を当て、ひとつ、深く息を吐いた。


 その他、砦の防壁を強化して移動して、他の場所の砦にも見張り塔作成する。ついでに傷んでいる防柵も直して回った。


「……君は、本当に目立つ」


 作業中、ダリオンがぽつりと呟く。遠巻きにしている観客たちを眺めながら。


「心配性ね。じゃあ変装でもする?」

「どんな変装をするつもりだ」

「そうね。まずは髪の色を少し変えて……眼鏡でもかければ印象が変わるかしら?」

「不十分だ。君は声も目立つ」

「そう?」

「ああ、よく通り、一言も聞き漏らせない」


 アンリエッタは小さく首を傾げる。そんなに響く声質だろうか。幼い頃から発声練習はしてきたけれども。いざというときに号令を飛ばせるように。


「歩き方も、姿勢も、香りも、雰囲気も……そもそも存在感がありすぎる」

「ふふっ、あなた、わたくしの完璧さに夢中ね」


 思わず笑うが、ダリオンの表情は真剣そのものだ。


「完璧だからではない。確かに君は美しいが……そもそも内から溢れる輝きが強すぎる」


 アンリエッタは思わず目を逸らした。頬が何となく熱い。


「そ、そういうことを真顔で言わないでくれる? なんだか、恥ずかしいわ……」


 砦強化の後に、川の護岸強化を行う。

 かつての記録から、水害の起こりやすい場所を特定して堤防を強化し、丘の勾配もほんのわずかに変える。


 肉眼ではほとんど変化が分からないが、これで洪水時の水は村を避け、川へと戻るはずだ。

 もし水攻めされても自然に水が逃げるという理屈である。


 これも、ダリオンの考案だ。


「あなたの頭の中って、いくつぐらいの防衛策があるの?」

「数だけあっても意味がない。大切なのは、その瞬間に有効かどうかだ。未然に災いを防げるなら、考え続ける意味はある」


 ダリオンは緩やかな川の流れを眺めながら言う。


「それに君が、何もかも実現してくれるから、次から次へと策が湧いてくる」

「ふふっ、わたくしたち、最高のパートナーということね」


 次に訪れたのは、以前アンリエッタが雷柵で封印処理を施した魔物の巣だった。


 木々の間を抜けて巣穴へと近づくと、辺りは静まり返っていた。


 巣の周囲をぐるりと歩きながら、地面の様子を見て回る。

 侵入経路を塞ぎ、結界を貼り直し、一定の区画を訓練用に整地していく。


「これで、訓練場にできそうね」


 そしてふと、巣穴の奥に目を凝らす。

 あまりにも静かすぎるのが気になった。


「……あら、困ったわね」


 前と比べて生気が弱っている。人を襲うようなエネルギーを感じられない。


「食料を取れない状況だからな」

「ちょっとかわいそうね。このままじゃ共食いを始めちゃいそうだし」

「…………」


 アンリエッタは周囲の腐葉土を眺める。


「……ま、いいわ。今後のためにも少しだけ」


 錬金術の式を編み上げ、栄養価のある魔物用の餌へと変換する。

 それを包んだ球体が、ふわりと浮かび、巣の中へと転がっていった。


 飢えた魔物たちが動いた気配が、空気を震わせた。


「それじゃあさっそく明日から訓練しましょうか」

「……君もなかなか厳しいな」

「当たり前じゃない。魔物はいつだって待ってくれないのよ? 距離的に考えて、夜明け前から移動開始してもらいましょうか」





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