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【コミカライズ連載中】追放された悪役令嬢は【錬金スキル】で華麗なるチート生活を満喫する  作者: 朝月アサ


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06 ボアーカツサンド




 その時、森の奥から低い唸り声が響いた。

 伝わってくる震動に顔を上げると同時に、ダリオンがアンリエッタを庇うようにして前に出た。


(もう竜が来たの――?)


 まさか。冗談が過ぎる。いくらなんでも早すぎる。


 むわっと獣のにおいがする。獰猛な捕食者の威圧感が漂う。

 確実に、何かがいる。

 立ち込める緊張感の中、木々の間から姿を見せたのは巨大な獣だった。

 筋骨隆々とした体躯に、分厚い毛皮。そして鋭い牙――まるで暴力の化身。



【錬金術の極意】


 ――サブスキル発動――

【鑑定】ブルボアー。いかなる攻撃にも耐え、巨大な牙で獲物を粉砕するイノシシ。



 アンリエッタの脳裏に【鑑定】された情報が流れ込んでくる。

 少しだけほっとして、少しだけがっかりする。


「竜と会う前の肩慣らしにちょうどいいわね」

「君は動くな」

「ええ。この場所から一歩も動かないわ」


 アンリエッタが微笑を浮かべた刹那、ブルボアーが大地を揺らしながら突進してくる。まるで黒い嵐だった。



【錬金術の極意】


 ――サブスキル発動――

【即興レシピ】【強化付与】【精密加工】


 アンリエッタが錬成したのは巨大な捕獲用の罠――


「行きなさい――巨大トラバサミ!」


 ブルボアーの進行方向に巨大な捕獲罠が設置され、ブルボアーがその太い足を入れた瞬間、地面が牙をむいた。

 引きちぎれるような激しい金属音に、地面が割れるような衝撃。


 雷光のような激しさの一瞬後、罠がブルボアーの巨体を拘束していた。

 もがくブルボアーに、ダリオンが剣で止めを刺す。


 正確に急所を貫き、心臓を停止させた。

 巨体が倒れ、地響きが起こる。巨木が倒れるような衝撃だった。


「思った通り、たいした相手ではなかったわね。さあ、食べましょうか。ダリオン、肉を取ってちょうだい」

「まさか、ここで料理をする気か……?」


 信じられないものを見る目で見てくる。


「お腹が空いたんだもの。ボアー系はおいしいし、楽しみだわ」


 ダリオンは深く息をついた後、ブルボアーから肉を切り出し始めた。


「ロースと、できたらヒレも取ってね」






 ダリオンは淡々とブルボアーを捌いていく。

 身体の構造は普通のイノシシと変わりない。


(さすが剣士。解体もお手の物ね)


 丁寧に取り出された肉は綺麗なピンク色をしていた。ロースに入った白い脂身も美しい。ヒレはやや色が濃い赤身で、こちらもとても美しかった。


「では料理しましょうか」


 アンリエッタは『錬金術師の部屋(アイテムボックス)』から色々取り出す。

 王都での一週間の間に、旅に必要なものを色々買い込んだ。特に生鮮食品と各種調味料を。パンと野菜もたくさん。『錬金術師の部屋(アイテムボックス)』内は時間が経過しない。新鮮なまま保たれる。活用しない手はない。


 もちろん、食料もマナから錬成できる。できるが、アンリエッタは作った方がおいしいと思っている。


 食料錬成は最初はいいが、慣れていくと、次第に栄養だけ重視の、空腹だけ満たすような味気ないものばかり作ってしまう。

 そんなのは楽しくない。華麗ではない。


 調理器具も取り出して、料理を始める。

 ブルボアーのロース肉を適度な厚さに切って、塩コショウを振る。小麦粉をまぶし、卵液にくぐらせ、パン粉をまぶす。


 火をおこし、フライパンに油を注いで熱する。充分熱されたところで、肉を入れた。じゅわっと細かい泡が立った。


 パチパチ音を立てながら、肉が揚げ焼きされていく。

 香ばしい匂いに食欲をそそられながら、手際よく引っくり返す。両面しっかり焼いてから取り出し、あとは余熱で中まで火を通す。


「できたわ――ボアーカツレツよ」


 黄金色に輝くボアー肉のロースカツレツが、皿の上で燦然と輝く。

 だが、ここでは終わらない。


「そしてこれを、野菜と一緒にパンにはさんで――ボアーカツサンド!」


 完成したボアーカツサンドがきらきらと輝いている。

 あまりにもおいしそうな香りと見た目。

 この魅力に抗える人間などいるだろうか。いや、いない。


「おいしそうでしょう? 料理も錬金術の一種。天才錬金術師のわたくしは、料理の腕も超一流なわけ。いただきます」


 さっそく試食する。

 アンリエッタは目を輝かせた。


「うーん、最高!」


 油と脂の風味と衣のサクサク感、パンのふんわりとした甘さに、新鮮野菜のシャキシャキ感。肉々しさと香ばしさと甘さとわずかな苦みのハーモニーがたまらない。


 ダリオンはやや躊躇いがちにボアーカツサンドを眺めていたが、ついに食べ始めた。


「どう?」

「……悪くない」

「もっと素直に言えない?」

「…………」

「おいしいって言いなさい。作ったわたくしと、このブルボアーに感謝しながら」


 アンリエッタが強めに言うと、ダリオンはわずかに肩の力を抜いた。


「……わかった。この料理は確かにおいしい」

「ふふっ、素直でよろしい。おかわりもあるからね」

「……いただこう」


 割とかわいいところもある。


 そう思いながら、黙々と食事を続けるダリオンを見つめる。

 先ほどブルボアーが現れた時も、すぐに庇ってくれた。自分の立場をよく理解しているようだ。

 少しずつ、ダリオンという人間に興味が湧いてくる。


「ねえ、ダリオン。あなたこの場所に詳しいの? 『魔女の森』って言っていたわよね。どうして?」


 アンリエッタは追加のボアーカツサンドをダリオンに渡しながら、聞いてみた。


「さあな……地名の由来など興味もない。この場所に竜が出るらしいという話を聞いてやってきただけだからな」

「竜を倒して何が欲しいの? 名声? 骨? 鱗? 心臓?」

「それを知ってどうする」

「分け前の相談よ。竜の骨はドラゴンキラーに、竜の鱗はドラゴンブレスを防ぐ効果があるらしいわね。心臓を食べれば永遠の命を得られるとも」


 伝説でしか聞いたことはないが、そういう話はある。


「……君には関係ない」

「なら、素材は一旦預かっておくことにするわ。それで得た利益をあなたに還元する。欲しいものがあればできるだけ早く言うこと。使ってしまうかもしれないから。それでいい?」

「ああ」


 ダリオンの返事は素っ気ない。本当に素材に興味がなさそうだった。


 ならば目的はドラゴンスレイヤーの称号や功績か。

 そんなもので満足してくれるなら、いくらでも譲ってあげようと思うが、そんな名誉にも興味がなさそうに見える。持て囃されて喜ぶようなタイプに見えない。


 どうやらこれ以上話したくなさそうなので聞かないが。


(騎士って、理由もなく竜を討伐したくなるのかしら? 騎士のロマンってよくわからないわ)






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