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【8/6書籍発売】追放された悪役令嬢は【錬金スキル】で華麗なるチート生活を満喫する  作者: 朝月アサ


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55 公爵領での依頼





「……この依頼と、この調査を受ける。他は保留しておいてくれ」

「ふぅん……やっぱり、あなたらしいわね」


 ダリオンが選んだのは三件。

 緊急性が高く、領内防衛や領民の安全に関わるものだった。


 一件目は村の周囲で大型モンスターの痕跡が見つかったので退治してほしいというもの。二件目は原因不明の水源異常の調査。


 三件目は魔物の巣の位置の調査。


(いつの間にこんなにモンスターが出るようになっちゃったのかしら)


 ――出るものは仕方がない。まずは対処。

 そしてそれと同時に視察だ。


 依頼の受ける手続きをして、目的地を領内地図に記す。


 街を取り囲む城壁を出て、人気のないところに移動して『空飛ぶ絨毯』を用意する。


 二人を乗せた絨毯は風を切り、空へと舞い上がる。


 雲を裂くように進むうち、遠くに緑豊かな丘陵地帯が見えてくる。目的地の村までは、約二時間の飛行だった。



◆◆◆



「――人的被害はまだ出ていないが、近隣の住人が、山から大型の影が降りてきたと証言している」


 村に聞き込みに行ってきたダリオンが、村の外に作った『結界の家』で待っていたアンリエッタの元に戻ってくる。


「そう、お疲れ様」


 ダリオンの報告に、アンリエッタは紅茶のカップを置いて頷いた。


「あなたも飲む?」

「ああ、もらおう」


 アンリエッタはダリオンの分の紅茶とクッキーを用意して、ダリオンとテーブルで向かい合って座る。

 そして、ダリオンの顔をじっと見つめた。


「わたくし、まだ納得していないのよ? 置いていかれたこと」

「……仕方ないだろう。君は目立つ。小さな村となれば尚更だ」

「それはあなただってそうじゃない。わたくしから言わせてもらえば、あなたもものすごく目立つのよ? いったい何人を恋に落としてきたのかしら」


 ダリオンは呆れたように小さく息をつき、紅茶に手を伸ばす。


「ありえない話だ」

「充分あり得るわ」


 ――この男、自分の魅力に本当に疎い。


「……もしそうだったとしても、私が君以外を見ることはない」

「そ、そういうことは言っていないでしょ」


 置いていかれたことに拗ねているのであって、独占欲を発揮しているわけではない。

 ない。きっと。ない。


「それで、具体的にどのあたりに現れたの?」

「村の北西、湿地のあたりだ。遠くから見たが、獣道が踏み荒らされていた。畑が荒らされ、収穫時期の野菜が盗まれたらしい」

「鹿みたいなことするのね」


 動物は美味しいものを美味しい時期を狙って食べていく。


「だが、味をしめてしつこく狙ってくるようになったら問題だ。人的被害が出てからでは遅い」

「それもそうね。食料が狙われることも困るし」


 お茶を済ませて『結界の家』を出て、村の外れの湿地を越えて山の中に入る。

 そこに広がるのは、踏み荒らされた草地とぬかるみだった。草木はなぎ倒され、地面は深くえぐられている。


 ダリオンは地面に膝をつき、地面に刻まれた巨大な蹄の形をした足跡に指を這わせた。


「まだ新しいな……少なくとも六百キロ以上ある個体だ。おそらく――雷角獣の成体」

「足跡一つでそこまでわかるの?」

「体毛が落ちている。あと地面に焼け焦げた跡。雷角獣が小さな雷を落としたのだろう」

「さすがの観察眼ね」


 やや呆れながらも感心する。

 何気ない風でいて、何もかも見ているし、ちゃんと考えている。


「西に痕跡が続いてる。いまなら、まだ追いつけるかもしれない」

「わかったわ。行きましょう」


 山の中に入り、モンスターの痕跡を追う。


 やがて痩せた谷間に差し掛かった時、水辺で何かを探るようにして彷徨う一頭の雷角獣の姿を発見する。


 筋肉質な身体に、雷を帯びた角が鋭く伸びている。


 ――雷角獣が、こちらに気づく。雷が角の間で力を増し――


 落雷。


 その直前に、ダリオンの剣が放たれていた。

 投げられた刃が雷が吸い寄せ、剣はそのまま雷角獣の首筋に刺さった。


 ――モンスターが、倒れる。


(――この男、本当にめちゃくちゃだわ)


 呆れながら、ダリオンが剣を回収するのを眺める。

 そしてアンリエッタはモンスターを丸ごと『錬金術師の部屋(アイテムボックス)』へ放り込んだ。


「……この辺りって、確か二件目の依頼の近くよね」


 村の井戸に濁りと毒が出たので、水源調査の依頼があった場所に近い。

 近いと言っても、山一つ越えた距離だが。


「井戸水の水脈の起源はこの辺りかも。もうちょっと詳しく見てみない?」


 そうしてしばらく山中を散策していると、ある沼の水面が淀んでいるのを発見する。


「……毒性苔類ヴェヌアモス――植物性モンスターね。天敵がいないからか、異常なまでに繁殖しているわ」


 ダリオンはそれを見つめながら、低く呟く。


「……雷角獣が村近くに現れた理由も、水質汚染も、この苔のせいかもしれないな」

「水源を汚染されて、もともとの棲息地にいられなくなったのね。早く駆除しましょうか」


 アンリエッタは『錬金術師の部屋(アイテムボックス)』の中からある爆弾を取り出した。


「……水源を破壊する気か?」

「まさか。ふふっ、このヴェヌアモスは光に弱いのよ」


 だから濁った沼などで発生しやすい。

 おそらく大量の落ち葉や土が流れ込んだり、雪に深く閉ざされ光と遮断され、増殖したのだろう。


「少し眩しくなるわ。ダリオン、後ろを向いて目を瞑っていて」

「……了解した」


 ダリオンは背を向け、剣の柄に手を添えながら目を閉じる。


 アンリエッタは閃光爆弾を起動させ、放り投げると同時に後ろを向き、目を強く閉じる。


 背後で白い光が水中から弾け、周囲の木々を照らす。視界が一瞬すべてを失い、空気がぎゅっと押し返されたような衝撃が走る。


 数秒後、アンリエッタはそっと振り返った。


 水面には、黒ずんだ苔の残骸がわずかに浮かんでいるだけだった。


「おおむね殲滅完了かしら。さて、手早く浄化しないとね」


 アンリエッタは【分解】で毒素と苔の欠片を手早く消していく。


「さて、あとは――」


 アンリエッタは腰のポーチから小瓶を取り出し、中身を沼の中心へと投下した。緑と銀にきらめく液体が広がっていき、水面がじわじわと澄んでいく。


「以前拾ったライマ苔よ。光を反射する層を持ってるの。よくダンジョンなんかで自生してるあれね。この子を増やせば、光に弱い毒性苔の胞子は定着できないわ」


 ライマ苔は静かに水中に広がり、定着していく。


「これで、二つの依頼が完了かしら。効率がいいわね」

「君は本当に……常識外れだな」


 アンリエッタは唇の端を上げて微笑んだ。


「あなたに言われたくはないわね」






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