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【コミカライズ連載中】追放された悪役令嬢は【錬金スキル】で華麗なるチート生活を満喫する  作者: 朝月アサ


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32/85

32 アイテム鞄






(見れば見るほど素晴らしい……さすがわたくしだわ)


 うっとりとアゾット剣を眺める。一切の穢れのない刀身に鍔と柄。シンプルであり繊細で、どの角度から見ても美しい。完璧な造形は、まさにアルティナそのものだ。


(さて、最後に一仕事――)


 アンリエッタはお気に入りの宝石を取り出し、『短時間逆行』効果を封じた。宝石が破壊されたとき、わずかな時間を戻ることができるように。


(竜に目を付けられかねない効果だけれど、ダリオンなら大丈夫でしょう)


 なにせ彼はもう竜殺しの英雄。どんな脅威も乗り越えるだろう。

 アンリエッタは宝石を柄頭にはめ込んだ。そして最後に、鞘に納める。

 これで本当に完成だ。


(――さて、あと必要そうなものは何かしら)


 まだ材料は残っているし、豊富なマナもある。いまなら何でもできる。


(やっぱり、便利なのはアレよね)


 アンリエッタはにんまりと笑い、自分の欲望に素直に従って、やりたいだけやることにした。





 ――一時間後。

 アンリエッタは『双子のベル』を取り出し、軽く鳴らしてダリオンを部屋に呼ぶ。


「お待たせ。掃除の進捗はどうかしら?」

「いまのところは順調だ」

「流石ね。ところで、依頼されていたものが出来上がったわよ」


 アンリエッタは完璧な短剣を掲げ、ダリオンに差し出した。


「アゾット剣よ。この刃に触れたものはマナ変換が阻害される――つまり錬成ができなくなるから、錬金術師に対する対抗手段になるわ」


 ――依頼通りの、錬金術師と戦うときに有用な武器。


「まあ、錬金術師って基本的に接近戦と速攻には弱いから、一気に距離詰めて一気に倒せばあまり脅威じゃないけれどね。錬金術師の戦いは、いかに戦わないかだから」


 騎士に近接戦闘に持ち込まれる時点で終わっている。死んだも同然だ。

 ダリオンは短剣を受け取ると、静かにその造形を眺めた。鞘から刃を抜くと、刃にダリオンの表情が写り込む。


「……美しいな」


 深い感嘆のこもった声に、アンリエッタは微笑む。


「――ねえ、ダリオン。もし、わたくしがとっても悪い錬金術師になったら――」


 ダリオンの視線が短剣からアンリエッタに移る。

 アンリエッタはその瞳を覗き込んで、微笑んだ。


「ダリオンがわたくしを倒しにきてね」

「…………」

「返り討ちにするけれど」


 ダリオンが低く笑う。


「君らしい」


 アンリエッタをよくわかっているような言い方に、気分が良くなる。


「でも、わたくしの弱点だけ知られているというのはフェアじゃないわね。ねえ。ダリオンの弱点を教えて?」


 公平性を保つために問うと、ダリオンは微妙な表情になった。


「……変な心配をしなくても、私は君を裏切らないし傷つけない」

「そうね。そういう契約だものね」

「…………」


 だが、それとこれとはまた別の話だ。

 しかし、ダリオンは自分の弱点を明らかにしたりしないだろう。アンリエッタに弱みを見せるようなこともしない。騎士はプライドが高いから。


「つまり、わたくし自身がダリオンの弱点というわけね」

「そうだな。間違いではない」


 軽く流され、アンリエッタは頬を膨らませた。反論してきたところを突くつもりだったのに。


「あと、これはおまけなんだけれど」


 アンリエッタはベルトにつけられる革ポーチを取り出す。


「『錬金術師の部屋(アイテムボックス)』を、鞄の中に作ってみたの。いわばアイテム鞄ね」


 得意満面で説明すると、ダリオンの表情が変わった。じっとポーチを凝視する。


「鞄の口に通るものだったら、なんでも入れられるわよ。広さは、そうね。この部屋くらいかしら」


 研究室となっていた部屋を見回す。

 あえて、あまり広くはしなかった。それでも普段使いには充分なはずだ。


「中に入れたものは時間も止まるから、劣化もしないわ」

「こんなものを……本当にいいのか?」


 アゾット剣よりも反応が大きい。


「ふふんっ、大サービスよ。わたくしが世界最強の大天才錬金術師だということ、少しはわかったかしら?」

「ああ。これは、冒険者なら誰もが重宝する。皆、錬金術師の収容力を羨ましがっているものだ」


 ダリオンは心の底から感動しているようだった。

 やはり、使いどころの限られる武器よりも、普段の不便を解消する道具の方が需要が高いようだ。

 とてもいい気分だった。


「なら、冒険者ギルドで製作依頼を受け付けてみようかしら」

「きっと、ひっきりなしに注文が来るだろう」

「でも、同じものばかりを作るのは飽きるわね」

「君という人間は……」


 ダリオンがやや呆れながら、手持ちの財産を渡してくる。


「これで足りるとは思えないが、不足分はおいおい渡す」

「いらないわよ」


 アンリエッタはきっぱりと断った。


「そういうわけにはいかないだろう」

「いいのよ。わたくしはもう、ダリオンからたくさんのものを貰っているもの」


 金銭でも物質でもなく。

 それに、不足分の支払いを待っていたら、きっといつまでも終わらない。


「依頼の武器だって、わたくしのためのものでしょう? なら、あなたから代金をもらうのはおかしいわ」

「しかし――」

「いいから。これで完全に貸し借りなしね」


 アンリエッタの中で、すべての清算が完了する。

 とてもすっきりした気分だった。


「それより、わたくしもイム用の鞄を作ったの。『携帯スライムハウス』よ! さあ、イム、いらっしゃい」


『結界の家』と同じ神秘を使って、スライムにとって快適な空間を作り出している。もちろんちゃんと時間も流れる。


 イムは抵抗なくポーチの中にスルスル入り、アンリエッタはそれを腰のベルトに装着した。これでどこに行くのにも一緒だ。ポーションを与えるのも簡単だし、不要なものを入れて分解してもらうこともできる。


「――さて。掃除を終わらせたら、もう一か所付き合ってもらいたいところがあるんだけれど、いいかしら?」

「もちろん構わないが」

「錬金術師ギルドってどこにあるの?」


 問うと、ダリオンの表情が強張った。


「どうするつもりだ」

「待つのは性に合わないの。こちらからフォールネスに会いに行くわ」

「……彼は錬金術師ギルドの中でも重鎮だ。運よくギルド内で会えればいいが、可能性は低い。会う約束は取れるだろうが」

「そんなの待てないわ」

「直接家に行くつもりか? 錬金術師ギルドでどこに住んでいるのか訊いても、部外者には教えられないだろう」

「正攻法ではね」


 軽い調子で答えると、ダリオンの警戒が強まる。


「……何をするつもりだ」


 アンリエッタは不敵に微笑んだ。


「錬金術師の戦いは、いかに戦わないか――つまり、先手必勝よ」





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