白い奇蹟⑦ 反転
…………
『……さん!』
……………………だれ?
何か、呼びかけられたような気がする。白い、白い、何もかもが、ただ白い空間で。緋色は何か呼ばれたような気がして、消えかけていた意識を引き戻された。
少年のような声だ。
どこかで聞いたことがある声のような気がするのだけど。
でも。
何だか、とっても気怠くて。
頭の中が、酷くぼんやりとしている。何か考えようとしても考えられない。ううん。考えようとすら考えられない、そんな感じ。だから。
一度引き戻されたんだけれども、緋色の意識はまた、白い世界に紛れて消えてしまいそうになっていた。まるで二度寝の微睡みのような心地よさだ。
それでも、何だろう? なんだか気になる。
このまま白い世界に身をゆだねてしまってはいけないような、そんな警鐘がどこか遠くの方で鳴っている。かもしれない。くらいの僅かな違和感が緋色の意識を繋ぎ止めていた。
と。
この白い世界に満ちている力とは違う何かが、緋色の近くに現れた。その何か――異質な力と言い換えてもいいかもしれない――は、緋色の周りを包む白いエネルギーとは、全く違っていた。
それは白じゃない。水色のような、少しだけ緑色がかった薄い青のような、まるでそんな色をイメージさせるエネルギー。
緋色には、それが何だかとっても、温かくて、心地よくて。
囲い込んで押しつぶそうとしてくる白いエネルギーから、緋色を守るように優しく包んでくれている。そんな風に緋色には感じられていた。
消えてしまいそうになっていた意識が、段々と戻ってくる。
なんだか纏まらない混濁した考えが、しだいに纏まってクリアになっていく。
――思い出した。
さっきの少年の声は、悟だ。私の、大好きな人。
この青い力は、絵里香だ。私の、大好きな人。
そう思いだした刹那だった。
『……ひいろ、会いたいよ、緋色……』
絵里香の声が聞こえた。大好きな人の声。
今にも消え入りそうな、大好きな人の、声。
直後、緋色を包んでいた青い力が、不意に消えた。白い力が、好機とばかりに緋色へと圧し掛かってくる。
……っ!
ぽっと、心の奥に炎が灯った。そんな気がした。
……会いたい。
絵里香に会いたい。大事な親友に、会えなくなるなんて嫌!
……会いたい。
悟に会いたい。せっかく仲良くなれたのに、これっきりなんて嫌!
……会いたい、逢いたい、あいたい。
緋色の心で、気持ちが満ちていく。想いが昂っていく。そして。
心の奥から、言葉が溢れた。
「メタモルフォーゼ‼」
緋色の心の奥に灯った炎が、紅い光となって、急速に膨れ上がっていく。
無数の紅い光の糸が、緋色の周囲を包む白い光を飲み込んでいく。
――どんどんと。
――どんどんと。
それこそ、瞬く間に。
紅い光は、巨大な白い球体を染め替えていった。紅く、紅く。




