ラウタートンと二人の怪人
白い怪人――ラウタートンが周囲を見渡す。
顔を上げたその先、ラウタートンの目線よりやや下くらいに二人の少女がいた。
赤と青の衣装をまとったその二人。言うまでもなく魔法少女、スカーレットとシアンの二人である。
二人は驚いたような表情で固まっていた。じっとラウタートンを見上げている。
そんな二人に見られていて、なんだか少し気恥ずかしい気がしないでもないなと、ラウタートンは何故だか感じていた。
酷くぼんやりとした意識の中で。
さて、そこからもう少し視線を巡らすと、もっと下の方に二体の異形のものが構えていた。
一人は全身甲冑のような姿だけれど、その甲冑が身体と一体化しているようで。もう一人はどうしたことか、その手足も、身体も、頭までが、まるで蛇のようであった。
人というには、相当に躊躇われる姿かたち。
……怪人と呼ぶにふさわしい姿だ。
などと、自分を棚に上げてラウタートンは考える。
酷くぼんやりとした意識の中で、だ。
そんな二体の怪人の後ろには、白衣の男が一人。それと黒い姿の有象無象がわらわらと。先ほどの怪人よりもさらに小さい。
そんな中でも、ひときわ小さな白衣の男がラウタートンを見上げていた。白衣の男とラウタートンの視線が合う。
……どこかで見たような気が……
その顔にどこか見覚えがあったような気がするのだけれど、頭の中の靄がそんな意識さえも覆ってしまった。
そんな刹那。
「六郎! 暴走が始まる前に、止めるぞ!」
「応っ! 合わせていくぞ、蛇目頭!」
「「うをををぉぉぉぉーーーーーー!」」
二人の怪人が怒声を張り上げて、ラウタートンへと向かっていった。
二人の怪人が突進してきている。
ラウタートンは、その事象を認識していた。
だけど、ラウタートンは動かない。だって、動く必要を感じていないから。
『大人と子どもほどの違い』という表現があるけれど、ラウタートンと二人の怪人との差はそれ以上。例えるなら『大人と幼稚園児ほどの違い』だった。だからこそ、ラウタートンが動くことは無い。
どしん、とタックルをかける二人の怪人であったが、ラウタートンは微動だにしない。
そう、大きさは正義。さらに正確に言うならば、質量は正義なのだ。
掴みかかった二人の怪人はもちろん、その様子を見ていたムジークも、戦闘員たちも、そして魔法少女の二人も、それを感じていた。
鈎爪の生えた翼のような両腕が二人の怪人を抱きかかえる。ラウタートンがそうしようと考えたわけではない。無意識のうちに、そう身体が動いていた。
ラウタートンの両腕を覆っていた黒い羽根から、黒い靄が滲み出る。もやもや。
抱え込んだ二人の怪人を、その靄が包み込もうとしていった。
その時。
――ドン!
何かが爆発したかのような衝撃音を、ラウタートンはもやもやとした頭の片隅で聞いた。
◇
「「うをををぉぉぉぉーーーーーー!」」
白い怪人――ラウタートンへと、二人の怪人が掴みかかっていく。
スカーレットは、シアンと共にその様子を見つめていた。
咄嗟には身体が動かなかった。
その異様に竦んでしまったのか? それもあるだろう。
ただ、やっぱり、その顔が悟のものであったから。だから、その白い怪人を攻撃対象だと見做せなかったのだ。
でも。同時に。
その姿が悟だとは思えない自分が、いや、思いたくない自分が、スカーレットの心の中にいた。
「ねえ、シアン。あれ、悟くんじゃないよね」
「うん。わたしもそう思う。ううん、思いたい、けど……」
歯切れの悪い返事しか返ってこない。普段ならば冷静に最適な回答を導くシアンも、どう判断していいのか迷っているようだ。
どしん、と二人の怪人がラウタートンへと突っ込んだ。
が、ラウタートンは微動だにしない。圧倒的な体格差になすすべがない。
だって、二人の怪人はスカーレットの肩ほどの体格でしかないから。それでも、二メートルをゆうに超えるのだから、一般人からすれば十分に巨大なんだけど。
しかし、相手が悪い。
ラウタートンはスカーレットとシアンが見上げる相手。少なくとも頭一つ分以上はスカーレットよりも大きかった。
……この体格差じゃどうにもならないよ。いちど退避しようよ。
二人の怪人の心配をしているスカーレット。いつの間にか敵だった秘密結社に共感してしまっている。
そう、二人の怪人じゃ相手にならない。軽すぎるんだ。だから。
スカーレットとシアンだけ。
ラウタートンの相手になれるのは、私たち二人しかいない。
スカーレットは直感でそう理解していた。
「スカーレット、見て!」
シアンが叫ぶ。
思考に耽っていた意識を引き戻し、シアンの指し示す先を見ると。スカーレットの目に映ったのは、黒いもやもやだった。
ラウタートンは自身の白い脚部にしがみついていた二人の怪人を、その翼のような両腕で抱え込んでいた。腕に生えていた黒い羽根から、黒い靄が拡がって、二人の怪人を包み込もうとしている。
……まずい! このままにしてちゃ駄目だ。
考えるより先に身体が動いた。
深紅のショートブーツを、ぎゅっと踏み込む。
深く曲がった膝。白いタイツに包まれたふくらはぎと太ももが、ぱんと張り詰める。
次の瞬間。
――どん!
鋭い衝撃音とともに、スカーレットの身体が矢のように射ち出された。
低い弾道で一息にラウタートンとの間合いを詰める。
スカーレットはそのままの勢いで、ラウタートンの左手に抱えられた蛇目頭へと両手を突き出した。巨人の持っていた膨大な運動エネルギーが一気に蛇目頭へと注がれる。
ラウタートンの左手は、そのエネルギーを受け止めきれなかった。
蛇目頭の身体が黒い靄を振り払って、すっ飛ばされていく。三回転、四回転とごろごろ転がる蛇目頭。ようやく回転が止まったところで、ふらふらと立ち上がった。どうやら意識はあるようだ。
ラウタートンが左手を見る。そこに抱えていたはずの怪人がいない。何もない。
そう、蛇目頭が弾き飛ばされた左手の付近には何もいなかった。
そこにあったのは、ただ靴底が焦げたような匂いだけだった。




