表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/52

凍りつく戦場

 ――ぶおん。

 シアンの拳が唸る。一瞬の間をおいて、その拳を追うように風が走る。スカーレットの紅い髪が舞い上がる。

 シアンの放った一撃は、スカーレットの頬をかすめていって。その拳は、鱗に覆われた太い腕を弾き飛ばした。

 蛇目頭(へびめとう)の大蛇を思わせるその右腕が、スカーレットの背後へと迫っていたのだ。

「ごめん、シアン。助かった」

「気を付けてよ」

 シアンの言葉に目線を送るスカーレット。その視界に、シアンの背後から迫る甲冑の姿が映る。

 ……やばっ。

 スカーレットは、とっさに迫る六郎(ろくろう)の前へと立ちふさがった。ちょうどシアンとその立ち位置を入れ替えた形になる。突っ込んできていた六郎の足が止まる。対峙する二人の魔法少女(まぎがある)と二人の怪人。

 また、睨み合いというか、鍔迫り合いというか。つまりは、膠着状態に陥っていた。


 二人の魔法少女は、少年(さとる)をかばうように、怪人と向かい合っていた。怪人がその立ち位置を変えても、常に少年と怪人の間を塞ぐように魔法少女が立ち回る。

 ……ええい、クソ!

 六郎は苛立ちを隠せずにいた。

 二人の怪人が参戦し、秘密結社シュバルツローゼの戦力は大きく増したはずなのに。それなのに、どうして攻めあぐねているんだ?


 ……うぬぬぬぬ。

 声にならない声が、蛇目頭の大蛇の口から洩れる。

 二人の怪人が参戦し、秘密結社シュバルツローゼの戦力は大きく増したはずなのに。それなのに、未だあの少年に接触できないのは何故だ?


 二人の怪人がそれぞれに対峙する魔法少女を睨みつける。そんな中、スカーレットは考えていた。

 ……もし、もしもだよ。戦闘員が変身した人だとして。これだけの人数が集まるってことは、それだけ蓮軽(はすかる)市や近郊に住んでるってこと? もしかしたら、知ってる人が混ざってるかもしれないんじゃ?

 あ、やばい。

 そう思った時には、もう遅い。スカーレットの頭に『あの戦闘員たちの中に』『顔見知り(ごきんじょさん)がいるかもしれない』という考えが刷り込まれてしまった。

 ……どうしよう? もしもを考えちゃったら、殴ったりできないよ!

「んんんーーーーーーっっっ!」

 いきなり、両手で頭を抱えて悶絶するスカーレット。くねくねと体をくゆらせている。

 突然のその動きに、接近していた戦闘員も、目の前で対峙していた甲冑の怪人(ろくろう)も、シアンも、それどころか、反対側でシアンと対峙していたへび怪人(へびめとう)と怪人たちまでもが、動きを止めた。

 まるで時間が止まった世界で、スカーレットだけが動いているかのようだ。くねくね。

 ひとしきり、くねくねし終えて、はっと我に返るスカーレット。

 ……まずい、これじゃただの変質者じゃない?

 そっと、視線を上げると。ただただ唖然と立ち尽くしている怪人(ろくろう)と戦闘員たち。兜や仮面で表情は読み取れないけれど、その背後におおきな書き文字が浮かんでいるように見える。

 《ぽかーーーん》と。

 ジッと見つめるスカーレットに気付いたのか、は! っとした様子で動き出すと、気まずそうに視線を逸らす怪人と戦闘員たち。

 ……がーーーん。うそ、それは無いよ。

 まったく、イタい子を見るように見ないで欲しい。救いを求めてそっと振り向くスカーレット。だが、そこには。

 やっぱり、唖然と立ち尽くしている怪人(へびめとう)と戦闘員たち。そしてシアンがいた。そしてやっぱり、気まずそうに視線を逸らす怪人(へびめとう)と戦闘員たち。

 シアンはというと、何の感情も感じさせない眼で、スカーレットを睥睨(へいげい)していた。そこにはオオグソクムシに向ける優しささえ感じない。それはまるで、植木鉢の下のワラジムシを見るかのような視線だ。ちょっと待って。尋常じゃないほどショックなんですけど。ぬぅ。

 そしてシアンは問うた。

「ねぇ、戦闘中なんですけど?」


 ……はい、申し訳ございません。私が悪うございました。

 こころの中、全力で謝るスカーレット。土下座どころか、五体投地してしまいそうな勢いである。

「で、一体どうしちゃったの?」

 シアンが私だけに聞こえるくらいの小声で問いかける。

「じつは……」

 スカーレットは、つい刷り込まれてしまった考えを、ぼそっと語った。

「……だから、攻撃するわけにはいかないかな。って」

「そっか。でも、悟くんを守ることが、今は優先じゃないかな」

 そう言って、ちらりと視線を後ろへと流すシアン。と。

 シアンの青い眼が大きく見開かれた。思いもかけない光景に、その動きが止まる。いや、スカーレットがまたくねくねしていた訳ではなくって。

 そのシアンの表情を見て、スカーレットも視線を移す。同じく、二人の怪人と戦闘員たちも。そして皆が皆、目を見開き、動きを止めた。シアンとまったく同じように。

 その時、その場の空気は、一様に凍りついていた。


 シアンが振り向いたその先には、悟がいる。そのはずだった。

 ううん、悟はいたのだけれど。それが、シアンの、スカーレットの、二人の怪人と戦闘員たちの見知っていた姿ではなかっただけで。

 それは、胸を抑え、身体を丸めてうずくまる少年の姿であった。でも、それだけだったら、シアンたちがそこまで驚くこともなかっただろう。

 その少年の丸まった背からは、黒い(もや)がじわりと湧き出してきていた。肩甲骨の後ろあたりから、まるで角が突き出るかのように。黒い靄でできた二本の黒い角がみるみる間に伸びていく。

「……っっっっっっっ!」

 少年が声にならない叫びをあげる。黒い角がずんと伸びるごとに、少年を耐えがたい苦痛が襲っている。その表情に、悟の優しい笑顔の面影はなくて。悪鬼羅刹のごとき形相が、そこに浮かぶ。

 そして、その少年の眼は漆黒の闇の色に染まっていた。黒色というよりも、何も無い空洞がそこに在るようであった。無いものが在るなんて、矛盾しているとは思うけれど、そうとしか言い表せない様子だったから。


 だから、誰もが、()()を『悟』だと認識できなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ