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大正妖怪デモクラシー  作者: 一色明
第二章 輪廻
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第九話

 珠子は、生まれた頃より弱視であった。


 それは年齢を重ねるに連れて悪化の一途を辿り、三歳となった今は、光を感じる程度の機能しかない。


 それでも、光や影の動きで、朝昼夜の区別や、人の動きは知ることができた。また、体の感覚は鋭く、普段生活している家や庭先なら困ることはない。

 性格は天真爛漫だが、聞き分けが良く約束事は守る子供であった。だから、普段から家族からの言いつけには従い、一人で外出するようなことはなかった。



 けれど、事件が起きたのは、二週間前のことである。



 その日は、いつもと変わらない平日だった。

 店はいつも通り開店しており、夫婦で切り盛りしていた。珠子も、母と共に店先に出て馴染みの客に可愛がってもらった。珠代は日中は尋常小学校へ通い、帰ってくると父と共に店に立った。

 夕刻になり、父と珠代は店仕舞いの支度をし、母は台所で夕餉の準備を始めた。珠子も、母と家の方へ戻ったが、暇を持て余し庭先で遊ぶと母に告げる。いつものことだったため、母も了承すると、珠子はお気に入りの鞠を持って庭へ出て行った。


 父と珠代が家へ戻ってくる。珠代は家の中を歩き回った後、母に尋ねた。

『母さん、珠子はどこ?』

 台所にいた母は、庭だと答える。

 しかし、珠代は首を振った。

『いなかったわ。』

 その言葉を聞いて、母は急いで庭へ行った。

 すると、夕焼けに染まった庭には本当に誰もいなかった。

 花壇の側で、珠代が何かを拾う。

『母さん…。』

 手にしていたのは、珠子のお気に入りの鞠だった。


 珠子がいなくなったことを父にも告げる。

 父はもう一度家や店の中を隈なく探し、珠代は母と庭先から外へ出て探した。

『珠子!珠子ー!』

 しかし、幾ら名前を呼んでも、可愛い珠子が返事をすることはない。そのうちに、父も二人に合流した。


 夕日は沈み始め、辺りは薄暗くなり始める。


 その時、三人に声をかけてきた人がいた。

『こんな時間に、どうしましたか?』

 それは、商店街の会長さんだった。取り乱す母の代わりに父が説明すると、会長さんは顔を曇らせた。

『それは大変だ!商店街の皆んなにも声をかけて、一緒に探してもらおう!』

 会長さんの声かけのもと、近所の大人達が集まってくれ、大捜索が始まった。商店街の道端、剣道場、林など思いつく限りの場所をしらみ潰しに探す。


 しかし、珠子は見つからず、日は沈み夜が訪れた。


『大丈夫だ!きっと、見つかる。』

 会長さんの励ましの下、皆で必死に探したが、やはり見つけられなかった。

 手分けして探していた大人達が、一向に見つからないため、自然と犬神様が祀られる林の前に集まり始める。

 皆、自分達が探した場所を報告し合うが、もうそれ以上の場所は思いつかなかった。

 警察を呼ぼうか…、そう誰かが言い始めた時だった。


 ガサガサッ


 林から、草をかき分ける音がする。

 明らかに風の揺れではない不自然な音に、大人達は一斉にそちらを振り返る。


 すると、そこに立っていたのは珠子だった。

 その格好は、いなくなる前と何ら変わらない。


『珠子!!!』

 母と父が駆け出す。遅れて珠代も続いた。

 三人に突然抱きしめられて、珠子は驚く。

『どこにいたの!』

 母がきつく問うた。すると、珠子は答える。

『せまいところ。』

 珠子は、顔を見合わせる大人達に笑って言った。


『いぬがみさまとあそんでたの!』


 そう話す幼い顔は、ひどく楽しげだった。







「おにわでね。まりをついて、あそんでたの。」

 珠子は言った。

「そうしたらね、いきなりだっこされて、せまいところにいれられたの。」

「せまいところ?」

「そう、アンヨもウデも、ぎゅってなるの。くるしいよっていおうとしたら、おくちにあまいアメちゃんいれてくれたよ。おいしかったの!」

「じゃあ、ずっと静かにしていたの?」 

「うんとね、アメちゃんたべたらね。たま、ねむくなってねちゃった!でも、めがさめたら、いぬがみさまいたよ!」

「そうなんだね。…珠ちゃんは、どうして犬神様がいるって分かったの?」


 僕は、珠ちゃんの目のことを思い、不思議になって尋ねた。


 珠ちゃんは、にっこり笑った。

 そうして、僕の方へ顔を寄せ、内緒話をするかのように少し小声で語り始めた。


「だってね…………………。」



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