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別離【参】《ベツリ【サン】》

更新します。

翌朝(ヨクアサ)朝餉(アサゲ)()に入った(シン)は、あれ?と首を(カシ)げた。

(スデ)忋抖(カイト)は来ているが悧羅(リラ)の姿がない。昨晩(サクバン)姚妃(ヨウヒ)(トモ)()ると伝えると微笑(ホホエ)んで(ウナズ)いていたし、であれば場を(ハズ)そうとまで言ってくれた。


(ワラワ)()っては姚妃(ヨウヒ)(シン)(タズ)ねとうあることも(タズ)ね切れぬやもしれぬ」


そう言っていたから忋抖(カイト)(トコロ)に行ったとばかり思っていたが、どうやら(チガ)うようだ。

悧羅(リラ)(カン)流石(サスガ)というか当たっていて、3人で過ごしていたら姚妃(ヨウヒ)は気にし過ぎて口にしなかったことだろう。悧羅(リラ)と3人で共寝(トモネ)をしていたら言い出せもせず、もやもやとしたまま旅立(タビダ)たせていたかもしれない。

(シン)との会話でどれだけ気持ちを軽く出来たのかは分からない。それでも、話し終えた後からの姚妃(ヨウヒ)の顔は昨日(サクジツ)までとは明らかに変わっている。


「本当は母様(カアサマ)にも聞きたいことあるんだけど、(ツラ)いこと思い出させちゃうかな?」


(タズ)ねる前に()びる姚妃(ヨウヒ)の頭を()でて、(シン)大丈夫(ダイジョウブ)だと背中を押しておいた。(シン)悧羅(リラ)()やんで(ワス)れることなど出来ないことではあるが、それでも今があるから話すことは出来る。聞かれてしまえば、まるで今あっているかのように鮮明(センメイ)に思い出してしまうが、苦しくてもそれを()めて(モラ)える手は、もう(ツナ)げていて(ハナ)すことは決してないと言える。


「思い出して泣いちゃっても、ちゃんと(オレ)()たしてやれるからね。心配(シンパイ)せずに聞きたいことなら何でも聞いとけ」


そう言った(シン)姚妃(ヨウヒ)(アキ)れていたようにも見えたが、(ウラヤ)ましい、とも言って(ハタ)いてきたのだ。


そんなに可愛(カワイ)(ムスメ)との朝を(ムカ)えて、上機嫌(ジョウキゲン)で起きてきたというのに何故(ナゼ)悧羅(リラ)()ないのか。


ぐるりと()見渡(ミワタ)して(シン)は大きく嘆息(タンソク)するしかない。出てきていない子どもたちの姿はちらほらあるが、廊下(ロウカ)の先に見える者も()る。別段(ベツダン)取り決めている(ワケ)でもないのだが、朝か夕のどちらかは必ず(ミナ)(ソロ)って食事(ショクジ)をすることが多い。

とはいえ(ミナ)よい年頃(トシゴロ)なのだし、近頃(チカゴロ)はそうそう(ソロ)うということもないが、()()()()()()大きなことがある前後には(ダレ)が言い出さずとも(ソロ)ってくれていたのだが。


もう一度、場を見渡(ミワタ)して玳絃(タイゲン)の姿も無いことに(シン)は大きく嘆息(タンソク)してしまう。


もしや、とは思うが姚妃(ヨウヒ)旅立(タビダ)つまであと数日しかない。悧羅(リラ)が何かしら動いたとすれば、昨夜(サクヤ)丁度(チョウド)良かったに(チガ)いない。


忋抖(カイト)、ちょっと来い」


頭を(カカ)えながら忋抖(カイト)廊下(ロウカ)()び出すと、樂采(ガクト)にしっかり食べるように伝えてから出てきてくれた。


「なに、どうしたの?(オレ)(ハラ)()ってるんだけど」


頭を(カカ)えている(シン)(イブカ)しげに見ながら言う忋抖(カイト)が、悧羅(リラ)は?、と(タズ)ねてくる。ということは確実(カクジツ)悧羅(リラ)忋抖(カイト)と共に居たわけではないということだ。


「お前のところに行ったと思ってたんだけど、やっぱり行ってない?」


「何言ってんの。姚妃(ヨウヒ)一緒(イッショ)()るって言ってたでしょ」


きょとりとして首を(カシ)げる忋抖(カイト)も、何かに気付(キヅ)いたのか苦笑(クショウ)し始めている。


「多分そうだと思う。あーもう、あの(ヒト)は…」


嘆息(タンソク)しながら玳絃(タイゲン)の部屋に向かって歩き出すと、忋抖(カイト)可笑(オカ)しそうに(ワラ)いながら(トナリ)を歩いている。途中(トチュウ)ですれ(チガ)媟雅(セツガ)憂玘(ウイキ)何処(ドコ)に行くのかと()われたので、玳絃(タイゲン)を起こしに行くと伝えると、あれ?、と首を(カシ)げられた。


玳兄(タイアニ)なら父様(トウサマ)が起こしに行ったよ?」


「え?」


憂玘(ウイキ)の言葉に(シン)忋抖(カイト)が顔を見合(ミア)わせると、何かを(サッ)したのか媟雅(セツガ)が手を()った。


()()()(マカ)せてもらっていいよ。舜啓(シュンケイ)には、頑張(ガンバ)れって言っててくれる?」


「え、何を?なにを頑張(ガンバ)らせるの、母様(カアサマ)?」


「いいからいいから」


手を()りながら憂玘(ウイキ)()()って()っていく媟雅(セツガ)見送(ミオク)りながら、(シン)はますます頭を(カカ)えてしまう。


(オレ)のとこに行くって言ってたんじゃないんでしょ。確かめなかった父様(トウサマ)(ワル)いよね」


「うん、そう。いや、そうなんだけど。忋抖(カイト)樂采(ガクト)()るとばかり…。これに舜啓(シュンケイ)かよ。あー、まずいぞ?」


足早(アシバヤ)になりながら(ウメ)いてしまうが、まだ忋抖(カイト)はきょとりとしている。どうやらまだ(コト)の大きさが分かっていないようだ。


「何も、まずいことないでしょ。むしろよく今まで悧羅(リラ)が動かなかったもんだって思うけど?」


ふふっと(ワラ)っている忋抖(カイト)の頭を(シン)小突(コヅ)く。(カン)(ニブ)い方ではないくせに、悧羅(リラ)()()()()()行動(コウドウ)には危機感(キキカン)(イダ)きにくい。子としての(ジカン)が長かったせいかもしれないが、あからさまな恋情(レンジョウ)(オコナ)いを目の前で悧羅(リラ)に向けられると(ダマ)ってはいないが、悧羅(リラ)が子にすることやその(ギャク)も当たり前だと思っている(フシ)がある。


馬鹿(バカ)、昼の共寝(トモネ)じゃないんだぞ?(ヨル)に、寝間着(ネマギ)1枚で、しかも悧羅(リラ)だ。()()()()()()()、もしかしたら()()()()()()玳絃(タイゲン)(アマ)やかしてるに決まってる」


つかつかと足を進める(シン)に、ようやく忋抖(カイト)現状(ゲンジョウ)(ツカ)めたらしい。


「…あー、確かに。…うっわ、寝起(ネオ)きの悧羅(リラ)とか見せらんないのに…。えっ?じゃあ()()()()()なんてことある?」


()()()()()どころじゃ無いかもなんだよ。だから、やばいって言ってんの!(ヨル)共寝(トモネ)だけはお前にしか(ユル)さないって(オレ)は言ってただろ」


ますます頭を(カカ)えながら歩くと玳絃(タイゲン)の部屋が見える。


「ああ!舜啓(シュンケイ)、ちょっと待てっ!」


入ろうと()に手を()けている舜啓(シュンケイ)を見つけて声を()り上げながら走ってみるが()に合わなかった。何?、と開けながら入ってしまった舜啓(シュンケイ)()って部屋に入ると(オク)から3人分の寝息(ネイキ)が聞こえてきた。

妲己(ダッキ)()てくれたことに一応(イチオウ)安堵(アンド)はしたが、部屋には悧羅(リラ)残滓(ザンシ)()(カエ)るほどに(タダヨ)っていて舜啓(シュンケイ)は、その場に(ウズクマ)ってしまっている。


「あーあ、だから()てって言ったのに…」


(ウズクマ)った舜啓(シュンケイ)の背中を(タタ)いて見るが、これは()()()()()()嘆息(タンソク)した(シン)(カタ)忋抖(カイト)の手が置かれる。


()()最悪(サイアク)があったりするのかな?」


「ほんと勘弁(カンベン)して。お前以外、無理(ムリ)なんだって。それに()()最悪(サイアク)より駄目(ダメ)かもだぞ」


「え、なにそれ?」


首を(カシ)げる忋抖(カイト)苦笑(クショウ)しながら舜啓(シュンケイ)を立ち上がらせてやると、こちらもまた苦笑(クショウ)するしか出来ないらしい。


「出とく?」


頭を()きながら、あー、と(ウメ)いている舜啓(シュンケイ)(シン)が部屋の()(シメ)すが、何故(ナゼ)悪戯(イタズラ)(ワラ)っている。


冗談(ジョウダン)でしょ?()()()()当てられて()()()ってことできないね」


()めといた方が良いと思うけどなあ。…もう、お前()ちてるだろ?」


大きく(イキ)()きながら自分を(オサ)えている舜啓(シュンケイ)が、この(サキ)()()()()()()()()光景(コウケイ)()えれるとは到底(トウテイ)思えない。


()()()だよ。忋抖(カイト)ばっかり(ズル)いって言ったの(ワス)れたの?最初に(ユズ)ったのは(オレ)なのに、何で知れないんだよ」


「それとこれとは話が(チガ)うだろ」


(ホオ)(フク)らませて見せる舜啓(シュンケイ)は、さっさと寝所(シンジョ)の前に行って忋抖(カイト)一緒(イッショ)御簾(ミス)を上げようとしている。まるで悪戯(イタズラ)を思いついたような姿だが、好奇(コウキ)だけで()まなくなることなど目に見えている。


「何かあったら悧羅(リラ)(セキ)取ってもらえばいいでしょ。1回くらい()して(モラ)ったってばちは当たんないよ。なあ、忋抖(カイト)?」


「それが1番駄目(ダメ)なんだよ」


ほらほら、と御簾(ミス)をあげてしまう舜啓(シュンケイ)を止めようとしたが無駄(ムダ)だったようだ。


一応(イチオウ)(オレ)も言っとくけど()()駄目(ダメ)だからね、舜啓(シュンケイ)


(シン)に向かって(アキラ)めたように頭を横に()忋抖(カイト)に言われても、舜啓(シュンケイ)何処吹(ドコフ)く風のようで、上げた御簾(ミス)から寝所(シンジョ)を見やっていた。上げられた御簾(ミス)(オク)から、また悧羅(リラ)残滓(ザンシ)(ユカ)()うように広がっていく。


「見せたくないんだけどなあ」


「…ほんとだよ。何で()し切られてんの?」


ぼやく(シン)忋抖(カイト)がじろりと(ニラ)んでいるが、どうにも舜啓(シュンケイ)には弱いのだから仕方(シカタ)ない。見せたくないのは本音(ホンネ)だし、引き()り出せもするが、舜啓(シュンケイ)手荒(テアラ)真似(マネ)をすると悧羅(リラ)だけでなく妲己(ダッキ)にも(オコ)られてしまう。悧羅(リラ)にとっても妲己(ダッキ)にとっても、舜啓(シュンケイ)は大きな存在(ソンザイ)なのだ。とりあえず寝顔(ネガオ)だけなら何とかなるだろうが、どちらかと言えば、残滓(ザンシ)(モト)になったのが玳絃(タイゲン)なのだとしたら、そちらの方が(シン)にとっては心配(シンパイ)(タネ)かもしれない。


「この(サキ)は、お前だけだから」


「当たり前、(オレ)がどんだけ(カワ)いたか知ってるでしょ?」


べっと(シタ)を出す忋抖(カイト)(オク)で、妲己(ダッキ)が先に目を()まして()びをしている。


「おはよう、だっ、き…?」


妲己(ダッキ)に声を()けた舜啓(シュンケイ)が、また(カタ)まったが無意識(ムイシキ)に手を()ばそうとしてしまっている。やれやれ、と舜啓(シュンケイ)の横に(シン)蹲込(シャガミコ)むと、忋抖(カイト)反対側(ハンタイガワ)から舜啓(シュンケイ)襟元(エリモト)(ツカ)んで動きを(フウ)じた。そうでもしておかないと舜啓(シュンケイ)()()かったことだろう。


大きな欠伸(アクビ)をしている妲己(ダッキ)のその(オク)で、玳絃(タイゲン)(ツツ)んで(ネム)っている悧羅(リラ)()た。布団(フトン)の下は見えないが一応(イチオウ)寝間着(ネマギ)()いでいないことに(シン)忋抖(カイト)も大きく(イキ)()いたが、玳絃(タイゲン)の顔は悧羅(リラ)(ムネ)にすっぽりと(ウズ)められてしまっている。しかも見える(トコロ)だけでも寝間着(ネマギ)がはだけているのは(アキ)らかで、(カミ)が流れているから(ハダ)が見えないだけだ。処々(トコロドコロ)から見えてしまう素肌(スハダ)と、残滓(ザンシ)だけで、普通(フツウ)ならば(ワレ)(ワス)れて押し(タオ)すだろう。


「あー…、もう」


がっくりと項垂(ウナダ)れてしまう(シン)(トナリ)で、舜啓(シュンケイ)(イキ)()んでいる。(オサナ)(コロ)から悧羅(リラ)の近くに()て、あらかた()れている舜啓(シュンケイ)でも、成熟(セイジュク)してからは悧羅(リラ)(ハダ)など見ることは無かったろうから()()なってしまうのは仕方(シカタ)ない。


「だから()めとけば良かったのに」


舜啓(シュンケイ)(エリ)を引いて(スワ)らせながら、忋抖(カイト)は小さく(ワラ)って玳絃(タイゲン)の耳を()()った。


()()()どうだろうなあ。舜啓(シュンケイ)、もう無理(ムリ)だって」


動けないでいる舜啓(シュンケイ)をちらりと見た忋抖(カイト)舜啓(シュンケイ)(ニラ)まれてしまっている。


「…ほんっと、(ズル)いよ、忋抖(カイト)


「はいはい、すいませんね。(オレ)と同じくらい(カワ)いてから言ってくれるかな」


むすりと不貞腐(フテクサ)れた舜啓(シュンケイ)と、(カタ)(スク)めた忋抖(カイト)(シン)苦笑(クショウ)してしまうが、とりあえず舜啓(シュンケイ)は出した方が良さそうだ。妲己(ダッキ)はお目付役(メツケヤク)()てくれたのなら話を聞きたいし、(ホウ)り投げてそのままという訳にもいかない。(シバラ)くは動けないようにしていてもらわないと、いくら舜啓(シュンケイ)といえどもすぐ(モド)ってきてしまうだろう。ぽんぽんと舜啓(シュンケイ)の頭を()でると背中(セナカ)(ハタ)かれた。


(オレ)(ユズ)ったのに。やっぱり(ユズ)んなきゃ良かったよ」


「わーかってるって、とりあえず落ち着こうな。哀玥(アイゲツ)(タノ)める?」


()んだ哀玥(アイゲツ)はするりと姿を(アラワ)すなり、小さく(ワラ)っている。忋抖(カイト)()()ってから舜啓(シュンケイ)に声を掛けて(シブ)る姿に苦笑(クショウ)しながら(ナカ)ば引き()りつつ連れ出してくれた。


妲己(ダッキ)()てくれたんだから、()()()は無いと思いたい。…思いたいけど…」


(シン)(トナリ)でまた玳絃(タイゲン)の耳を引っ()り始めた忋抖(カイト)は、自分に言い聞かせるように(ツブヤ)いている。そう言いたいのは(シン)も同じなのだが悧羅(リラ)はどうにも自分を低く見る(トコロ)がある。どんなに(シン)忋抖(カイト)悧羅(リラ)別格(ベッカク)だと伝えても、自分よりも良い女は沢山(タクサン)()ると言って(ワラ)って()ませてしまう。

近しい者たちへの(セッ)し方も気をつけないと()とす、と言うのに分かってくれない。特に子どもたちへの()で方は、里でもそんな親は居ないだろうと思わせるくらいだ。(シン)も子どもたちは可愛(カワイ)いし(マワ)りに言わせれば、()()して(アマ)やかしているらしいが、悧羅(リラ)は時に(タガ)(ハズ)れる。


「本当は(アマ)えたかった」


そう子どもたちに言わしめさせてしまった後から、特に顕著(ケンチョ)に見られていると思う。(ミヤ)の中でも悧羅(リラ)(ヒザ)に乗せることや手を(ツナ)いで過ごすことが当たり前になったが、里に()りても()()は変わることがない。(ホオ)(ヒタイ)口付(クチヅ)けられようが(ウレ)しそうに受け入れてしまうし、(タマ)たちからも「長様(オササマ)であられるなら(イタ)しかたない」と言わしめてしまっている。

(シン)(ムスメ)たちと()ても、せいぜい抱き上げるくらいか(ウデ)(カラ)めて歩くくらいのものだ。

(セガレ)(ムスメ)(チガ)いもあるのだろうと思ってはいるが、正直(ショウジキ)に言えば忋抖(カイト)が言っていたように、(セガレ)たちがいつか(セキ)()えたいと言い出すかもしれないとは考えている。


目を(ハナ)すと湯浴(ユア)みを(トモ)にと(ネガ)われて受け入れていた時は、寸前(スンゼン)で気付いた(シン)忋抖(カイト)必死(ヒッシ)に止めたから無かったものにできたようなものだ。そんな(セガレ)たちが1度でいいからなどと言い出したらどうなることか。特に今の玳絃(タイゲン)には悧羅(リラ)(カサ)ねているところがあるだろうから、(シン)忋抖(カイト)がどんなに止めてもやりかね無い。


(オノレ)()ひとつで何もかもを()えてきた悧羅(リラ)だからこそ、だろう。

ようやく手にした(サイワイ)たちが泣くことを1番(イヤ)がるくせに、自分が(イタ)むことは(マッタ)(オソ)れない。


だからこそ(アヤ)うい。


「こんなの目の前にして自分を(リッ)せるのなんて、お前くらいのもんだろ」


頬杖(ホオヅエ)を付きながら(シン)が言うと、忋抖(カイト)から、はあ?と(ニラ)まれた。


(リッ)せてるわけないでしょ。父様(トウサマ)みたいに(オレ)は出来ないだけ。遠慮(エンリョ)とかじゃないよ、ただ見せたくないだけだから。ほら、玳絃(タイゲン)朝餉(アサゲ)だから起きろ」


玳絃(タイゲン)の耳を()()りながら忋抖(カイト)が起こそうとするが、(ワズラ)わしそうに動いた玳絃(タイゲン)はますます悧羅(リラ)に抱きついている。はだけすぎた素肌(スハダ)の中に()()っていかれて忋抖(カイト)の顔が(ワズ)かに(ケワ)しくなった。(シン)とて思うところがあるが、今の玳絃(タイゲン)(イキドオ)っても仕方(シカタ)がないし、この状況(ジョウキョウ)を作り出したのは多分、悧羅(リラ)の方だ。


「ねえ、妲己(ダッキ)(オレ)(ツト)めに行けないかな?」


手を()ばして悧羅(リラ)(カミ)一房(ヒトフサ)取りながら言う(シン)に、妲己(ダッキ)は大きな欠伸(アクビ)(コタ)えている。


“ヌシは(アルジ)(トモ)()りたいだけだろうが。(アン)じずとも(ジョウ)までは()わしておられぬ”


やれやれ、と体躯(タイク)を起こした妲己(ダッキ)に、は?、と忋抖(カイト)(マユ)を上げているが、(シン)は大きく息を()いてしまう。(ジョウ)()()()、ということをどこまでと(トラ)えればいいのか。


妲己(ダッキ)、…それは(オレ)たちはどういう意味に取ったらいいの?」


(コエ)(フル)わせる忋抖(カイト)妲己(ダッキ)は大きな()でふわりと()でた。


(ゾン)じませぬ。(ワレ)は見てはおりませぬでな。(マド)わしてはおられましたが。ふむ、()()を思わば(シン)(ツト)めに行けるかは難儀(ナンギ)やもしれませぬ”


()()じゃあ、()()()はあるだろうね」


面白(オモシロ)そうに目を(ホソ)めて言い(フク)んだ妲己(ダッキ)に、(シン)も部屋の中を見廻(ミマワ)す。


「どういうこと?」


(イブカ)しげに(マユ)()せている忋抖(カイト)には、部屋の中に(タダヨ)残滓(ザンシ)(シメ)したがますます(イブカ)しげな目をしている。


「起こしたら分かると思うけど、ちゃんとお前には()せてるからな」


やれやれと嘆息(タンソク)しながら(シン)が、そろりと布団(フトン)()いでみたが嘆息(タンソク)するしかない。忋抖(カイト)もがっくりと項垂(ウナダ)れて頭を(カカ)えてしまった。


布団(フトン)の中では、(ムネ)から(アシ)まではだけた寝間着(ネマギ)の中に玳絃(タイゲン)の手があって、悧羅(リラ)の背中に(マワ)されていた。(キズ)(サワ)っていたのだろう手は悧羅(リラ)(カサ)ねられて2人の間に落ちてはいるが、足元(アシモト)まではだけた寝間着(ネマギ)(ミダ)れ切って、玳絃(タイゲン)(アシ)(カラ)みつけられている。その中に情事(ジョウジ)の後のようなモノも見つけてしまっては、どんなに欲目(ヨクメ)で見たとしても、()()()()()()などとは到底(トウテイ)言えはしないだろう。


ともすれば今この(トキ)()()かれていてもおかしくはない状況(ジョウキョウ)だ。同時に言葉を(ウシナ)った(シン)忋抖(カイト)を見やって、くっくっと妲己(ダッキ)(ワラ)いだした。


何も言えずに忋抖(カイト)玳絃(タイゲン)(ハラ)の手を(ツカ)んで(ハナ)すと、(シン)ももう一度布団(フトン)(カク)すしかない。


(ワレ)(アルジ)にとれば些末(サマツ)なこと。小さきことよりも玳絃若君(タイゲンワカギミ)(アン)じられたが(ユエ)。かようなところは灶絃若君(ソウゲンワカギミ)が、よう()ておられる”


「…あそこまで、ぶっ飛んでないと思いたい」


「…父様(トウサマ)()されてる分、灶絃(ソウゲン)はぶっ飛んでるんだろ。…ねえ、父様(トウサマ)(ツト)め出れる?」


「あー、…無理(ムリ)かな。()()()()()()


頭を(カカ)えながら話す2人を余所(ヨソ)妲己(ダッキ)悧羅(リラ)の横に(ハべ)(ナオ)している。


「だよね。…(オレ)()()無理(ムリ)だよ。本気で(シカ)りたい」


むすりとした忋抖(カイト)の気持ちは良く分かる。悧羅(リラ)(シン)忋抖(カイト)が自分以外の者に()れられるのを極端(キョクタン)(イヤ)がって悋気(りんき)を起こす。そう見えないように見せてはいるし何事(ナニゴト)にも寛容(カンヨウ)で動じることも少ないが、()()()()(ユル)せないらしい。元々(モトモト)(シン)にだけ向けられていたものだったが、忋抖(カイト)(カタワラ)に置くと決めてからは少しずつではあるが忋抖(カイト)にも向けられていた。気付いていないのは忋抖自身(カイトジシン)ぐらいのもので、隊舎(タイシャ)で見たことが腹立(ハラダ)たしかった、と言われても流している。


けれど、悧羅(リラ)悋気(リンキ)など(シン)忋抖(カイト)(イダ)嫉妬(シット)渇望(カツボウ)独占欲(ドクセンヨク)(クラ)べれば可愛(カワ)いらしいものだ。


()()()(サカイ)に、寝所(シンジョ)()悧羅(リラ)(アマ)さが()したことを知るの者など(シン)忋抖(カイト)だけでいい。

それがまた2人の悧羅(リラ)への独占欲(ドクセンヨク)()えを強めて、(オボ)れるしかないのだとしても、それが心地好(ココチヨ)くて(サイワイ)なのだ。


「え?じゃあ一緒(イッショ)()()?」


()()絶対(ゼッタイ)(イヤ)。…(ユズ)るけど、その後ながーく出てこないと思ってて」


「…(オレ)()えらんなくて乗り込むかも…」


はあ、と幾度目(イクドメ)かの嘆息(タンソク)()(シン)忋抖(カイト)に、無駄(ムダ)なこと、と妲己(ダッキ)が声を上げて(ワラ)い始めた。


(アルジ)玳絃若君(タイゲンワカギミ)とゆるりとされると(モウ)しておられた。()()はどうにかせねばならぬだろうが、(シン)忋抖若君(カイトワカギミ)(コモ)るは何時(イツ)になるやら”


「…(ウソ)でしょ?」


声を上げて(ワラ)妲己(ダッキ)(シン)忋抖(カイト)(カタ)を落とすと、(ウルサ)かったのか玳絃(タイゲン)(ウッス)らと目を開け始めている。


「…んー、…おはよ、母様(カアサマ)…」


寝惚(ネボ)けて悧羅(リラ)()()りながら背中を(マサグ)玳絃(タイゲン)の耳を、(ツカ)んでいた忋抖(カイト)が思いっきり()()ると頭だけは()がすことができた。


「いったいっ!なに?!」


「何、じゃない!」


(シン)忋抖(カイト)見留(ミトド)めた玳絃(タイゲン)が目を丸くしているが、身体(カラダ)は引き()がせない。玳絃(タイゲン)(ウデ)(マワ)されてしまっているから、無理(ムリ)()がせば悧羅(リラ)身体(カラダ)から(サラ)寝間着(ネマギ)がはだけてしまう。流石(サスガ)にこれ以上見せられては忋抖(カイト)自制(ジセイ)()かなくなる。


「あれ、父様(トウサマ)兄様(アニサマ)…なんで?(オレ)母様(カアサマ)とゆっくりするんだけど」


「ああ、馬鹿(バカ)っ!」


忋抖(カイト)の手から(ノガ)れて玳絃(タイゲン)が、また悧羅(リラ)()()っていく。顔に()れるさらりとした素肌(スハダ)()()る姿は母に(アマ)えているようにも見えるが、何かが(チガ)ってしまっている。大きく(カタ)を落とした(シン)忋抖(カイト)他所(ヨソ)玳絃(タイゲン)はまた目を閉じ始めていた。


「これは駄目(ダメ)かもなあ」


「やめてよ!」


顔を(オオ)ってしまった(シン)に、ぎょっとした忋抖(カイト)が立ち上がると、まだ(ネム)っている悧羅(リラ)玳絃(タイゲン)から(ウバ)って(カイナ)(オサ)めた。


「ああ、もう!兄様(アニサマ)、なにすんだよ」


(ウルサ)い、お前は其処(ソコ)から動くなよ?()るな、(サワ)んな、()んな!」


「いたいって」


(ハナ)れてしまった悧羅(リラ)に手を()ばす玳絃(タイゲン)を、忋抖(カイト)布団(フトン)の上から足蹴(アシゲ)にして止めた。


妲己(ダッキ)玳絃(タイゲン)(オサ)えてて!」


(カイナ)(オサ)めた悧羅(リラ)(ウバ)われまいとするのが、少しばかり泣き出しそうに見えるのは(シン)だけかもしれない。(ハタ)から見れば自分の女を()られないように牽制(ケンセイ)する男にしか見えないが、忋抖(カイト)悧羅(リラ)に向ける()えは()()()()()()()()()


だからこそ(シン)にとっても特別(トクベツ)なのだ。


やれやれ、と妲己(ダッキ)玳絃(タイゲン)の上に少しだけ体躯(タイク)を大きくして乗ると、重い、と(ウメ)く声がした。()ばしていた手も()(オサ)えられたのを見やった忋抖(カイト)が、ほっと安堵(アンド)しているのが(ウカガ)い知れて(シン)苦笑(クショウ)してしまう。


忋抖(カイト)に初めて悧羅(リラ)(アズ)けた時の(シン)其処(ソコ)に見えるようだ。(アズ)けると決めた後も(シバラ)くは、()()()()()()()()()(オノレ)()いてひたすらに悧羅(リラ)(オボ)れたことを思い出す。


「なに(ワラ)ってんだよ、(ワラ)いごとで()まなかったらどうするの?」


じろりと()め付けられて(シン)(カタ)(スク)める(サキ)で、ようやく悧羅(リラ)も目を()ましかけている。(シン)(カイナ)の中以外で悧羅(リラ)が深く(ネム)ることは無いのだが、()たしてやれない(トキ)能力(チカラ)行使(ツカ)ったり、無理をし過ぎると()()なるのだ。


起きていることで引き起こされる余波(ヨハ)本能(ホンノウ)で知っているように、閉じてしまう。


妲己(ダッキ)(マド)わしを行使(ツカ)ったと言っていたが、子どもたちの中で特に血に(コダワ)(トラ)われている玳絃(タイゲン)()とすには、()()()()行使(ツカ)わなければならなかったはずだ。部屋に残る残滓(ザンシ)だけでも()()が分かるし、出来れば早く()たしてやりたいが、行使(ツカ)ったのが(マド)わしなら問題はもうひとつある。


忋抖(カイト)にも()()()()()のに、今は思い出すどころではないらしい。


(コラ)えてくれるかなあ。


うーん、と頭を(ヒネ)(シン)を、父様(トウサマ)!、と(イサ)める忋抖(カイト)の声に()じって寝惚(ネボ)けたような悧羅(リラ)の声がした。


「…忋抖(カイト)?」


「あ、起きた?何してるんだよ、悧羅(リラ)父様(トウサマ)(オレ)(コロ)す気なの?」


あ、と(シン)が止めようとしたが()に合わなかった。

(アキ)れたように(タシナ)めようとした忋抖(カイト)の首にするりと(ウデ)(カラ)ませた悧羅(リラ)は、そのまま深く口付(クチヅ)けて押し(タオ)してしまっている。


「だよねえ、()()()()()()()


「なにが?ねえ、何が?…って、待った!ちょっと待った、悧羅(リラ)!」


(アワ)てて押し(モド)そうとする忋抖(カイト)の止める声も聞かずに悧羅(リラ)(サラ)に深く口付(クチヅ)けて、忋抖(カイト)(コロモ)(ヒモ)()き始めた。


「うわあ、いいなあ」


馬鹿(バカ)!それどころじゃない!ちょっと悧羅(リラ)、待ってって!待ってってば!」


(ウラヤ)ましそうな玳絃(タイゲン)の手がまた()びようとするのを、妲己(ダッキ)(オサ)える間も悧羅(リラ)は止まらない。(コロモ)()がされつつある忋抖(カイト)も起こっていることが(ニワ)かには信じられないようで、どうにか悧羅(リラ)を止めようとするが()()()()()悧羅(リラ)静止(セイシ)の声など(トド)かない。


「ほんとに待って!やばいから、ほんとにやばいから!」


兄様(アニサマ)()わってあげようか?」


「お前はほんとに(ダマ)ってろ!ってか見るな!」


日頃(ヒゴロ)(オダ)やかに(カマ)えている忋抖(カイト)が取り(ミダ)しているのを見るのは、なかなかに面白(オモシロ)い。何しろ(シン)の前ですら悧羅(リラ)()でる姿を見せないのだから、このまま(ホウ)っておいて見ておくのも一興(イッキョウ)かもしれない。


父様(トウサマ)!何これ、どうなってんの!?どうしたらいいんだよ!?」


「んー、(コタ)えてあげればいいよ?」


ふわり、とまた()れるように(カオ)ってきた(マド)わしの(ニオ)いに(シン)(ワラ)えてしまうが、忋抖(カイト)寝間着(ネマギ)()ごうとする悧羅(リラ)を止めるのに必死(ヒッシ)になって気付けていないようだ。


(イヤ)だ!(チガ)う、(イヤ)じゃないんだけどっ!(ウレ)しすぎるんだけど!ここじゃないって!」


(アラガ)忋抖(カイト)(カマ)うことなく口付(クチヅ)けて(モト)める悧羅(リラ)の眼は、まだ微睡(マドロ)んでいるようにとろりとして(ウル)んでいるのが(シン)(トコロ)からでも見えた。

手を()してやりたいが、ある意味忋抖(カイト)の言う通り、()()()()()()では(ムズカ)しい。


忋抖(カイト)にも悧羅(リラ)にも、もう少し(コラ)えてもらうしかないだろう。


忋抖(カイト)、もうちょっと頑張(ガンバ)ってろ」


「はあ!?無理無理無理(ムリムリムリ)()ちるって!」


悧羅(リラ)をとりあえず忋抖(カイト)(マカ)せて、(シン)玳絃(タイゲン)を見た。また()れ出てきている(マド)わしの(カオリ)に当てられてはいるが、まだ()ちてはいないようだ。これだけの残滓(ザンシ)の中なら舜啓(シュンケイ)のようにすぐに()とされてしまっていても可笑(オカ)しくないのに、なかなかに胆力(タンリキ)がある。

だからこそ、これだけ残ったということだろう。


「よく(コラ)えたね、玳絃(タイゲン)


妲己(ダッキ)(オサ)えられて身動きの取れない(セガレ)の頭を()でると、本当だよ、と(カタ)を落としている。


「もっと()めてくれてもいいけど、全部()えれたってわけじゃないんだよね」


()()()()だよ。()()()()()()くらいだからキツかっただろ。少しは()っ切れた?」


苦笑(クショウ)しながら(タズ)ねると、玳絃(タイゲン)(シン)を見て笑う。


(タシ)かめられはしたよ。()()でしかないって。(オレ)()やんでたことを言って、()()が出来ても何にも変わらないし、変われない。(オレ)姚妃(ヨウヒ)()以上には見れないもん」


「そうか」


くしゃりと(カミ)をかきまぜてやると、玳絃(タイゲン)がはにかんで自分の(カミ)一房(ヒトフサ)取って(シン)(シメ)す。玳絃(タイゲン)(カミ)は大まか悧羅(リラ)の色だが、(スソ)の半分は(シン)の色だ。


(オレ)()(サイワイ)にならなきゃいけないんだって。父様(トウサマ)母様(カアサマ)(ツナ)いだんだから、大事にしろってさ」


「それはそうだ。玳絃(タイゲン)たちが(サイワイ)になってくれなきゃ、(オレ)悧羅(リラ)は何のために()るのか分かんないだろ。お前はお前で(サイワイ)になってくれなきゃ」


(タダヨ)ってくる(アマ)(カオ)りは強さを()して身体(カラダ)(マト)わりつくが、玳絃(タイゲン)はにこにこと(ワラ)いながら妲己(ダッキ)()りるように(タノ)んでいる。


「血には(トラ)われ過ぎることは無くなるけど、兄妹(ケイマイ)(エニシ)大事(ダイジ)にしたいんだよね。だってそれが(オレ)だから」


(シン)の前に(スワ)り直して、大きく()びをした玳絃(タイゲン)の顔は()れやかだ。その表情(カオ)(シン)安堵(アンド)してもう一度(セガレ)の頭を()でてしまう。800年前の自分などよりしっかりしている。()()()()()があっても、ちゃんと前を向いて歩き出してくれる(セガレ)(ホコリ)に思えた。こんな子どもたちをくれた悧羅(リラ)には、どんなに(レイ)を伝えても伝え切れはしない。


「何かあればすぐ言えよ?」


頑張(ガンバ)り過ぎるなっても言われたから、ほどほどで行くよ。でも(コラ)えた褒美(ホウビ)()しいなあ。ねえ、妲己(ダッキ)


妲己(ダッキ)の大きな()でぱさりぱさりと()でられながら見てくる玳絃(タイゲン)に、(シン)はきょとりと小首(コクビ)(カシ)げた。


(オレ)がやれるもんなら良いけど。なんか()しがるようなものあったっけ?」


玳絃(タイゲン)()しがるようなものを持っている(オボ)えがない。どちらかといえば(シン)物欲(ブツヨク)が無い方だし、子どもたちが()しがるものが突拍子(トッピョウシ)も無いものでなければ差し出してきた。


今更(イマサラ)何か()しがる(ヨワイ)でもないのだが。


そう思った(シン)が、まさか、と(ツブヤ)いてしまったが、玳絃(タイゲン)は指を2本立てていた。


「1個は父様(トウサマ)()みにいく。800年前の話を(サカナ)でね」


「それはすぐでもいいけど、お前の言い出す2つ目が(コワ)い」


にこにこと(ワラ)っている玳絃(タイゲン)に頭を(カカ)えてしまうと、立てられていた指が(イマ)だどうにか(コラ)えている忋抖(カイト)の方を(シメ)した。


「1回()してね?」


「…それは(オレ)一存(イチゾン)じゃ無理(ムリ)。って言うか駄目(ダメ)忋抖(カイト)以外は駄目(ダメ)なんだって!」


父様(トウサマ)、子どもに優劣(ユウレツ)ないんだよね?こーんなに頑張(ガンバ)って(コラ)えた(オレ)にご褒美(ホウビ)あげたいよね?」


首を()(ツヅ)ける(シン)玳絃(タイゲン)悪戯(イタズラ)()みを残して立ち上がる。おい!、と止める(シン)(ワラ)ってもう一度大きく()びた玳絃(タイゲン)は、(スデ)にほとんど上衣(ウワゴロモ)()かれている忋抖(カイト)近付(チカヅ)いた。


兄様(アニサマ)も聞こえてたよね?そういうわけだから1回()りるからね」


「良いはずあるか!(ダレ)()すか、馬鹿(バカ)父様(トウサマ)、頭(カカ)えてないで…って、悧羅(リラ)、ほんとに待って!」


悧羅(リラ)(オソ)われながら、それでも必死(ヒッシ)忋抖(カイト)(ウッタ)えるが、妲己(ダッキ)(トモナ)って戸の方に向かって歩き始めてしまう。


「ああ、部屋は使って良いけど夕刻(ユウコク)までには母様(カアサマ)返してね。(オレ)しばらく母様(カアサマ)にゆっくりしようって(サソ)われてるから。それまではどっちかの部屋で()てるからね」


「いやいや、ちょーっと待て玳絃(タイゲン)(オレ)忋抖(カイト)も良いなんて言ってないからな!?」


引き止めるように(シン)が言うが玳絃(タイゲン)は手を()りながら部屋を出て、あ!、とまた(ノゾ)き込んだ。


大事(ダイジ)なこと言い(ワス)れてた。父様(トウサマ)兄様(アニサマ)


悪戯(イタズラ)表情(カオ)(イヤ)予感(ヨカン)がする。何かとんでもないことをしでかした時の灶絃(ソウゲン)のような表情(カオ)身構(ミガマ)えた2人に玳絃(タイゲン)は、にやりと(ワラ)う。


母様(カアサマ)()()別格(ベッカク)って分かったよ。(アマ)いもんね」


「…はあ?」


「おいこら!玳絃(タイゲン)、待てって!」


(カタ)まった忋抖(カイト)(トド)めようとする(シン)に、あははと(ワラ)いながら玳絃(タイゲン)()を閉めて、妲己(ダッキ)と共に出ていってしまった。


とんでもない爆弾(ハゼダマ)を落として行った玳絃(タイゲン)(アキ)れてしまう。流石(サスガ)灶絃(ソウゲン)片割(カタワ)れなだけはある。灶絃(ソウゲン)(ニギ)やかすぎるので玳絃(タイゲン)の分まで(ハラ)の中で持って行ったのかと思っていたが、どうやら(チガ)ったらしい。()えて()()()()()()()()()()()まで、悧羅(リラ)が取り(ハラ)ってしまったのだろう。


「あーあ、どうしようかなあ」


頭を()きながら忋抖(カイト)の方に()ると、出された言葉があまりに衝撃(ショウゲキ)だったのか(カタ)まったままだ。その上でとろりとした悧羅(リラ)は、(アラガ)われなくなって満足(マンゾク)したのか(マタガ)ったまま受け入れようとしていた。


「うん、忋抖(カイト)()()()()()?」


よいしょと(トナリ)(スワ)ると気を取り(モド)したようで、駄目(ダメ)!、と悧羅(リラ)を引き上げている。


「とにかく玳絃(タイゲン)は後。とりあえず()()()。ほら、おいで悧羅(リラ)


苦笑(クショウ)しながら広げた(カイナ)に、とろりとしたままの悧羅(リラ)が飛び込んでくると、そのまま深く口付(クチヅ)けられた。したいようにさせておくと、(コラ)え切れないように、ずるずると(カイナ)の中に(オサ)まってくる。


忋抖(カイト)意地悪(イジワル)だねえ?()()()()()()()()(コタ)えてやらないなんて」


(オサ)まった身体(カラダ)をぽんぽんと()でてやると、(カイナ)の中で小さく(フル)えている。あー、と起き上がりながら(アタマ)(カカ)えた忋抖(カイト)(コロモ)(トトノ)える余裕(ヨユウ)もないのか(イキ)()いて悧羅(リラ)(シメ)した。


(オレ)には、何がなんだか分かんないんだってば。何なの、どうなってんの?」


()()()前に()せてたじゃないか。()うんだよ」


(ホオ)()でてやるとびくりと(フル)えるほどにまで(タギ)ってしまっている悧羅(リラ)に、忋抖(カイト)が別の意味で(カタ)まってしまった。


()う?…って、ええ?()()()()?」


「ここまではなかなか無いね。()()()()無理(ムリ)我慢(ガマン)をしたってことだよ」


(ホオ)に当てた(テノヒラ)悧羅(リラ)(シタ)()う。


「分かったから、もうちょっとだけ我慢(ガマン)してね」


(ナダ)めるように言い聞かせても多分(タブン)()悧羅(リラ)には(オボロ)にしか(トド)かない。聞こえているし(オボ)えてもいるが、(ヨク)の方が(マサ)る。

日頃(ヒゴロ)から過分(カブン)過ぎるほどに悧羅(リラ)は自分を(リッ)して立っている。考え方も態度(タイド)も自分の(ヨク)さえも(フウ)じ込めて立ち続けた500年の()り方はそうそう変えられるものでもなく、本来なら(カブ)らずとも良いことまで()()ってしまう。大蛇(ウワバミ)(ギョク)も自分には一切(イッサイ)残さず(タミ)たちに配り、大国(タイコク)犬神騒動(イヌガミソウドウ)粛清(シュクセイ)の時だってそうだった。能力(チカラ)行使(ツカ)った後の()(モド)しまでも全部ひとりで引き受けてしまう。


(オニ)といえども万能(バンノウ)ではない。

(アヤカシ)の中では最上級(サイジョウキュウ)能力(チカラ)を持っていても、強い能力(チカラ)があれば反動(ハンドウ)も大きいのは当たり前だ。


(マド)わしなど(サイ)たるものだろう。一介(イッカイ)(オニ)であれば、ヒトの子を(マド)わす為に度々(タビタビ)行使(ツカ)う。微酔(ホロヨ)いと(ワズ)かに(タギ)る時のような()(モド)しを()み重ねて、少しずつ身体(カラダ)()れさせる。初めの(コロ)(シン)加減(カゲン)がわからず()っていた。本能(ホンノウ)として(ジョウ)()わすのも、(マド)わしの()(モド)しから熱を()がし自我(ジガ)(マモ)るためだろう。


(シン)精気(セイキ)(ユズ)るようになってから悧羅(リラ)意識的(イシキテキ)(マド)わしを行使(ツカ)い始めた。

(シン)からしか精気(セイキ)()らないのだからヒトの子を(マド)わすこともないのだし、500年行使(ツカ)わなかった分、()(モド)しにも()れていない。(クワ)えて悧羅(リラ)(マド)わしなのだから、()()負荷(フカ)が大きすぎて、()()()()


(タト)えれば酩酊(メイテイ)したところに(ケモノ)のような(ジョウ)に対する()えが合わさったようなものだ。


何もせずに()らしていても悧羅(リラ)他者(タシャ)()としてしまう。(オサ)であるが(ユエ)()せる容姿(ヨウシ)がそうさせるのだが、先代(センダイ)のように()()を大いに()せることを悧羅(リラ)(ヨシ)としない。自分が()ることで、他者(タシャ)()りかかる影響(エイキョウ)(ワズ)かでも少なくなるように、行使(ツカ)っても急速(キュウソク)に取り込む。


蘆屋道満(アシヤドウマン)の時に(ミナ)()とされたのは、一瞬(イッシュン)だけ満開(マンカイ)に開かれたことによる衝撃(ショウゲキ)残滓(ザンシ)によってだった。


本来なら他者(タシャ)が受けるべき余波(ヨハ)を、悧羅(リラ)が引き受けていることを(シン)以外に知るのは重鎮達(ジュウチンタチ)だけだ。


()らすためにはゆっくり(ジカン)と日をかけて(シン)に分けてもらって、(シン)(ヨク)として()き出すしかない。

荊軻(ケイカツ)有事(ユウジ)の時に()かさないのも、()()()()()だからだ。

結果としては(コモ)れて心ゆくまで悧羅(リラ)()でられるのだから、(シン)にとっては(ヨロコ)ばしい(カギ)りでもあるが、(ネツ)(コモ)り過ぎてしまうと悧羅(リラ)(コワ)れてしまう。


「よっぽど強く行使(ツカ)ってくれたんだよ。でも玳絃(タイゲン)()かなかったんだろうね。抱かれたらもう少し(ラク)だったろうに。(オレ)もお前も()ないんじゃ、()()ってやれる(ヤツ)()ないし」


(テノヒラ)から指に()い付く悧羅(リラ)の息が熱い。とにかく一度()てさせてやらないと、これ以上(コラ)えさせてしまっては(ドク)になる。


「お前が見えたから安心したんだろ。なのに(コタ)えてやらないから、()()()()()()んだよ。とりあえず熱を(ニガ)してやらないと、ずっと苦しいまんまだ」


「目のある(トコロ)でする嗜好(シコウ)はないんだよ。(ダレ)()なかったら喜んで(コタ)えてたけど、そっかあ。父様(トウサマ)、とりあえず(オレ)出て行くから悧羅(リラ)のことお(ネガ)いね」


(シン)(ウデ)の中の悧羅(リラ)(ホオ)()でた忋抖(カイト)を、とろりとした(アマ)い目が(トラ)えると(モト)めるように手を()ばしている。


「うわあ、これはやばい。悧羅(リラ)、また後で。早く(ラク)にしてもらわないとね」


「お前ほんと(スゴ)いな。なんで()()()ちないんだよ」


苦笑(クショウ)しながら悧羅(リラ)寝間着(ネマギ)(ヒモ)(ホド)いて()がせ始めている(シン)他所(ヨソ)に、忋抖(カイト)(カタ)(スク)める。


()ちてるよ。でも(オレ)だけのだから()()()()()()の。二刻(フタコク)したら()わってよ」


(ジカン)が分かれば良いけど、無理(ムリ)だな」


くすくすと(ワラ)(シン)に、はいはい、と立ち上がる忋抖(カイト)(コロモ)が、くんっと引かれた。ん?、と(シン)忋抖(カイト)が目を見合わせると悧羅(リラ)の手が(コロモ)(ツカ)んでいる。


「あれ、悧羅(リラ)忋抖(カイト)の方が良いの?」


(コマ)ったように(ワラ)(シン)が手を(ハナ)そうとすると、(アワ)てたように(オオ)(カブ)さってきて、(ムサボ)るように口付(クチヅ)けられてしまう。


「そうじゃないみたいだねえ。ご所望(ショモウ)みたいだけど、忋抖(カイト)?」


無理(ムリ)っ!ぜーったいに(イヤ)っ!!二刻(フタコク)()わる!」


千切(チギ)れんばかりに首を横に()って(イナヤ)(シメ)忋抖(カイト)も、()(ハラ)えば良いのにどうしても悧羅(リラ)には出来ないらしい。


「後でちゃんと来るからね。一緒(イッショ)は本当に勘弁(カンベン)して」


(コロモ)(ツカ)んだ手を(ハナ)そうと忋抖(カイト)悧羅(リラ)の手を取ると、ぎゅうっと(ニギ)られてしまっている。


「あーあ、可哀想(カワイソウ)。こんなに(コラ)えてるのにねえ」


父様(トウサマ)(アオ)らない」


じろりと(ニラ)まれたようだが(シン)身体(カラダ)には悧羅(リラ)(オオ)(カブ)るようにして乗っているから、(マワ)りは見えない。見えるのは悧羅(リラ)の白い(ハダ)と、熱く(ウル)んで(シン)を見る(マナコ)だけだ。


「だって可哀想(カワイソウ)じゃないか。声も出せないくらい(コラ)えてんだぞ?頭の中なんてぐちゃぐちゃなはずなのに、悧羅(リラ)だから()()(タモ)ってんだよ」


「そんなこと言われても(イヤ)なものは(イヤ)。なんで父様(トウサマ)()とした悧羅(リラ)を見せられなきゃなんないの?」


声音(コワネ)苛々(イライラ)とし始めている忋抖(カイト)の気持ちが、分からないわけではない。(シン)も、今すぐに悧羅(リラ)の中に入って(ヨク)のままに()き上げたいが、忋抖(カイト)()てはそうはできない。忋抖(カイト)に言われずとも(シン)にも()()()嗜好(シコウ)はないし、()とした悧羅(リラ)など(ダレ)にも見せたくなどない。悧羅(リラ)もいつもであれば、()()を求めることもしないはずだ。けれど、悧羅(リラ)忋抖(カイト)(ハナ)さない、ということは、きっと悧羅(リラ)には聞こえていたのだろう。


夕刻(ユウコク)までに(モド)して、と残して行った玳絃(タイゲン)の言葉と、ゆっくりしようと伝えた約束(ヤクソク)が。


(ジカン)をかけて良いのであれば(シン)だけで充分(ジュウブン)()りる。忋抖(カイト)の言う通り交代(コウタイ)でも良いだろうが、()()()()()()()()()


「うーん、そういうんじゃなくてだなあ。(オレ)だって今すっごい我慢(ガマン)してるんだけど。…うん、まあ、いいか。悧羅(リラ)、もう我慢(ガマン)しなくていいよ。(オレ)忋抖(カイト)しか()ない」


するっと悧羅(リラ)(ホオ)()で上げると、ゆっくりと顔が上げられて(ウル)んだ()が見えた。(コラ)え過ぎて声も出せないでいる(クチビル)を指で開かせると、(コラ)え切れないような吐息(トイキ)()れてくる。


「何言ってんの?(オレ)は出てくからね」


(アキ)れたような忋抖(カイト)が立ちあがると、部屋に(ムラサキ)結界(ケッカイ)が現れた。(ヤイバ)がぶつかり合うような音を(ヒビ)かせて、結界(ケッカイ)幾重(イクエ)にも()られていく。


「…なんだよ、これ…っ」


(イキ)()んだ忋抖(カイト)見廻(ミマワ)す中で、切れ切れな悧羅(リラ)の息が聞こえた。(アワ)てて(ノゾ)()むと、(シン)(テノヒラ)(ツツ)まれた顔が見える。(アカ)く染まった(ホオ)と今にも(コボ)れそうなほどに(ナミダ)()めた眼と、()き出される熱い息から忋抖(カイト)は目が(ハナ)せなくなる。ぱきぱきと音を立てて(ツク)られていく結界(ケッカイ)の音に、(シン)は小さな(ワラ)いを(コラ)えられない。


どうやら()()()()()()()()()()()()


悧羅(リラ)、いいよ」


「…も…、…いい…?」


(ツツ)んだ手で(シン)(ホオ)(クスグ)ると、(カス)れたような声がした。


「うん、もういい。大丈夫(ダイジョウブ)


「…もう、…こ、ら」


頑張(ガンバ)った頑張(ガンバ)った。(コラ)えるのやめて、(オレ)に分けて」


(シン)(ムネ)()いた手と、(チガ)う手が忋抖(カイト)(ツカ)むが、小さく(フル)えている。


「か、…と、は?」


()るよ、ちゃんと(トド)めれてる。無二(ムニ)の男だから()()()()()()()()()んだよね?しっかり(ツカ)まえてるよ。でも一緒(イッショ)(イヤ)だって言ってるから、()()()()もう少し頑張(ガンバ)ってね」


こつんと(ヒタイ)を合わせた(シン)大粒(オオツブ)(ナミダ)が落ちて、忋抖(カイト)が目を見開いた。


刹那(セツナ)


結界(ケッカイ)の中に()せ返るほどの(マド)わしが満ちる。部屋の中の景色(ケシキ)(ナガ)れる風まで(ハス)の色に変えた()()(オドロ)く間もなく、(シン)忋抖(カイト)(タギ)らされてぐらりと(カタ)向きそうになる。


それでも。


「む、り、もうだめえ、(タス)けて、どうにかしてっ」


泣き声を(ハラ)んだ声と言葉は、忋抖(カイト)が聞いたことも()たことも()()ものだった。


「お願い、早くっ、早く(コワ)して、()てさせて、入ってきて」


「当たり前。全部悧羅(リラ)にあげる。ほら、我慢(ガマン)しなくていいから()()()()(オレ)忋抖(カイト)もまだ自分のまんまだよ?」


(シン)、入ってきて。忋抖(カイト)っ、早く(コワ)してよおっ。おか、しくなりそ…う」


「うん、大丈夫(ダイジョウブ)。すぐだよ」


(ナミダ)(コボ)(マブタ)(シン)口付(クチヅ)けてやると、(アマ)(カオ)りは段違(ダンチガ)いに強くなる。身体(カラダ)にねっとりと(カラ)(マト)わりついた()()(シン)忋抖(カイト)(タガ)を飛ばすと、手を()ばそうとする忋抖カイトとの間に瀑布(バクフ)が落ちた。どうやら一緒(イッショ)(コバ)まれたことも、しっかりと(トド)いていたらしいが、それを考える余裕(ヨユウ)があることにも(シン)眉根(マユネ)を寄せてしまう。


(コラ)えるな、と言っているのにまだ(コラ)えているのか。

もしくは(コラ)え過ぎたがために、悧羅(リラ)自身も何処(ドコ)(カギ)りか分かっていないのかもしれない。


だが、後者(コウシャ)なら(イツク)しんでいる間に()け出すはずだ。


「早く、(シン)、お願いっ、入って」


しがみついて首筋(クビスジ)()い付いてくる悧羅(リラ)を抱きしめてころりと返ると、(フカ)口付(クチヅ)ける。(ムサボ)るように(シタ)(カラ)めてくる悧羅(リラ)可愛(カワ)くて仕方(シカタ)なくて、(マド)わしの力などなくとも(シン)(タギ)れただろう。思うままに(イジ)()くしてやりたいが、まずは悧羅(リラ)(ノゾ)みを(カナ)えてやらなければ(ネツ)()めるどころか、また()まってしまう。悧羅(リラ)の細い身体(カラダ)()げないように、口付(クチヅ)けが(ホド)けないように、強く抱きしめて一気(イッキ)に中に入り()むと同時に悧羅(リラ)()ねた。


入っただけで()てるほどに(コラ)えるなど、どれほど苦しかったのだろう。(シン)(カラ)みつく悧羅(リラ)の中は(ウネ)り、ひくつき、(シボ)りあげようと()め付けてくる。入っただけで幾度(イクド)()てて()め付けられては()き上げることも(ムズカ)しいが、(スデ)子袋(コブクロ)()りてきているし、このままでは(シン)にとっても拷問(ゴウモン)だ。(ツナ)がっているだけで(サイワイ)ではあるが、出来れば動きたいし、()かせたい。何よりこれでは満たされてはくれないし、()(モド)しも引き受けられないだろう。


悧羅(リラ)(カタ)(オサ)えて半身(ハンシン)に起こすと、(クチビル)(ハナ)れてしまう。


「やだ、口付(クチヅ)けてっ」


追いかけてくる悧羅(リラ)(コタ)えてやりたいが、(シン)(オボ)れなければ(ネツ)は逃がせない。口付(クチヅ)けの()わりに首筋(クビスジ)に強く()みついてやると、(アマ)い声が聞こえてくる。


「ごめんね、動きたい、動かせて」


()みついた首筋(クビスジ)()め上げながら(イキオ)いをつけて()き上げ始めると、悧羅(リラ)の熱が(シン)伝染(ウツ)ってくる。甘い声と共に(シン)()めつけて(シボ)り上げる強さも増すが、()て方が小さい。立て続けに()てているのは分かるが(アサ)く弱いし、何より悧羅(リラ)(シン)を取り(コボ)さないようにするための口付(クチヅ)けが強請(ネダ)られていない。


「1回、限界(ゲンカイ)まで(ノボ)ろうな」


()き上げるたびに小さく()てている悧羅(リラ)(オサ)えつけて()げ場を(ウバ)うと、ひたすらに()き上げ続ける。


悧羅(リラ)の弱く()くなる(トコロ)など、もう知っている。


子袋(コブクロ)の入口。

子袋(コブクロ)(サカイ)と少し背中側(セナカガワ)(カベ)

入ってすぐの(アサ)い部分。

後は()じらうが、秘部(ヒブ)外殻(ガイカク)(シタ)()かれて(ナブ)られるのが、(タマ)らないことも。


強い刺激を与えすぎてしまうと悧羅(リラ)(コワ)れ過ぎて起き上がれないようになるから、いつもならば()()()めるときは少し手加減(テカゲン)をするのだが、()()()ばかりはそうも言っていられない。


まずは一旦(イッタン)中で強く()てさせるために、とかく弱い子袋(コブクロ)(オク)(カベ)に当てていく。


「やあっ!そこ、は、だめえっ、()()()が来、るのっ」


「だーめ。今はしっかり(コワ)されてないと()()よ」


ひたすらに当たるように()きあげ続けると、悧羅(リラ)身体(カラダ)()()ってくる。(カタ)(オサ)えつけて上がってしまった(アシ)(ツカ)んで()き上げる。


「んっ、あっんっ、やっあっ!やっ、だあっ」


(イヤ)じゃなくて、お願いするんでしょ?」


()()って強張(コワバ)った(ハラ)近付(チカヅ)く。()い付いて強く()を立てるとまた(アマ)い声と(カオリ)が強くなった。(アエ)ぎと(イキ)を呑む(オト)に混じって、もっと、と(モト)める声がする。


「…っと、もっと、してっ。()、い、()いのっ」


()れた息の中から(ウッタ)えられる(ナマメ)かしい(ネガ)いに、ぞくりとしてしまう。


「どんな風に?」


「っ、つよ、くっ!いっぱいっ、()くし、てっ、やめ、ない、でっ」


()った悧羅(リラ)()()()()()(ミダ)(ヤス)い。

日頃(ヒゴロ)どんなに()として(コワ)しても、()じらう(トコロ)が残ってしまう。寝所(シンジョ)の中で(シン)がどれほど(タズ)ねても、()じらってなかなか自分から()()()()()()()とは言ってくれない。それはそれで(シン)(タギ)らせるのだが、()()()()()悧羅(リラ)はまた(チガ)表情(カオ)()せて()としてくれる。(ヨク)正直(ショウジキ)快楽(カイラク)(オボ)()ちる悧羅(リラ)には、(シン)戸惑(トマド)わせられたこともあるが、それもまた()い。


(シン)だけが知ることを(ユル)されているという優越感(ユウエツカン)が、また悧羅(リラ)への()えを強くするが、()()()()()()()()()()(サイワイ)(タマ)らないのだ。


だからこそ(オシ)えた。

この時だけは正直(ショウジキ)になれるように、少しずつ。

(モト)めたらその分だけ快楽(カイラク)が与えられる、ということを。

願わなければ(アタ)えられず、願えばより(フカ)快楽(カイラク)()としてもらえる、ということを。


(アタ)えられるだけでなく。

(アタ)える(ヨロコ)びも。


「それだけ?」


()めたてながら耳を()むと(ソロ)いの(カザ)りが()れている。しがみつかれる手もますます強張(コワバ)って、(ツカ)まれている(ウデ)(ツメ)が立てられ続けて血が(ニジ)む。


「…っ!こわし、てっ、あっ、そ、こっ()いっ!きちゃうっ!強くし、て、やめないでっ」


(ナマメ)かしい声に、ぞわぞわと(シン)の背中を官能(カンノウ)が走る。

(シン)(タギ)れば(タギ)るほど、悧羅(リラ)の熱も上がって、それに()み込まれる。


(ツレアイ)になって300年を(ユウ)()えても(ナオ)、まだ()とし続けてもらえることが(サイワイ)でしかない。(ツカ)んでいた(アシ)(ハナ)すと身体(カラダ)(カラ)めてくる。()けた手で外殻(ガイカク)()れるともう()けてひくついているのが伝わった。()めながら()()(イジ)り始めると(アエ)ぎも大きくなる。


「あっ、し、んっ、し、しんっ(シン)、しんっ!」


呼ぶ声もいつもより(アマ)い。顔を近付(チカヅ)けてやると(スガ)るように(シタ)が出されたけれど、(サキ)だけを()んで()らしてしまう。


悧羅(リラ)()()()(マド)わしたら忋抖(カイト)(アキラ)めるかもよ?」


「やあ、しんっしんっ!も、っと、もっとさわ、って、いっぱいにしてっ」


(クチビル)()けて(ホオ)(ムネ)(シタ)()わせると、ますます悧羅(リラ)強張(コワバ)っていく。


悧羅(リラ)(ココ)も、(ココ)(ココ)も、(ココ)も、全部が(トロ)けさせてくれる。(オレ)と同じ(トコロ)まで一緒(イッショ)()としちゃおう」


熱くなった(イキ)で吐き出すように(ササヤ)くと、(マド)わしの(カオ)りがまた強くなる。(シン)(シン)のままで()られる限界(ゲンカイ)も近そうだ。


()()(コワ)して(モラ)いたいんでしょ?悧羅(リラ)のお願いなら全部(カナ)えてやるよ」


「し、んっ、しん!もうっ、む、りい」


(ウデ)(ツカ)んでいた手が(シン)の顔を(ツツ)んで引き()せる。口付(クチヅ)けられる寸前(スンゼン)(トド)まると、(ウル)ませた眼でふるふると首を()る姿が何とも(アイ)らしい。


我慢(ガマン)するのをやめてくれるなら()()()()()。たくさん()くなって、たくさん()くしてくれる?」


「す、るっ、いっぱい()()か、らあっ」


ぐっと引き()せられて口付(クチヅ)けてやると、()むように(ムサ)ぼられた。途端(トタン)()ねる悧羅(リラ)から(アフ)れだした(マド)わしで(シン)自制(ジセイ)()ぜたが、()ち切る前に悧羅(リラ)だけを返して背中を(オサ)えつける。


忋抖(カイト)はいいの?2人とも()しいんでしょ?」


耳元(ミミモト)(ササヤ)くと()てて(ヨク)を受け止めている最中(サナカ)であろうと(カマ)わずに、(コシ)を持ち上げて背中から()め続ける。()き上げられながらも悧羅(リラ)瀑布(バクフ)(オク)(ウデ)()ばしているのが見えた。


(オボロ)になる中で聞こえるのは悧羅(リラ)(シン)を求める甘い声。

見えるのは(ナマメ)かしく(ウゴメ)く姿と白い(ハダ)

悧羅(リラ)の姿だけが鮮明(センメイ)で、悧羅(リラ)(オボ)れたくて、とにかく()めて()き上げ続けるしか出来なくなってしまう。


瀑布(バクフ)から引き出された時の忋抖(カイト)の顔を見られないことが残念(ザンネン)だが、それは忋抖(カイト)も同じことだろう。


この(マド)わしの中で悧羅(リラ)以外のことを考えられる者など()ないのだから。


ある意味、(シン)にとっても忋抖(カイト)にとっても良いことだ。


(オボ)れるから、ちゃんと全部頂戴(チョウダイ)ね」


()き上げながら背中(セナカ)(ハス)()み付いた(シン)理性(リセイ)は、そこでごぷりと(ヌマ)(シズ)んだ。




――――――――――


突如(トツジョ)として(トラ)われた瀑布(バクフ)の中で、忋抖(カイト)蹲込(シャガミコ)むしかなかった。悧羅(リラ)()とされたことに(クワ)えて強い(マド)わしに当てられはしたが、まだどうにか(タモ)ててはいる。(トラ)われた、ということは忋抖(カイト)()()から出ることは(ユル)されないのは分かる。出ようとしても悧羅(リラ)(ツク)ったものならば、忋抖(カイト)には(ヤブ)れないのだから(アキラ)めて出してくれるのを待つしかない。


とはいえ。


「あー、()()()()


(トラ)われる前の悧羅(リラ)の姿を思い出して、忋抖(カイト)嘆息(タンソク)しながら頭を(カカ)えてしまった。


(シン)が前もって()せてくれていたものの中に、確かに()()はあった。

(マド)わしだけでなく行使(ツカ)った能力(チカラ)残滓(ザンシ)(タミ)傷付(キズツ)かないように、悧羅(リラ)()(モド)しを全部自分で引き受けてきていた。その覚悟(カクゴ)苦痛(クツウ)()()()()に重いものか、()せて(モラ)っていたのに言われるまで気付(キヅ)けなかった。


(コモ)っている2人の間で、(マド)わしでの()(モド)しを(シン)が受け止めて()らしていたことも、忋抖(カイト)が今の場処(バショ)に立たなければ知らなかったことだ。


知らなかったからこそ、ただ(ナカ)の良すぎる親だと思っていた。

知らなかったからこそ、(コモ)って思うままに(ジョウ)()わせる(シン)が、(ウラヤ)ましくて仕方(シカタ)なかった。


「あー、なっさけない」


忋抖(カイト)見留(ミトド)めた時に、悧羅(リラ)はちゃんと忋抖(カイト)()んでくれたのに。あの時に気付(キヅ)いて()()ってやっていれば、()()()表情(カオ)(サケ)びもさせなくて()んだだろうか。


考えても(コタ)えなど出ないが、ただひとつ確かなことは悧羅(リラ)忋抖(カイト)()がさなかったということだけだ。(ジカン)経過(ケイカ)は分かりにくいが、(シン)には二刻(フタコク)と伝えれているから()()()()()で出してもらえるだろう。


(シン)(シン)のままでいられれば、の話だが。


もう一度嘆息(タンソク)して顔を上げると、何故(ナゼ)か目の前に(ウデ)があった。蹲込(シャガミコ)んだ時には無かったのに、瀑布(バクフ)(オク)から突き抜けている(ウデ)は、しっかりと()ばされながらも(フル)えている。白くしなやかな()()(ウデ)が何かを(サガ)すように動くが、(ウデ)だけでも()()(ダレ)のものであるかなど容易(タヤス)く分かる。


それほどに忋抖(カイト)()がれているから。


悧羅(リラ)?」


思わず(ウデ)(ツカ)んだ忋抖(カイト)身体(カラダ)(トラ)えた手が引かれると、けつまつれるように瀑布(バクフ)の外に出されてしまう。


「はあ?」


引き出された忋抖(カイト)は、(マワ)りを見廻(ミマワ)すことも出来なかった。出された、と思った一瞬(イッシュン)(マド)わしの(アマ)(ニオ)いで()せ返る。


1度だけ忋抖(カイト)()せられた()()とは、格段(カクダン)(チガ)う。


ねっとりとした質感(シツカン)身体(カラダ)(カラ)みついて、(ハダ)からも忋抖(カイト)の中に入り込む。あまりの(マド)わしの強さにぐらりと()れて(シズ)みそうになると、(ムネ)に白い右手が当てられていた。(ムラサキ)(ケム)る部屋は(クモ)の中を通っているように視界(シカイ)が悪いのに、白い(ハダ)だけははっきりと見えた。するりと左手も()びてくると忋抖(カイト)(ムネ)に当たり、()うように上がってくる。


「…悧羅(リラ)?」


(カタ)()れた手に(スガ)るような力が入ったのが分かって()()ぶと、(ケム)る中から(スベ)るように半身(ハンシン)が出てきた。(アツ)()れた吐息(トイキ)()らす(クチビル)(アマ)(アエ)ぎを上げている。幾度(イクド)()てた後にだけ見れる(トロ)けて(ウル)んだ(マナコ)は、何かを(ウッタ)えるように()らぐ光を宿(ヤド)して忋抖(カイト)(トラ)えた。


「かい、とおっ」


(スガ)るような(アマ)い声に忋抖(カイト)自制(ジセイ)など、(ナン)なく(クズ)()った。当てられていた(ウデ)(ツカ)んで引き上げると(ムサボ)るように口付(クチヅ)ける。くぐもった声と引き()せた細い身体(カラダ)()ねて()てさせられていることまで(ツタ)わってくると、忋抖(カイト)嫉妬心(シットシン)に火が()いてしまう。


()悧羅(リラ)(トロ)けさせているのは忋抖(カイト)ではない。

()てさせたのも、()くしているのも、()かせているのも、忋抖(カイト)ではない。

姿も声も見えないし悧羅(リラ)の声しか聞こえないが、()()悧羅(リラ)を作ったのは自分の手ではない。


口付(クチヅ)けているのは忋抖(カイト)なのに、息を()ぐたびに聞こえる声と()てていく姿(スガタ)(クル)いそうになる。一呼吸(ヒトコキュウ)(ゴト)身体(カラダ)(メグ)(アマ)(ニオ)いが、忋抖(カイト)忋抖(カイト)で無くしていくようだ。(クズ)れていく自制(ジセイ)理性(リセイ)()わりに、(ケモノ)のような激情(ゲキジョウ)(タギ)(オノレ)をぶつけたい(ヨク)だけが()き出してくる。


(サワ)りたい。

()かせたい。

()がらせて、(ミダ)れさせて、(コワ)したい。

中に入って、(ツラヌ)いて、()き上げて。

悧羅(リラ)の中に(ヨク)()き出して、()()声で名を()ばれて、()しいのだと(モト)めさせたい。


()り上がってくる(ミニク)い感情をぶつけるように頭を(オサ)えて口付(クチヅ)けを繰り返すと、悧羅(リラ)から()れる吐息(トイキ)もますます熱くなる。


「かい、とお、さわっ、てえ…っ」


(アエ)ぎに()じって切なく(ノゾ)まれて、(ダレ)(サカ)らえるだろう。(イザナ)われるように(マサグ)り出してしまうと、悧羅(リラ)の左(ウデ)が引かれて(アマ)い声をあげながら()()った。


「あっ、しんっ、や…っ、ふかっい、あっ()いっ」


呼ばれた名が自分のものではないことに苛立(イラダ)ってしまう。()()った分、しっとりと(アセ)ばんで火照(ホテ)り続ける肢体(シタイ)がよく見えて、(ムネ)()いついて()み付く。()め上げて転がして、首筋(クビスジ)(ハラ)など見えている(トコロ)すべてに(アト)を残して、忋抖(カイト)のものだと知らしめながら、秘部(ヒブ)に手を()わせる。もう幾度(イクド)()てさせられたのか、外殻(ガイカク)の皮はとうに()けて(フク)らんでひくついていた。ぬるりと手に()うものが如何(イカ)悧羅(リラ)が求めているのかを教えてくれる。(イジ)りながら時々強く(ツマ)むと、甘美(カンビ)な声が、まだ、と求めてくる。


「そ、れっやめないで、もっとさわ、って」


(モト)める声と同じくして(アエ)ぎも大きくなり、(イキ)()んでいる姿が(ナマメ)かしすぎて、ぞくりとしてしまう。


「おねがっ、全部さわっ、て、()いのっ」


(ノボ)()めすぎていく悧羅(リラ)から名を()ばれる。それが、どんな意味なのか忋抖(カイト)()()()()()()()


「…っか、いとおっ、かい、とっ」


(イジ)る動きを速めて(カミ)の中に手を入れて、強引(ゴウイン)上向(ウワム)かせる。深く口付(クチヅ)けて(シタ)(カラ)めてやる間も、もっと、と強請(ネダ)られた。()われる名の中に(シン)の名があることに、(サラ)苛立(イラダ)ちが(ツノ)る。


悧羅(リラ)()悧羅(リラ)が見てるのは(ダレ)?」


(カサ)ねている(クチビル)(シタ)にも歯を立てると、(ワズ)かに血が(ニジ)む。()め取ると(アマ)さとともに忋抖(カイト)(ヨク)()す。


()見えてるのは、(ダレ)?」


(タズ)ねても忋抖(カイト)がすぐに口を(フサ)いでしまうから、悧羅(リラ)(コタ)えられないのだろう。くぐもった声と()れるような(アエ)ぎと共に、何処(ドコ)が遠くで(ハダ)を打ち付ける音がするような気がする。


「ねえ、(ダレ)?」


(コタ)えられないように(シタ)()んで話せないようにすると、(カタ)(スガ)り付いていた右手が()ちて、(タギ)り切った忋抖(カイト)()()(ツカ)んだ。一瞬(イッシュン)びくりと(フル)えた忋抖(カイト)()がすことなく、悧羅(リラ)の手が動く。(ナマメ)かしく動く手の動きに声が()れそうになるが、悧羅(リラ)口付(クチヅ)けて止める。ぐりぐりと先を(ネジ)られ(シゴ)かれて持っていかれそうになりそうになりながら、悧羅(リラ)をより強く(イジ)ることで意識(イシキ)()らすが、息が上がるのは止められない。


「あっ、くる、きちゃうっ!やあっ、やめないでっ!」


強張(コワバ)悧羅(リラ)(タギ)り切った()()を強く(ツカ)まれては、忋抖(カイト)(タマ)らない。見上げてくる悧羅(リラ)視界(シカイ)がぼやけて(シラ)んでいることも分かってはいるが、()がって()てる時の顔が見たい。


「…んっ、やあっ、し、んもっとおっ!」


父様(トウサマ)()ぶなって」


するりと外殻(ガイカク)から手を(ハナ)して(ハラ)()であげると、ふるっと頭を振っている。


「やあっ、かいと、やめないでっ、(サワ)って、いじめ、てよお」


忋抖(カイト)()()(ツカ)んでいた手で(ハナ)した手を引き寄せた悧羅(リラ)は、自分の()くなる(トコロ)に当てがってくる。


(ダレ)に?何を?どうして欲しいの?」


上辺(ウワベ)だけをかりっと(コス)ると、必死(ヒッシ)(コラ)えているのか(フル)えて見せてくれる。


「っ、…さわって、な、めてっ、すって、強、くっ、強いのが()し、いの。いっぱい()くしてっ、かい、とで()めてっ、はや、くぅ」


求めてくれていても、()()()(トキ)でさえ悧羅(リラ)の中に入って()き上げているのは、(シン)だ。中に入って()(ミダ)して、()かせているのは忋抖(カイト)ではない。


けれど()目の前で(トロ)けた悧羅(リラ)は、忋抖(カイト)を見て忋抖(カイト)を求めてくれている。

忋抖(カイト)が知らなかった表情(カオ)で。

忋抖(カイト)が見たことの無かった姿(スガタ)で。

忋抖(カイト)が聞いたこともなかった言葉で。


どこまでも(ミダ)らなのに、それが(タマ)らない。


「…いいよ?」


まだ(タギ)れるのか、と()い上がってくる(ネツ)(アキ)れて苦笑(クショウ)してしまう。決して()げられないようにより強く(カミ)(ツカ)んで上向(ウワム)かせると、当てていた手で強く(ナブ)る。途端(トタン)におおきくなる(アエ)ぎと強張(コワバ)りに、(シン)が息を()んだ音が(カス)かに聞こえたような気もするが、すぐ目の前にある悧羅(リラ)の顔が妖艶(ヨウエン)過ぎて、どうでもいい。


「あ、ああっ、んっ、きちゃ、きちゃうっ」


「ねえ、悧羅(リラ)


()()りたいのだろうが(ユル)してやれずに、引き留める手に力を入れてしまう。


この表情(カオ)をずっと見ていたい。

この声をずっと聞いていたい。

悧羅(リラ)快楽(カイラク)の底に(シズ)むことができるなら、他に何も要らないとまで思えてしまう。


今なら。


忋抖(カイト)が聞きたくて聞けなかったことも、今なら教えてくれるだろうか。


悧羅(リラ)(オレ)のことちゃんと()き?」


この状況(ジョウキョウ)(タズ)ねることでもないことなど(ヒャク)承知(ショウチ)だ。


(シン)優劣(ユウレツ)をつけられていないことなど知っている。

()められない()があることも分かっている。

大事(ダイジ)(アツカ)われて(タツト)ばれてもいる。


けれど忋抖(カイト)(シン)(モラ)えているであろう()()()()を、悧羅(リラ)からはっきりと(モラ)ったことがない。


(アエ)悧羅(リラ)に今、(スガ)りつかれていても。

無二(ムニ)だと言われて全てを(モラ)えていても。

()()()()は言われたことがない。


「やっ、かいとっ、かい、かいとっ、おねがっ」


「教えてくれたら()()()


(コラ)え過ぎて見開かれた(ムラサキ)(マナコ)から、(ナミダ)(アフ)れてくる。しがみつかれている手も冷たく(フル)えてしまっているのに、こんな時に(タズ)ねるなど卑怯(ヒキョウ)なことだ。ぐっとより上向(ウワム)かせる内にも悧羅(リラ)(シン)にやめるな、とせがんでいる。


父様(トウサマ)じゃなくて。(オレ)を見て」


(イジ)る手の速さを変えると、もう無理だ、と()われてしまう。


「じゃあ教えて。(オレ)悧羅(リラ)の何?」


()れ合うほどに()せた(クチビル)悧羅(リラ)吐息(トイキ)がかかる。


「やっ、むにっなのっ、かいとっ、好きじゃなっ」


ふるふると小さく(アタマ)()ろうとするが、忋抖(カイト)(オサ)えているから大きく()ることはできないでいる。(コス)れるように(クチビル)()れるが、(コノ)んではいない、という言葉に手をとめそうになる。


「好きじゃないんだ。(オレ)のために(シバ)ってくれただけだもんね」


顔を少し(ハナ)すと悧羅(リラ)はまだ小さく頭を()っている。ちくりと痛む胸の(イタ)みを(オサ)えて忋抖(カイト)は手の動きを速めながら目を()らしてしまう。


そんなこと分かっていた。

無二(ムニ)だと言われ、心も差し出されてはいるけれど、悧羅(リラ)にとって(イト)おしく渇望(カツボウ)するほどに求めるのは、(シン)だけでしかあり得ない。


分かっていたのに聞いてしまった自分を()やむが、()()()だけはどうにかしてもらわなければ泣き出してしまいそうだ。


(ヨク)をかきすぎたかな」


ぼそりと(ツブヤ)いて大きく息を吸い込むと、臓腑(ゾウフ)一片(イッペン)にまで(マド)わしがねっとりと(マト)わりついた。


()やむなら()ちてしまえばいい。

泣きたくなるくらいなら何も考えられないほど(シズ)んでしまえば、(ラク)になれる。

(タズ)ねたことさえ無かったことに出来るように、()ちて(シズ)んでしまえばいい。


一度()らしていた視線(シセン)(モド)すと、まだ悧羅(リラ)は小さく頭を()っている。


悧羅(リラ)、ごめん。きついよね、とにかく()てよ?」


「そ、じゃないっ」


(アエ)いで息も()()てた悧羅(リラ)口付(クチヅ)けようとすると、泣き出しそうな声がする。


「…っそうじゃな、いのっ、(イト)おしい、のっ、だれに、もさわらせたくな、いのっ、かいとっ、あっ、やあっ、かい、とっ、かいとおっ!も、っ、だめっ」


がくんっと()ね上がって()て始めた身体(カラダ)を、急いで(トド)めた忋抖(カイト)の手を(アフ)れた生温(ナマアタタ)かい水が(ツタ)う。見ている中で大きく(フル)えて()てながら、それでも()まってくれるなと悧羅(リラ)(アエ)いでいる。


「…(イト)、おしく思ってくれてたの?」


(タズ)ねる忋抖(カイト)に、悧羅(リラ)必死(ヒッシ)(ウナズ)いている。


「ちゃんと悧羅(リラ)だけの男として、(イト)おしいの?」


ずるずると忋抖(カイト)の胸に(オサ)まっていく悧羅(リラ)身体(カラダ)はまだ()かれ続けているのか、(ハゲ)しく()れている。()れて(アエ)ぎながらも懸命(ケンメイ)()(シメ)悧羅(リラ)から手を(ハナ)して、はらはらと(カミ)が落ちる背中(セナカ)をなぞると(アザ)やかな(ハス)が飛び込んできた。その内のひとつに(ツメ)を立てると(ウッス)らと血が(ニジ)むが、それさえも快楽(カイラク)(ツナ)がるのか(アマ)い声が大きくなる。


「はは…っ、()()()()()()


忋抖(カイト)(アシ)(スガ)りついて()がる悧羅(リラ)が、よもや()()()()(オモ)ってくれていたなど知る(ヨシ)もなかった。

心の何処(ドコ)かで、(シン)のようにはなれないと思っていたから。

悧羅(リラ)がどんなに忋抖(カイト)(タツト)んでくれても、立つ場処(バショ)が変わって堂々(ドウドウ)()でられるようになっても、それだけは(シン)には(カナ)わないと信じて(ウタガ)いもしなかった。


ただ、好きだ、という一言だけで良かったのに。


ひとつひとつの(ハス)(ツメ)を立てていると、忋抖(カイト)(タギ)り切った()()がまた(ツカ)まれる。


「…んっ、でな、きゃっ、()()()()()()()()()()


(アエ)ぎながら少し身を起こした悧羅(リラ)の熱い息が()()にかかると、先を(カジ)られた。は?、と息を()む間に根本(ネモト)まで(クワ)えられて()い上げられてしまう。


「う、わっ、ちょっと待ったっ!悧羅(リラ)っ」


止める声など聞こえていないのか悧羅(リラ)の動きは止まらない。(シタ)(カラ)ませて()め上げ、(シボ)りあげ、手も使って(シゴ)いてくる。(シン)()き上げられて()れる動きまで(クワ)わると、時々(トキドキ)歯が立つ。熱い口内(コウナイ)と熱い吐息(トイキ)が混ざり合って(ナブ)られて、忋抖(カイト)も息を止めざるを()なくなる。


「ちょっと、待って!ほんとにやば、いっ!」


限界(ゲンカイ)まで(タギ)って痛いのに、こんなことをされては(タマ)らない。(タマ)らないのに忋抖(カイト)の手は悧羅(リラ)の頭を(オサ)えつけてしまう。(ジョウ)()わしてきた女たちから()()()()()()()()わけではないのに、それとは(チガ)う。悧羅(リラ)にさせてはならないと思うのに、我慢(ガマン)()かない。もっとして欲しいと願ってしまう。


悧羅(リラ)っ、ほんとに、無理(ムリ)っ!」


引き()がそうとすると悧羅(リラ)の動きが(ハヤ)められた。


「いや?」


(イヤ)じゃない、けど、駄目(ダメ)だ、って!」


必死(ヒッシ)(コラ)えていると悧羅(リラ)身体(カラダ)()ねて(フル)えた。その衝撃(ショウゲキ)で歯が立つと忋抖(カイト)(シボ)りあげる力も強まって、悧羅(リラ)口内(コウナイ)(ヨク)()き出してしまう。(アツ)(ヨク)(シン)にも()き出されたのか、悧羅(リラ)身体(カラダ)が大きく(フル)えたが嚥下(エンゲ)しながら口に()き出される忋抖(カイト)(ヨク)をすべて()め取ってくれる。それでも、まだ、と聞こえてくる。休む間もなく()められながらも、また(クワ)え始めた悧羅(リラ)身体(カラダ)を引き起こすと、(トロ)け過ぎてそれだけで()てている。(ウル)んだ目で口の周りについた(ヨク)残滓(ザンシ)()めている姿に、また忋抖(カイト)の中で何かが(コワ)れる音がした。


「…ん、かいとお」


視線(シセン)が合わさると(アマ)(イザ)なわれる。


「…まだっ、()くする、っよ?」


こてん、と首を(カシ)げた悧羅(リラ)(アエ)ぎを上げながらまた()てている。(ツイバ)むように口付(クチヅ)けると苦い(ヨク)の味がした。両の横腹(ヨコバラ)に手をかけて(アエ)ぎの()れる口を(フサ)ぐ。


「ほんっと、(タマ)んない」


当てた手を一気に引き上げて押し(タオ)すと見えていた顔が見えなくなる。()わりに熱く(ウネ)ってひくつく悧羅(リラ)の入口が見えた。早く、とでもいうように自らの手で広げて待たれては、本当に何もかもがどうでもよくなってしまう。()れている(コシ)に手を当てて一気に中に入ると、(マト)わりついていた(マド)わしが待っていたように触手(ショクシュ)()ばして、忋抖(カイト)意識(イシキ)(ヌマ)の中にごぶりと(シズ)めた。




―――――――――――


重い(マブタ)をゆっくりと上げると自分のものではない白銀(ハクギン)(カミ)と、間に揺蕩(タユタ)薄紫(ウスムラサキ)(カミ)が見えた。おっと、と苦笑(クショウ)した(シン)はゆっくりと起き上がって足下(アシモト)(コロ)がってしまっていた布団(フトン)を引き()せる。自分を(クワ)えた悧羅(リラ)忋抖(カイト)身体(カラダ)()けると(マワ)りを見廻(ミマワ)してみる。

幾重(イクエ)にも()られていた結界(ケッカイ)は、(ウス)い数枚を残してあとは()がれている。(アマ)くねっとりと(マト)わりついていた残滓(ザンシ)も、(カス)かに(カオ)程度(テイド)だ。これくらいなら()()()悧羅(リラ)から()れ出すものとそう変わらないし、(ジョウ)の後の余韻(ヨイン)間違(マチガ)ってもらえるだろう。普段(フダン)(カカ)わり方で十二分(ジュウニブン)(イヤ)してやれるくらいのものまでには、(アフ)れていた分は()らしてやれたはずだ。


本当はもう少し悧羅(リラ)堪能(タンノウ)したいが、今は(ムズ)かしいかもしれない。


悧羅(リラ)(ノゾ)んだ『夕刻(ユウコク)まで』からは少し過ぎてしまっているようで、部屋に差し込む()がないが、そこは大目(オオメ)に見て(モラ)おう。頬杖(ホオヅエ)を付いて(シン)忋抖(カイト)の間で、2人から(ウデ)(マワ)されて(ネム)っている悧羅(リラ)(ホオ)(クスグ)るが、(ツカ)れたのか身動(ミジロ)ぎひとつしない。


そういえば(ジョウ)()わした後に悧羅(リラ)(シン)(ハナ)して(ネム)るなど(ヒサ)しくなかった。(サミ)しく思えてもしまうが、今回ばかりは仕方(シカタ)ない。いつものように休んでしまっていては、起きた時にまた()()いてしまったに(チガ)いないし、数日は(コモ)る。それを目にした忋抖(カイト)からは、どんな叱責(シッセキ)を受けるか分かったものではない。


3()()()、ではあったものの(シン)悧羅(リラ)()()()()()()()()()()し、悧羅(リラ)の声()()()()()()()()()()()(カタク)なに(コバ)んでいた忋抖(カイト)のために、(ヨク)(オボ)れながらも悧羅(リラ)が何かをしたのだろう。

瀑布(バクフ)を落とす以外の何かを。


「ほんのちょっとだけ()けちゃうねえ」


閉じられたままの(マブタ)口付(クチヅ)けると、すりっと(ヒタイ)()せてくれる。共に出された小さな安堵(アンド)吐息(トイキ)苦笑(クショウ)してしまう。


どんなに深く(ネム)っていても悧羅(リラ)には(シン)が分かるらしい。()ている間も(シン)()としてしまうなど、何処(ドコ)まで(シバ)ってくれるつもりなのか。


くすくすと()れる(ワラ)いは、悧羅(リラ)を見ているだけで(ヨク)に変わってしまう。つい(クチビル)(ツイバ)んでしまうと(マブタ)(ワズ)かに動いた。


「起きて悧羅(リラ)忋抖(カイト)()てる間に()()1()()、しよ?」


悪戯(イタズラ)(ツイバ)んでいると(アキ)れたような嘆息(タンソク)が聞こえてくる。


馬鹿(バカ)なの?」


ぱしりと頭まで(ハタ)かれては口付(クチヅ)けるのも止めるしかなくなる。


「起きちゃった?もう少し()ててくれても良かったんだけどな」


父様(トウサマ)悪戯(イタズラ)し始めなかったら()れただろうね」


()てるフリしててくれても良いのに」


(カタ)(スク)めてしまう(シン)に、また忋抖(カイト)嘆息(タンソク)が投げられた。


「出来るわけないでしょ。父様(トウサマ)は本当にやり出しそうで(コワ)いんだよ」


(アキ)れたように忋抖(カイト)が起き上がると、1度大きく()びてからまたごろりと横になる。よいしょ、と悧羅(リラ)の方に身体(カラダ)()けた忋抖(カイト)寝息(ネイキ)(オダ)やかなことに、ほっと安堵(アンド)しているようだ。


「少しは(ラク)になれたかな?」


多少(タショウ)は残ってるみたいだけど、これくらいなら()()()()()充分(ジュウブン)だよ。忋抖(カイト)大丈夫(ダイジョウブ)か?」


()(モド)しを引き受けると普段(フダン)(ジョウ)よりも(カワ)きが強く、その分悧羅(リラ)を求める(シン)にも多少(タショウ)負荷(フカ)が掛かる。すべてを(ヨク)として()き出せば良いだけなのだが、悧羅(リラ)に対していつも()えを感じている(シン)にとっては、より(カワ)きが強く悧羅(リラ)(オサ)まっても続いてしまう。(シン)(ヨク)のままで()()()()()と、悧羅(リラ)(コワ)れ続ける。それこそ初めて忋抖(カイト)悧羅(リラ)(アズ)けた時のように、()ちることさえ(ユル)してやれない。()(モド)しで(ジカン)()るのはそうならないように、少しずつ分けてもらっているからでもある。


だが今回は1度に引き受けたから正直(ショウジキ)に言えば、()()()りない。出来れば今すぐにでも()(ツブ)したいくらいだ。忋抖(カイト)が声を掛けなければ、今頃(イマゴロ)悧羅(リラ)の中にいたことだろう。


何度か引き受けてきた(シン)でも残るくらいだから、初めて引き受けた忋抖(カイト)には(ツラ)いと思って(タズ)ねたのだが、苦笑(クショウ)しながら悧羅(リラ)(ホオ)()でている。


「キツいのは、まあ()えれるかな。父様(トウサマ)の方が多く持ってってくれたんだろ?」


「…()()()()()可愛(カワイ)くないなあ」


苦笑(クショウ)した(シン)もごろりと横になると、そりゃあね、と忋抖(カイト)(ワラ)いを(フク)んだ声が聞こえた。


(オレ)、入れられても(シバラ)()ったもん。父様(トウサマ)も見せたかったんだろ?()()()()()()()()()()()悧羅(リラ)(カカ)えてるか」


悧羅(リラ)()()()(ノゾ)んでたからね。でなきゃ()()()()()()()()()()()()()よ」


あーあ、と()たままで()びると、身体(カラダ)彼方此方(アチラコチラ)からぽきぽきと音が()った。

悧羅(リラ)忋抖(カイト)(コロモ)(ツカ)んだ(トキ)に何となくは感じたが、はっきりとしたのは出て行こうとしたのを閉じ込めた時だ。自分が(ツラ)い中でも忋抖(カイト)の心を(オモンバカ)った姿には思うところはあるが、それが悧羅(リラ)という(ヒト)だ。(ノゾ)まれていなければ、もう少しだけ()()悧羅(リラ)(ヒト)()め出来ていたが仕方(シカタ)ない。


何処(ドコ)まで忋抖(カイト)が見れるかは忋抖(カイト)胆力次第(タンリキシダイ)だったのだが、とりあえずは見れたようだ。


可愛(カワ)いかったろ?」


ふふっと(ワラ)いながら(シン)悧羅(リラ)身体(カラダ)を向けて頬杖(ホオヅエ)を付くと、忋抖(カイト)は何を思い出したのか布団(フトン)()()している。


「…可愛(カワイ)なんてもんじゃなかったよ。何()()


()()だよ?話し方、(モト)められ方、(ミダ)れ方、他にも()()()()あるけど?」


指折(ユビオ)(カゾ)えて茶化(チャカ)(シン)の前で、忋抖(カイト)はますます()()している。見えている耳が(シュ)()まっているのが見えて、くすくすと(ワラ)うと、じろりと(ニラ)まれた。


()()()だよ。…なに?父様(トウサマ)との(トキ)って()()()あんななの?」


ぼすりと(ムネ)(ナグ)られても(ワラ)いは止められない。悧羅(リラ)を起こさないように声を(コロ)すと、余計(ヨケイ)(ニラ)まれてしまった。


「そんなわけあるか。(アマ)くはなるけど、()()()()(マド)わしの後くらいだよ。(オレ)としては毎回でも大歓迎(ダイカンゲイ)なんだけど」


()()()()()()られたら、(オレ)無理(ムリ)(ダレ)にも見せたくなくって閉じ込める」


(シン)(ナグ)った手で悧羅(リラ)(クチビル)をなぞった忋抖(カイト)は、また何かを思い出したのか、うー、と(ウナ)り始めている。何を思い出したのかは聞かずとも分かるが、あどけない(コロ)の姿のようでつい揶揄(カラカ)いたくなってしまう。


「いつもだって寝所(シンジョ)での姿は(チガ)うだろ」


「そうなんだけど、()()()まではないんだよ。あーもう、ほんと何なの」


「話し方だけは多分荊軻(ケイカツ)も知ってるだろうけどね」


「え!?(イヤ)だあ…」


また(ウナ)り始める忋抖(カイト)は、はあ、と大きな嘆息(タンソク)()いている。あの悧羅(リラ)を見せたくないのは(シン)だって同じだ。閉じ込めて良いならとっくの(ムカシ)にそうしている。悧羅(リラ)(オサ)であるから出来ないだけで、(タガ)いの立場(タチバ)などなければ、ずっと悧羅(リラ)とだけ過ごしていたいくらいだ。


荊軻(ケイカツ)が言ってたろ?悧羅(リラ)のことで知らないことなんて片手(カタテ)()りるって。それは(オレ)とお前だけしか知らないことだよ」


「そうだけど…。(オレ)ちょっと800年前の父様(トウサマ)()めたくなった」


よいしょと悧羅(リラ)を抱き寄せようとする忋抖(カイト)を押し(モド)しながら、(シン)は小さく(カタ)(スク)めた。


「何だそれ」


抱き寄せるのを(アキラ)めて悧羅(リラ)の手を(ツナ)いだ忋抖(カイト)に、悧羅(リラ)の反対の手を差し出されて(ツナ)ぐと満足(マンゾク)そうに手に()()っている。


「だって()()()がなきゃ悧羅(リラ)()()()()()だったんだろ?今だって(スキ)さえあれば手が()びてくるのに、(ハラ)い切れないじゃないか。あんなに可愛(カワイ)い姿、見せたくないだろ」


「じゃあまた一緒(イッショ)にする?そしたら(マド)わしがなくたって、()()()()()()()かもよ?」


「…それは(イヤ)。…悧羅(リラ)がどうしてもの時なら(カナ)えるけど、何より…、あーもう、(ウレ)し過ぎて死ぬ」


三度(ミタビ)思い出して(シュ)()まった忋抖(カイト)に、(コラ)え切れなくなって(シン)()き出してしまった。忋抖(カイト)が思い出したのは口淫(コウイン)自体か、悧羅(リラ)に与えられた悦楽(エツラク)か、はたまた妖艶(ヨウエン)(ミダ)らな姿か。もしくは悧羅(リラ)の想いか。


多分その全部だ。


悧羅(リラ)は自分のものだって決めたら絶対(ハナ)してくれないからな。(アキラ)めてお前もさっさと()ちることまで()ちてこい」 


(ツナ)いだ細い指に()みついてしまうと忋抖(カイト)はまた嘆息(タンソク)している。


(ハナ)して欲しいなんて思わないけど、これ以上まだ()ちれるの?」


「まだまだ。さしずめ起こしたら分かる」


「ええ?なんだよそれ?」


きょとりとした忋抖(カイト)悧羅(リラ)()()るのが見える。(オノレ)(リッ)することを得手(エテ)としている忋抖(カイト)でも、この状況(ジョウキョウ)ではなかなかに(キビ)しいようだ。せっかくだから、揶揄(カラカ)甲斐(ガイ)のある内に揶揄(カラカ)っておくのも面白(オモシロ)いかもしれない。


「まあまあ、いいからいいから」


ぎゅうっと悧羅(リラ)に抱きついている忋抖(カイト)苦笑(クショウ)しながら、(シン)悧羅(リラ)を起こしにかかる。数回声を掛けるとどうにか(マブタ)を開けた悧羅(リラ)微睡(マドロ)む目で(シン)(トラ)えると、するりと片手を()ばしてきた。


「…大事(ダイジ)ないかえ…?」


するりと(ホオ)()でられた(シン)に、そこからまた熱が(タギ)る。


大丈夫(ダイジョウブ)だよ。悧羅(リラ)は?」


小さく(ワラ)いながら口付(クチヅ)けると、もう片方(カタホウ)の手は忋抖(カイト)(マワ)されているのが見えた。話し方がいつもの通りに(モド)っていることに(オドロ)いたのか、もしくは起きてすぐ確めるように(ウデ)(マワ)されたことに(オドロ)いたのか、こちらもまた(タギ)ってきているようだ。


「…(ワラワ)のことなど(ノチ)で良い。忋抖(カイト)大事(ダイジ)ないか?(クル)しゅうはなかろうか」


(マワ)された(ウデ)身体(カラダ)()で上げられた忋抖(カイト)が、より(カタ)まって悧羅(リラ)にしがみついている。出来ることならすぐにでも()()きたいのを(コラ)えている姿が、本当にあどけなく見える。悧羅(リラ)に名を()ばれても頭を()るだけの忋抖(カイト)悧羅(リラ)がきょとりとして(シン)を見た。


「あんまりにも可愛(カワ)い過ぎたから(コラ)えるのに必死(ヒッシ)なんだってさ。他に見せて欲しくないっても言ってたよ?」


おや、と微笑(ホホエ)悧羅(リラ)口付(クチヅ)けてしまうと、初めは浅く()ませられていたのにどんどんと深く欲しくなる。忋抖(カイト)揶揄(カラカ)うつもりだけのはずだったが、(シン)の方が()とされそうだ。


(シン)忋抖(カイト)の他に(ダレ)に見せられようか。(ワラワ)()しゅう(オモ)うは(イト)しき其方(ソナタ)らのみじゃ」


ふふっと小首(コクビ)(カシ)げる悧羅(リラ)(シン)(コブシ)(ニギ)って()えると、忋抖(カイト)もどうにか(コラ)えたようだが、そろりと顔を上げた。


「…ねえ、悧羅(リラ)。その、それさ?」


おずおずと視線(シセン)を泳がせる忋抖(カイト)を見ようとする悧羅(リラ)(トド)めて口付(クチヅ)ける(シン)のことも、当たり前のように受け入れながら悧羅(リラ)はするりと忋抖(カイト)身体(カラダ)()であげている。


「…ほんとに(オレ)のことも男として(イト)おしいの?」


まだ(シン)じられない、とでも言いたげに(タズ)ねる忋抖(カイト)の頭を(シン)(アキ)れて小突(コヅ)いた。(マド)わしの中で聞いただろうし、これまでも悧羅(リラ)態度(タイド)(シメ)してくれている。自分だけの者ではないからと嫉妬(シット)にかられるのは分かるが、(ジョウ)()わした後の悧羅(リラ)が湯も使わず、(ウデ)の中で(ネム)る意味もちゃんと()せていたのに。何より300年ずっと(シン)(モド)るまで縁側(エンガワ)(スワ)って待ち続けていた悧羅(リラ)が、忋抖(カイト)が共に待つ時は度々(タビタビ)(ヒザ)(ネム)ってくれている。それがどれほどの(サイワイ)かも気付(キヅ)けないほどとは、やはり忋抖(カイト)()えは相当(ソウトウ)(フカ)い。


(シバ)りを(ムス)んで多少なりとも(ウルオ)ったか、と思っていたがますます()えていたようだ。


まあそれは(チギ)りを(ムス)んでも()え続けている(シン)と同じだろう。


やれやれ、と悧羅(リラ)を見るとくすくすと(ワラ)っている。とんとん、と(ホオ)(ツツ)く姿は、まるで同じだと言われているようだ。


(イト)しゅう思うておらねば、とうに(ハナ)しておるであろ。忋抖(カイト)が他の女子(オナゴ)()れられようとも悋気(リンキ)もおこさぬ。其方(ソナタ)が『無二(ムニ)』であらばこそ、(ワラワ)の者だと知らしめとうもなる。すべて見せておったと思うたがまだ()りておらなんだかえ?」


「いや、言われたこと無かったし…。悧羅(リラ)()()(オモ)って(カワ)くのは父様(トウサマ)だけだって…、そこだけは(アキラ)めてたから…」


しがみついてまた顔を(カク)した忋抖(カイト)に、(シン)悧羅(リラ)は目を合わせて笑ってしまう。(オソ)初恋(ハツコイ)(ミノ)らせてしまうと、(アタ)えられていることすべてが(ヨロコ)ばしいのと同じくらい、猜疑(サイギ)の思いも持ってしまうようだ。


「聞けば良かっただろ?」


「それで(チガ)うって言われた時が(コワ)かったんだよ。悧羅(リラ)()らないって言われたら生きてけないもん」


一層(イッソウ)強く悧羅(リラ)にしがみつく忋抖(カイト)は本当にあどけなくて、可愛(カワ)いらしい。いつも(シン)暴挙(ボウキョ)を止め、弟妹(テイマイ)たちや隊士達(タイシタチ)からも(シタ)われ、樂采(ガクト)の良い父である姿など何処(ドコ)にも見えない。少し無邪気(ムジャキ)(サミ)しがりな(ムカシ)の自分が見えて、(シン)(ワラ)えてきてしまう。

確かに悧羅(リラ)()()()()()ことを口に出す方ではないが、だからこそ時折(トキオリ)出される(オモ)いが深さを語る。それが分かるようになるには、忋抖(カイト)にはまだ(ジカン)()りていないのだろう。


「おやまあ、心苦(ココログル)しゅうさせてしもうておったのか。ならば()うた方がよろしゅうあるかえ?」


きょとりとした目で見られたが、(シン)(カタ)(スク)めておいた。

言葉などなくとも、(シン)にはもう充分(ジュウブン)に伝わっている。


「いいや?悧羅(リラ)(オレ)()ないと生きていけないのは分かってるし、充分(ジュウブン)伝わってる。言葉にされたら、それこそずっと聞きたくて悧羅(リラ)から出れないよ?でもそうだねえ、忋抖(カイト)(オレ)と同じ(トコロ)まで()ちるまでは、伝えてあげてた方が安心(アンシン)するかも」


「…その余裕(ヨユウ)腹立(ハラダ)たしいんだけど?」


忋抖(カイト)が出した大きな嘆息(タンソク)悧羅(リラ)(ハダ)(クスグ)ったのか、身体(カラダ)(フル)わせている。少しだけ細められた目を見ていると(コラ)えるのも限界(ゲンカイ)だが、それは悧羅(リラ)忋抖(カイト)も同じはずだ。


「どうする?(コラ)える?」


くすくすと(ワラ)いながら口付(クチヅ)けて(ササヤ)くと(ワズ)かに()(ヨジ)ったのが分かった。(シン)がこれだけ残るのだ。悧羅(リラ)もまだ、と言いたいのを(コラ)えていることなど聞かなくてもわかる。玳絃(タイゲン)との約束(ヤクソク)と、一緒(イッショ)(イヤ)だ、と(コバ)忋抖(カイト)()るから(リッ)しているに過ぎない。


「…(ジカン)は?」


「ちょっと過ぎてるかな?乗り込んでこられたらそれまでってことで、どう?」


「それはまたせんないこと」


悪戯(イタズラ)(ワラ)うと悧羅(リラ)悪戯(イタズラ)(ワラ)いながら、忋抖(カイト)の顔を(サワ)っている。視線(シセン)だけを上げた忋抖(カイト)に少し上がってくるように手招(テマネ)きすると、(ムネ)までは上がってきたがまた顔を(カク)している。


(シン)忋抖(カイト)も、(ワラワ)()しゅう(オモ)唯一無二(ユイイツムニ)(オノコ)。その手で他の女子(オナゴ)()でるは(ユル)さぬよ」


(オレ)()()()()の知ってるくせに」


ふはっと(ワラ)(シン)悧羅(リラ)苦笑(クショウ)して見せる。


「まあ(シン)はそうであろうがの。忋抖(カイト)?」


(タズ)ねられた忋抖(カイト)も、ふるっと悧羅(リラ)の上で()(シメ)した。


「いやもう、()()()()()()って言われても無理(ムリ)。出来ない、したくない。本当に何なの、何処(ドコ)まで()としてくれるんだよ」


あー、と(ウナ)忋抖(カイト)身体(カラダ)(シン)の首に悧羅(リラ)(ウデ)がするりと(マワ)される。


(ワラワ)其方(ソナタ)らに()とされ続けておる(カギ)りは。であらば、やはり(ワラワ)(テン)(カエ)るまでは難儀(ナンギ)させてしまうやもしれぬの」


「なにそれ、(サイワイ)すぎて死にそう」


()きだすように(ワラ)いだした忋抖(カイト)()でている悧羅(リラ)に、また(シン)口付(クチヅ)け始めた。


「もういい?悧羅(リラ)(オレ)限界(ゲンカイ)(サワ)りたい」


(ホオ)(ツツ)むと(ホコロ)ぶような笑顔(エガオ)が目に飛び込んできたが、そっと指を(クチビル)に当てられた。少し待てということだろうが、もう!、と(シン)(ホオ)(フク)らませてしまう。すぐだ、と()まれた(シン)仕方(シカタ)なく悧羅(リラ)身体(カラダ)(マサグ)るしかない。上がる悦楽(エツラク)(コラ)える悧羅(リラ)に求められて、()えられるならやってみればいい。(アマ)(ササヤ)くような声で名を()ばれた忋抖(カイト)は、また大きく嘆息(タンソク)しながら顔を上げている。


(ワラワ)はまだ()りておらぬ(ユエ)、今一度はならぬかえ?」


「だから一緒(イッショ)(イヤ)なんだってば」


(カタ)を落とす忋抖(カイト)(ホオ)悧羅(リラ)(ツツ)むが、(シン)の手はもう悧羅(リラ)()くなる(トコロ)(トラ)えてしまう。それでも悧羅(リラ)が話せるように、と一応(イチオウ)少しだけ()けていると身体(カラダ)(ヨジ)られた。


「せんないのう、次はいつ()()()()()()()()()()()か分からぬというに」


「だーかーらー!2人の時ならどれだけでも(ヨロコ)んでって言ってるの!」


「それはそれで(タノ)しゅうあるが」


微笑(ホホエ)んだ悧羅(リラ)(カタ)(シン)が歯を立てて、早く、と()かす。()(フル)わせながら忋抖(カイト)口付(クチヅ)けた悧羅(リラ)から()げようとしたのか、()を起こした忋抖(カイト)()れだした(アマ)い声で止まったのが(シン)にも分かる。


2()()(コワ)して()しいの。…たくさん()()けど、駄目(ダメ)?」


こてん、と首を(カシ)げた悧羅(リラ)忋抖(カイト)ががっくりと項垂(ウナダ)れて顔を(シュ)に染めたのが見えて、(シン)は笑いだしてしまう。


()()(ズル)いよ、悧羅(リラ)忋抖(カイト)観念(カンネン)したら?()ちた方が(サイワイ)だぞ?」


頭を()いている忋抖(カイト)苦笑(クショウ)しながら(モテアソ)ぶように悧羅(リラ)口付(クチヅ)けを繰り返す(シン)に、その日1番の嘆息(タンソク)が落ちてきた。


「…ほんとに、どうなっても知らないよ?父様(トウサマ)()()()()ね」


「え?(オレ)もう入りたいんだけど」


駄目(ダメ)()()()()(アオ)ったらどうなるか、とことん教えとかないと。玳絃(タイゲン)みたいなのがどんどん出てきたら、(オレ)()たない」


(アキラ)めたのか、()ちたのか。


「あーもう、…ほんっとに…」


忋抖(カイト)悧羅(リラ)(アシ)の間に顔を(ウズ)めると、(シン)(フサ)いでいた口からくぐもった(アエ)ぎが()れてくる。


「お(アズ)けはキツいなあ、ねえ、悧羅(リラ)?」


(クチビル)(ハナ)して顔を(ツツ)むと、急に与えられ始めた刺激(シゲキ)悧羅(リラ)(ノボ)()てようとしている。快楽(カイラク)()ちる悧羅(リラ)の顔はいつ見ても(シン)をより(タギ)らせる。よいしょ、と起き上がると悧羅(リラ)の頭を(ヒザ)に乗せて(トド)める支度(シタク)を整える。


「そういうわけだから、()()()ね?」


(オノレ)(タギ)り切った()()悧羅(リラ)()せると、(アエ)ぎと(アツ)くなってきた息を(マト)わせながら(フク)み始めた。ねっとりと(カラ)みつくように(クワ)えられて、ぶるりと(シン)の背中を(フル)えが走った。


お楽しみいただけましたか。

読んでくださってありがとうございました。

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