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10 重なる



 土曜日。お昼から村に来ていた私は、少年に手を引っ張られて走っていた。

 今は鬼ごっこの最中だ。


「こっちだ。」

「うん。」


 前と同じ方へと走る。この前も、その前も・・・同じ方へと逃げるのに、鬼も同じ方へと逃げるから・・・私たちは捕まらない。

 鬼ごっこだけじゃない。かくれんぼだって、同じ場所に隠れるのにいつも私たちが見つかるのは最後。


 不思議な村。

 鬼が決まっているだけでなく、だれがどの方向に逃げるのか・・・そういうのも全部決まっている。

 最初はそれでも楽しかった。でも、この遊びに意味はあるのか?


 そんな疑問に気を取られていたせいだろう、私は小石に足を取られて転んでしまった。私が転んだせいで、手をつないでいた少年も一緒に転んでしまった。


「うぅ・・・ごめん。」

「平気・・・君は、大丈夫?」


 少年はスッと立ち上がって、私に手を差し出した。私はいつものようにその手を取って、立ち上がろうとして顔をしかめる。


「いたっ・・・」

「怪我してるの?ちょっと待ってて。」


 膝を見れば、血が出ていた。

 少年もそれを見て眉を下げ、ズボンのポケットからハンカチを取り出して、私の足に巻いた。


「ありがとう。」

「立てる?」

「うん。」


 ハンカチを巻かれただけなのに、痛みが少しだけひいたような気がする。私は少年に支えてもらって立った。




 最後のかくれんぼが終わって、帰る時間が来た。


「このハンカチ、明日洗って返すね。」

「いや、今返して。」

「え、でも・・・」

「血は止まったみたいだし、もう大丈夫でしょ?」

「傷は大丈夫だけど、こんなに血に汚れているし・・・」

「そのハンカチ、いつも持ち歩いているんだ。」


 どうやらこのハンカチは、少年にとって大切な物らしい。私はハンカチを膝からとって、綺麗にたたむ。綺麗にはたためたが、汚れはもちろん落ちていない。乾いて赤黒くなった血がこびりついているハンカチを見て、申し訳なく思った。


「ごめん、大切なハンカチなのに・・・」

「別にいいよ。大切というか、いつも持ち歩いているから、すぐに返して欲しかっただけだし。・・・まぁ、貰い物だから粗末にも扱えないんだけどね。」

「そうなんだ。誰からもらったの?」

「ヨシコちゃん。」

「え・・・」


 知らない子の名前。誰だろう、ヨシコって。


「今日遊んだ女の子?」


 今日とはいっても、前の週もそのまた前の週も、土日に遊ぶ子たちは一緒の子たちのように見えた。人数も変わらないし・・・だが、私は他の子の名前を知らない。少年の名前もだけど。

 だからかもしれない。ヨシコという名前が少年から出て、私はひどく動揺した。


「うん。それじゃ、また明日ね。」

「・・・うん。また・・・明日。」


 俯いたまま言って顔を上げれば、もうそこに少年は立っていなかった。村もない。


 ただ、私が1人林に立っているだけだ。


「・・・私は結局・・・よそ者。お似合いなわけないよね。」


 1人林に立つ自分が、過去に牧口たちを見ていた自分と重なった。あの時と同じ状況だ。一緒にいつもいて、私が隣に立つことに違和感なんてないのに、私よりももっとふさわしい人がいる。


 牧口には彼女・・・少年にはヨシコが。






イメージイラストを描きました。

気になる方はPixivなどでご覧ください。



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