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10.勇者の価値とは

何で俺は他人の恋模様について真剣に講義しているのかずっと疑問に思いながら馬鹿弟に語っていた。別に俺が言っていること全てが正しい訳じゃないのに何で真剣に聞いているのだろう、この馬鹿は。


「という事で、さっさと行け。馬鹿」


「ご教授ありがとうございます! 早速実践してきます!」


元気に部屋から出ていく馬鹿三号は疲労困憊のこちらとは違って晴れ晴れとしたものだった。ちなみに一号は青年、二号は馬鹿姫である。いらん情報だな。


「これで良かったんですか? フェイル殿下」


「まぁ目が覚めたと思えば僥倖だね。琴音の説教も中々に効いたみたいだね」


「私じゃなくても良かったんじゃないですか?」


「いやぁ、あそこまで率直に言ってくれる人物がいなくてさ」


仮にも王族だからな。そして王族に頼まれても物申す相手も王族。酷い板挟み状態だ。普通の神経の人なら胃が痛いどころか、穴が空くんじゃないだろうか。


「琴音って元の世界でも結構な地位にいたでしょ?」


「私自身は一般庶民です。家柄が立派だっただけです」


「うん?」


こんな説明だと分からないか。後ろのミサさんも苦笑いしているんじゃないだろうか。ライザさんも疑問に思っているだろう。騎士団の人達には全く説明していないから。


「一応、上流階級の出身です」


「だよね。僕たち王族に対して物怖気しない態度。率直に思う事をいうのは性格かな?」


「そんな所です。それで私と一緒にいた人に何をしたんですか?」


「ちょっと父上に頼んで引き止めて貰っている」


そこまでやるのかよ。フェルトさんも災難だな。部屋に入ったら他国の王様が待ち構えているとか。


「ちなみに母上も一緒じゃないかな」


「想像したくもない状況ですね」


王妃も一緒とかどんな会話したらいいのか俺ですら分からない。世間話といっても言えないことの方が多いんじゃないのかな。


「フェルトさん、胃に穴が空いていないといいんですけど」


「知らない仲じゃないから大丈夫じゃないかな」


外交上の付き合いしかないのに何の会話をしたらいいのか分からない。俺なら元の世界の話を振るなど言えることもある。ただフェルトさんは違う。自国の話を何から何まで話せる立場ではない。


「何と言うか、うちの国も腰が軽いというか、色々と動くというか」


「似たような王族だとはよく言われるね」


フットワークが軽すぎるんだよ。確かに自分の家族のこととはいえ、王族総出で何をやっているんだ。馬鹿姫と結婚するよりも他国に放り出した方が現実を知れるんじゃないのか。


「それじゃ僕からもちょっと情報提供しようかな。琴音にも関係していることだよ」


「にも、ということは勇者関係ですか?」


「察しがいいね」


この世界で俺が関係していることなんて少ない。元の世界なら色んな噂が出回っているが、それもここじゃ関係ない。


「アレス達は勇者を勝手に召喚したことを各国へ通達したことは知っているよね?」


「その為の弁明に外交官が頑張っていますから」


「これは知っているかな。何人召喚したのかについて」


「まさか、伝えていないのですか?」


「記録に残っている限りだと一人だから、各国は勝手に思い込んでいるだけさ」


「そう言えば確認していませんでしたね。記録に残っている勇者は何代前までなのですか?」


先代勇者については自国で確認していたけど、その前の勇者については確認してなかった。まぁあまりにも先代の功績が大きすぎたんだろう。でも魔王討伐とかした勇者は何代前なのやら。


「三代前までかな。それでも四百五十年前までの記録だからね」


きっかり百年ごとに召喚している訳じゃないだろう。それこそ問題が起こらなかった年が長いことだってある。戦乱の時代で記録が残らなかった場合もあっただろう。


「記録は無いけど、伝承みたいに口伝はある。魔王討伐だけど、やっぱりそれも一人の勇者とこの世界の仲間達によるものだね」


多分だけど劇とかで残っているということかな。でもそれだけの事態でも一人だとしたら、何故今回に限って二人も召喚されたのか。やっぱり外見と中身で選ばれたかな。


「それは明確に伝えていないと分からないことですね」


「と言っても何回も使える手じゃないね。僕達は友好国ということで事前に知らされていたけど、それでも王族のみが知っていることだから」


「あの馬鹿もですか?」


「あれに重要な情報を与える訳ないじゃないか。簡単に漏洩するよ」


そりゃほぼ病気のようなものだったからな。治癒できたかどうかは未知数だけど。


「ただ他の国については僕達を参考にしない方がいいよ」


「それは分かっています」


あんた達が例外なのは見ていて分かる。言ってしまえば王族らしくない。こっちとしては精神的に楽に付き合えるからいいけどさ。


「特に君達の国の北にある所は要注意かな。一番勇者を欲している国であることは間違いないよ」


「勇者にそこまでの価値があるんですか?」


「専門知識を持っている者は何としても手に入れたい。それは僕達も同じかな」


確かに未知のものを作れる知識があれば重宝されるだろうな。ただ問題点もある。元の世界と同じ材料が手に入るかどうか。あとは代替えのもので作れるかが重要になる。


「残念ながら先に言った通り、私も青年も一般的な学生でした。専門的な知識は持ち合わせていません」


商業科、工業科、情報処理科など選択科目がある高校なら専門的な知識があるかもしれない。まぁ加工する道具が無くて何もできないオチが想像できるけど。


「だからこそ僕はいらないと判断したんだよ。琴音ならちょっと欲しいと思うけど、アレスに取られちゃったから」


「人を物のように言わないでください」


真面目に働いている分、青年よりも評価が高いのだろう。それでも役立たずな勇者が欲しい国なんてあるのだろうか。


「話を戻すけど、勇者ってだけで価値があると思ってる国もあるんだよ。勇者は皆、特別な力、特別な知識を持ち合わせていると。そしてそれを君達の国が独占しているとね」


「勝手な思い込みですね」


確かに今までの勇者たちは特別な力を持っていたかもしれない。だけど特別な知識を持っていたかどうかは分からない。大体特別な知識って何なんだよ。


「思い込みでも国の上がそう判断したなら、それが国の決定になる。そして更なる発展を望むなら、勇者が一番の近道になる」


「思うのですが召喚された国があそこで良かったです」


律儀に決まりを守って危険が無い限り召喚をしない。したとしても危機が去れば勇者を強制しない。今回みたいな事態なら保護してくれる。これほどの国はそうあるものじゃないだろう。


「問題のある国に召喚用のものがあったら大変だっただろうね。幽閉されたり、強制的に兵として戦わされたり」


あり得そうな展開だよな。物語で言えば、その国から逃走して成り上がったり、復讐したりするのが王道か。現実は違うけどね。


「そこに私や青年が派遣されても大丈夫なのでしょうか?」


「うーん、正直不安かな。どんな篭絡計画を仕組んでいるか分からないからね。琴音は不安ないけどさ」


この信頼は何処から来ているんだろう。まぁ一人になることもないけどさ。侍女であるミサさんは常に一緒にいるし、護衛の騎士の人も付きっ切りになるだろうから。


「そこに青年を置いていくのも不安がありますね」


「悪いようにはされないと思うよ。勇者を蔑ろにしたと周辺国に知られると厄介なことになるからね」


そうなるか。追放したりしても同じか。取り込みを掛けた方が後の労力とか考えると楽だろう。俺みたいにな。


「いいことかもしれないよ。心と体を鍛えてくれるかもしれないじゃないか」


「そこまでしてくれるならと思いますね。今の生活が続くと心がだらけてしまいそうですから」


俺は客賓としての立場ではなくなったから生活自体はランクダウンしている。でも青年はまだ客賓の立場だから贅沢三昧な状況だろう。そして国に取り込まれても最初は同じ状況だろう。そこから先は青年次第になるけど。


「あとは国に対してどんな無理難題を吹っ掛けてくるか。賠償金とか、新たな条約とか」


「賠償金なんてどうやって見繕うのですか?」


「そんなの勝手に決めてくるよ。払えるか払えないかのギリギリを狙ってくるかも。琴音ならどうする?」


「勇者を金銭で価値を決めるとはおかしな価値観をお持ちですねと返してみます」


俺の返しに殿下が一瞬沈黙してから爆笑していた。俺も大概無茶な事を言っているのは自覚している。でも実際に言われたら同じようなことを言うかもしれない。


「そう返されると対応に困るかな。ただそれを言えるのは勇者だけだから」


「だからうちの殿下は人数を言わず、私を外交官に就けたのかもしれませんね」


勇者の資格があり、外交官として簡単に舞台の上に登らせるためか。ただこれは一回限りの切り札だと思う。俺自身が無事だとしても、青年が取られたら自国に勇者は一人になってしまうから。


「青年が取られると私が矢面に立つことになるのですね」


「仕方ないよ。勇者っていうのは有名人だから。そして困ったことがあった時に頼むべき人物。それがこの世界の共通認識だからさ」


だから顔を覚えるために、そして覚えてもらうために勇者を自国に呼ぶという事か。それと運が良ければ自国を気に入ってもらって所属して貰うという狙いも。


「ですが私はあくまで外交官として活動させて頂きます。勇者と言われてもピンと来ないので」


召喚されたのが資格だとしても戦えや、知識を貸してと言われても困る。俺にだって出来る事、出来ないことがあるんだから。


「普通の感性ならそうかな。琴音が普通の感性かどうかは甚だ疑問だけど」


「失礼ですね」


「王族相手にここまで物申せる人なんて滅多にいないってば」


「フェイル殿下が私的な場所だから遠慮する必要はないと言ったんじゃないですか」


「普通はそれを真に受けないの。それは琴音だって分かっているでしょ」


「まぁ私も人は選びますね」


冗談で言っているのか、本気で言っているのかの区別位はつくさ。あとは雰囲気も読むさ。この部屋の中は全く真面目な雰囲気じゃなかったからな。


「失礼するぞ」


「お話は終わったかしら」


何か勝手に部屋へ入ってきたんだけど。身なりとこちらの事情を知っている時点で陛下と王妃だろうな。何でそんなにニコニコ顔でやってきたんだよ。後ろのフェルトさんなんてゲッソリしているぞ。


「父上、母上。馬鹿弟に関してはこちらの琴音の協力により無事に収めることが出来ました」


「程度にもよるが、どの位まで?」


「多分だけど他の女性に対する行動はもうないかな。先程姫様の部屋に向かったから、後は成り行き次第」


「まぁまぁ、それはありがとうございます」


王妃に手を握られ、感謝されているがそこまでのことだったのかよ。どれだけ問題の種だったのやら。うちの馬鹿姫も大概だけど。


「良ければ私達の国に所属してくれてもいいのですよ?」


「謹んでお断りさせて頂きます」


別に恩を売るつもりでやったことじゃない。むしろ巻き込まれた方だし。何よりこれ以上、あの馬鹿コンビと関わり合いになりたいとは思わない。


こんな苦労はこれっきりにしてほしいよ。

前話投稿した日、職場でチェックして思いました。

「あれ、何で感想来ているんだろう」

感想を見て一言。

「投稿してたの忘れていた」

何と言うか疲れているというレベルでは無くなってきている気がします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >「あれ、何で感想来ているんだろう」 >「投稿してたの忘れていた」 中島敦の『名人伝』に出てくる「不射之射」そのものですね。わたしもその境地になりたいです!
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