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11.懇親会での一幕


懇親会に向かう前に部屋を交換して貰った。あんな隠し扉がある部屋で寝ることなんて出来るか。最初からフェイル殿下もそのつもりだったのか、交渉するまでもなかったな。


「まぁ予想通りの展開かな」


懇親会が始まって早々に青年は様々な人達に取り囲まれている。入室する時も青年が先頭となり、勇者であることをアピールさせた。格好も元の世界の学生服だから猶更目立つ。


「琴音様は人脈を築かなくても宜しいのですか?」


「あんな欲塗れの人達と会話するのは疲れるので結構です」


言われることはお世辞ばかり。そしてどうやって自分にとって利益の出る言葉を引き出すかを虎視眈々と狙っているのだ。裏を読んでいないととんでもないことになるから本当に疲れる。


元の世界で琴音が経験したことだからあながち外れてはいないだろう。


「今の状況を鑑みますと本当に勇者の人数について我が方ではお教えしていないのですね」


「ですね。知っているのであればもう一人を探すなりの行動を起こすはず。なのに誰も動いている様子はない」


おかげで俺は壁の染みと化している。慣れているから俺自身は何とも思っていないのだが、ミサさんはお気に召さないようだ。まぁ一応は俺が主人みたいなものだからか。


「よく観察できるので助かってますけどね」


青年の様子を見つつ、馬鹿コンビの様子も確認している。あれだけの人に囲まれているから青年自身が動くことは無いだろう。問題があると思った馬鹿コンビも何か二人の世界を構築している。


「視界に入れたくなくなってきた」


お前らは部屋でどんな会話をしていたんだと突っ込みたい。甘々な雰囲気に誰も近づこうとしていないぞ。フェイル殿下なんて頬を引き攣らせている。ちょろ過ぎだろ、うちの馬鹿姫。


「ですがこれで目的は達成できましたね」


「それだけが朗報かな。ただ報告書に一体どんな風に書けばいいのやら」


「全くですね」


俺の愚痴にフェルトさんも同意してくれた。本来であればどのような要望や請求を言われ、どのような返答をして保留にしたのかを書かないといけないらしい。なのに今回の騒動で書く内容と言ったら。


「フェイル殿下との会談まではいいのですが、その後ですね」


「私なんて馬鹿弟に対して説教しましたよ。それも報告するのですか?」


「そうなります。私も陛下とどのような会話をしたのか報告しないといけません。頭の痛い話です」


お互いに自国に戻ってからのことを考えて溜息を吐く。まともな報告になる自信なんて少しもない。絶対に「これは何?」と言われる自信ならあるけど。


「これが普通だとは思わない方がいいですよね?」


「例外中の例外です。滅多にあることじゃありません」


だよねぇ。これが仕事だとしたら色々と苦情を言いたくなるよ。便利屋じゃないんだから。


「やぁ、楽しんでいるかい?」


「いえ、全く」


「ちょ!? 琴音さん!」


フェイル殿下がやってきたが、素で返してしまった。すでに敬意も何もあったもんじゃない。そもそもの原因はこの人にもあるんだから。


「僕は全く気にしていないよ。それよりも感謝の方が大きいからね。よくぞあそこまでの関係に持って行けたと」


「あれは私にとっても予想外です。あまりにも馬鹿姫のチョロさに私も脱帽です」


俺が馬鹿弟に言ったのは今までの非礼を詫びることと、精一杯の愛を馬鹿姫に語れというもの。それでコロリと落ちる馬鹿姫がどうかしていると思う。


「うん、僕にとってもあの状況になるとは思ってなかったよ。何というか僕達の今までの苦労は何だったのかと言いたくなるよ」


「ですよね」


馬鹿弟に対して何度も言い聞かせたのに全く聞き入れられず。なのに俺が言って、それを実行したらあの状態。馬鹿らしく思っても不思議じゃない。


「でも何で母上のいう事も聞かなかったのに、琴音の言う事は聞いたんだろう?」


「多分王妃様は家族としての枠組みだったのでしょう。対して私は他人である女性として捉えられていたのだと思います」


だからこそ馬鹿弟の中では母親を女性としては見れなかったのだろう。だから俺の言う事は聞いてくれた。そう思いたい。


「となると僕の妻でも同じ結果だったのは?」


「すでに既婚者で自分に振り向かない存在だと思ったのでは?」


そもそもその嗅覚はどうやって磨いたんだと馬鹿弟にツッコミたい。努力の方向性を間違えて、いらない才能を無駄に発揮するとか何なんだよ。


「我が弟のことながら徹底しているなと思うよ。無駄な所に」


「そうですね、無駄しかありませんね」


フェイル殿下とぶっちゃけながら会話していてフェルトさんがハラハラしているが大丈夫だろう。始まって間もないこともあって青年に全員の視線が向かっている。当分こちらに誰かが来ることもないだろう。


「というかフェイル殿下は婚姻していたのですね」


「うん。去年に第一子を貰ってさ。今度自慢に一歳記念の写真でもアレスに送ろうと思うんだけど」


「何とも言えない表情をすると思うので止めてください」


結婚に悩む男性にそんなものを送ったら怒る可能性だってある。だけどそれが友人であると喜んでいいのか、悔しく思っていいのやら複雑な気持ちになるのは確実だろう。


「琴音が貰ってあげたらいいじゃないか」


「普通は逆では?」


「そうなんだけどさ。あのままだと結婚できるまでどれだけ掛かるか分からないからさ。何故か他国からの縁談の話すらないんだよね」


「計られている可能性は?」


「ないと思うよ。やる意味がないからさ」


それもそうか。婚姻の邪魔をして他国に利益を与えることなんて殆どないからな。仮に結婚できずに一生を終えたとしても養子を取ったり、有力貴族が後を継ぐ可能性だってある。


「単純に縁がないだけですか」


「色々と有能なのに、そこだけ無いのが不思議なんだよね」


本当にな。でもあと十年くらいしたら選んでいられる状況じゃないと思うかな。そうなると側室が何人まで増えるのか想像もつかない。子供が生まれたらその後の展開も凄そうだ。


「アレス殿下の女性関係はどうなっているのですか?」


「友人が数名いるけど全員既婚者。琴音位じゃないかな、未婚なのは」


女性の少なさに驚くが、その全員がすでに結婚していたのも驚くべき内容だな。どれだけうちの殿下はハブられているんだよ。そしてサラッと俺を含むな。


「呪われているのでしょうか?」


「その可能性もあって一回浄化の儀式に入れられたことがあるって言っていたね」


やれることは何でもやったということか。それでも改善できなかったのだから残るは神頼みと。でも自国って信仰対象はなかったはず。そこら辺は自由だと学んだ。


「私はアレス殿下と婚姻する気はありませんよ。本人にも言ってあります」


「すでにフラれているとか流石はアレス。というか王族からの告白を断る琴音も凄いよ」


「私は帰る目的があります。婚姻したらその目的が意味を成さなくなります」


旦那を置いて元の世界に戻るのも後味が悪いだろ。しかも王族相手なら最低でも子供を産んでからでないと帰してくれないと思う。


「元の世界に帰って旦那が異世界にいますとか言える訳もありませんから」


「頭がおかしい言い訳だと思われるね」


精神病院に送られるわ。特に母親が一体何を仕出かすのか想像つかない。双子だって問題行動起こしそうだし。帰ってからの方が問題多そうな気がしてきたぞ。


「難攻不落かな。これなら他国に行っても篭絡される心配はなさそうだけど」


「そうでしょうか。やろうと思えば色々な手を使って既成事実を作られるかもしれませんよ」


「そういう考えを持っている時点で可能性は大分低くなると思うけどね」


肝に銘じていることだからな。今の国以外に所属するとなると帰れる可能性が限りなく零に近づく気がしているんだよ。篭絡されるということは勇者を利用しようと考えているのと同じだからな。


「アレス殿下やフェイル殿下の国でしたら問題ないでしょうが、他の国については全く知りませんから所属自体が論外です」


「僕達は琴音に借りを作ったようなものだから頼って貰って構わないよ。逆に琴音は借りを作らないこと」


「一番怖いのがそれなんですよね」


恩を売るとか借りを作らせる。価値が人それぞれだからどのような要求をされるか分からない。金銭で解決も出来ないから、もっとも高額なものになるだろう。


「少しは琴音の事が分かっているから、君から無茶な注文が来ないと僕は思っているんだけどね」


「とんでもないことを言うかもしれませんよ」


「現実的に可能なことしか言わないでしょ」


無理難題を言うかもしれないが、それは出来る可能性があればの話だ。実現できないことをやれと言う方が折角作った貸しを無駄に使う事になる。


「だから僕達は安心しているかな」


「別に貸しを作った覚えはありません。これはあくまで仕事の一環です。正直仕事と言っていいのかも疑問ですけど」


やったことが恋愛指導めいたものだからな。外交が仕事じゃないのかよとツッコミたい。このまま何でも屋にならないことを切に祈る。


「そう言えばこの後の予定はどうする?」


この後となると馬鹿姫と馬鹿弟の婚姻関係じゃなかったかな。出席する気はないが、仕事で依頼されている内容でもあるから出ないといけないよな。


「あの様子だと急いで婚姻を進める必要性も無くなったからさ。ちゃんと準備しようと思っているんだよ」


「そうなると私はやることが無くなりますね」


予定がいきなり白紙になるとは思わなかった。確かにあんなラブラブ状態の二人に急いで結婚しろと言う必要性もないか。それによく考えると青年をその場に出席させるのも問題があるな。


「ある意味で丁度良かったですね。婚姻とかの場にあの青年を出席させるのは抵抗がありましたから」


「めでたい場なのにずっとしかめっ面してそうだよね」


そりゃ今までずっと自分に惚れていたと思っていた女性が他の男性と結婚するとなるといい感情は持てないだろう。結婚式を台無しにしようとは思わないだろうけど。そこまでの根性があるとも思えない。


「望まぬ結婚に反対するとか言い出さないかな?」


「それは大変面白い状況になりそうですね」


やられたら本当に困る状況になるけど、反対に楽しませてもらおう。だってどう考えても青年が道化役になるんだから。まさしくピエロだ。


「国際問題に発展するので止めて貰えませんか」


そんな状況になってほしくないフェルトさんが苦情を挟むが問題はない。そもそも青年を出席させないために日程をずらしたのもあるのだろう。


「そうだ。折角暇になるので蔵書を見させてもらっていいですか?」


「古書も含めて?」


「そうですね。何か役に立つ知識があるかもしれませんから」


今いる国だけの本だけでは足りない気がする。それこそ時間が限られているので全部を確認できるはずもないが、やらないよりはいいだろう。何が切っ掛けで元の世界に戻れるのか分からないのだから。


「古書の中には古代語もあるけど読めるのかい?」


「読めます」


「へぇ、凄い。それだけでもこの世界で職には困らなそうだね。古代語の翻訳者が少ないからさ」


驚かれたが古代語に関しては青年でも読める。何せ日本語だったから。ご都合主義にも限界を感じるのは気のせいだろうか。この世界の成り立ちについて興味が湧いたのも古代語の件が切っ掛けだな。


「なら明日は専用の個室を用意するよ。ちょっと表に流出すると不味い物もあるから」


「そんな重要なものを他国の私に見せてもいいのですか?」


「言ったじゃないか。琴音には恩があるって。君は納得しないだろうけど」


「しませんね」


必要以上の親切は逆に怪しく思えてしまうのが常だから。疑い出したらキリがないも分かっているけど、そうしないと対応が効かない場合も出てくる。


「実際は過去の事で今の僕達には関係ないっていうのが本音なんだよ。過去のことを出されて困ることは無いんだけど、面倒になるのはちょっとね」


なるほど。すでに時効を迎えているものが含まれているという事か。この世界に時効というものがあるのかは知らないけど。


「さてこうやって僕と会話していてそろそろ琴音にも注目が集まってきたね」


「あまりそちらに意識を向けないようにしていたのに」


最初はやはり青年が一番視線を集める存在であったけど、長々とフェイル殿下と話していた所為でこっちにも視線が向けられるようになっていた。そりゃ今まで姿を見たことがない人物が次期国王と親しそうに会話していたら興味も湧くよな。


「それでもその服装のおかげで露骨に囲い込みはしてこないはずだよ」


「揚げ足は容赦なく取らせてもらいます」


仮にも外交官だからな。問題に出来るものがあればさっさと指摘させてもらう。だからこそ積極的に話しかけて来ないのだろう。尚且つ殿下と話していているのに横から入って来ることも出来ない。


「それでは妙なことに巻き込まれる前に私は退散させてもらいます」


「馬鹿二人が仲人役を頼んでくるかもしれないのに?」


「あり得ないことだと思いますけど、あの馬鹿二人ですからね」


予想外な事を言われても納得できてしまうのが酷い。大体出会って数時間の俺に仲人を頼むとかどう考えても無理だろ。何を語れと言うんだよ。


「それじゃフェルトさん、後は任せました」


「任されても困ります。ちょ!? 本当に逃げないでください!」


嫌だよ、だって馬鹿二人がこっちを見ているじゃないか。只でさえ殿下と話していて注目を集めているのに、更にあの二人前で加わったら大変なことになる。


「戦略的撤退だよ」


「現実逃避とも言えますが。あとで依頼されるのではないでしょうか」


「絶対に断るよ」


会場から逃げ出した俺に付いてくるミサさんからの突っ込みにも何のその。結婚式にすら出席する気はないぞ。強制イベントじゃなくなったからな。さて明日からは読書の日々だ。

精神的疲労が大きくなってきました。

原因は新人教育ですけど。

あっ、言っておきますが私が受ける方ではありません。教える方です。

何で入社数か月の私が新人を教育しないといけないのか訳が分からないよ。

あと父がCADに嵌ってPCに触れる機会が一気に減りました。

明日には本編も更新したいなぁと考えています。

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