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第3章39

「ミカエル?!なんでここに?!」


開け放った扉に寄りかかり、荒い息をついていたのは……病床にあるはずのミカエルだった。

久しぶりにみたミカエルは、元々細身の身体が病のせいで更に痩せたのか、げっそりとやつれていた。

顔色も真っ青で、唇はガサガサにヒビ割れている。しかし痩せこけた顔の中で、黒々とした瞳だけは輝きを失っていない。

力なくあげられた手が、衛兵に腕を掴まれる私のほうに伸ばされる。

その手を掴んで支えてあげたいのに……腕に食い込む衛兵の力が強く、振り払うことも出来ないのがもどかしい。

「コゼット……ゲホッ……だい、じょうぶ、か……」

「ミカエル!私なんかより、自分の心配をしてちょうだい!どうして来たの!」

「だって……愛する君ひとりを危険に晒すわけには、いかないデショ?」

そう告げると、力無く微笑むミカエル。

私は必死に手を伸ばし……だが、その手はダンヒルの持つ杖にビシリと叩き落とされた。

「痛っ……!」

「コゼット!」

「これは、国王陛下。ようこそおいで下さいました。わざわざ当家に足を運んで頂いて、嬉しい限りです」

「貴様……!」

ギロリとキツイ視線を送るミカエルを、ダンヒルはハッと鼻で嗤った。そして、やれやれと大袈裟に肩をすくめる。

「しかし、貴方は馬鹿なのですか?そんな毒に侵された身体で……恋は男を腑抜けにするとは、先人はよく言ったものです。こんなに無能だったならば、わざわざ危険な橋を渡ることもなかったですね」

「なんだと!」

「ですが、貴方を始末する手間が省けて助かります。ある意味、楽をさせていただける、いい国王陛下かもしれませんね!ハハハハハ!」

狂ったように笑い続けるダンヒルをみながら、私は悔しさに歯噛みした。

その後、私たちは衛兵によって、屋敷の中の一室に連れていかれた。

歩くことも辛そうなミカエルは、衛兵によって乱暴に腕を掴まれて歩かされ、同じく拘束されているため見ていることしか出来ない自分が歯がゆくてたまらなかった。

先ほどまでいたリヨネッタ様の私室と同じ階の、階段を挟んで反対側に位置する部屋だった。扉が開けられ、投げるように突き飛ばされたのは、てっきり牢屋にでも入れられるのかと思っていた予想とは違った広い部屋だった。

設えなどは男性むけだが、部屋の作りはリヨネッタ様の私室とほとんど変わりないので、屋敷の男主人のための部屋なのかもしれない。


「いい部屋でしょう?朝までゆっくりお休み下さい。あと少しの儚い人生なのですから」

口調だけは心底気の毒そうに、しかし笑いながらダンヒルは言い、扉を閉めようとした。

その背中にむけて、私は負け惜しみのように悪態をついた。


「すぐに殺さないなんて、随分とお優しいこと!逃げるかもしれないわよ!」

「もちろんこんな喜ばしい報告は、すぐにでもしたいくらいなのですが……リヨネッタ様は起こされるのがお嫌いでね。ああ、衛兵を配置して置きますので、その部屋からは逃げられないと思いますよ。ご心配なく」


そう告げると、ダンヒルは今度こそ扉を閉じた。ガチャリと鍵の閉まる音がし、足音が遠ざかっていく。


それを見送った私たちは、アンジェと二人掛かりで肩抱きかかえるように、ミカエルを隣室のベッドに連れて行った。

「ミカエル様、大丈夫ですか?」

「アンジェ、ありがとう。そしてコゼット……ごめんよ。こんなみすぼらしい部屋で一夜を過ごすなんて……二人で迎える初めての夜は、素晴らしい思い出にしたかったのに……グッ……」

「そんな夜は永久に訪れないから、気を使わなくて大丈夫よ。……随分元気そうね」

「ハハッ……ゲホッ」

「ミカエル!」

「ミカエル様!」

軽口を叩く余裕があるのかと安心しそうになったが、急にミカエルは激しく咳きこみ……ポタリ、と真っ白いシーツに血が滲む。


「全然、元気じゃないじゃない!こんな身体でどうしてきたのよ!」

「……言ったよネ?愛する君ひとりを危険に晒すわけにはいかないって」


そう言って、パチリとウインクをしてよこすミカエルを見た私は、とうとう呆れ返ってため息をついた。


「はあ……それより、身体の調子はどうなの?エリオットさんは面会謝絶だって言っていたのに」

「ウン。エリオットが掻き集めてくれた薬のお陰で、意識が戻って。その時、君がここに潜入したって聞いちゃってね。居ても立っても居られないヨネ、それ。抜け出してきちゃったよね」

「抜け出さないでよ!……でも、意外に元気そうで安心したわ……って、すごい熱!」

「ウー……ン……まあ、ちょっとだけ熱っぽいかな」

激動の連続で興奮していた意識がれいせいになってきたとき、ミカエルの手のあまりの熱さに驚いた。

ミカエルの手は燃えるように熱く、秀麗な額にはみるみるうちに大粒の汗が浮かび上がった。

「こんなに熱が……!お医者様にみせなきゃ!」

「コゼット様!落ち着いて下さい。でもどうしましょう。医者なんて呼んでくれるはずが……」

「僕は大丈夫だから……それよりアンジェ、受け取れた?」

「え?は、はい……これは、なんですか?」


そう言ってアンジェが取り出したのは、黒い布にくるまれた、小さな包みだった。




間が空いてしまい、申し訳ありません。

多忙だったのがひと段落つきましてので、また更新頑張ります!

( ̄▽ ̄;)

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