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第3章34

「コゼッ……コーデリア様、片付けまで終わりました。生徒さんたちの方は昼食の準備に取り掛かるそうです。料理長はどちらに?」


アンジェがキョロキョロしながら歩み寄ってきた。


「あら、もうそんな時間なのね。料理長は……かくかくしかじかで、部屋を片付けに行ったわ」


「そうですか!……それなら上手く、屋敷に入り込めそうですね!」


ポンと手を打つアンジェの口を、慌ててふさぐ。


「シッ!声が大きいわ!でもそうね!案外簡単に入り込めそうでよかったわね」


とはいえ、ミカエルが毒を受けて倒れてから、もう一週間も経ってしまった。

上手く入り込むためとはいえ、時間をかけ過ぎたかもしれない。……残りの猶予はあと一週間。

わざわざ部屋を明け渡してくれる料理長には悪いが、屋敷に入り込んだら早々に動いて脱出しなければ。


頭を捻って考えていると、アンジェはすこし不安げに、その流麗な眉を寄せた。


「ええ。ですが、少し簡単すぎる気もします。なんだか上手くいき過ぎて不安になるというか……杞憂ならいいのですが」


「心配性ね。気持ちはわかるけど……でもね、アンジェ。悪い結果というのは、気持ちが引き寄せるのよ。いい結果だけをイメージなさい。そうすれば、人間ってのは自然とそこにむかうものなのよ!」


私は胸を張り、殊更自信ありげにアンジェに向かって言い放った。

そう。私だって不安がないわけじゃない。

でも……出来るか出来ないかじゃない。必ずやらなきゃいけないのよ。


「コーデリア様……」


「いい?必ずやり遂げるイメージを持つの。そこに至るまでの最短を見つけ出しましょう。私たちなら必ず出来るわ。だって……この世界にたった二人ぼっちの、転生者タッグだもの。こんなに最強なタッグなんて、他にいるわけないわ!」


私の言葉に、アンジェははじめポカーンとしていたが、その表情は次第に明るい笑みに彩られていった。


「うふふっ!そうですね!私たちに出来ないことなんてないですね!」


アンジェは青空のような笑顔を浮かべると、私の手をギュッと握りしめた。


「私……コゼット様のこと、誤解していました。正直、最初は邪魔なバグキャラだと思っていて……私の隠しライバルで、ハーレム作ってるのかなって」


「バグ……」


バグキャラか…………

私は遠くを見るように、目をすがめた。

そういえば、娘がよくバグだあーー!とか叫んでいたわね……懐かしいわ。



…………バグってなんなのかしら。



「すみません……でも、実際にちゃんと話してみたら……コゼット様は、ハーレム作りたいとか、そういうのじゃないんですね。なんだか、お母さんみたい。お母さん……あは、今は同い年なのに、変なの!」


誤魔化すように明るく笑うアンジェの目は、少し潤んでいるようにみえた。

私は胸がキュウッと引き絞られるような気がして、思わずアンジェを引き寄せ、抱き締めていた。


「コゼット様……」


「お母さんって、呼んでもいいのよ。おかしくなんてないわ」


「あ……」


それから私はしばらく……空色の瞳からポロポロと綺麗な涙を流すアンジェが落ち着くまで。彼女のその細い肩を優しく撫で続けた。




「師匠ー!!片付けが終わりました!いつでもお部屋に入って頂けます!」


なんだろう……高速で振られる尻尾が見えるのは気のせいだろうか。

飼い主を見つけた犬のように走り寄ってきた料理長は、私たちの前でキキーッと止まるとビシッと敬礼した。


「ありがとう!それじゃあ私たちは荷物をまとめてくるわね!お屋敷の食事の支度は任せたわよ」


「はい!ヨロコンデー!」


居酒屋……?

ブンブンと全力で手を振る料理長に見送られ、私たちは滞在している宿へと向かったのだった。





「お前……今度はなにをたくらんでいるんだ?」


「ナ、ナニモ……なにもなーいですよー?」


宿の部屋に帰った私たちを迎えたのは、仁王立ちで佇むゲオルグとレミアス、そしてジュリア様だった。

三人はたびたび宿をあける私たちを、だいぶ怪しんでいたらしい。おまけに、地味にシシィが部屋の隅からジトーッとした目でこちらを見つめている。


前世の記憶があるのは私とアンジェだけの秘密だから、他のみんなには内緒で色々と動いていたんだけど……ついて来ようとするシシィを振り切ったり、マヨネーズを渡してゲオルグを煙にまいたりしていたのがとうとう効かなくなってしまったか。


「怪しすぎるだろ!」


「コゼット。貴方のことですから止めても無駄だとは思いますが……私たちにもちゃんと事情を話して下さい。心配なんです」


呆れ返るゲオルグに、悲しげに眉を寄せるレミアス。ジュリア様は……あ、ヤバイ。めっちゃ怒ってる。


腰に手を当て燃えるような赤い髪を振り乱し、鬼のように眉を釣り上げたジュリア様は、私のことをピシリと指差すと声を張り上げた。


「コゼット様?私たち、お友達ですわよね?私、もはや貴方のことは親友といってもいいほどに大切に思っていますのよ。それがなんですの?!アンジェさんと二人でコソコソコソコソ!私だけじゃなく、レミアス様にまでご心配をおかけして!毎日毎日どこに行ってるのか知りませんけど……」


…………おうふ。

怒りの爆発したジュリア様は、とんでもなかった。

赤のジュリア、怒りの説教タイムは三時間続いた。

終わった頃には私の魂はどこか遠くに旅立ち、アンジェは子鹿のように震え……ゲオルグは恐怖で部屋の隅に縮こまっていた。


「女って怖え……」






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