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第3章18

初対面から日を改めた翌日。

今度はアンジェも含めて私達はエリオットさんの経営する店を訪れていた。

昨日の店とはまた別の、大きなデパートのような店で、応接室もかなりの広さがある。


私たちを自ら応接室に案内したエリオットさんは、ソファに座るなり商談を切り出した。


「それで、コゼット嬢。ルメリカで販売する商品なんだが……このハイヒールや乗馬ブーツ、乗馬服ははそのまま王家に献上しても良いくらいだ。しかしそれ以上に、この『ゴム』という素材は是非とも製法を教えて欲しいのだが……」


商人の顔になったエリオットさんは、チラリと私の表情を窺う。しかしゴムの製法についてはエーデルワイス伯爵家の独占技術であり、その製法は完全に秘匿している極秘事項だ。

いくらレミーエ様の旦那さんでもおいそれと教える事は出来ない。まあその事はエリオットさんもさすがにわかっているだろうから、今のは軽いジャブのようなものだろう。

教えてもらえたらラッキー的な。

私は困ったような表情を作って曖昧に微笑んだ。


「……その件についてはお父様にお任せしているので私には決められませんわ。権利関係など色々と難しくって。オホホ」


実際のところ、最終決定権は私にあるので教える事は可能だが、難しすぎてお父様に丸投げしているのは本当だ。

しかし、なんだかこうやって演技をしていると、いっぱしの商人になったような気分になってなかなか楽しい。

私の素晴らしい演技のためか、エリオットさんの頬がヒクヒクしている。

厄介な商売相手だと思っているに違いない。


「……今更、オホホとか言われると、なんとも……ぶっ……」


そっちか。

どうやらエリオットさんの中での私は、完全に色モノキャラになってしまったようである。


「……コホン、ところで美容、健康グッズの方はいかがでしょうか。私としてはこちらも是非お勧めしたいところですの」


私はズズイ、と持参した健康グッズを取り出した。

ルメリカまでの長い馬車の旅で、特に重宝したのがアオダーケフミ……青竹踏みである。近年、日本でもなにかと話題になったエコノミークラス症候群にピッタリ!長旅が多いだろうエリオットさんに是非プレゼントしたい逸品である。


私が取り出したアオダーケフミを手に取ったエリオットさんは、アオダーケフミを下から覗いたり横から眺めたり、コンコン叩いてみたりと隅々まで検分している。


「こちらはアオダーケフミと申しまして、裸足でこれを踏み踏みして足裏の血行をよくする器具ですわ。馬車などの移動でジッとしていると、足がムズムズしたりしますでしょう?移動の多いだろう、エリオットさんに是非と思って持ってまいりましたの」


「なるほど、面白い。しかし素晴らしい発想力だな。後で試してみるよ、ありがとう。それで、これは何に使うんだ?」


アオダーケフミを嬉しげに懐にしまうと、次にエリオットさんが興味を示したのは、ふらフープだった。

……ところで、結構な大きさのアオダーケフミがすっぽり入る懐がある、あの服の構造が気になって仕方ない。


「あの、その服の構造……」


「ただの輪っかのように見えるが、これも健康グッズなのか?」


「あ、ハイ」


私は以前に比べて随分上達したふらフープをエリオットさんに披露しようと立ち上がった。


「これは、こうして腰でぶん回すダイエット器具で……」


カランカラーン


「……こうして運動することで、ウエストの引き締め効果が期待できる……」


カランカラーン


「「……」」


「……助けてジュリア様!」


「ふふん!私にお任せよ!」


私の掛け声に、隠れて待機していたジュリア様が優雅に登場した。

ジュリア様は得意のダンスのステップを華麗に踏みながらふらフープを操り、綺麗に指先まで伸ばされた腕をふらフープが回転する様は演舞のように美しい。


「ふわあああ!美しー!」


「おお、これは見事な!」


ふらフープのダイエット効果の宣伝の域を超えて、芸術にまで昇華されたそのダンスに、私はふらフープの未来を見た気がした。


……あれ?……新体操?


いつの間にか起こっていた手拍子に合わせてジュリア様が手を高く掲げ……次第にダンスはクライマックスに突入し激しさを増していく。ジュリア様がふらフープを持って高くジャンプし……ゲオルグがその腰を掴んでリフトし、華麗に回転する!

そしてラストは、ゲオルグの肩の上に抱え上げられたジュリア様がふらフープを持ってポーズ!

部屋にいた私は勿論、エリオットさん、シシィ、レミーエ様、アンジェから拍手が沸き起こった。


「芸術的な演技だったわね!ゲオルグのリフト技術も素晴らしかったわ!いつの間に……」


……ん?


「……ゲオルグ、なにしてるの」


「おう!ヒマだったんだ!」


ゲオルグはキラキラと輝く汗をかいた額を拭いながら、爽やかな笑顔で意味不明な言葉を言い放った。

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