エピローグ
世界の崩壊の危機を脱したあの日以来、黄金に輝く宝玉を持った巨大なドラゴンを見た者はいない。
ある者は天に帰ったと語り、ある者は地下深くに潜ったと語る。ある者は大地の浄化の礎となったとも語った。ただ一つ言えることは、世界中の人間のほとんどが、そのドラゴンを見ることはなく、運良く目撃した者も、そのドラゴンの行き先は当然知らなかった。
聖勇者シェラガ=ノン。
希代の考古学者の著書があの日以来ないことから推察するに、彼は未だ悲劇の姫、カルミア=サイディールの体から発せられる邪悪なエネルギーを浄化し続けているに違いなかった。彼が残した最後の著書が『作業用氣功術のすすめ』である。この著書が将来、学校での術の授業のテキストになったという。『星辰体』という言葉は、今回の事件をきっかけにして、親友の考古学者であり、医者としての側面も持つテマ=カケネエといった有識者の研究対象となり、彼自身を指す代名詞として使われることも多いが、彼以降その体を手に入れたものはいないとされ、テマの目撃証言と論理的推察を耳にした何人もの医者が、彼の身体の研究をしたいと申し出たが、その申し出そのものが宙に浮いてしまった状態で時間だけが過ぎている。
シェラガの無二の親友にして同じく聖勇者、レベセス=アーグ。
彼は、地上に戻った後、長期休暇を出していた軍に復職し、大将まで昇進するが、そこでラン=サイディール国の属国となっているドレーノ国の総督として赴任することになる。武官でありながら、その慧眼を恐れられ、自分から遠いところに配置しようとした、ラン=サイディール宰相ベニーバ=サイディールの人事である。だが、ベニーバの愚息リャニップの暴走を許す結果となり、結果首都デイエンの国防は衰えることになる。そして十数年後、SMGの少数精鋭の侵攻部隊により、壊滅的な打撃を受けることになってしまう。
ジョウノ=ソウ国先代皇帝のテマ=カケネエ。
彼は、この件の後も考古学者として旅を続ける。シェラガから託された聖剣『勇者の剣』を、次の所有者に預けるためと、本人は語っているが、実の所ジョウノ=ソウ国に戻りたくないだけではないかと言われた。戻ってしまえば一国の皇帝の父として、望まざる執政に駆り出されるのは間違いなかったからだ。一時期は聖剣を自分が使いこなすことが出来るかを試したこともあったが、それは不可能だった。聖剣を使える条件が血統なのだとすると、シェラガの子供も使えるはずだ。だが、そうとは限らない。その発想から調査を進めた結果、古代帝国は聖剣を使える者を募り、よりうまく使える者を交配させ、聖剣使用に特化した戦士の血族にまとめようとしていた事実にたどり着く。シェラガがその血を引いた一族であるかは不明だが、聖剣使用に関して言えば、血統は得手不得手こそあれ、決定的な要因にはなりえないという結論を導き出すことができた。何故、使える者と使えない者がいるのか。それが、今後の彼にとっての研究課題となっていく。
SMGの特派員ゴウトとキマビン。
彼等は、シェラガの実質的な死をSMGの頭領リーザ=トオーリに伝えた。彼女は、一言も言葉を発することはなかったが、一度天を大きく仰ぎ、その後大きくため息をついたという。二人の戦士は、再び特派員の仕事に戻ったが、デイエン駐在を強く望み、テキイセへの赴任は固辞したという。
ガイガロス人の唯一の生き残り、ガガロ=ドン。
彼は、再び生きる糧を失い、死に場所を求めて彷徨う事になるが、とある場所でもう一人の超常の力の主、フィアマーグに魅入られ、その者の意志によって活動をするようになる。類まれな彼の戦闘センスは、フィアマーグによって引き出され、聖剣の力を使うことなく、聖剣の本質である『氣』のコントロール術を身に着けるに至った。彼の超えるべき壁であったシェラガ=ノンの息子の前に、何度となく敵としてその姿を現す。執拗にファルガに拘る彼の行動原理はこの時に決定されることになる。
鍛冶屋ズエブ=ゴートン。
かつて史上最強と言われた元海賊は、SMGの特派員の職も辞し、己の妻と子の為にラマの村へ隠遁していたが、親友夫妻の子が預けられることになった。彼と彼の妻であるミラノは、彼への恩返しとでもいうように親友夫妻の子、ファルガ=ノンを育て続けた。そして、彼の育てる少年は、とある事件に巻き込まれることで聖剣と遭遇、ラマの村を飛び出すことになる。
かつては親友同士であった者の血を引く者達が相見える時、約十年の時を経て、神の体と黄金の鬼子の力を受け継いだ、少年ファルガの冒険が始まる……!
取りあえず、界遊記主人公ファルガ=ノンの父親、シェラガ=ノンの話はこれでお終いです。
修正などがありましたら、反映していきますが、少し休んで(遅筆の癖に休むのか)本編の執筆をのんびり死ぬまでに書きあげられればな、と思っております。
界遊記のスタート自体も、もう一度読み直して、修正していった方がいいだろうなー、なんて思ってます。
ゆっくりと、自分が満足いくように書いていこうっと。
ありがとうございました。




