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界遊記外伝 ~ ファルガの父 ~  作者: かえで
滅びゆく権力からの復讐

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37/39

再会1

更新がどんどん遅れております。申し訳ありません。

一応三月中に、と思いまして、先走ってはおりますがアップします。

但し、誤字脱字を見つけた場合はその都度直していきますので、よろしくお願いします。

 黄金の球体は、その場にあり続けたが、高速で回転しているように見えた。

 いや、表面が高速で流れてはいるのだが、回転とは言い切れない。ただ、形状こそ安定したとはいえ、完全に固体として物質化したようにも見えなかった。若干輝きには濃淡があり、その濃淡が規則性なく蠢いている、といった感じだ。だが、その形状は球体であることを崩さない。ちょうど、この星を遥か遠くから見た時の雲の動きに似ているのだが、それは今この場にいる稀代の考古学者は勿論のこと、戦士たちには知る由もない。

 黄金の光は、この世の存在を全て呪い尽くした強力な悪意の、純粋な悪意部分だけを抜き取ったエネルギー。そのエネルギーは、強い生命エネルギーだった。代謝を早め、この場にいる五人の傷を治すだけに留まらず、体力をも回復させた。

 考古学者であり、先代のジョウノ=ソウ国の皇帝テマも、強い肩凝りには晩年まで悩まされたというが、この瞬間だけは完全に治っていたと記している。

 シェラガの変換したエネルギーは、ありとあらゆる生物の生命活動を活性化させているようだった。

 やがて、テマの仮説を裏付ける現象が、光の玉を中心に発生する。

 浮遊大陸墜落後、数百年の間瓦礫に埋もれていたこの地に、なんと植物の芽が姿を見せ始めたのだ。彼らは、何十年とこの地を調査してきたが、一度たりともこの瓦礫の中で植物を見たことはなかった。

 生物はいる。だが、それは古代帝国で研究された培養槽から逃げ出した、すでに絶滅した生物や改造された生物、果ては生物とは呼べないような異形の怪物ばかりだった。

 彼らの生活に植物は必要なかったのかは不明だ。だが、トリカの遺跡研究施設から外に出ると、一度たりとも植物は生えていなかった。文字通り、灰色の世界。そこを苗床にし、営みを繰り返す生命の痕跡の存在は、微塵も感じられない。

 土壌の汚染か。

 はたまた別の理由か。

 それはわからない。

 だが、今ここで、シェラガが中心となり、撒き散らす柔らかい黄金の光は、大地に根差そうとしてそれを拒絶されていた様々な植物の種子たちに力を与えたのだろうか。

 その双葉を周囲にゆっくりと開き、徐々に成長を開始する。

 元々成長する準備はしてあったのだろう。エネルギーの供給を受けた次の瞬間には爆発的にその茎を伸ばし始めた。

 最初は、黄金の球体を中心に、同心円状に苔が大地を覆う。

 その苔から、裸子植物が茎を伸ばし、被子植物へと移行する。

 この惑星が出来てから、植物がたどった進化の流れを、この瓦礫の地で高速かつ同時に目の当たりにすることになる、レベセスを初めとする五人の男たち。

 ある者はこの高速かつ広大な変化を、驚愕と共に観察し、またある者は変化の中心のシェラガに向かって語り掛けた。

「……俺の周りを覆う光が強すぎて、外の様子はよくわからないなあ。けれど、遺跡内にあった、妙に張りつめた空気は徐々に緩和されているのは感じるよ。

 外に出てみたいとは思うけど、今はここにいるしかないんだよな。その様子を見ているお前らが、ちょっとうらやましいよ」

 相変わらずの能天気な口調で、心情を語るシェラガ。

 だが、レベセスだけは、シェラガの変化に気付いていた。

 徐々にシェラガの口振りがゆっくりになってきている。そして、質問に対する彼の答えのタイミングが徐々に遅くなってきている。

「シェラガ! その球体を解いてすぐに出ろ! お前の意識は、強力なカルミアのエネルギーによって、徐々に溶解し始めている! このままだと、完全にお前は意識を失うぞ」

 レベセスの言葉に、三人の男たちは唖然とする。

 言われてみれば、シェラガの様子が徐々に変わり始めている。だが、それをすんなりと受け入れていた自分たちがいる。

 何故だ。

 何故、自分たちはシェラガの意識の溶解を全く違和感なく受け入れていたのか?

 ガガロが跳躍し、大きく距離を取る。聖剣を発動させずに、オーラ=メイルに身を包んだ彼は、斬撃と共にシェラガを球体から助けそうというのだ。

「見た事か! 貴様は色々と容易に事を成しすぎた。だが、この禍々しい力を押さえつけ、浄化するなど、我々生命体には所詮無理だったのだ! 待っていろ。今から貴様を助け出す。黄金の輝きを割り、女を殺して貴様をこの地に引きずり出してやる!」

 だが、ガガロの言葉の次の瞬間、黄金の球体の流動的な表面は動きを増したように見えた。

「……やめておけ、ガガロ。

 今、俺の身体はカルミアの憎しみのエネルギーを濾過して、強力な生命エネルギーだけを外の放出するように調整してある。刺激を加えると、その微妙なエネルギーのバランスが崩れ、大爆発を起こすぞ。よしんば爆発を起こさずとも、カルミアの身体から発現し続ける悪意のエネルギーが、お前たちを直撃することになるぞ。そうなれば、どうなるかわかるだろう」

 言葉の内容は恐ろしく深刻かつ脅威だった。

 だが、その内容を語るには、彼の言葉は柔和すぎた。そして、語る口調も穏やかに、神々しくさえ感じられた。

「もともと、この選択をした時から、こうなるのはわかっていた。けどな、俺が納得するのはこの方法しかなかった。

 カルミアを放っておけば、半永久機関となったカルミアの悪意がこの世界を破壊し続けるだろうな。

 どういう破壊かは想像もつかん。物理的にこの世界を壊すかもしれないし、この世界はこのままにして、生きとし生けるものの全ての心を破壊し、心のない生命体とも呼べぬ蠢く存在が闊歩する世界かも知れない。はたまた、物理的にも精神的にも完膚なきまでに破壊し尽くし、生命の全く存在しない世界になるかもしれない。

 むしろ、その先の世界の想像はお前たちの方が簡単なんじゃないのか? 残念ながら、俺の体は、カルミアの悪意を受け付ける体ではなくなってしまった。それは同時に、俺の体が人ではなくなっていることを意味している。羨む人間はいるかもしれない。けれど、お前たちとその感覚を共有できないのは辛いぞ」

 そこまで言葉を紡いだところで、シェラガの言葉がトーンダウンする。

「……まあ俺自身は、生命体が踏み入れることができないところに行けるようになったという楽しみはあるんだけどね。深海とか、太陽とか、普通に考えたらいけない場所に行ける体を手に入れたわけだからさ。楽しみは楽しみさ」

 黄金の球体の中で、まるで古代帝国の遺跡にあった新発見を目の当たりにしたような目を輝かせた笑みを浮かべているシェラガを、その場にいる五人は容易に想像できた。

「……カルミアは指輪の禁呪によって、半永久的な機関を手に入れた。

 それは、カルミアの身体を触媒にし、無尽蔵にエネルギーを増幅させる。聖剣と似ているシステムではあるけれど、それとは比較にならないほど、人を蝕む。そして、そのエネルギーは『憎悪』。そんなものに永遠に晒され続けることになるカルミアはかわいそうだよ」

 黄金の玉の発する光が引き締まる。シェラガの眼差しに強い光が灯ったかのごとく。

 テマは光の玉に触れんばかりに近づき、大きく、しかし穏やかに語り掛ける。

「しかし、それでは君はどうなる? 半永久的に悪意を発し続ける少女と共にいるというのか? 幾ら星辰体を持ったところで、それではカルミアの持つ悪意にやられないというだけで、解決にはならんだろうに」

「……そうでしょうね。でも、これをしなければ世界は滅びるでしょう。けれども、俺がここで踏ん張る事で、世界はとりあえず存続し続ける。結局これが一番、俺が納得するんです」

 テマの双眸から涙が流れ落ちた。

 伝説の聖剣の勇者は、今ここに、悪を滅ぼす事ではなく、悪と共存し、悪のみを濾過し、悪を浄化することにより世界を守ろうというのか。その努力はといえば、半永久的だ。世界を存続させるために、その身を投じる。

 黄金の球体が、一瞬波打った。

 なぜかシェラガが悪戯っぽくニヤリと笑ったように、この場にいる五人には感じられた。

「……てめえ、逃げるつもりか? まだ俺との決着はついてないだろうが!」

 ゴウトは、腹の底から響くようなドスの利いた声で、シェラガを恫喝する。だが、その眼からは、凡そ想像のつかない物が流れ落ちていた。

「決着か。

 悪いがもう少し待っていてくれ。指輪の機構も、所詮は人間が作った物。今でこそ半永久的にエネルギーを増加させ続ける予測だけれど、そのうち壊れるさ。そこまで人間は優れた技術を持っちゃいない。俺はそれまで待ち続けるさ。

 方法としては、カルミアの身体を完全に吸収して、指輪の機構だけを排除した状態でカルミアの身体を再構成してしまえばいいんだろうけれど、それを成功させる自信はないし、もし仮にそれがうまくいったとしても、それはもうカルミアじゃない。俺が作り出した、カルミアに限りなく近い存在にすぎない。

 それもちがうような気がしないか?

 トリカ卿が本気で守りたかった……お前も今まさに守りたいと思っているカルミア姫ではないはずだ」

 シェラガは、この過酷な状況に置かれてなお、彼を陥れ殺そうとさえしたトリカまで救おうというのか。

 仮に、カルミアがシェラガの濾過作業によって、指輪の機構が外れたとしても、もう、体が崩壊し、生命活動を停止してしまったトリカには知る由もない。

 だが、彼が召された天には、シェラガの思いは届くだろう。

「……なんてな。

 俺だって聖人君主じゃない。正直、ちょっと飽きてきているんだよな。この、カルミアのエネルギーを浄化して、外に放出する作業にさ」

 彼がニヤリとした理由は、これか。

 レベセスを初めとする五人の男たちは、何となくシェラガの性格がわかっていたのだろう。それぞれの男たちが涙を流しながらもニヤリと口角を上げた。

「……けどさ、もうやめるわけにもいかないんだよね。やめたらえらいことになっちまう。だから、早めに『悪意浄化システム』を体に覚え込ませて、自然にできるようにして、後は寝て待つ事にするよ

 もし、お前たちが生きているうちにカルミアのエネルギー増幅システムが寿命を迎えてくれれば、また会えるかもしれないな。その時は、うまい物でも食わせてくれよ」

 黄金の球体が一度大きくなった後、また元の大きさに戻った。

 彼を見守る戦士たちには、それが何故かシェラガが大欠伸をしたように感じられた。

「……それじゃ、先寝るよ。おやすみー」

 黄金の球体の表面が、無秩序に流れることをやめ、硬い個体になったような気がしたレベセスは、思わず右掌で球体を触った。

 熱すぎず、冷たすぎず、ちょうど一肌より少しだけ温かい、心地の良い温度が、彼の掌に伝わってくる。

 柔らかすぎず、硬すぎず、得も言われぬ感触。だが、その手触りは不思議な安堵感をもたらす。

 すべすべ。ふわりとした感覚。

 誰しもが覚える安堵。

 だが、彼らは何となく感じていた。シェラガとの今生の別れになるであろう、と。

 シェラガは死んだわけではない。いや、彼は死という概念を超越したはずだ。正確には、彼は永遠にそこに居続けるだろう。この世界が消滅しても居続けるかも知れない。星辰体とはそういう物だ。

 だが、光の玉を見つめて立ち尽くす五人の男たちには、得も言われぬ寂しさだけが残った。


 古代帝国の浮遊大陸が、三百年前の大きな戦争の末に墜落して以後、彼らの元には瓦礫の山が常に広がっていた。墜落当初は、瓦礫から有害な物質も流れ出ていたようだが、それもある程度の月日が浄化してくれた。あるいは、彼らの体が徐々にそれに慣れていったのかもしれない。

 それからの永い時。単純に灰色の世界が広がるだけだった。

 その中で、古代帝国の研究種であった彼らは、ついに研究所からの解放を享受することが出来た。

 施設の崩壊は、他にも様々な種の解放を誘発した。

 彼らのように、進化の過程でガイガロス人と分岐し、地上の覇権を爬虫類人の立場から争ったリザードマンたち。彼らは、学名では亜竜人族と呼ばれ、遺伝子レベルでは哺乳類人である人類とチンパンジーとの差程度の違いしかなかったと言われる。だが、その結果、ガイガロス人とリザードマンたちの容姿や知能の差は、歴然としていた。

 そして、それは奇しくも哺乳類人と爬虫類人という発生の全く異なる種族が、容姿は愚か、言語などの文化形態や文明水準が非常に似たものとなり、結果地上の二大支配者の地位に上り詰めたのは、収斂進化といっていいだろう。そして、この収斂進化は、同じ環境であれば、例え発生の違う種族であっても社会の構成の仕方も似てくるという、特徴的かつ興味深い学説を導き出す事になる。所謂文明的収斂進化と後年テマが名づける学説だ。ただ、それが異種族混在、『種族の坩堝』と言われる社会を作るかどうかは、また別問題となってしまうのだが。

 他にも、リザードマンに滅ぼされたというギガント=リザードもいる。爬虫類人がまだ類人竜である頃の種も、遺跡内に放たれた。それどころか、大昔に絶滅している大きな蜥蜴と言っていい肉食の恐竜。そして、恐竜なき時代に王者として闊歩していた、体高が現在の巨鳥の数倍もあるような恐鳥類も、世に放たれることになった。

 大きい者だけではない。現存の種よりもはるかに小さい種族から、どう見ても古代神の設計ミスであるとしか言えないような容姿の、異形の怪物もいたという。

 いつしか、古代帝国の遺跡は過去の生物、そして異形の怪物の安息の地として名が知られるようになっていった。それでも、遺跡内は広大だ。そう簡単に怪物に出会う事はなかったが。

 その中の、地上の覇者に一番近かったのが、リザードマンの中でも、特に知能が高かったと言われる『インテ=リザード』だ。知能の蜥蜴人というその名の通り、仲間とは言語で意志を交信し、己の身体能力や身体武器に頼らぬ、道具の文明を構築し、更にリザードマンとしての並外れた身体能力が加わったことで、他の爬虫類人から頭一つ抜きんで、インテ=リザードの栄華を極めんとするところまで行ったとされる。

 だが、その『知能の蜥蜴人』は、食が偏っていた。インテ=リザードの臨月の雌は、なんと同族の嬰児しか食しなかったという。これは、種の限界ではなく、文化の形態らしかった。そうなれば、嬰児の親たちは子を守る為に、臨月の雌に襲われないようにした。それが、臨月の雌殺しという文化に繋がり、ガイガロス人の先祖よりも栄華を誇っていた種の絶滅を招いた。

 今、インテ=リザードが古代帝国の培養槽で蘇った。彼らはなぜか、自身の種族が絶滅した原因をきちんと把握していた。それゆえ、この復活では、同族の嬰児を食す文化を排する為の文化を後付けではあるが必死に構築した。そして、古代帝国の遺跡内の支配権を徐々に確立してきた。

 そんな彼らが欲したのが、永遠の命か、それに準ずる能力だった。復活して、自身の種族の絶滅理由を検討したインテ=リザード。そこには、拭いきれぬ『刷り込まれた価値観』があった。人間で言うところの『験担ぎ』。文化によっては真逆の内容を示す価値観。だが、それを払拭できず滅びたのがインテ=リザードだった。

 一部のインテリ層はそれに気づいてはいたが、気づかぬ大多数の価値観を変えることができなかった。それ故、彼らの乗る『ハリボテの豪華客船』は沈没することになる。そして、蘇った大多数は、復活してなお価値観を捨てることはできなかった。それ故、彼らは子孫を残すことではなく、永遠の若さを保ち、永遠の寿命を手に入れることを目指したのだった。

 そんな彼等からすれば、突然強力な生命エネルギーを周囲にばらまき始めた、黄金の光の玉は垂涎の代物となった。そばに置けば、体力が戻るどころか怪我も完治し、寿命まで伸びるかも知れない。うまくいけば永遠の命を手に入れることができるかも知れない。これほど彼らの目的に沿った物はほかにないだろう。

 突如発生し、接近してきた悪意の巨大なエネルギーの正体と目的とを探りに来たインテ=リザードの集団からすれば、突然の大きな拾い物だといえた。

 知能の低い古代生物たちは、突然発生した巨大なエネルギーに恐怖を覚え、距離を取る中、インテ=リザードは十数匹の集団で、黄金の光の玉の強奪を開始した。

 奇襲は、先日のリザードマンの集団に比べて、迅速かつ巧妙だった。

 術を用いて発生させた爆発で、光の玉の周囲に蠢く者たちの注意を、反対方向に向ける。その間隙を縫って光の玉の傍に立ち尽くす者を最低限排除し、光の玉のみを奪い取る作戦に出たのだ。

 猿とも蜥蜴とも違う、人間の顔を持つ生命体。だが、どちらかといえば爬虫類顔といっていい人間の集団が、巨木の枝から見下ろす。その口元が緩んだ瞬間、光の玉の先の苔むした瓦礫の山が弾けとんだ。


 光の玉を見つめながら、それぞれの思いを強くしていた五人の戦士たちは、突然背後の瓦礫が爆音とともに弾け飛んだことに、驚きはしても慌てなかった。

 気配を消していたつもりだったインテ=リザード。

 だが、彼らの殺気は聖剣の勇者二人は愚か、高機動兵士である三人の男たちにすら把握されていたのだった。

 爆炎が上がった次の瞬間、彼らは爆炎を背にして各々の武器を構え、インテ=リザードの襲撃に備えた。

 爆炎と共に一の矢を番えていた弓の一番隊の蜥蜴男は度肝を抜かれた。

 この光の玉を守る者たちは、我々の考えを予測している。ともすれば、心を読んでいる気さえする。一瞬気圧された弓の一番隊。その間隙を縫い、二刀流の聖勇者は滑るように地面を走り、一気に間を詰めると、掬い上げるように弓を持つ左手首を切り上げた。

 どんなリザードマンより人間に近い、ともすればガイガロス人の異人種と言っても過言ではない彼らは、当時のガイガロス人の先祖と戦闘を繰り返しては、領地の奪取を続けたそうだが、種族としては、当時のガイガロス人よりも上回っていた。それでも、ドラゴン化をするガイガロス人と、ドラゴン化ではなくリザード化するインテ=リザードの決定的な戦力差は、翼の有無だったとされる。インテ=リザードの天空翔の術の開発があと数年早かったら、生き残ったのはインテ=リザードだったに違いない。学名がホモ=ガイガロス=ガイガロスとなっているガイガロス人と、ホモ=インテ=ガイガロスとなっているインテ=リザードは、爬虫類人同士の宿命の相手だと言える。

 手首を切り飛ばされ、悲鳴を上げ、何かを叫んだ。言語のようではあるが、意味はガガロにもテマにもわからない。

 蒼い血が手首から吹き出し続け、のたうち回るインテ=リザード。だが、その場にいた五人の戦士たちは目を見張る事になる。

 爬虫類人の特徴の一つに、爬虫類としての習性と同じ、四肢の再生能力がある。ガガロに手首を飛ばされたインテ=リザードの手首が驚くべき速度で生え変わり、復活する。若干、握られた拳は体躯に比べて小さい気もするが、再生してすぐに通常の手のように使えるその手は、脅威だった。

「まさか。爬虫類人はそれほどに再生能力が高いのか!」

 テマは驚いて叫ぶが、直後に、それが黄金の球体からもたらされる美しい輝きで代謝が進んだ事に思い至った。

 別のインテ=リザードをゴウトが切り下げた。だが、その刃物傷も黄金の光に照らされ、瞬きする暇もなく癒着した傷口が青黒いかさぶたに覆われ、直ぐに新しい皮膚に変わっていくのは、恐怖を通り越して、ただただ驚嘆を周囲にもたらすだけだった。

 驚愕したゴウトに襲い掛かる別の刃。それを庇おうとしたキマビンが、その斬撃に左の脇を抉られてしまう。

「おおおっ……!」

 思わず苦痛の呻きを漏らすキマビン。だが、その傷もあっという間にかさぶたとなり、剥がれ落ちた。そこにはまだできたての皮膚がある。

 その回復に驚いて動きを止めたインテ=リザードの壮年の戦士の太ももを斬り飛ばし、その勢いで弾き飛ばすレベセス。だが、空中にあるインテ=リザードの戦士の足は、その体が接地する前に新しく生え変わっていた。足につけていた甲冑のみがない、不思議な格好ではあるが、間違いなくインテ=リザード本人の足だった。

 レベセスは周囲に注意を払う事を怠ることなく、己の斬ったインテ=リザードの身体の修復の様子を見終わると、吐き捨てるように呟いた。

「シェラガの奴、敵味方問わず治癒している。

 シェラガが、というより、カルミア姫の発した無尽蔵の破壊エネルギーを濾過した黄金の光が、無作為に生物の治癒力や生命力を高めているという事なのか」

 レベセスと背中合わせに立ったテマは、剣を握りなおしながら呟いた。

「敵味方問わず、というよりは、今の彼にとってはもう我々もインテ=リザードも大きな枠での仲間、ということなのだろうか」

「……何も考えていないだけ、でしょうね」

 インテ=リザードの放つ火球や光球を弾き飛ばしながら、テマは呻いた。

「だとするとうまくないな。

 我々はこの戦闘に早めに決着をつけたい。だが、我々は相手を一撃で倒せる攻撃力がない。生半可な攻撃はインテ=リザードの強化された治癒能力で無効化される。持久戦という方法も、常時体力が回復されている状態では取れない」

「だが、それは我々も同じ」

 レベセスも、テマの危惧を察していた。

 この戦闘は、永久に終わらない。

 聖剣の勇者二人と、高機動兵士三人。

 片や身体能力の高いインテ=リザード十数名。

 個々の戦闘能力は人間側が圧倒的に高いが、数はインテ=リザードの方が多い。

 戦力は五分だといえる。そして、それぞれの攻撃力に決定力がない。恐らく、斬り飛ばした傷口が再生できない程に破壊すればよいのだろうが、両者にそこまでの一撃の力はない。そして、体力の問題もある。体力の消耗を狙って戦闘の決着をつけようとも、常に体力が回復されている状態だとすると、スタミナ切れもあり得ない。

 消耗戦ですらない。文字通り、修羅界に身を置いている状態だ。

 ただただ、相手を斬り、相手に斬られ、苦痛を感じ続けるだけの戦闘。どちらが先に精神を病み、戦闘状態が終結するか。だが、この黄金の光は精神の病すら払拭するとなると、この戦闘は永久に終わらない。

 彼らは望み通り永遠の命と若さを手に入れた。但し、それは戦闘を続けることが条件。それを辞めれば、永遠の命と若さは『永遠に』失われることになる。

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