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界遊記外伝 ~ ファルガの父 ~  作者: かえで
滅びゆく権力からの復讐

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集う四聖剣1

一ヶ月頑張ってみてこのザマです。遅筆。

 空を仰ぎ、梯子を登り続けている感覚はある。だが、一向にその長い道のりが終焉を迎える気配はない。足元を見ると、青白い光が徐々に遠ざかっていることだけが確認でき、それだけが己の歩みの確実さを伝えてくれる。

 ほんの僅か前まで目の当たりにしていた光景が、遠い昔とも夢であったとも感じられた。迷い込んだ異世界。目の当たりにする全てが自分たちの理解の先にある、不思議な空間。稀代の考古学者二人が同行していなければ、そもそも何故それがそこにあるのか考えられなかっただろうし、思い至りもしなかっただろう。ただ、見たことのない景色がそこに広がっているとしか捉えられず、彼にとってどうでもいいこととしか考えられなかった筈だ。

 余りに想像を超えた出来事の連続に、半ば状況の判断を拒否し、自身と仲間の安全だけを考えて行動していたキマビンは、上司であるゴウトの怯えとも取れる怒りを完全に客観視していた。

 突然、足元の青い光が消えると同時に凄まじい上昇気流が彼らを襲う。文字通り、突き上げられるような衝撃を受けたが、三人の男たちは梯子にしがみつき、何とか堪えきった。ゴウトは、一人シェラガの戦う戦場に戻り、カルミアを助けたい衝動に駆られたが、キマビンに再度諭され、上を目指す。

 先程の爆風で、入口の蓋が飛ばされたのだろうか。空に光が見える。ぽっかりと浮かんだ白い円は、歩みを進めるごとに徐々に近づいてくる。

 足元から再度爆風が吹き上げる。先程とは比較にならない強い風に、彼らは空中に投げ出された。幸運だったのは、三人ともが細い通路のどこにもぶつからずに空中に放り出されたことだ。一度目の爆風で、通路の入口を覆う祠のように存在していた巨大な瓦礫の山は飛ばされていたようで、三人は天井に叩き付けられることなく、指輪の力で体勢を立て直し、着地する。

 足元で地響きと共に揺れが襲ったが、直ぐに収まった。地中を大きな力を持つ何かが直進していったのがわかる。指輪の効果で感覚が研ぎ澄まされている三人には、それが、シェラガの放った氣功術だとわかった。

 遥か遠くで轟音がし、そちらを振り返ると、青白い光の線がほぼ地平線に対して平行に飛び出し、遠ざかっていくのが確認できた。同時に、背後の穴から濛々と砂煙が立ち上ってくる。穴の先にある研究所が崩落したのだ。

 青白い光の線が消えたその先には、灰色の空に針で貫かれたような穴が開いているのが確認できる。どうやら三人の戦士たちは、この遺跡の天井の灰色の空は作り物、つまり擬似的に作られたドーム状の空で、天候すら管理していたとされる古代帝国の伝承の真実を垣間見たのだが、それをキマビンが自覚するのは、相当後のことになる。

「あれが『狂った竜の断末魔』……。実際には初めて見る……」

 伝説の氣功術を目の当たりにし、驚愕を隠さないテマ。対するゴウトとキマビンにとって大切なのは、カルミアとシェラガの安否だった。そして、彼らの思いはある意味杞憂に終わる。

 突然、少し先の地面がゆっくりと盛り上がり始めた。

 不思議と三人は、眼前の大地の異常が先程のシェラガの強力な一撃の影響だとは思わなかった。三者は各々の武器を構え、戦闘態勢に入る。一体何が彼らの中の危機感を刺激したのだろうか。シェラガの生存を信じて疑わないテマでさえ、大地の盛り上がりに対して躊躇なく剣を抜き放った。

 悍ましさ。

 理性ではなく、本能が三人の戦士に戦闘態勢を取らせたのだ。

 盛り上がった瓦礫の山が弾け飛んだ瞬間、鞭のようにしなる無数の触手が一度天に向かって伸び、その直後そのまま急降下、大地を激しく打った。その触手が巨体を引き上げるようにして出現させたのは、完全に化け物と化したトリカだった。

 顔面は半分抉れ、腹より下は既に存在しなかった。黄色い液体を撒き散らしながら、悲鳴とも引き攣った笑い声ともとれる、背筋が凍るような咆哮を上げた。触手に目を奪われていたが、どうやら上半身も少し抉れているように見える。

 テマは直感した。

 シェラガは、トリカの体内のカルミアを傷つけないようにするため、≪八大竜神王≫の出力を落としたのだろう。だが、その微妙なコントロールをする間に発生した僅かなタイムラグで、トリカは触手を駆使して逃げ出したのだ。だが、その俊敏な触手ですら、打ち出された≪八大竜神王≫を完全には避けきれなかった。その為、下半身を無くしてしまったのだろう。

 下半身から黄色い粘液を垂れ流すトリカは、そのまま触手を足のように使い、猛スピードで三人の方へと爆走し始めた。

 だが、あと少しで触手が三人に攻撃を仕掛けることが可能になる距離まで疾駆してきたところで、突然トリカは伸びた触手はそのままの状態で突然動きを止めた。そして、その場で痙攣をしだす。最初は貧乏ゆすりのように、最後はまるで何百万ボルトの稲妻に打たれたかのように。

 その次の瞬間、トリカの筋繊維が剥き出しの腹部が裂けた。割いたのは人間の指。少女の手だ。

「カ、カルミア……無事で……」

 そう言いかけて、ゴウトは口を噤む。

 齢十歳の少女が、化け物と化したトリカの腹を裂いて出てこようとしている。

 この状況はどう見ても異常だ。出てくるのは少女カルミアの姿をした、別の存在であることに疑いの余地はなかった。

 人間の手は、ゆっくりと化け物の腹を裂きながら延びていく。掌が現れ、手首が現れた。

 その時点で一度動きを止める、人の手を持つ何か。

 次の瞬間、押し開くように、腹が裂け、人影が転がり出てきた。

 人の手によって引き裂かれた怪物は、大きくビクンと跳ねると肉塊となり大地に転がった。

 どこかで期待していたに違いなかった。

 装束を身に付けた、齢十歳の美しい少女の姿を。

 耳の下で髪を切り揃え、切れ長の目をし、すらりと通った鼻筋は、美しい中にも可愛らしさよりは精悍さを感じさせた。装束を纏った姿は、儚さの中にもどこか逞しさを感じさせた。最初は無愛想であったが、交流を通じて、稀代の科学者の一人であった祖父の様な洞察力を持ちつつ、子供特有の好奇心を持ち、賢明さの中にも危うさがあった。

 そんなカルミア姫の生還を待っていたに違いなかった。

 ゆっくりと立ち上がる人影は、カルミアそのものだった。

 化け物の体内の黄色い体液は、少女の装束を溶かしているのか、所々穴が開いているようだ。少女が歩くと、体に纏わりついている生地がぼとぼとと落ちた。

 少女は全裸になった。だが、彼女の体には、少女時期特有の体の凹凸は無くなっていた。男性とも女性とも言えぬ体つきは、文字通りの中性を体現している。よく見ると、粘液により溶けてしまったのか、頭髪もない。いや、頭髪のイメージをそのままに、何かで塗り固められているように見える。

 服を着せる為の中性の人形。うっすらと過去の性別は推測させるが、まさにそんな容姿だ。

 何となく少女であった印象は受けるものの、性的な物を示す体の特徴は無くなっていた。

 文字通り蝋人形だ。動く蝋人形。その瞳にも生の力は感じられない。

 少女だった物は、突然天を仰ぎ、絶叫する。

「アーッ! イタイイタイイタイイタイ!」

 少女であった人型の体を覆う赤黒い光は、聖剣の第一段階のようにも見える。だがその光が持つ物は、少なくとも希望の光ではなさそうだ。少女の体からは、ゆっくりと赤黒い湯気の様な光が立ち上る。その光は徐々に上昇速度を上げていき、ついに赤黒い炎に包まれた。

 人型の体を包む光の形状が変わっている間も、それの口からは痛みを訴える絶叫が響く。

「ギャアアアアアアアッ!」

 人一倍強い叫び声をあげた瞬間、それを包む赤黒い炎は、無数の同色の光の針を周囲に飛ばした。

 テマとキマビンは指輪を発動させ、飛んでくる赤黒い針を武器で叩き落すことに成功したが、叫び声に一瞬躊躇したゴウトは、右肩を赤黒い針に貫かれた。

 呻き声と共に、手斧を取り落とすゴウト。

 テマとキマビンはゴウトのフォローに入るが、人型は赤黒い針を収束させる技術を体得したのか、彼らを襲う針の量が徐々に増えていく。

 今までは、人型は特別三人の存在を意識していたわけではないが、突然三人の方に視線を移した。次の瞬間、針は巨大な光の玉となって三人に襲い掛かった。

 そこで、不思議な事が起きる。

 三人の指輪の戦士たちを攻撃するために放たれた赤黒い光の玉は、確実に三人を捕えた軌道で飛来していた。だが、その光の玉を撃墜する別の赤黒い光があった。それもまた、人型から放たれたものだった。

「オ……ネエサマ……」

 赤黒い光を放つたびに、かつて美しい姫であった人型の苦しみが和らいでいるように見える。だが、その事実を受け入れることは、今のゴウトとキマビンには難しかった。

「なぜ、エネルギーを使うほうがカルミアの苦しみが和らぐのか?」

 動揺を隠せないゴウトは、必死にテマへ説明を求める。だが、テマは、そのように見えるからだ、としか言えない。一見無責任な発言ではあるのだが、無言を貫くキマビンも同じことを感じていた。

 むしろ、エネルギーを使い続けることで、かつてカルミアであった記憶すら蘇ってきているように見える。だが、少しでも赤黒いエネルギーを使う事を止めると、直ぐに人型の苦しみは増した。

「一体何が起きている……?」

 テマはなんとか法則を掴み、姫をこの苦しみから解放しようとする。だが、その法則は推測の域を出ず、それを確かめる方法はない。そして、その法則が仮に真実だったとしても、だからと言ってカルミアを苦しみから解き放つアイデアが浮かぶわけでもない。

 再度赤黒い光の玉が、三人の戦士を襲う。だが、次はその光の玉を撃墜する物は発射されなかった。

 終わった。

 三人は死を覚悟したが、彼らの元に赤黒い光が届くことはなかった。

 人型と三人の男たちの間に、人影が見える。その人影に見覚えがあるのは、テマだけだった。

 その人影は、青白い光を纏ってこの地に現れ、赤黒い光の玉を細身の剣で弾き飛ばしたのだ。

「テマ様、遅くなりました。ラン=サイディール国の中将としてではなく、一人の友としてこの地を訪れております。ご安心ください」

 テマに背を向け、人型との間に割って入った人影が、ゆっくりと立ち上がり、腰に矯めた鞘に剣を戻した。

 角刈りが似合わないほどの、女性を思わせるような柔らかい造作の顔だったが、眉間に深く刻まれた皺は、常に己に厳しく他者にも厳しい気性の荒さを物語っている。その切れ長の眼から迸る鋭い視線は、並みの魔物ならば容易に竦み、その姿を隠すだろう。細身の体は、膨れ上がっていない実戦向きの筋肉で引き締まっており、その場に居た戦士ゴウトともキマビンともタイプの違う戦士だ。

「レベセス殿、良くぞここへ……」

 レベセス……コイツが……。

 テマの言葉を聞き、思わずゴウトとキマビンに緊張が走る。二人はSMGの戦士。レベセスといえば、SMGに仇なす敵国家『ラン=サイディール』の近衛隊長。その、いわば宿敵が目の前にいるのだ。殺気立つなという方が難しい。

 だが、そこからSMG対ラン=サイディールの代理戦争には発展しなかった。

 有史以後最大の怪物が、彼らの目の前に立ち塞がっている。しかも、その怪物は、未だ邂逅したことのない戦士たちの共通の知り合いであった。ゴウトやキマビンにとっては、庇護すべき旅の道連れ。片やレベセスにとっては、自国の貴族の姫。

 仲間が苦しんでいる。強大な敵にもなりかねない存在ではあるが、同時に仲間だ。

 緊張感の後に一瞬迸る殺気も、すぐに立ち消えた。

 SMGもラン=サイディールも関係ない。

 今は、苦しむ美しい少女を助けたかった。それは、生まれも立場も違う二人の戦士の共通の思いだった。遅れてきた戦士の口元に笑みが浮かぶ。角刈りの偉丈夫の頬が緩む。

 その光景は、キマビンの心を少しだけときめかせた。自分の知る限り最強の戦士二人。その二人が共闘すること自体が、後にも先にもこれっきりだ。

 助ける方法も、助けたあとの状況も全く予想がつかない。

 だが、それでも最強の二人が手を組むことが、奇跡を起こしてくれるのではないか。

 圧倒的な何かに変異したカルミアを、倒すのではなく助けることができる。

 キマビンはそう思わずにはいられなかった。

 蝋人形と化した少女は、突然彼らに背を向けた。

 逃げるのか?

 一瞬過る不安。もし、ここでカルミアを見失ってしまったならば、再度カルミアを捕捉するのは難しい。そうなれば、助けられるものも助けられなくなってしまう。

 カルミアの今回の変化は、決して望まれるべきものではない。その状態から一刻も早く開放してやりたい。集った戦士たちの紛う事なき本心だった。

 カルミアの体を光の膜が包む。その膜は、赤黒く澱んでいた。その膜はゆっくりと膨張し、カルミアを囲む球となった。球体はその色を徐々に濃くしていき、やがて蝋人形と化したかつての美しい姫君を完全に隠した。赤黒い球体の表面は不安定なのか、太陽のプロミネンスのように光が時折吹き出している。

 球体は滑るように移動を開始する。最初はゆっくりと、徐々に加速して。赤黒い太陽のプロミネンスが、無数の針のように伸びた次の瞬間、針は四方八方に打ち出された。

 針は遺跡内の天井を打ち壊し、崩落させる。まるで岩石の雨のように瓦礫が周囲に降り注ぎ始めた。四人の戦士たちは、自分たちの方にも飛来する針を撃ち落とそうと動くが、針は強いエネルギー集合体。聖剣以外の武器は一度針を打ち落とすと破損してしまい、使い物にならなくなってしまった。先程よりも針のエネルギーが増加しているように見えた。確かに、赤黒い光の針は、その輝きを増しているように見える。

「レベセス殿、すまぬ!」

 雨のように降り注ぐ赤黒い針を前に、指輪の戦士たちは弾けるように跳躍、各々が瓦礫の後ろに退避し、針の直撃を免れた。

 針の放出は、徐々に指向性を持ち始める。どうやら、カルミアだった存在は、何か意志を持ってエネルギーをコントロールし始めたようだった。そして、実際にそれを実現させつつあった。

「私が追跡します。テマ様達は、後からついてきてください!」

 レベセスはそう叫ぶと、第三段階を発動し、高速移動に入ったカルミアを追い始めた。

 三人の指輪の戦士たちも、カルミアとレベセスを追い始めたが、如何せん速度が違う。三人の光は、徐々に遠ざかっていく。

 レベセスは追いかけてくるもついてこられない者達を一瞥したが、一瞬でも油断をすると、光の球と化し、高速移動をするカルミアに引き離されてしまう。

 レベセスは、後から追いついてくるテマたちが見失わないように、ある程度スピードをコントロールしつつ追跡していたが、このままではいずれカルミアに振り切られると察し、全力での追跡に切り替えた。

着地点が見えてきました。けど、キャラクターを動かすと微妙に着地点から離れていく。暴走するな!走り出したカルミアもその一つ。彼女は何処へ行くんだろう。何をしたいんだろう。多分、カルミアの気持ちを考えると……なのですが。

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