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界遊記外伝 ~ ファルガの父 ~  作者: かえで
SMG

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13/39

戦闘の終焉

シェラガとガガロの戦闘が終了。ガガロは元の姿に戻り、シェラガは体の半分を失います。その代償として、アストラル=ボディを手に入れることになります。

 他のルイテウ幹部とともに、応接室に避難をしていたフアルは、突き上げるような揺れをその体に何度も感じ、その都度よぎる嫌な予感に不安を隠せないでいた。

 ルイテウ自体は非常に頑強だ。

 一枚岩といわれる巨大な岩をくり抜いて作ったとされるルイテウ本体は、鉄筋の支柱で補強された何階層ものフロアで構成されており、フロアそのものも幾重にも鉄板が張り合わせられる形で強度が確保されている。その造りの強さは、この時代のどんな建造物よりも強固であるとされた。

 城壁を壊す為の砲も役に立たないだろうと評されるその硬度は、荒れ狂う暴風に常時晒される高山と同じ環境にあって、内部の人々の生活の快適さを保証している。実際、この巨岩の中で生活を営む人間たちは誰一人として、微弱な振動はおろか風の音すら感じていないだろう。シェラガやフアルが最初にルイテウを訪れた時、その驚くべき安定感から、大地に屹立する建造物の中に居るような錯覚を覚えたほどだ。

 そのルイテウが振動を伝えてくる。これは彼らのみならず、SMGの人間にとっても初めてのことであり、かつて感じたことのない衝撃は、ルイテウの住民たちに多大な不安を与えていた。ともすれば、ルイテウに圧倒的な信頼を寄せている住人たちのほうが、フアルたち外部の人間より大きな不安を感じていたかもしれない。

 振動を受け、天井から吊るされたシャンデリアが大きく揺れるたび、小さな悲鳴を上げて蹲るSMGの老幹部どもの様を目の当たりにして、大きな幻滅を感じながら、フアルは見ることのできないルイテウ上部での戦闘の状況を何とか知ろうとしていた。

 音は聞こえないが、確実にルイテウの屋上にて何かが起きているであろうことを伝える振動。それは、SMG幹部たちとは種類の異なる不安をフアルに与えていた。

 フアルは壁際に有る大きな窓の側に寄る。窓のガラスに顔を押し付け、何とかルイテウ上部の様子を伺おうとするが、角度的な問題で無論見られるはずもない。

 と、ちょうどフアルの頭上から伸びていく、一本の青白い光の筋が見えた。それがガガロの放った攻撃であることを直感的に察したフアルは、いてもたっても居られなくなり、応接室から飛び出した。

 自分自身がシェラガの元に行って何かができるとは思わない。ましてや、シェラガと共にガガロと戦おうとは微塵も考えていない。だが、ここにいるよりは、彼の側にいたいと思った。その感情だけが彼女を突き動かした。

 廊下に飛び出したフアルは、すぐ目の前に立つズエブに気付いたが、そのまま横をすり抜けていこうとする。

「どこへ行く?」

「屋上へ!」

 答える時間ももったいないとでもいうように、短く鋭く答えたとしたフアル。だが、すり抜けざまにズエブに左手を掴まれ、それ以上進むことができない。

「危険だぞ! 気持ちはわかるが、お前が行ったところでこの戦闘は終わらんぞ」

「そんなのわかってる! けれど、ここでじっとしている訳にはいかないの!」

 フアルはズエブの手を振り払い、回廊を駆け出す。その直後大きな振動が彼らを襲うが、フアルはよろけこそしたものの、転倒せずそのまま走っていく。

「フアルめ、行ってどうしようというのだ……。お前が行ったところで、ガガロはいきり立つだけだ」

 そう呟き、フアルが飛び出してきた応接室の中のSMG幹部たちの安全を確認したズエブだったが、いつもは権勢を傘に着てふんぞり返っているにも拘らず、大きな危機に直面した途端に成す術なく座り込んで、ただ震えていることしかできない彼らに対して腹の底から湧き上がってくる感情は、『侮蔑』だった。

 過去の栄光だか、親の七光りだかわからないが、現在その実力の片鱗も見えない輩が幅を利かせているのは、もはや権力に対する執着がなくなりつつあるズエブにとっても余り面白いことではなかっただけに、目の前の光景は溜飲を下げるに余りある物だった。

 ズエブはその怯える無能者たちの中にリーザが居ないことをちらりと目で確認し口角を上げた。

「安全は確認した。後は何があろうが自分の責任だな」

 そう呟くと、ズエブもフアルの行った道を走り出した。彼もシェラガとガガロとの戦いを見守りたかった。

 おそらく、リーザも彼が行く所にいるはず。

 確信にも似た思いが彼の中にあった。


 防戦一方だった。

 接近して一撃を加えようにも、ドラゴン化したガガロは、巨大な翼の故か、その体の大きさにそぐわない俊敏さを手に入れ、シェラガの斬撃の軌道から体をそらす。そして、聖剣を放棄したその手には鋭利な爪が蓄えられ、『死神の剣』の一撃と同等かそれ以上の威力でシェラガを狙う。距離を確保し、後ろに回り込もうとすれば、太くしなやかで長い尾に牽制され、ともすれば強烈な一撃を見舞われかねない。連続攻撃を回避し、体勢を立て直そうとするも、これまた巨大なドラゴンは機敏に動き、一気に距離を詰めつつ爪や歯での連続攻撃を継続する。

 さすがのシェラガも徐々に追い詰められていた。

「この野郎、どう考えてもガイロンよりお前のほうが強いじゃねぇか……!」

 爪の一撃を剣で捌き防いだものの、その威力までは殺せず、大きく弾き飛ばされたシェラガだったが、結果少し距離を取ることができた。彼は空中で体制を整えながら、次の攻撃を考えていた。

 だが、ガガロとの距離は、それがそのまま安全の確率が上がったことを意味しなかった。距離が開いたことで一瞬気を緩めたシェラガ。ところが、ガガロは飛び道具も持っていた。

 ガガロが口から吐き出した青白い光の帯が、シェラガを直撃したのだ。それは、フアルとズエブが再度ルイテウ屋上への扉を押し開けたその瞬間だった。

 フアルはシェラガの名を叫ぶ。ズエブは瞬時にガガロと自分との位置関係を確認し、シェラガが飲み込まれた光の奔流へ向かって走り出した。

 第三段階を発動させているとはいえドラゴン化したガイガロス人の攻撃を受け、シェラガが無傷であるとは到底思えなかった。

 万一戦闘継続不能なほどの重傷を負っていたら、次のガガロの攻撃にはなす術もあるまい。そう考え、救出に向かったのだ。

 ドラゴン化したガガロを止める方法は、おそらくガガロを殺すしかない。

 導き出したくない結論ではあったが、感情論を排したズエブの見解はそうだった。

 フアルのドラゴン化を目の当たりにしたズエブだったが、彼女が人間に戻れたのはドラゴン化の理由がシェラガの救出だったと理解していた。だが、今回のガガロのドラゴン化は、ガガロ自身に向けられた無力感、喪失感、絶望、憤怒が原因であろう事は容易に推測できる。きっかけはフアルであったりシェラガであったりするのだろうが、結局は彼自身の感情の問題。となると、彼の感情の収束は彼自身の心の整理であり、現状への納得であるのは明らかだった。

 言葉を変えれば、諦めともいえるこの感情を第三者が当事者に伝え、それを当事者が受け入れることなのだ。だが、それは限りなく不可能に近い。

 ガガロ殺害を是とせぬシェラガの気持ちはよくわかる。それはズエブも同じだ。だが、半端な気持ちでドラゴン化までしてしまったガガロと接するならば、それは、ガガロにとって死よりも辛いものとなるだろう事も、ズエブはわかっていた。

 シェラガの為、ひいてはガガロの為、ズエブは走った。彼もシェラガと同じく、知り合って間もない青白い好青年を失いたくないと心から感じているのだった。


 目前の敵に向かって接近する者が居る。

 ドラゴン化し、理性を失ったガガロにとって、その者がもつ自分に対する感情は悪意、敵意として感じられた。自分に向かってきているわけではないが、なぜか自分に仇なす者として認識された。

 ガガロは短く鋭い咆哮をあげると、動く小さな標的に向かい、突進した。

 敵に一撃が到達しようとする直前、横に動いていた敵が突然自分のほうに向かって動き出す。その動きに面食らうガガロ。

 だが、その動きはズエブにとって計画されたものだった。

 ガガロがズエブを発見しなければ、そのままシェラガを救出し、ガガロがズエブに攻撃を仕掛ければ、その時点でズエブは自らを囮にし、シェラガからガガロを遠ざける作戦だった。

 進路を変える瞬間、ズエブは既にシェラガが剣を杖にして立膝で居る姿を確認していた。

 生きている! ならば、少しでも時間を稼ぐのだ。

 ズエブがガガロに向かって走り出したのとほぼ同時に、フアルもまたシェラガに向かって走り出していた。こちらは何も考えていない。ただ、シェラガの側にいたかっただけだ。

 だが、そのフアルの動きもズエブは予測していた。そのため、シェラガから少しでも注意を離そうとしていたのだ。

 ガガロの視界で、小さな敵がめまぐるしく動く。

 先ほどから相対している本来の敵は動いていない。しかし、そこに近づこうとしている別の敵と自分に向かって動き出す更に別の敵。それらの三つの敵の動きが、ガガロを混乱させるとともに、更なる怒りを呼び起こす。

 威嚇の咆哮をあげるとともに、一度上空に舞い上がるドラゴン。その巨大な翼は上空の突風を受けてなお、安定した飛翔力を供給する。だが、その圧倒的な強さが、我を忘れた感情の発露のみでしか発現しないことが、ズエブには物悲しく感じられた。

 上空で、ガガロは三つの敵を一つのものとして認識すると、そこに長距離からの攻撃を仕掛けようとした。口腔を大きく広げ、迸るエネルギーを一点に集中させる。

 もはやどこに逃げようが、巨大なガイガロスの力が叩きつけられれば一巻の終わり。


 シェラガは、力強く立ち上がることができずに居たが、ふわりと横に人の気配を感じた。フアルが隣に来てくれたのだと直感で把握した。

「来てくれたのか。ありがとう……」

 いつものシェラガであれば、危険の真っ只中に戻ってきたフアルを責め、退避を促しただろう。だが、もう打つ手のない絶望の中、隣に来てくれたフアルを彼は心から頼もしく思い、そして又、ありがたく思った。

 ほんの僅かの安堵の中、一瞬気を失いかけたシェラガは、聖剣を取り落としてしまった。だが、フアルはそれを拾い上げ、構えた。

「よ、よせ……。そいつは……」

 聖剣は限られた人間しか使えない。それを伝えようとしたシェラガだったが、押し寄せてくる安堵感には勝てなかった。シェラガはゆっくりと崩れ落ちた。


 猛烈な吐き気がする。これがシェラガの言っていた聖剣の洗礼なのだろうか。

 剣を構えながらフアルは思う。上空にある脅威は、今まさにその狂気の斧を振り下ろさんとしている。対する自分は使えもしない聖剣を持ち、吐き気に耐えながら敵の動きを見るしかない。

 ズエブが駆け寄ってくる。

「フアル、お前聖剣が……」

 といいかけ、顔面が蒼白な彼女を見て、無理して聖剣を持っている様を理解したズエブ。先ほどの屈強な男がものの数秒で血を吐きながら倒れたことを考えると、その状態を維持しているフアルの精神力はすさまじい物がある。だが、それもすぐに限界を迎える。

 ガガロと戦う方法は、聖剣くらいしかない。だが、彼女はその聖剣を使うことはできない。素手で立ち向かうよりは剣があったほうがいいという程度だが、シェラガの持つ剣、後世では勇者の剣と呼ばれるそれを捨てるよりはもっているほうがいいと判断した。ただそれだけの事だった。

 上空ではガガロが時間を掛けてエネルギーを充填している。ガガロの一撃がルイテウに向かって打ち出されれば、おそらくルイテウそのものが消し飛んでしまうだろう。そして、ガガロもそれを狙っているようだ。自分を不安に追い込む者たちが棲む大元を消し去りさえすれば、全ては安堵に包まれる筈だからだ。

 フアルは、ガイガロスの戒めを解いた。瞳が赤く燃え上がり、ガイガロスの力が全身を迸る。歴代の王を震撼させた鬼子の力は、理性を失ったガガロすら瞠目させた。だがそれと同時にフアルの周囲を青い霧が包む。フアルはそのまま聖剣を取り落とした。

 なぜガイロンが聖剣を持っていたにも拘らず、発動させなかったのか。発動させることができないと当初は誰しもが思っていた。だが、それは大きな間違いで、発動させると、ガイガロス人に対しては害をなすのではないのか。

 ズエブは直感的にそう思った。

 フアルの周囲に青く立ち込めた霧。それは、フアルの全身の毛穴から噴出した血液だった。

 聖剣がガイガロスの力を拒絶した……!

 ズエブはその瞬間を目撃して、率直にそう思った。

 フアルは、聖剣を持つことに耐えられず、それを落とした。だがそれにより、覚醒されたガイガロスの血は明らかにフアルの力を向上させている。

 鬼子の力は、第三段階の聖剣の勇者よりもはるかに上をいくというのか?

 ズエブがそう思った次の瞬間、フアルの体が一回り大きくなる。

「まさか、ドラゴン化?」

 さすがのズエブも今回ばかりは恐れを隠せなかった。上空には我を忘れた青き竜が今まさに攻撃せんと力を溜め、彼の横では黄金の鬼子が、歴史を震撼させた力を開放しようとしている。

 もはや、ズエブには何も手立てがなかった。

 だが、フアルはドラゴン化もしなければ、巨大化もしなかった。

 気を失っているはずのシェラガがフアルを後ろから抱きしめたからだ。

 一瞬我を忘れそうになっていたフアルは、シェラガの抱擁により、理性を取り戻したようだった。

「フアル、心配するんじゃない。何とかするさ。ガガロは」

 心配するなといわれても、立っているのがやっとのふらついた男の言葉を誰が信じられようか。それでも、フアルはシェラガの言葉が、なぜかすんなりと腑に落ちた。

 次にこういう機会があったときのシェラガの言葉はおそらく何の説得力も持たないだろう。だが、今この瞬間の彼の言葉は、なぜか信じられる。

 シェラガは聖剣の刃を踏み、跳ね上がった柄を掴んだ。そして、上空で今まさに攻撃をせんとするガガロを見据え、剣を構える。

「……シェラガよ。ガガロをドラゴン化から救う方法はある」

 剣を構え、視線はガガロを射抜いたままズエブの言葉に耳を立てるシェラガ。

「本当か?」

「ああ。おそらく間違いないはずだ。事例を三つ見てきたからな。だが、ドラゴン化から救うためには、ドラゴン化をした原因がわからなければならない」

 ズエブもガガロの今まさに放とうとしている光の玉を見据えながら呟いた。

 おそらく、ドラゴン化の原因は、シェラガとフアル双方にあるはずだ。ならば、フアルとシェラガの持つ原因を取り払ってやればいい。それがズエブの考えだった。

「フアルの一度目のドラゴン化のケース。これは説明が簡単だ。単純にお前が気を失って飛天龍から落ちそうになるのをなんとしても助けたかったからだ。従って、お前が助かればドラゴン化は解ける。

 先ほどの二度目のケースは、お前が倒されたと錯覚したフアルの暴走。お前が生きていることを知り、感情の高ぶりがなくなった。

 三つ目のガイロンのケースだが、これはなかなかわかりづらい。ドラゴン化をしたガイロンはドラゴン化が解けた後、彼を突き動かしていた理由を話したそうだな。だが、彼を動かしていた『ガイガロス人の総意』が誤っていたことを知り、彼を駆り立てるものがなくなった。そう考えるとすべて辻褄が合う」

「……つまり?」

 シェラガは思い切りガガロから視線を外し、ズエブの顔を覗き込んだ。

「つまり、心配事とか大きなストレスがなくなればドラゴン化は解けるってことよ。私に言わせないで!」

 フアルは、怒ったような仕草を見せ、シェラガの抱擁から逃れたが、若干照れているようにも見える。だが、その様はどうみても睦みあう恋人同士が第三者にその姿を見られたようにしか見えない。

 それを見たズエブは呆れてしまった。この期に及んで自分の好意を隠してどうしようというのか。

「命の危険に晒されたこの状況で何やってんだ、このバカ夫婦は。

 ……だが、まあ、そういうことだ。ガガロの心を突き動かす原因を探し、その心の闇を開放してやるしかない。ただ、その当事者との接点でそれを見出すことが可能かどうか」

 もう一度中空を睨み上げるシェラガは呟く。

「まあ、何とかするしかないさ。とりあえずはあのガガロの咥えている物騒なやつを何とかしようかな」

 シェラガの言葉に、二人は改めてガガロを見上げる。

 ガガロの口蓋からは大きな光があふれ、今にも弾き出されんばかりのエネルギーが充満していた。

「一丁やってみるか!」

 緊迫の戦士としてはあるまじき気合の入れ方ではあるが、鋭く短く猛ったシェラガは、聖剣の第三段階を発動させた。その状態でシェラガはピクリとも動かない。だが、フアルにはわかった。シェラガは誰に教わるでもなく、聖剣に氣を流し込み、増幅させては体内に戻し、また、その一部を聖剣に送り込み増幅させては体内に戻すことを繰り返し、細胞の代謝を活性化させ、傷と疲労の回復を試みたのだ。

 青白く激しい氣の炎の中、シェラガの体中にあった擦り傷と尾の一撃を食らった際の眉間の傷が徐々に回復していく。

 時間は掛かるが、聖剣を使った体力の回復法はこれしかないということをシェラガはなんとなくイメージできていたのだろうか。

「よし、行ってくる!」

 そういうと、シェラガは軽くひざの曲げ伸ばしをし、体が元に戻った感触を確かめた。そのまま大きく跳躍し、ガガロの光に向かって飛び込んでいく。

「シェラガのやつ、わかってやっているのか? あの方法は、傷は確かに治るだろうが、自らの寿命を縮めているにすぎないんだぞ」

「え、どういうこと?」

 不安そうに見つめるフアルに、ズエブは呻く様に答える。

「シェラガが今行なった治癒の方法は、傷をなかった事にしているのではなく、細胞を酷使して、分裂を加速させている。人間の体の細胞は分裂できる回数が決まっているが、その回数を越えると、後は衰えていくばかりだ。つまり老化が進む。繰り返すと、あっという間に死んでしまうぞ」

 フアルは絶句し、不安を隠せないまま改めて上空を見上げた。


 巨大な光の宝玉を咥えるように、上空に双翼を広げ留まり続ける巨大な蒼きドラゴン。その空に漂う様は空の王者の風格を備え、まさに神と呼ぶにふさわしい荘厳さを持っている。だが、その光の宝玉は徐々にその大きさを増し、それと同時にいつ崩れてもおかしくないほどの危うさを持っていた。崩れ落ちるだろう先には浮遊巨岩。

 シェラガは自分の跳躍が、いつの間にか飛翔になっていることに気付いていた。これが、レベセスの言っていた飛行術、『天空翔』なのだと知るのは、後日のことである。だが、飛べたことへの感激より、蒼きドラゴン、ガガロを止めることのほうが、彼にとっては重要な問題だった。

 ガガロと同じ高度まで駆け上ったシェラガは、とにかく口腔に溜まったとてつもないエネルギーを何とかしなければならなかった。

「ガガロ! こっちだ! 俺はこっちに居るぞ!」

 シェラガはありったけの力で叫び、ガガロの注意を引こうとする。だが、ガガロはエネルギーを溜めるのに集中しているのか、シェラガの呼びかけに応じない。

 ひょっとしたら上空を吹き荒ぶすさまじい突風に阻止され、自分の声がガガロに届いていないのかもしれない。

 そう思ったシェラガは一気にガガロとの距離を縮め、もう一度呼びかけた。

 だが、それでもガガロは微動だにしない。その間にも徐々に光の宝玉は大きさを増し、その輝きは網膜をも焼き尽くさんばかりだ。

「この野郎、気づかないなら、そのまま気を失わせてやる!」

 シェラガは聖剣を上段に構え、天空翔の推力を使ってガガロの首筋目掛けて刃を打ち込もうとした。

 その様はルイテウ上から見ているズエブとフアルの目にもはっきり映っていた。

 ズエブは、ガガロを止められぬ己の無力さを呪い、フアルは今まさに起きんとする仲間同士の討ち合いを目の当たりにし、思わず息を呑んだ。

 だが、目の前でシェラガの動きが止まる。動きを止めたシェラガが徐々に大きくなってきた。ゆっくりと降下してきたのだ。

 力なく着地するシェラガ。だが、その体を覆う青白い氣の炎は以前よりも燃え盛っている。シェラガが力尽きたのではないことは二人にも容易に理解することができた。

「何があった……!」

 浮かぬ表情を浮かべたまま中空を見上げるシェラガに、ズエブは少し強い口調で迫る。

「あいつ、首を差し出しやがった」

「な、なに?」

「俺があいつの首を飛ばしやすいように、首のガードを解きやがったんだよ。あいつは全部理性がなくなっているわけじゃない。まだ、あいつは心がほんの少し残っている。その残った心で、暴走する自分を止めて欲しくて、俺に『殺せ』と催促するんだよ!」

 シェラガを包む炎が掻き消え、彼は両膝を付いて蹲った。

「どこまで馬鹿なんだ、あいつは……」

 シェラガは、生まれて初めて子供のように泣いた。

 ガガロは、ガイガロス人として虐げられ、隠れるようにガイガロスの村で生活してきた。やがて、ガイロンに見出されガイガロスの革命軍の戦士としてガイロンと共に転戦するが、心の師と仰いだガイロンを理由はともあれ自らの手で屠る事になる。その後追い求めた真の王の娘と邂逅は果たせたものの、それが恋慕の心へと変化していたガガロにとって、王女の心が別の男に向いていることを受け入れ祝福することは容易ではなかっただろう。そして、素直に祝福できぬ自分を毛嫌いし、憎み、貶めると決めた彼の心に救いはあっただろうか。彼が生まれて百数十年、一度たりとも他者から己を必要とされ、愛されたことを痛感できたことがあっただろうか。

 シェラガがガガロの持つ葛藤を全て理解できるはずはない。一面では第三者だが、又別の一面では当事者だったからだ。

 だが、ガガロの心情を部分的に慮った時、シェラガにとって堪えることのできないほどに切ない衝撃として心を激しく打ったのだった。

 ガガロは、自身が今の彼を取り巻く仲間たちに愛されていることは十分わかっていた。

 だからこそ、暴走し陰に篭って行く己の心が許せず、ドラゴン化をした。

 だが、そのドラゴン化によって理性を失った状態で、一瞬だけ我に返る瞬間があった。その時、彼は自分の愛する者たちを己が殺してしまう可能性があることに気付いてしまった。とはいえ、我に返ったときの一瞬の気付きは、直ぐに怒りという感情の奔流に飲み込まれてしまうだろう。だからこそ、一瞬とはいえ理性の残っている瞬間に、己の首をはねて殺して欲しい。そうシェラガに願ったのだ。

 ひとしきり泣いたシェラガは、ゆっくりと立ち上がった。そして、上空のガガロを睨みながらズエブに尋ねる。

「ドラゴン化は、ドラゴン化した奴が気を失っても解けるのだよな?」

「それはそうだが……」

「なら、ガガロが全部力を使い果たせば、元に戻るって事だよな?」

「それはその通りなのだが……」

 ズエブにはなんとなくわかっていた。シェラガはガガロを元に戻すために、滅茶苦茶な勝負を挑むつもりなのだと。そして、それは止められるものではないのだと。

「聞こえるか、馬鹿ガガロ! お前の全力の一撃を放ってこい! 俺はそれを受け止め弾き飛ばしてやる! そして、お前をドラゴンから元に戻してやる! 勝負だ!」

 シェラガはもう一度聖剣を発動させる。だが、炎の勢いがいつもとは異なる。第三段階の弾ける様に噴出す光の炎の濃度が今までとは比較にならない。だが、炎の中のシェラガは苦悶の表情に満ちていた。今発揮できる能力の限界を超え、体の負担を省みない聖剣の発動は命を縮めるだけ。それはシェラガもわかっている。だが、この勝負はそこまでしないと、ガガロには勝てない。いや、ガガロに勝つのではない。ガガロの体と心に巣食う負の心を払拭できない。

 そう考えたからこそ、シェラガは命を削ってもガガロの心と戦う決意をしたのだ。

 今ここで、自分の体を優先する余り、ガガロを救えないまま残りの余生を送るほうがよほど辛い。後悔しか残らない人生なんで真っ平ごめんだ。

 その言葉を心に刻み、シェラガはガガロとの最終決戦に臨むべく、氣を練り続けた。


 蒼きドラゴンの溜めた光の玉は、すでに主であるガガロの体を大きく上回るほどに成長を遂げていた。エネルギー球としてそのまま留まり続けるのもそろそろ限界を迎える。気を抜けば、自ら溜めたエネルギーの奔流に巻き込まれかねないその状態で、ガガロはいよいよその光の玉を崩し、指向性のエネルギー波として吐き出そうとしていた。

 ルイテウの頂上部にて氣を練り続けていたシェラガも、ほぼ限界まで体内に氣を溜め込むことが終了していた。自分の氣を限界まで溜め込み、練り上げることで己の攻撃力、防御力を高め、ガガロの打ち出したエネルギー波をすべて受け止め、はじき飛ばすことでガガロに一撃を加え、あるいはガガロのエネルギーをすべて使い切らせて気絶させる。これこそがシェラガの狙いだった。そこにガガロ抹殺の感情は毛頭ない。ただ、ガガロを人間に戻す。これだけが彼の思いだった。

 二者がタイミングを合わせる要素は何もなかった。

 だが、まるで測ったかのように二者の動き出しは一緒だった。

 上空ではもうひとつの太陽が輝きだし、地上では光の爆発が起きた。

 思わず体を伏せるフアルとズエブ。リーザは少し離れた、ルイテウ内部への入り口付近で、この光景を目撃していた。

 もし、この戦闘が地上で行われているものだったとしたら、それは伝説として語り継がれるほどのものとなっただろう。

 間近で目撃した者が居れば、その恐るべき衝撃波と轟音、そして光の奔流に恐怖を感じただろう。

 遠巻きに目撃した者であれば、地上から立ち上る青白い光の帯と、上空に突如発生した巨大な光の宝玉から放たれた光の柱とが中空で衝突し、小さな光の粒を撒き散らす様は美しい夜空で繰り広げられるショーだと感じたはずだ。

 さながら夏の日の夜を彩る花火か、はたまた極寒の地に見られるオーロラか。

 だが、その光の戦闘はSMGの本拠地ルイテウ上空で行われ、更にルイテウ自体が常時厚い雲に覆われていたため、もし地上からその様を確認しようとしても、雲の中で光り輝く遠雷としか見えなかったに違いない。

 シェラガは今までに感じたことのない圧力の中を進攻していた。光の奔流内に居ると、体感温度もわからなくなる。熱いのか冷たいのかもはっきりしない。常に轟音が響き渡っているが、それが光の奔流が原因なのか、はたまた多大な耳鳴りのせいなのかはわからない。ただ、体の表面を激痛が走り、芯に行くにつれて疼痛に変わる。共通するのは体に掛かる負荷が、いつシェラガの意識を奪ってもおかしくないほどに激烈な衝撃であり、常に迫り来る光の波動を聖剣で受け止め、散らしながら進攻するのは困難を極めた。

 突然左腕のひじ辺りに激痛が走る。体表の激痛ではなく、腕の奥から感じる痛み。引きちぎられるような痛み。

 シェラガは思わず左腕を見る。

 そこには光の波動の威力に負け、ちぎれかけた左腕があった。ゆっくりと裂かれていく自分の腕を目の当たりにし、思わず嘔吐するシェラガ。そのまま気を失いかけたが、激痛は続き彼は意識を失うことができない。シェラガは先ほど用いた、聖剣を使った超回復術を用い、左腕を再生させつつ、進攻を続ける。

 左腕の激痛が治まった次の瞬間、激痛を覚えたのは右足の太もも近辺だった。何が起きているのかを悟ったシェラガはそこを見ずに超回復術を用いながら進攻する。左耳、左膝、左肩。激痛は体のさまざまな部分を蝕む。その都度シェラガは超回復術にて対応するが、徐々に回復が追いつかなくなっていくのもわかった。シェラガは剣の先に力を収束させ、光を払おうとし続けたが、彼の気持ちが一瞬途切れた次の瞬間、シェラガの溜めた力は剣の先からすべて放たれてしまった。

 ズエブとフアルは見た。

 光の柱を砕きながらゆっくりと上っていく光の帯が一瞬滞留し、空間が歪む錯覚にとらわれた次の瞬間に起きた、激しい閃光を伴う大爆発を。


 強烈に周囲を照らし出す閃光が失われた後には、一人の男が一糸纏わぬ姿でそこにいた。

 先ほどまでの騒音がまるでなかったかのように沈黙が周囲を包んでいた。一瞬風が停止していたのは、僅かばかりの時間とはいえ、光の爆発が大気の流れを遠くに押しやってしまっていたからだろう。

 数瞬の後、突風は再度ルイテウ表層を撫ぜ、爆発によって生じた砂埃をどこかに消し飛ばしてしまった。

 男は、その鮮やかな青い髪を突風に弄ばれながらも、決してそれは離さぬとでもいわんばかりに、大切に胸に何かを抱き続けていた。

 フアルとズエブは愕然とした。蒼い髪の青年が抱えているのは、人間の体の一部だった。

 その人間の体は、左肩から先をすべて失い、また、下半身の右大腿部から下と左膝から下を完全に失っていた。だが、不思議なことに、その体からは全く出血が見られなかった。

「シェラガ……」

 呻く様に愛する者の名を呼ぶガイガロスの黄金の鬼子。だが、それに答える聖剣の勇者は驚くほどに穏やかだった。

「お、フアル! 約束どおりガガロを元に戻したぞ!」

 その言葉を受け、フアルは言葉を失った。ガガロは確かに元に戻った。だが、肝心のシェラガが傷だらけではないか。

 ズエブは左腕で渾身の力をこめてガガロを殴った。

 だが、ガガロは表情一つ変えず、謝罪の言葉を口にした。

「ズエブ、大事な友人を傷つけてしまって申し訳ない」

 ズエブはもう一度ガガロを睨みつけた後、ガガロを抱きしめた。

 フアルはただただ嗚咽を漏らしていた。

 ガガロを元に戻すのは自分の望んだことではあるかもしれないが、シェラガにこのような負傷をさせてまでその結果を望むのはいかがなものなのか。では、ガガロを見殺しにしてもよいから、シェラガに五体満足でいて欲しかったのか。

 どちらも違う。

 だが、何事も自分の望んだ一番いい結果が得られるとは限らない。

「ごめんなさい……」

 完全に混乱したフアルは、ただただシェラガに謝り続けた。

 だが、当のシェラガはなぜ謝られるのかわかっていなかったようだった。

 普通に自分は大地に立っている。確かに体はそこここ痛むが、致命傷というほどではない。だが、なぜかズエブは怒りガガロを殴りつけ、フアルはまるで少女のように泣き続ける。

 シェラガはフアルを左手で撫ぜようとして、自分の左腕がないことにようやく気付いた。

「あれ? 俺の腕がない……」

 それが最初の彼の言葉だった。続いて、左膝と右大腿部以下の欠損に気付く。

 だが、驚くことなく、シェラガは左腕があるように所作し、見えないその手をフアルの頭に置いた。

 フアルは涙をぬぐうことなくその瞳を上げる。目には見えないが、確かにシェラガの手が頭の上に置かれた感触がした。温もりを感じた。

 思わずフアルは、自分の頭の上の手を引き寄せ、抱きしめた。

「おい……」

 シェラガは居心地悪そうな表情を浮かべ、思わず目を逸らした。心なしかうっすらと頬に紅が射しているようにも見える。

 シェラガの腕の感触がフアルの胸に伝わり、シェラガの表情に気付いたフアルは、思わず見えないシェラガの腕をつねり上げた。

「痛て、痛てて!」

 見えない手ではあったが、つねりあげると痛がるシェラガがうれしくて、フアルは何度も見えない手をつねり上げては微笑んだ。

「痛え、痛えよ、何でニコニコしながらつねるんだよ!!」

 半分怒りながらフアルから腕を振り払ったシェラガだったが、しきりにフアルにつねられた目に見えない部分を摩りながら呟いた。

 両足も失われている状態であるように見えるので、側にいてもシェラガの体は宙に浮いているようにしか見えなかったが、そこにはどう見ても足がある状態だとしか思えなかった。

 ズエブもものめずらしそうにシェラガのすね辺りを蹴飛ばすが、確かに感触があり、シェラガはフアルが腕をつねり上げたとき以上に痛がった。

「何なんだよ、お前ら! 俺の体が見えなくなったのがそんなに珍しいか?」

 一瞬場の空気が凍りつき、顔を見合わせる。みなが思ったはずだ。

(どう考えても珍しいだろう……)

星辰体(アストラルボディ)か……」

 ガガロはじゃれるシェラガたちを遠巻きに見ながら、独り言のようにつぶやいた。

「アストラルボディ?」

 フアルとズエブと取っ組み合うような格好になっていたシェラガは、ガガロの言葉に動きを止める。

「それは何?」

 自分の体に起こった異常に対して、当のシェラガが興味を持たぬはずがない。

 だが、それはフアルにしても同じだったようで、ガガロの四倍以上生きているくせに知らないのかよ、という隻腕の青年の言葉に、短く鋭く噛み付くように反応するフアル。しかし直ぐに、自分の見聞き知らぬ現象に対して不思議そうな表情を浮かべながら、ガガロの解説を待った。

 そのやり取りを見て、苦笑とも嫉妬とも取れる表情を一瞬浮かべたガガロだったが、直ぐに表情を消し、ゆっくりと話し始めた。

 それは、彼らが知る常識では考えられない内容だった。

 人間には体がある。

 その体は当然生命体として存在しているわけだが、それを細かく見ていくと、人間の体はたんぱく質や水でできている。更に細かく見ていくと、人間の体は物理的というよりはエネルギー的に繋がっている状態になる。細胞の一つ一つを構成するさまざまな原子は、そのレベルまでミクロ化してみていくと高エネルギー体の結合でしかない。そして、更にミクロ化してみていくと、ものの存在はエネルギーの濃淡でのみ表現されるようになる。

 そのエネルギーの存在の濃淡の分布バランスが、圧倒的で巨大な力で干渉されることにより変化してしまい、物質としては存在しない、あるいは認識できない形状でありながらもエネルギー体レベルで見ていくと確かに存在するという不思議な現象が発生する。つまり、目では見えないがそこに確かにあるという状態だ。ただ見えないだけではなく、重さも感じられなかったりする場合もあるのだが、それを人間が感知するとしたら、気配であったり雰囲気であったり、と抽象的なものになりかねない。

 今回のシェラガの場合は、四肢の一部が不可視化している状態だが、それ以外は通常のそれであり、シェラガ自身はそこにすべての感覚を持ち合わせている。四肢が光を透過してしまうだけの状態だ。それゆえ、目に見えずとも触ったり掴んだりすることも可能だった。

「理由はわからんが、お前とシェラガの氣のエネルギー同士のぶつかりあいが、シェラガの腕と足を見えなくしちまった。そういう理解でいいのか?」

 いろいろ説明を受けてなお、難しそうに聞いていたシェラガだったが、ズエブの言葉に納得できたのか表情が晴れていく。

「本当に分かったのかしらね~?」 

 だが、そんな様子を見て小馬鹿にしたように理解の度合いを聞こうとするフアルと、又掴み合いを始めるシェラガ。

「そういうことだな。おそらく、シェラガの左腕と下半身はもげたのだろう。だが、そのタイミングで高エネルギーの超回復を行ったため、肉体は再構成できたものの、エネルギーの存在バランスが微妙に変化してしまったため、目で見ることができなくなってしまったのだろうな」

 聞く人間が聞く人間ならば怒り出しそうなガガロの物言いではあったが、シェラガ自身は全く気にしていないようだった。

 フアルとの掴み合いを終えたシェラガは、既に何事もなかったように晴れやかな表情を浮かべる。

「ま、なんでもいいや。見えはしないけど、あるんだろ、ここに」

「……まあ、そういうことだ」

 自分の置かれた現状に全く動じないシェラガと、それを不安そうに見つめるフアルがリーザにとって、酷く印象的だった。

「服着たりしたらみえないもんな。さすがに顔が見えないと困っちまうけどな」

 シェラガは見えない左手を見つめると、握ったり開いたりしてみた。

 見えない。見事なまでに何も見えない。けれども、足元に有る剣を掴むと、傍から見ると何もないところに剣が浮いているように見える。

「馴れなのだろうけど、意外とやりにくいな。実際に自分の手が見えていることで有る程度距離感を見ているのかもしれないな」

 そこで突然表情を引き締めるシェラガ。そして、ルイテウ内部の入り口の側で遠巻きに四人を見つめるリーザに向き直り、少し大きめの声で呼びかけた。

「ちょっといろいろあったが、俺とフアルの特派員契約は『生き』でいいのか? ガイガロス人はこんなに強いし、俺は片腕両足みえなくなっちまった。それでもいいか?」

 リーザは無言で頷いた。

 聖剣を背の鞘に戻したシェラガは、右腕でガガロを、見えない左腕でフアルを抱き寄せ破顔した。

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