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たぶん私は勇者じゃない。  作者: 行見 八雲
3/3

3.まさかの展開ってやつですか?



 そこからは楽しい女の四人旅……のはずが、雰囲気がギッスギスピッリピリして非常によろしくない。何故私を差し置いて女三人で睨み合うのか。常に嫌味の応酬と私の隣の取り合いで、終いには泊まった宿屋でこぞって夜這いをかけてくる始末。寝ようと部屋に戻ったとき、ベッドの上に横たわる裸の女冒険者、聖女、ネコ少女を見た時の私の脱力感ときたら! 

 その時は、「使命を果たすまでそんな気にはなれない」とか、「もっと自分を大切にしなさい」とか言って誤魔化しつつ部屋から叩き出したが。この状態は、昔部活の合宿で宿に泊まった時、目が覚めたら三人の女マネージャーが息も荒く顔を覗き込んでいたときの恐怖を思い出させるな。


 何だかんだとタイミングを逃してしまっていたが、ここらでちゃんと自分の性別を明かすべきだということは分かっている。だが、私がこれまで鍛えてきた対女性用危険察知超直感によると、女だと明らかにした途端、「そんなことあるはずがない!」と切り掛かってきそうなのが一人、「二人結ばれることが許されないならいっそ……」と刺しに来そうなのが一人、「男なんかにご主人様は渡さない!」と断崖絶壁から飛び降りるのに巻き込んできそうなのが一人。と、なにやら命の危険を感じるので、この秘密は魔王城の地下まで持って行くべきだという結論に達した。そのまま死んだふりでもして、もとの世界に帰ろう。



 だが多大なるストレスに耐えきれず、次にたどり着いた街で、たまたま立ち寄った飲み屋のマスターに散々愚痴りつつ話をしていると、どうやらマスターは元凄腕冒険者で、魔王を含めた魔族に並々ならぬ恨みがあるらしい。ならば是非とも旅に同行して欲しいと頼み込むと、「俺みたいなおっさんで良いのか?」と大人の貫録で苦笑いされた。な……何故だ、厳つい男くさいおっさんに癒されるこの気持ち!


 いやもうあの女達の防波堤になってくれるなら、職業、年齢、経験の有無は問いません! 急募中間管理職! との本音は隠し、パーティーのバランスが心配だの、やはり経験豊富な人がいてくれた方が助かるだの、もっともらしい理由を並べてちょいとよいしょして、ついに最強の盾――ならぬおっさんを手に入れた!

 ちなみにおっさんの戦闘スタイルは、巨大な盾を振り回し防御と攻撃をこなす重戦士なのだそうだ。


 それからの旅は比較的穏やかだった。何しろおっさんの傍にいれば女性陣は焼きもちを焼かないのだ。なので四六時中おっさんについて回った。終いには女冒険者に「あんた、男の方が好きなのかい?」と聞かれ、危うく肯定してしまいそうになった。が、そこは昔時間に厳しい女教師に、宿題の提出期限を延ばしてもらうときに使った笑顔で有耶無耶にしておいた。


 いつの間にか微妙にチャラいイケメン魔法使いも加わって、パーティーは六人になっていた。

 この魔法使いは、確か「君達のパーティー楽しそうだね、俺もいれて~」とか言いながら近づいて来たんだっけ。けどその顔を見た途端、私の中で彼を仲間に入れることは即決定した。その甘い笑顔のイケメンに、女性陣が心奪われることを全力で期待したのだ。イケメンは期待の星となったのだ。



 やがて立ち寄った王都では、王都に足を踏み入れた途端に城に連れて行かれ、謁見の間で王様と対面することになった。「ここは○○国の王都××です」との都民の言葉を聞く暇もなかった。

 いつの間にか、勇者が召喚されていること、そしてその勇者が私だということが知れ渡っていたらしい。魔王側にばれないようにひっそりこっそり移動計画がここへきてのまさかの頓挫。やはり目撃者の口を封じておくべきだったか……!


 謁見の間で対面した王様は、何だか色々言っていたが、最終的に無事魔王を倒した暁には、我が娘の夫として迎えよう、ということだった。王様の隣にいた王女様は少しも嫌がる様子もなく、にこやかにほほ笑んでいる、のだがその目が何かを見定めるように私を見まわしていたような気がしたが……はは、そんなまさか。


 ちょっと待て、どうして王女と結婚限定なんだ! 褒美なら他にもたくさんあるだろう! 宝石とか金塊とか高価な美術品とか金とか金とか金とか! と、内心はブーイングの嵐だったが、まあどうせ戻ってこないのだからと適当に返事をして、二・三日滞在してから旅に出ることになった。のだが、その間におもてなししてくれた王女の目の鈍い輝きが怖かった。どこへ出かけても必ず人混みの中にいて、無言でじっとこちらを見ているご近所のお姉さんの目に似ていた。


 しかし何故王女しかいないんだ、主人公が女なら普通王子様とのロマンスだろう! ここまでのイベント総じて、男主人公対応だろう! 私にも少しくらい美味しい思いをさせろ! と、世の理不尽さに世界の中心で泣き叫びたい気持ちだった。

 こうなりゃとっとと元の世界に戻って、魔王と後の世界のことは本物の男勇者に任せよう、と気持ち新たに魔王城へ急ぐ。



 いくつかの村や街でやっぱり男勇者向けのイベントをこなしながら、ようやくたどり着いた魔王城で、パーティーの仲間達と聖剣の力でばっさばっさと魔物達を斬り払い、どうにかこうにか魔王の居る、いわゆるラスボスの間にたどり着いた。

 ここに来るまでに迷い込んだ厨房で働いていた魔族の女の子によると、魔王城の地下へ行くには魔王の玉座の後ろにある隠し階段から行くしかないらしい。とことんよくできた仕組みだとハンカチを引きちぎりながら、仕方なく魔王と対峙する。魔王は魔王らしい魔王だった。山のような巨大な体に、角の付いた変な帽子、顔は豚のようで、ぐわはははと低い声で歓迎の言葉を述べてくれる。


 最初のうちは魔王の隙を見計らって玉座に近づこうとしたが、魔王がデカすぎるからか体格の割に視野が広いのか、なかなか横を抜けることが出来ない。

 玉座のある後ろ側に回ろうとすると、そのたびに「どこへ行く勇者」「俺の背後に立つな!」などと言いながら攻撃を仕掛けてくる。何かこいつ分かってやってるだろう! としだいにイライラが募り、こうなったら魔王の屍を越えていくことにした。


 魔王との戦いは死闘を極めた。聖剣でピカーッとやって魔王がひるんだすきに一斉攻撃し、魔王が反撃の魔法を撃って来ると重戦士のおっさんの背後に皆で固まってそれをかわした。そうやってチクチク攻撃していくうちに、魔王のHPも残りわずかになってきたようだった。あちこちボロボロで言動も怪しくなってきた魔王に、ここいらが決め時だと一人先駆ける。


 「おのれ、勇者め!」と最後の一撃を魔王が放つのを聖剣で真っ二つに斬り、そのまま聖剣を魔王の眉間めがけてぶん投げる。見事に命中した聖剣に、魔王がぐわああと呻き声をあげながら、ボカーンと爆発した。その煙に隠れて玉座の背後へと回る。その間わずか十秒! 私の背後にいたパーティーメンバーからは、勇者が突っ込んで行って魔王の攻撃が来て、何か爆発して魔王と勇者がいなくなった、くらいしか分からなかっただろう。ふっ、東洋の魔女の片鱗を見せてしまったぜ。



 「ゆ……勇者!!?」「ご主人様あああぁぁあ!」というメンバー達の悲鳴をよそに、隠し扉を開けてこっそりと地下への階段を下りていく。そうしてそこにあったバレーコート一面分の空間の鍾乳洞の真ん中に、よく分からんが大きな魔方陣がうっすら光っているのが見えた。


 おーこれか! と軽い気持ちで魔方陣に近づいて行くと、その魔方陣の奥に人影が見えた。何者!? と足を止めると、そこに立っていたのはなんと! チャラい魔法使いだった。


「な、何故ここに!?」


 などと、一見やられたように見せかけて、こっそり逃走を図る悪役のような声を上げてしまった。そんな私に魔法使いはいつものへらへらとした笑顔を置かべたまま。


「ん~? 実は俺、邪神とかいうやつなんだよねぇ」


 なんて電波のようなことを言い出した。だがしかし、先ほどから奴から感じる邪悪で巨大な魔力に、奴の言うことをあっさり否定することができない。真のラスボスの方でしたか……と冷や汗が蟀谷を伝う。どこ行った聖剣、帰ってこい!!


「いつもさあ、ハーレムで調子に乗ってる勇者の旅に付いて行って、魔王を倒した後にこれで王女と結婚してハーレム放題、酒池肉林の始まりじゃー! とか、いっそ世界征服もしちゃおっかなー! なんて浮かれきってる勇者達を始末してきたんだけど~。君は何か違うし、どうしようかなって思って」


 そう言いながら、私の命運を占うかのように手元でくるくると杖を回している。あっさりと明かされた犯罪事実に、握り締めた手に汗が滲んできた。


「い……いやいや、私は浮かれてなんていないわよ! ハーレムもお断り! だって私女だもの!!」


 世界の果てまで届けこの想い、と、もとの口調に戻って大声で力説する。ああ、ずっと声を大にして言いたかった。


「……女? 君が?」


 さも、い……今起きたことをありのままに話すぜ! と言わんばかりの驚き顔に、腹の底でイラッとした。だがここですかさず畳み掛ける。


「そうよ! 何かずっと勘違いされてきたけど、正真正銘生物学上女です。だから王女と結婚する気もないし、ハーレムを作る気もありません! 世界征服なんてもってのほか! 私はこのままそっと元の世界に戻って、静かに穏やかに女らしく花のように暮らしていくと誓うから……こ、殺さないでほしいんですけど……」


 最後の方はそっと窺うように上目づかいになってしまった。だってこいつにかかれば私の命なんて風前の灯な気がするのだ。

 奴は床を見ながらしばらく何か考えていたかと思うと、ゆっくりと顔を上げ、私を見てにっこりと笑った。


「うん、分かった。君は殺さない」


 その言葉を聞くまで、心臓を氷漬けにされているかのように生きた心地がしなかった。ふ、ふーっとおかしな息が口から漏れる。


「じゃあ私は速やかに去るんで! あ、皆には私は魔王と相打ちで死んだことにしといてね!」


 奴の気が変わらないうちに、と早口でそう言うと魔方陣の中央へと足を進めた。今回ばかりは本気で女で良かったと思わったわ。怖えー! 異世界怖えー! もう二度と来るかこんなとこ! とガクブルしながら、魔方陣の光が徐々に強まっていくのを見ていた。


「じゃあね、バイバイ。君」


 立ち昇る光の向こうに立ってこちらを見ていた魔法使いが、にこやかに笑いながら手を振っている。それにぎこちない笑みを浮かべつつ、私も手を振り返した。

 ああ、これでやっと……と、すべての肩の荷を下ろした清々しい気持ちで洞窟の天井を見上げる。いっそう強くなった光に我慢ができず目を閉じた。



 さらば異世界!!










































「なあんて、言うと思った?」



 ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました<(__)>



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