表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神のから騒ぎ  作者: あすかはなび
第一神話 欲望の果てに
9/29

#9

「声をかけたのは俺からですけど、確かに会いました」


「その子は『セネメラ』といってな。自分の意思とは関係なく、自分以外の存在の欲望がえてしまう力を持っている」


 セネメラ。……それが、少女の名前。


「セネメラは、その能力故に自分以外の存在が怖い。人間を一人、この学校に勧誘してきてくれとお願いしたときは、正直無理だと思っていた」


「どうして無理なんです? 彼女はドが付くほどの、ド美少女だ。そんな子からお願いされたら、大抵の男は断れないと思いますよ」


 俺の発言に、アレスさんは額に手を触れながら溜息を吐いた。


「はぁ。自分以外の存在が怖いんだぞ? それに、セネメラからではなく、慎也が声をかけたのだろ?」


「そうですけど」


「自分から声をかける分には、まだ心の準備ができる。だが、声をかけられたとなれば、相当に戸惑うはずだ。慎也に話しかけられて、よく逃げなかったものだ」


 随分な言われようだ。流石の俺でも傷つく。

 それにしても、話を聞く限りだと、セネメラはあのとき相当に戸惑っていたのか。無表情だったから、てっきり不機嫌なんだとばかり思っていた。


「そんな子が、初対面の俺に毒を盛るなんて……」


「毒? 慎也、セネメラに毒を盛られたのか?」


 信じられないといった表情で、俺を見るアレスさん。


「盛られましたよ。この学校に入学してくれと言われたとき、お願いではなく、脅迫でしたからね。よほど、俺のことが嫌だったみたいです」


「はははははっ!」


 なにがおかしいのか?

 アレスさんは、腹を抱えながら大声で笑いだした。

 笑える雰囲気ではなかっただけに、その光景は異常に見える。


「……ホント、死ぬかと思ったんですからね」


「いや、悪い悪い。それと慎也、どうやらセネメラは、お前のことを相当に気に入っているみたいだぞ?」


「……毒を盛られたんですよ?」


「ん? 毒で脅迫するほどに、慎也をこの学校に入れたかったってことだろ?」


「それは、無理があるかと……」


「ふふ。セネメラは『ポイズン』を司る神だ。この学校にも一人だけ、セネメラに毒を盛られた奴がいたが、哀れなことに、そいつは解毒をしてもらえなかった」


「物騒な話しですね」


「まぁ、そいつはタフなことに生き伸びたんだがな。この話しから解るように、セネメラがもし慎也を嫌いだったとしたら、慎也は死んでいたよ」


「ぶ、物騒すぎる」


 今更ながら、あのときのように、また鳥肌が立った。


「欲望を視られていたにもかかわらず、俺はよく生き伸びられたもんだ……」


「ん? どういうことだ」


「俺って、欲望が具現化したような存在なんですよ。彼女……セネメラは、欲を嫌っているんですよね?」


「欲望というのはドス黒いものだからな。それを、嫌でも見てしまうんだ。嫌いになって当然だろうな」


「それならば、俺はセネメラにとって、とんでもない有害物だったはずです」


「ふふ。口ではそう言っているが、実際はどうだか解らんぞ? 欲望と聞けば、悪いイメージばかり思い浮かぶかもしれないが、ひとえに悪いものだけではない。もしかしたら、自分でも覗けない心の奥底に眠る欲望というのは、セネメラを惹きつけるほどのなにかがあったのかもしれない」


「……」


 よくよく考えてみると、ダメ出しを含めても、アレスさんは俺を過大評価し過ぎではないだろうか? 

 俺は、そんな評価されるような存在ではない。


「いや~、それは考え過ぎですよ。欲に馬鹿正直な俺だったら、簡単に釣れると思ったんじゃないですかね」


 誉められることには慣れていない。

 嬉しいと思う反面、なぜか俺は素直に受け取ることができない。


「はぁ。慎也はひねくれ者だな。物事はポジティブに考えなくては損だぞ? 根が馬鹿なんだから、変なところで気を使うな」


 アレスさんは呆れ顔で俺を見た。

 どうしてか、その表情は、俺の心を見据えているような気がしてしまい、俺の不安を煽る。


「……アレスさん、あなたは勘違いをしています。俺の考えでは、馬鹿には二通りある。一つが、学力のない馬鹿。もう一つは、素で周囲をあきれさせてしまう馬鹿。この二つに分類されると思います。後者は救いようのない馬鹿ですが、俺は前者の、勉強すればなんとかなる馬鹿なんです」


 だから俺は、必死で話をはぐらかした。


「勝ち誇った顔をしているが、どちらにせよ、慎也は馬鹿なのだろう?」


「救いようのある、馬鹿です」


「……そうか。まぁ、なにも言うまい」


 こいつ面倒くさい。アレスさんの顔がそう語る。

 ……これで良いんだ。


「おぃ。小さき人間」


 今まで会話に混じらなかった校長が、急に横やりを入れてきた。

 あまりにも話が進んでいなかったのが原因だろうか?


「理由は解らないが、アテナはお前のことを気にいっている。……だから、我がアテナの代わりに説明をする」


 校長はそう言うと、アテナ理事長と同じ紅い瞳、――強い意志の宿った瞳を俺に向けた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ