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神のから騒ぎ  作者: あすかはなび
第一神話 欲望の果てに
10/29

#10

「お願いします」


 俺がそう返すと、校長は大きく深呼吸をして、さらに強さを増した眼力を俺に向ける。


「小さき人間。『神』といったら、どんなイメージを思い浮かべる?」


「う~ん。不可能が存在しない、万能な感じ、……ですかね」


「万能、……か。どうして、そう思った?」


「人類を創生したのが神なんでしょ? それなら、なんでもできるんじゃないかと」


 正直な話。

 神が複数存在するということすら、今日まで知らなかった。

 そんな俺の発言だから、きっと校長に馬鹿にされると思ったんだが、そんな素振りはされなかった。


「確かに人類を創生したのは、我ら……神だ。しかし、その神を創ったのは、お前たち人間」 


「……それって、矛盾してないですか? それじゃあ、神も人間も生まれない」


「創生と言っても、人間自体の存在を創ったということではない。人間が滅びないような環境を創生したのが神なんだ」


 やばい。なにを言っているのか、全く理解できない。

 そんな俺の心境を察してくれたのか、アレスさんが溜息混じりにフォローを入れてくれる。


「慎也。例えば昔、――雨が長い期間降らないせいで、作物が育たずに困った人間はどうした? ヒントは非科学だ」


「雨乞い、……ですかね」


 アレスさんはニヤリと笑い、「正解」と言った。


「祈ったんだよ。命に係わることだから、それはもう、強い想いで」


「はぁ。なるほど」


「その結果、――雨を司る、『淤加美神おかみのかみ』が誕生した」


「え! ということは、神は人間の想いによって生まれたんですか?」


「例外はあるが、その考えで大体はあっている」


 神は想いによって生まれる……か。

 声に出しては言えないけど、それって、幻想と変わらないじゃないか。 


「――幻想という、ぎこちない存在は強く想われなければ形を保つことができない。この言葉の意味が解るか、慎也?」


 ……アレスさんは鋭すぎる。

 本当に、俺の心を見透かしているんじゃないか? 


「神は想われないと、……存在が消えてしまう?」


「そう。私たち幻想は所詮、想われなければ消える」


 神ではなく、あえて幻想と言ったアレスさん。

 その言葉の深さは、俺ではとても測ることができない。


「この学校はな、人間に想われること、……信仰されなくなった神が集まった場所なんだよ。いわば、落ちこぼれのつどいだ」


 落ちこぼれと言ったアレスさんは、悔しさにも、憎しみにも見て取れる表情だった。

 腕を組んでも強調されない薄い胸を張りながら、校長が俺に言う。


「……アテナが翼を見せただろう? 翼の枚数は神の実力を表す。だが、枚数以前に、ここに通う生徒には翼がない」


 呪いを受けた、アテナ理事長の翼は『六枚』だった。となると、六枚は相当に凄いのだろう。


「ここに通う生徒には翼がないってことは、もしかして『神見習い』みたいなのですか?」


「いいや、違う。翼は有った。……失ったのだ」


「失った?」


 俺は疑問を返した。


「……信仰されなくなった神に起きる現象でな。まず翼を失う。そして、次第に存在が消える」


 存在が消える、……死ぬということ。

 俺の脳裏に、セネメラの姿が浮かんだ。

 学校の制服と思わしきものを着ていたから、教員ではなく、生徒のはず。

 つまり、セネメラは死んでしまう……?


「そして翼を失った神はな、我らが生まれた地、『神界』へと帰れなくなるんだ」


 いつ自分の存在が消えてしまうのかが解らないだけではなく、自分の生まれた世界で死ぬことさえ許されない。

 それは、恐ろしいことであり、とても悲しいことだ。

 そう思った俺の顔は、どんな表情だったのかは自分では解らない。

 だけど、


「……ふふ。慎也は優しいな。わたしたちに対して、そんな表情ができるなんてな」


 アレスさんの言葉で理解した。

 この、目頭めがしらが熱くなる感覚。

 ……きっと俺は、今にも泣きだしそうだったんだ。


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