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1、梅雨

コンビニから駐車場に飛び出し、チャリに飛び乗ると晃はいつもの癖で空を見上げた。さっきまで青く透き通っていた空にいつのまにか灰色のグラデーションを引きずって曇が走り込んできていた。


「パターンだよな」一緒にコンビニから出てきた郁夫はそう言い捨てるとチャリに体重を斜めにかけて走り出した。小雨で色が変わり始めた二車線道路の歩道を行く。晃は後ろから追い着きながら郁夫の背中を睨んだ。


歩道に張り出した伸び放題の樹木から青臭い香りが立ちこめてくる。二台のチャリが前後に接触しそうだ。

「だからさ、転入生に彼女取られるってのがだよ、しかも日本語もしゃべらねぇ中国野郎によ!」

後ろに向けて郁夫が叫ぶ。降りだした小雨が晃の目に入ってくる。歩道のアスファルトはあちこちヒビが入ったり陥没したりだ。チャリの激しい振動に身体が遊ばれるのに任せっぱなしで晃は黙りこむ。そして、前を行く郁夫の制服のワイシャツがどんどん透けて背中に張り付いていくのをさらに睨み付けていた。

やがて二人は全ての飛沫を遠心力で弾き飛ばしながら、緑深い道になだれ込み、城跡公園の蓮池のほとりにある東屋にチャリごと滑り込んだ。蓮の葉が蓋をしている池に雨のストローが刺さっていく。雨が持ち込んだ猥雑な匂いが東屋の中に沈殿している。

「ヤベェ」郁夫がコンビニの袋からカレーパンを取りだし、セーフと叫んで雨の滴ごと口にねじ込んだ。晃はやや遅れて木のベンチに座り込み、丁寧におにぎりのラップについた滴を拭き取ってから手順を踏んで剥がしにかかる。

「紗絵ちゃんはさぁ、君のそういう見かけ倒しのセコいとこが嫌なんすよね、きっと」

油の指をなめながら、晃を横目に郁夫はちょっと小馬鹿にしたような表情で攻撃を緩めない。晃はちょっと必死になった。

「うるせぇな、紗絵はガキの頃からうちに来て家族みてえなやつなんだよ。誰とどうなろう俺には関係ねぇ」

「ふぅん、誰も信じねぇな」

郁夫は言い捨てて、カレーパンの袋を丸めてチャリの籠に投げた。バレー部のエースで学年きっての問題児、ただし一匹オオカミで教師にも従わないがツッパリのグループには属さない。代わりにバレー部のキャプテンの晃を唯一の「連れ」に選んだ。そして、何故か籠付きのママチャリに乗っている。

 

「しかし飛影ひえいか・・・ふざけた名前だぜ、中国から来た帰国子女の孫か何かしらんけど、あいつが来てからおかしいだろ何か・・・」郁夫がらしくない思案顔になりながらつぶやいた。そして

「お前にとっちゃ降って沸いた災難だよな」と今度は慰め顔になる。

どうやら郁夫自身飛影が目障りらしい。晃はやけに海苔のぱりっとしたコンビニおにぎりを頬張りながら、まさに飛影がいきなり晃たちの中学校に降り立った日のことを思い出していた。

 飛影は最近珍しくもない中国からの帰国子女のそのまた子供だと言われていたが本当のところは分からない。そして、晃とは何の関係も無かったが、出会ったその瞬間から晃は飛影の視線にがんじがらめにされる感覚を味わい続けている。そして、それは晃が体験する正体の分からないものとの闘いのゴングだった。


 中間テスト前日、部活の無い貴重な放課後、中三の体臭を抱えながらふたりは激しく降り出した雨のバリアをぼんやりと眺めていた。





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