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看板娘の花言葉 ~緑の乙女は家族とのんびり暮らしたい~  作者: 芽生 1/15『裏庭のドア』3巻・コミックス1巻発売!


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第22話 実る果実と未来への希望 4

今回はちょっと長めです。

お楽しみいただけていましたら嬉しいです。


「そうですか……。中には来られない子もいたんですね」

「ブルーベリーの生育は順調だよ。村の畑の状況を聞いていたからね。僕としても不安があったんだけれど、子どもたちも喜んでいるんだ」


 だが、あの日この場にいた子どもたちの中にも、今日は顔が見えない子どもが何人かいたとジョセフは言う。

 おそらくは家の仕事を優先させているのだろう。

 子どもたちにもその親にも生活があるのだ。

 ジョセフが開く教室では現在、費用はとっていない。しかし、そのあいだ働き手を失ってしまう。

 子どもたちの将来を憂う思いがあっても、今の生活が成り立たなくなってしまっては生きてはいけないだろう。


「――それぞれに理由があるので無理強いもできませんね」

「これは今後の課題の一つだね。難色を示す親御さんがいるのも当然のことだよ。今は、村長であるウォード氏の支援で存続できているけれどね……」


 文字や計算を学ぶことが将来有利に働くことは皆、理解しているのだ。

 金銭的な余裕がないことで選択肢が狭まることを、ジョセフもエイミーも理解している。ジョセフは事業に失敗したことで、エイミーは前世の記憶でそれを知っているのだ。

 しかし、余裕がないのはスタンリー家も同じである。

 エドワードの支援、そしてエイミーの花屋での売り上げが今のスタンリー家の主な財源なのだ。


「親御さんにとって、教室に通うメリットがもっとあれば良いんだと思うんだけどね」

「――親御さんにとって……それです! 父さま、それがいいと思います!」


 急に大きな声を出したエイミーに驚くジョセフだが、彼女は目をキラキラと輝かせ、笑顔を浮かべる。

 どうやらエイミーはなにか案を思いついたようだ。

 

「アルフィーたちも今、呼んできますね!」

 

 そう言うと、エイミーはくるりとドアの方へ振り返り、部屋を後にしてしまう。

 少々活発な愛娘に驚きつつ、ジョセフは戻ってきたエイミーがどんな案を考え付いたのかと期待してしまう。

 出会った当初から、元気で周囲を明るくするエイミーの存在はスタンリー家を良い方へと導いてくれる――ジョセフにはそんな感覚があるのだ。

 遠のいていくパタパタという足音にジョセフは静かに微笑むのだった。



「食事の提供を始めたい?」


 ジョセフの言葉に自信ありげに頷くエイミーだが、その後ろに控えるアルフィーは渋い表情だ。

 ルークは興味津々といった様子であり、母のグレースは黙ってエイミーを見つめ、彼女に仕えるクレアは不安そうに佇む。

 クロウはなにか面白いことが始まったと言わんばかりに黒い目を光らせ、ジュディは楽しそうにしっぽを振る。

 スタンリー家の人々が集合する中、エイミーが口を開いた。


「そう、給食です」

「魔術師を育てる学園や王宮が管理する職場では食堂があるけれど……そのような形かい?」


 学校や職場内で食事を提供する食堂などが併設されることは、この国でもまれにある。それだけ、その施設が充実している証でもあるのだが、小さな村の教室でそれを行うなど皆、聞いたことがない。

 

「いえ、食事は皆で同じものを食べるんです。週に一度でもかまいません。その日、学校に来る、来たいと思える理由を作るんです」


 エイミーの言葉にジョセフは少し考えこんだ後、口を開く。


「――たしかにそれは魅力的かもしれないね」

「そうでしょう? でしたら……!」

「だが、費用の問題や調理する人材など問題が山積みだと私には思えるよ」


 ジョセフの言葉に、エイミーはきゅっと口を結ぶ。

 父が今口にした問題点は、エイミーもまた解決せねばならないと考えていたことである。


「……はい、そこは材料などを育てていって、少しでも費用の負担がすくなくなるようにと考えてはいます」

「うん、そうだね……。エイミーが育てる花や植物は他とは違うと私も思っているよ。この地に合う植物を育てる考えには賛成だよ。けれど――」


 過去のジョセフであれば、エイミーの提案にすぐに賛同したであろう。

 しかし、今のスタンリー家には経済的な余裕がないのだ。

 皆が心配そうに父と娘の会話の行く末を見つめる中、ジョセフが口を開く。


「そうだね……クレア、君はどう思う?」

「わ、私ですか……?」


 急に話を振られたクレアは驚いて、ジョセフとグレースを交互に見る。

 グレースがそんな彼女を安心させるかのように頷くと、クレアは静かに話し始めた。


「わ、私はその……大変ありがたいご提案だと思います。文字や計算を身に付けることで将来が変わる――そうわかってはいても今の生活を優先せざるを得ないのはどこの家庭も同じです。王都に働きに出た後、苦労をする若者が多いのが現状です」


 クレアの言葉にジョセフは優しい眼差しを向ける。


「そうだね。だが、私たちでそれを実行に移せるかが問題だね。なんとも不甲斐ないことだ」

「そ、そんなこと……! こちらで雇っていただけて私たちの日々は変わりました! あ、あの……! 村長にご相談をしてみてはいかがでしょうか」


 急に話を振られ、回らぬ頭で必死に答えていたクレアは主人に意見をしてしまったことに気付き、慌てて口元を押さえる。

 しかし、ジョセフは気にした様子もなくクレアに話しかける。


「村長……ウォード氏にかい?」

「は、はい……。実は最近、村の農作物の育ちが悪く、それを村長が買い取ってくださっているんです。そちらを給食というものに活かせないものかと……」

「そうか! そりゃあ、いい案だな!」


 後半になるにつれ、どんどん小さくなっていくクレアの声だが、賛同する大きな声が響く。クロウである。

 考えなしの発言だったと肩を落としていたエイミーの近くで、クロウはバサバサと翼を羽ばたかせた。


「いや! もっといい案が浮かんじまったな。村長が育ちの悪い野菜を買い取っているんだろ? それをいったん、エイミーが育てるってのはどうだ?」

「あたしが……?」


 ぽつりと呟いたエイミーはまだクロウの話がピンと来ていないのだろう。

 使用人という立場から口をつぐんでいたアルフィーがエイミーに声をかける。


「僭越ながら、その鳥が申していることを説明させていただきます。お嬢さまの植物を育てる力は花屋を開店し、切り盛りできるほどのもの。その御力や知識を活かし、不作の苗を育て、一部を教室用にまわしてもらうという案だと思われます」

「お姉さまは育てるの上手ですから、良い案ですね」


 自分自身を省みて、落ち込んでいるエイミーにアルフィーがそう言えば、ルークもその意見に賛同する。

 今までも皆はエイミーが植物を育てる力を間近で見てきたのだ。

 様々な植物や花々を育てられるその力を、別の形で活かすこともエイミーならば可能であろう。

 ジョセフは優しい眼差しを娘に注ぐ。


「皆はこう言っているけれど、君はどう思う? エイミー」


 そう言われたエイミーは視線を上げ、周囲の人々へと視線を向ける。

 母もルークも、そしてアルフィーやクロウの眼差しもエイミーへの信頼が感じられるものだ。エディはいつものようにしっぽを振る。

 エイミーの瞳が再び強く輝いた。


「あたしに……挑戦する機会をください。皆の生活が豊かになるように、これからも皆で穏やかに暮らせるように、自分にできることをしてみたいの……!」


 エイミーが花屋を始めたのは、この村ヴィルグで家族と穏やかに過ごしていくためだ。しかし、様々な人々と出会ううちに、そんな心にも変化が生まれつつある。

 村、そして村に住む人々の平穏もまた、スタンリー家の生活に深くかかわっているのだ。

 家族とのんびり暮らしたい――エイミーはそんな自分の願いを、確実なものにするために自らの力を活かそうとしている。

 

「わふっ!」


 突然、満足そうにひと鳴きしたルディに皆はつい、笑いだすのだった。


 



 古い教会の庭ではブルーベリーがすくすくと枝葉を伸ばす。

 時折、エイミーも様子を見に来ているが、子どもたちが交代で熱心に世話をしている。村長であるウォード氏に話を持っていくと、エイミーたちの申し出に驚きつつ、歓迎してくれた。

 孫であるブリジットも緑色の瞳を持つ。これは植物魔法を持った者の証だ。

 ブリジットより濃い緑の瞳を持つエイミーならば、不作の苗を育てられる可能性がある。そんな期待をウォードは抱いたのだ。


「で、なんだったんだ?」


 突然のクロウの言葉に、エイミーやアルフィー、ルークも不思議そうな表情に変わる。前回、仲間外れにされたのが不服だったのだろう。クロウは着いてきたのだが、先程から木の上に止まり、皆の作業を眺めている。


「何の話ですか? 私達は忙しいんですよ、クロウ」

「あ? 俺が役になってねぇって言うのか? おい、見てみろ。あの犬だってなぁーんにもしてねぇだろ!」


 バサッとクロウが羽で指した方向には、土に転がり、ご機嫌なルークがいる。

 不機嫌になるクロウにエイミーが笑いかける。

 

「まぁ、でもさ。クレアさんとクロウのおかげでもあるよね。あたしが焦って口にしちゃったことをよりいい案にしてくれたんだもの」

「お? そうだろ? そうだろ? で、そろそろ教えてくれてもいいだろ。ほら、これの花言葉だよ」


 クロウの言葉にエイミーは以前の会話を思い出す。

 そういえば、ブルーベリーの花言葉をまだ伝えていなかったのだ。

 ルークやアルフィーも気になったのだろう。視線をエイミーへと向ける。


「えっと、知性、信頼、思いやりなの。なんだか、父さまにお似合いでしょう」

「はい! 僕もそう思います!」


 前世のエイミー、百合子にも母はいた。しかし、父親という存在は記憶にない。

 エイミーにとってジョセフは良き父であり、信頼を寄せられる存在なのだ。

 

「ブルーベリーが実るまでは数年かかるの。この苗はあたしがずっと育てていたから、今年は実がなると思うわ」

「時間がかかるものなんですね」


 そう言ったルークの髪を優しくエイミーは撫でる。

 ジョセフもこうしてよくエイミーの髪を撫でてくれたものだ。

 深い緑の瞳を持つ少女、もふもふとした犬、喋る奇妙な鳥は不吉な黒羽である――そんな風変わりな者達をジョセフは受け入れてくれたのだ。


「それでもきっと、父さまはあきらめないわ。ブルーベリーには実りある人生、なんて花言葉があるもの」

「――それは素晴らしいですね」


 エイミーが口にした言葉に込められているのはブルーベリーの生育ではない。

 子どもたちに父が教え、その子たちが育っていくまでには長い時間を要するだろう。

 植えた苗が根を張り、花をつけ、実る――形は違えど、ジョセフもエイミーもそのために決意を固めたのだ。


 ブルーベリーに水やりをする子どもたちの歓声が、青い空の下響くのだった。




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