第21話 実る果実と未来への希望 3
「でね、皆楽しんでくれたし、ブルーベリーの実がなるのを凄く楽しみにしてくれているの。やっぱり、皆で一緒になにかするのっていいわよね」
「――へぇ、そうか皆でなぁ」
その夜、エイミーは今日の出来事をクロウに熱心に語る。
エイミーと共に熱心に穴掘りをしたルディはお風呂で洗われ、ふわふわとした毛並みになっている。
そんな二人にクロウは冷ややかな視線を向けた。
「その皆っていうのに俺は入ってねぇみてぇだけどな!」
「いや、だってクロウは汚れるの嫌いじゃない」
カラスの行水という言葉があるが、水浴びは好むクロウだが汚れることは好まない。
そのため、エイミーは声をかけなかったのだ。
しかし、そんなエイミーの言葉を聞いてもクロウの機嫌は直らない。
「おう。俺はこの美しい黒羽が汚れるのを好まねぇ。そこのわんころとは違って気高い生き物なのよ。だがな!」
バサッと羽をこちらに向けるクロウはまるで指を指すかのようだ。
なかなかに器用なクロウの仕草だが、エイミーは理由もわからず、ただ見つめ返す。
苛立った様子のクロウときょとんとした表情のエイミー、そんな二人を気にすることなく風呂上がりのルディはウトウトし始める。
「声をかけてくれてもいいだろうよ! この美しき羽があるんだ。木に止まってその様子を俺自ら見守ることもできたはずだろうがよ!」
「あ……そうだね。ごめん……」
「い、いや、わかればいいんだよ。わかれば……な?」
自分の行動に気づき、しょんぼりと肩を落としたエイミーにクロウは慌てだす。
クロウはただ楽しげなエイミーとルディを見て、少々寂しさを感じただけなのだ。
話を変えたいクロウはエイミーに尋ねる。
「で、実のなる植物っていうのはどうなんだよ? 今までが花とかが多かったろ? 色々と違いもあるんじゃねぇのか?」
クロウの話は話題を変えるためではあったのだが、気になっていたことでもある。
以前、レンゲソウを育て、それを養蜂に活かしたように、果実を育てることでなにか新たな事業にも繋げられる可能性があるのだ。
クロウの作戦は上手くいったようで、エイミーの表情はぱっと明るくなる。
「そうなの! 今までこの土地にないものを育てて、上手くいったら価値が出たりしないかなって……! ブルーベリーって強い植物だし、苗なら私が育ててきたものがあるし、低木だから子どもでも実を取りやすいし! それに花言葉も――いや、やっぱりいいや」
「なんだよ。気になるじゃねぇか」
「まぁ、いいじゃない。なんだか、今日すっごく懐かしい感じだったの」
「……前世を鮮明に思い出した影響かもな」
夢を通し、過去の自分の名前を知ったことをきっかけに、エイミーの心の迷いは消えた。自分がここにいていいのか、その能力はなんのためにあるのかと、長年抱えてきた不安を前世の母の言葉が消し去ったのだろう。
最近のエイミーにはかつての迷いが消えたようにクロウには見えるのだ。
そんなクロウの言葉にエイミーは笑みを浮かべる。
「血の繋がらないあたしを父さまも母様も家族として受け入れてくれたでしょう? 本当の娘みたいに過ごして、皆とも家族として暮らしてる――こんな日々がずっと続くようにあたしにできることならしたいし……皆でのんびり過ごしたいんだ」
「……わふっ!」
それまでごろんと転がり、眠っていたルディがエイミーの言葉を聞いて一声鳴く。
起こした体を再び横たえて、眠りにつくルディに呆れた視線を向けるクロウだが、エイミーの前にちょん、ちょんと近付く。
「まぁ、今度なにかあればこのクロウ様にも声をかけろよ? 情報収集なら空を飛べる俺ならお手の物だからよ」
「ありがとう、クロウ。家族がいるのって心強いね」
「へっ!」
エイミーが口にした家族にはスタンリー家の姓を名乗る者だけではなく、クロウやルディも含まれているのだろう。
思いがけないエイミーの言葉に、照れたクロウはくるりと背を向ける。
ついつい口元が緩むエイミーだが、それではまたクロウの機嫌を損ねるだろう。じわじわと込み上げてくる幸福感を抱きながら、エイミーは眠りにつく支度を始めるのだった。
「僕のエイミーが畑を耕したのかい……」
整った顔立ちをしているエドワードの眉間には深い皺が寄る。
魔術師として王都に住むエドワードへの報告は魔道具を使い、定期的に行っている。自由に振舞うエイミーの行動を報告せねばならないアルフィーとしては、なかなかに胃が痛くなる職務である。
しかし、アルフィーとしても言いたいことはあるのだ。
「昔からお嬢様は木登りをしたり、ルディと遊んで泥だらけになるなど、他のご令嬢に見られぬ自由奔放さがございましたので。エドワード様がお止めになるようにおっしゃっていたとご報告すればよいでしょうか」
「――お前も性格が悪いね」
しれっとした表情で問うアルフィーだが、その実際は「そのようなことをすれば、エイミーに嫌われるがよいのか」と脅しているも同じだ。
アルフィーの言うとおり、子ども時代からエイミーの行動は変わらない。
それをたしなめ、行動を改めさせる気はエドワードにもない。
どちらかといえば、最愛の妹と弟と楽しい時間を過ごしたアルフィーへの八つ当たりなのだ。
「で、その教会での勉強会はどんな様子だい? 続けていけそうなのかい」
エドワードの問いかけにアルフィーの表情が曇る。
「なかなか難しいのではと――」
「だろうね」
経営としてみれば、子ども達に勉強を教えることは収益には繋がらない。
どちらかといえば父であるジョセフの人の好さ、そして村長の子ども達の将来を憂う気持ちから成り立っている状況だ。
「父が気落ちしたそのときはフォローを頼むよ」
妹や弟には過保護な面を見せるエドワードだが、毎回、必ず両親も気遣う。
魔術師として優秀なため、王都に行かざるを得ないエドワードは働く理由も家族のためである。
定期的にアルフィーに報告を入れさせるのも家族を案ずるがゆえなのだ。
そんなエドワードが微笑ましく思え、自然とアルフィーも笑みを浮かべる。
それに気付いたエドワードはむっとした表情でアルフィーを睨む。
「大体、おまえがいながらなんでエイミーが畑を耕すんだい? まったく、昔から――」
まだまだ続きそうなエドワードのお小言に、先程浮かべた笑みを内心で後悔するアルフィーであった。




