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看板娘の花言葉 ~緑の乙女は家族とのんびり暮らしたい~  作者: 芽生 1/15『裏庭のドア』3巻・コミックス1巻発売!


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第2話 帰郷、そして新たな旅立ち 2

しばらくは毎日更新する予定です。

お楽しみいただけたら嬉しいです。


 王城での生活は不自由こそないが、商家の生まれであるエイミーには窮屈なものであった。ガタゴトと揺れる馬車に乗って、やっと実家に帰れたと思っていた彼女は父母に呼ばれた。

 そして告げられたのは予想もしていなかった言葉である。


「この屋敷が借金のカタに!?」


 

 穏やかで優しい父ジョセフ、そしていつもは柔和に微笑む母のグレースも困った表情のまま、頷いた。

 焦げ茶の髪と瞳を持つジョセフはシャツにアスコットタイ、スラックス姿であるがいつになく疲れが見える。その隣のグレースは上質なワンピースを着ているが、ネックレスなどアクセサリーは身に着けていない。

 弟のルークはまだ幼く、両親の言葉の意味を完全には理解していないのだろう。きょとんとした顔で父母とエイミーの顔を見ている。

 弟のルークはまだ幼く、両親の言葉の意味を完全には理解していないのだろう。きょとんとした顔で父母とエイミーの顔を見ている。

 

「実はね、この家を抵当に入れて商売を広げていたんだよ。始めは少額での融資だったんだ。しかし、その……事業が上手くいかず、どんどん借金の利息がかさんでしまったんだ」


 いつだって優しく大らかな両親の欠点はその人の良さにある。

 長所と欠点は紙一重とは言うが、本来は美点であるものが今回は裏目に出たらしい。

 スタンリー家は長く続く大きな商家ではあるのだが、それを継いだ父母は人を信じやすい人柄、絶望的に商売に不向きなのだ。

 それを兄であるエドワード、そしてエイミーや使用人のアルフィーが支えてきた。

 だが、兄は才覚があり王城で魔術師を、エイミーも緑の乙女候補として王城に行くこととなった。使用人であるアルフィーだけではすべてを把握することが出来なかったのだろう。

 彼も顔を真っ青にして、父母の話に耳を傾けている。


「しゃ、借金はもう返せない金額なの?」

「……あぁ、懇意にしている人達に相談はしたんだが、助けを得られなかったよ。本当にお前達にはすまないと思っている……」

「あなた達には私達のせいで苦労をかけてしまうわ。ごめんなさいね……」


 視線を使用人のアルフィーに移すと、彼も深刻そうな表情でエイミーを見ている。

 彼やエイミー、兄のエドワードに相談さえしてくれれば、もっと上手く動けたであろう。

 しかし、緑の乙女の選定でこの一年は皆が多忙であった。そのような状況で両親はこちらを配慮したのだろう。

 誰にも打ち明けず、自分たちで解決しようと試みたのだ。


「――それでいつまでここにいられるの?」

「一か月以内にここを出るようにと先方からは告げられた。雇用している者達の今後もある。アルフィー、手配を頼めるかい」

「かしこまりました。直ちに手配を致します」


 このようなときであっても雇用している使用人達の今後を案ずる父の優しさ、商売に不向きでありながらもエイミーは人として尊敬する。

 今後のことは兄にも相談しつつ、エイミーと使用人アルフィーが決めていったほうがいいだろう。

 気落ちした様子の父母を見つめつつ、エイミーは大切な家族を守るため、今の自分には何ができるのだろうと思うのだった。



*****

  


「これからどうしたらいいのかなぁ……」


 屋敷の中の物置小屋でエイミーはため息を溢す。

 ごちゃごちゃと不要な雑貨や机が置かれたこの部屋はエイミーにとって居心地の良い空間だ。決して広くなく、薄暗いのが考え事をするのにちょうど良いのだ。

 そしてなにより、この部屋はクロウと出会ったあの日を思い起こさせる。

 

「こんなときに前世の記憶とか、種や植物を自由に育てられる力が役に立てばいいのに……。チート? とかそういうの!」


 エイミーがこの屋敷に引き取られたのはまだ幼い頃、温かく家族として受け入れてくれた養父母には感謝の気持ちしかない。

 緑の乙女候補になったのには、植物を育てる能力が高かったことにある――と王城の人々や教会の者達には報告している。

 しかし、実際にはエイミーはこの世界にはない種や植物を育む力があるのだ。

 それは自分が前世で見聞きした植物の記憶が起因しているのではとエイミーは考えている。兄や家族もその能力自体は把握している。

 大らかな父母はその力をただただ称賛し、兄のエドワードは周囲にはそれを伏せるよう努めてきた。エイミーが緑の乙女候補から外れたのは、情報が十分に伝わらなかったためでもあるだろう。


「そうなったらなったで、お前の力を悪用するやつらが出てきて、親御さんは騙されるぞ?」

「うっ! それはそれで想像できちゃうから怖いなぁ……。ね、ルディ」

「わふっ!」


 クロウの指摘はもっともだ。

 ごろごろと横になりながら、エイミーは大型犬のルディを抱きしめる。事情をよくわかっていないのか、ルディは嬉しそうにしっぽを振る。

 エイミーはベストに白いタイブラウス、ジャンパースカートとすっかりラフな服装である。かしこまった服装はどうにも好まないのだ。


「で、どうすんだよ? これから」


 そう話しかけた黒い鳥クロウも犬のルディも、孤児院にいたときからのエイミーの友人である。孤児院にいた頃に出会った二匹だが、当然共に暮らすことはできなかった。

 そのため、夜間になるとエイミーは二匹に会うため孤児院を抜け出した。

 その際に兄のエドワードに出会い、エイミーはスタンリー家に保護されることとなったのだ。


「やっぱりあたしの政略結婚なんじゃない? それとも修道院に行くとか……」

「なんでお前の今後だけなんだよ!」

「きゅうぅぅん」


 苛立ったように言うクロウ、悲し気にルディは鳴き声を上げる。


「大丈夫! なにがあってもルディもクロウも一緒だからね!!」

「わふっ!」

「いや、気持ちはありがてぇけど修道院には俺ら連れてけねぇだろ……」

「え! それは嫌かも……」

「政略結婚のが嫌だろうが! ……まぁ、そんなことはあの長男坊と使用人が認めねぇだろうけどよ」


 ぶつぶつと文句を言うクロウだが、エイミーはルディの毛並みのもふもふ具合を堪能しながら深いため息を溢す。

 引き取ってくれた養父母、優しい兄に可愛い弟、今の環境をエイミーは心から愛し、感謝している。

 だが、思い入れのあるこの屋敷を離れた家族はどう今後を過ごしていくのだろう。自分の今後よりもそちらが気になってしまうエイミーである。


「姉さま、いらっしゃるの?」


 コンコンとドアが叩く音がして、きぃとドアがかすかに開く。

 ひょこっと顔を覗かせたのは弟のルークだ。淡い金の髪はふわふわと揺れ、こちらを見つめる薄青の瞳は愛らしい。

 

「どうしたの? ルーク」


 問いかけるエイミーに、ルークは少し困った表情で下を向く。

 丸首のブラウスにベストを着たルークがぎゅっとひざ丈のズボンを握りしめる仕草から、不安や寂しさを感じていたのだろうとエイミーは察する。

 

「……いつもの場所に行こっか?」

「――う、うん! 皆で行こう!」


 エイミーの一言に俯いた顔を上げ、ルークはぱっと輝くような笑顔を見せる。

 予想外の事態ではあるが、まだ幼い弟に沈んだ表情をしてほしくはない。ルークの小さな手を取ると、エイミーは部屋を出るのだった。



「きれいだね! 姉さま」

「そうね。この花の蜜を蜂たちが集めて、皆が販売しているのよ」


 野原いっぱいに植えられた濃いピンクの花はレンゲ草である。

 この周辺では養蜂が行われていたのだが、なかなか上手くいかないと聞いたエイミーが余った土地にレンゲ草を植えたのだ。

 まだエイミーがスタンリー家に引き取られて間もない頃の話だ。

 幼いエイミーの驚くべき力を純粋に養父母は称賛し、兄のエドワードと使用人のアルフィーは驚愕し、彼女の今後を案じたものだ。


「姉さま、お花のかんむりを作って! 僕も今度はおぼえるから!」

「ふふ、ルークにできるかな?」


 広がるレンゲ草の絨毯は幼いスタンリー家の子ども達の良い遊び場でもあった。今でもこうしてルークと共にエイミーは穏やかに過ごす。


(それももう、終わりなのよね)


 一本一本をしっかりと結びあわせ、離れないように編んでいく。

 血は繋がらないとしてもエイミーにとっては欠かせない存在、この世界に生まれ落ち、前世の記憶を持つ彼女が初めて得た居場所がこのスタンリー家なのだ。

 花を摘み取り、編みながら、エイミーは自分のこれまでを思い起こすのだった。


 

 


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