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【悲報】レベル1の妹。兄の装備でダンジョン配信を始める。(84億円相当の激レア装備で最下層スタート、未確認ドラゴンに遭遇した模様)  作者: 高瀬ユキカズ
大統領の依頼

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第276話 謎の現象

「ここが……」

「問題の現場……」


 湊ちゃんと春日井君は言葉が出ないようだった。


 私たちの目の前には虹色の壁がそびえている。虹色といっても明るい色ではない。まるで邪悪なオーラでも取り込んでしまったかのような、黒く濁った虹だ。


 黒い虹の壁は見える範囲でずっと続いている。地下172階の一定の区域を囲んでいた。


 壁は上から下へと流れるように色を変えている。色は滝に映像を投影したように、不安定に揺れていた。


 壁から硬い感じはまったく伝わってこず、そこに物体が存在するようには感じられない。

 会議で聞いた話によると(聞いたのは湊ちゃんだが)、この壁には弾力があるらしい。


 ミリアが真っ先に壁へ向かって体当たりをした。ぼよんと弾みながら押し返される。


「ぼよんなのです。これは、おもしろい感触なのです」


 その弾力を気に入ってしまったミリアは、ぼよんぼよんと壁への体当たりを繰り返す。


 横でエリ先生は壁に手を触れ、軽く押していた。手は弾力で押し戻される。


「このように、向こう側へ行くことができないのです。まるでここに壁が生まれてしまったように……」


「不思議なのです。向こう側へ行けないのです。でも、行けなくていいと思うのです。向こう側は恐ろしい場所なのです。空が真っ暗で、上まで続いているのです。不気味な岩もたくさんあるのです」


「やはり……。ミリアさんにもこの向こう側の景色が見えているのですね……」


 私たちの目には黒い虹の壁しか見えない。どうやらミリアには違う景色が見えているようだ。それは通常のダンジョンとは様相が異なるらしい。


 私が気になったのは、エリ先生の「ミリアさんにも」という言葉だ。つまり、異様な光景が見える者が他にもいるということになる。おそらくそれは大統領……。


 私は大統領がミリアと同じモンスターである可能性を疑っていた。そうでなければ、ミリアはサキュバスの能力を持っているため、男性である大統領をコントロールできてしまうことになる。魅了(チャーム)が有効なのであれば、うかつにミリアの前に姿を現すことはないからだ。


 ミリアは相変わらず壁へのアタックを繰り返している。

 壁へ体を投げ出しては押し戻され、倒れ込むように何度も体当たりしている。そこに柔らかいゴムでもあるかのようだった。


「お姉様、これはとても面白いのです。とてもぼよんぼよんしていて、楽しいのです。お姉様のぼよんよりも、すごくぼよんしているのです」


「ちょっと待って、ミリア。今、聞き捨てならない言葉が出たような」


 ミリアは自分でもわかっておらず、同じ動作を繰り返している。


「聞き捨てならない? ミリアは何か失言しましたか?」


「お姉様の『ぼよん』よりも、よ」


 きっとそれは私の胸を意味している。この胸よりも柔らかい感触だと言いたいのだろう。


 私の代わりに湊ちゃんがミリアをたしなめてくれた。


「春菜のぼよんと比べちゃだめだよ、ミリアちゃん。そもそも、比べるようなものじゃないんだから」


「ごめんなのです。ミリアは楽しすぎて、失言したのです」


 そう言ってミリアは思いっきり壁にダイブし、かなりの距離を跳ね返された。

 ミリアの足がざざっと音を立て、ミリアは自慢げに構えを取った。


「ここまで戻ってきたのです。お姉様、勝負なのです。お姉様はどこまで戻れますか?」


 今のミリアにはまったく緊張感がない。この状況を楽しんでいた。


 大統領とエリ先生は苦笑しながらその様子を見ていた。お兄ちゃんは壁の向こうを睨んでいる。


 私は湊ちゃんと春日井君の間に立ち、2人の手を取った。


「じゃあ、3人でミリアと勝負だ。このぼよんで、ミリアよりも飛んでやろう」


「うん」と返す湊ちゃんに、「はは」と軽く笑う春日井君。


 3人でいっしょに壁へ飛び込んだ。

 勢いよく跳ね返されるはずだった。


 視界全体が暗くなる。

 壁と同じ黒い虹が周囲一面に広がっていた。


 私たち3人は、そこにあるはずの壁を通り抜け、その先へ出てしまっていた。3人とも勢いよく地面に倒れ込む。鎧と地面がこすれる金切り音がした。


 赤い石と砂でできた地面。それはよくあるダンジョンの地面とは異なる。


 周囲では赤い砂が風に巻き上げられ、視界が悪い。


 体を持ち上げ、通り抜けた壁を見ようと振り返ると、そこには壁がなかった。

 赤い地面が続いており、その先には暗い森があった。


 大統領もエリ先生も、そしてお兄ちゃんもミリアも見えない。


 上を見ると空があった。空は厚い雲に覆われている。雲は真っ黒だった。


「なに、ここ……。どこ?」


 湊ちゃんも春日井君も、地面に両手をついたまま呆然としている。


 ゴムのような壁に押し返されると思っていたら、突然、不気味な場所に出てしまった。


 春日井君がダンジョンデバイスを操作していた。マップを開きながら首を傾げている。


「DPSが効かない。その代わりに、なぜかGPSが機能している……」


 DPSはダンジョン内での位置を特定する機能だ。

 GPSはカーナビなどで使われる、人工衛星を利用した位置情報システム。それがなぜかこの場所で機能していた。


「どういうことなの?」


 湊ちゃんは不安そうな顔で地面に膝をついていた。


「俺たち、イタリアにいることになっているぞ……」


 その時、私たちの視界に1人と1匹の姿が映った。


 もりもりさんとラビちゃんだ。


 もりもりさんは顔を隠すように、口元にスカーフを巻いている。

 ほぼ目元しか見えないが、白銀の装備に身を包んだその勇姿を見間違えるわけがない。


「ここはイタリアに出現したゲートの中です。クエストを完了するまで出られないようです」


「ゲート……?」


 初めて聞く言葉に、私は絶句した。


「この場所は地上と同じように、GPSも届きますし、Wi-Fi通信もできます。ミラノにある大聖堂の横に、突然ゲートが出現しました。入ることはできますが、出ることはできません。クエストを完了すればゲートは消滅します」


「もりもりさん……。どういうことですか……」


「その前にお尋ねします。あの壁は覚醒者しか通れない。どうして南波さんと春日井さんも来られたのですか? まさか……」


 2人が覚醒レベルを上げてしまったことを、もりもりさんは知らなかった。


「はい……。170階のボスを倒すために、レベルアップシードと覚醒の種を使ってしまいました」


「なんてこと……」


 もりもりさんは額に手を当て、嘆かわしそうな顔をした。しかし、すぐに元の顔に戻る。


「来てしまったものは仕方ありません。私もさっき、ここがイタリアだとわかったばかりなんです。幸いなことに、外部とは遮断されていません。至急、大統領や冬夜さんと連絡を取りましょう」


「わかりました」


「春菜さん、南波さん、春日井さん、聞いてください」


 私たちはもりもりさんの言葉に耳を傾ける。


「ここはミラノにあるゲートから誰でも入れてしまう状態なんです。しかし、出ることはできない。外の人間からすれば、ダンジョンの一部だけが突然出現した状態なのです」


「もりもりさんは知っていたのですか?」


 もりもりさんは首を振る。


「私も知りませんでした。ゲートのことは、さっきネットで調べたんです。今、ネットでは大変なことになっています。大勢がこの中に入ってしまい、死者も出ているようです」


 私たちは驚いた。日本以外ではダンジョンは非公開となっている。情報がネットに出ることは少ないからだ。


「ネットに情報が?」


「ダンジョン配信という形で動画を配信している人たちがいます。大統領たちと連絡が取れたら、ネットで情報を集めましょう」


「わかりました」


 そして調べていくと、地下172階の一部がゲートという形で出現したことがわかった。ネット上では『アビスゲート』という名称がつけられていた。


 すでにハンターたちだけでなく、一般人も入り込んでいた。

 大勢の死者が出ており、ネット上には動画が出回っていた。


 巨大掲示板55(ごじゅうご)ch(チャンネル)にもスレッドが作られていた。

 ゴーゴーチャンネルの愛称で知られている掲示板だ。

 私たちは『ダンジョン速報板』を開いた。


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