第217話 距離を詰めて近接戦へ
アイスゴーレム・ジャイアントが標的として認識しているのは、おそらく春日井君だけだ。狙いを絞り、次々と氷の塊を投げつけてくる。
春日井君は距離を詰めたいのだが、近寄れないでいた。必死に逃げながら矢を放っているが、当然のように当たらない。当たらないために、ジャイアントは攻撃の手を緩めない。
》互いに遠距離攻撃だと、こちらの分が悪すぎる
》矢では当たっても意味がないのでは? ダメージが少ない
》精度が悪くて、当たってないしな
》とにかく距離を詰めないと
》近接戦に持ち込むんだ
「すいません。俺の弓じゃこの程度が限界で……」
天井に張り付いていたと思われるジャイアントも、今は地面に下りている。湊ちゃんがつけた発光塗料により、場所だけは正確に把握できていた。
春日井君の矢はほとんどが外れていた。
しかし偶然ではあるが、放たれた一矢がジャイアントの頭部へまっすぐ向かった。ジャイアントは手を止め、体を捻ってその矢を避けた。
2人はそのタイミングを逃さなかった。
エンジェル・ボウが湊ちゃんの手に移動。素早く4連射。ババババッとそのすべてがジャイアントに命中する。
ダメージは大したことがないが、表面の氷を削り取っていく。細かい氷の破片が周囲に飛び散っていた。
ジャイアントは驚き、急に別方向から飛んできた矢へと向き直る。
別の場所には、真っ青なオリハルコン装備に身を包んだ春日井君がいた。すでに攻撃態勢に入っており、手にはエンジェル・ボウが握られている。
落ち着いて狙えば、春日井君も確実に当てることができる。放たれた2本はともに命中。ジャイアントが振り向く前に走って移動する。
そして別方向からは、また湊ちゃん。今度は6本もの矢をすべて命中させた。
次に春日井君は、鈍色のミスリル装備に替え、手にはスチールアックスを構えていた。鉄製の斧だ。
一気に距離を詰め、斧で斬りつける。対応が遅れているジャイアントの足元を狙った。
近づいてみるとその大きさがよくわかる。春日井君の2倍もの身長がある巨体では、足を狙うしかなかった。脛のあたりに斧を叩き込むが、スチールアックスは無惨にも砕けてしまう。
反撃の蹴りが飛んできたため、春日井君はステップを踏んで後方へ引く。その隙に反対の足めがけて、湊ちゃんが槍を突き立てていた。
ジャイアントの足は、無数の氷のブロックで構成されている。ブロックの隙間に差し込もうとした槍は、惜しくも狙いを外れてしまった。
》鎧を変えたのは複数いるように見せかけるため?
》ボスはいないはずの3人目を探しているように思う
》ボスを撹乱する作戦だろうね
》複数方向からの矢による攻撃、装備を入れ替えて複数に見せる、という作戦か
》ボスが目標を絞れないあいだに、素早く近接戦に移行
》なかなか見事じゃん
》でも、会話をする余裕もなさそう
春日井君と湊ちゃんは次々に武器を入れ替えていく。ダメージを与えるならハンマーや棍棒のような打撃武器が最適だが、2人の目的は他にあった。
》ここからは動きを止める作戦だね
》槍でも剣でも、なんでもいいから氷の間に差し込もうとしている
》アイテムの物量で勝負をしている
》盾も持ち出したね。うまく関節の間に差し込んだ
》そしてヒット・アンド・アウェイ
》動きが鈍くなった相手に、今度は殴打系も混ぜていく
室内は薄暗いが、透明度の高い氷がわずかな光を反射してきらめいていた。
ジャイアントの足にはいくつもの武器が刺さっていた。氷を直接砕くのではなく、氷の隙間を狙ったのだ。鉄製の剣や槍は強度が低く、氷の合間でひしゃげ、曲がっているものもあった。
2人は足首、膝、股関節の可動をうまく阻害するように考えて攻撃をしていた。やがてジャイアントの動きには鈍さが見え始めた。
》いいね、息がピッタリ
》斧や槍、盾までも使って、敵の動きを止めていく。作戦通りだったんだろう
》3人以上いると思わせたから、ボスは必要以上に無駄な警戒をしている
》戦闘技術の高さでレベル差を補えているね




