第194話 3階のショップへ
3階のショップに入ると、例によって周囲がざわついた。
黄金装備の湊ちゃん、ミスリル装備の春日井君、そしてオリハルコン装備の私。
豪華絢爛な3人組が現れたのだから、嫌でも目立ってしまうのは当然だ。
視線と囁きが私たちに集中する。
「本物? あの人たち、ランカーなんじゃない?」
「いや、見たことない顔だけど……」
「じゃあ、ただのコスプレ?」
だが、そんな反応にはもう慣れていた。
1階や2階ではおろおろしていた湊ちゃんも、今は周囲を気にせず、興味深そうに店内を見回している。
「すごいね! いろんなアイテムが並んでる。これって全部ダンジョンで手に入るものなの?」
ガラスケースには武器や防具が並び、平台にはアイテムが陳列されていた。棚にはポーション類が整然と並ぶ。
春日井君が湊ちゃんに説明してくれる。
「ダンジョンでドロップしたままのものもあるけど、合成やスキル加工で作られたものもあるぜ」
さらに、私も補足をした。
「それだけじゃないよ。モンスターのイラスト入りキーホルダーやアクセサリー、バッグなんかのグッズも売ってる。観光地のお土産みたいな感じかな」
店内を歩き回りながら、湊ちゃんは疑問を口にした。
「でも、これってお金では買えないんだよね? ダンジョンポイントが必要だって聞いたけど、どうしよう。日本円をポイントに交換したほうがいいかな?」
湊ちゃんはまだ何も獲得していなかった。
私のダンジョンではアイテムもポイントも手に入らない仕組みだからだ。
「交換はできるけど、手数料が40%もかかるから、おすすめはしないよ。モンスターを倒して稼ぐほうがずっと効率がいいしね」
「そうなんだ……ところで、春菜は今月あとどれくらい使えるの?」
湊ちゃんに聞かれ、私はタブレットを取り出して残高を確認した。
「あと9,800DPかな」
「えっ、いつの間にそんなに減ったの? もう4万以上使ったってこと?」
「ほら、これだよ」
私はレジ近くのお土産コーナーを指差した。そこにはゴブリンモチーフの雑貨が並んでいる。
「ゴブリン鉛筆。10本買ったの。鉛筆のお尻にゴブリンの小さなフィギュアがついていて、全部ポーズが違うんだよ。軸はゴブリンの肌をイメージした緑色が再現されていて、質感も柔らかさもゴブリンそのまま。まるで本物の肌みたいなんだよ」
「これ、いくらなの?」
「500DP。あ……1本で500DPだから、10本セットで5千DPね」
「それって、無駄遣いじゃないの……?」
「そうなんだよねー。削るのがもったいなくて、全部そのまま飾ってるよ」
「いや、そもそも買うこと自体が無駄っていう意味で……」
「ああ、そうかも。鉛筆削りもないしね。普段はシャープペンしか使わないから、鉛筆削りがないんだよね。先に鉛筆削りを買わなきゃ駄目だね」
「えっと……。そうじゃなくてね、春菜……」
「ああ、あとこれね。サイクロプス消しゴム。でっかくてゴツいでしょ。保存用と観賞用と使う用で3個買ったけど、やっぱりもったいなくて使えない。3個ともそのまま飾ってある」
「…………それ、いくらしたの……?」
「1個2800DP。3個で8400DPかな」
「………………ちょっと待って、春菜……」
私が湊ちゃんの反応を気にせず話を続けていると、ふと鉛筆削りが目に入った。
棚の上にディスプレイされているそれを手に取り、説明書きを読んでみる。
「見て、これ! MPで動く鉛筆削りだって! 電池いらずで画期的! 5800DPなんだけど、これ、買おうかな?」
湊ちゃんは無言で首を横に振る。「買うな」という意味だろう。
そうか……今月の残高を考えると、確かにここで買うのは控えたほうがいい。来月に回しても遅くはない。
私は少し名残惜しく思いながら、それを棚に戻した。
「春日井君はどのくらいダンジョンポイント持ってるの?」
湊ちゃんが顔を春日井君に向けて尋ねる。
「俺? 今は7万くらいかな」
春日井君が答えると、湊ちゃんは驚きの表情を浮かべた。
「すごい! そんなに持ってるの?」
湊ちゃんは目を輝かせ、指先をそろえた手を胸の前で合わせる。
なに、その仕草? 反則的に可愛いんですけれど。
私に見せたことのないその姿は、思わず貢ぎたくなってしまう。
……やっぱり、ダンジョンハンターは経済力が大事だ。
金のある男に女は引き寄せられる――ってことは、湊ちゃんに限ってないと思うけれど……。そうは思っても、なんとなくモヤモヤする自分がいる。
そんな私の考えを遮るように、見知らぬハンターが話しかけてきた。
「ねえ君たち、話を聞いてたら、やっぱり初心者なんだね。よかったら俺が何か買ってあげようか? コスプレじゃ戦えないし、まともな装備を一式揃えるのも大変だろ?」
声の主は、チャラついた男だった。
茶髪を無造作にかき上げ、派手なアクセサリーをいくつも身に着けている。装備はスチール製の鎧でそれなりの性能はあるのだろうが、金属の光沢が妙に鼻についた。




