第173話 エリ先生に計画を打ち明ける
血のバレンタインと呼ばれた大事件も終結し、私たちはのんびりとくつろいでいた。
「それで、春菜さん。あなたたちはいったい何をしていたのでしょう? いきなりベランダにドラゴンで現れたので、驚きましたよ」
私たちを運んできたフレイムドラゴン・ロードは、ベランダの外の空中で浮かんでいる。頭をこちら側に突っ込んだ状態で待機し、滞空するために翼をゆっくりと上下させていた。
「それにしても、どうするんですか? あのドラゴン。すごく目立ちますし、目撃された方がびっくりされるかと」
「そうですよね。とりあえず召喚を解除しますね」
タブレットを操作すると、ドラゴンは光の粒子となって消えていった。
湊ちゃんはスマホをいじりながら、ダンジョンチューブやネットの掲示板をチェックしているようだ。
「春菜、ネットで噂になっちゃってるよ。【街にいきなり現れたドラゴン、一瞬で消えた】だってさ」
「ネッシーのようなUMA扱いで終わってくれるといいんだけど」
「むしろ、春菜の存在がUMAだよ。だって、ドラゴンを呼び出しちゃうんだもん」
「目立ちすぎるのは問題だね。昼間はやめておこうか。夜中にこっそり出発すれば、目立たずにアメリカへ行けるんじゃないかな?」
「あなたたち、アメリカへ行こうとしていたんですか!?」
エリ先生は驚きながら、同時に呆れたような顔をしていた。
「ああ。エリ先生にバレちゃったね」
「じゃあ、もうエリ先生も共犯にしちゃうとか? どうかな、春菜?」
「エリ先生はね、実は元アメリカ軍のパイロットなんだよ。ロサンゼルス・ダンジョンを奪還する際に、ダンジョンに突き落とされて死にかけたんだ」
「知ってる。配信を見ていたし」
「なんだ、それもわかってたのか」
「あの配信は、何十回も見たからね。でも、すごくハラハラしたよ。見た人はみんな『エリさんが殺された』って思ったんじゃないかな? 生きていたのが本当に奇跡だったよ」
「なるほど、湊は全部わかっていたのか。エリ先生のことも、ミリアのことも」
「私は春菜の配信を何度も繰り返し見ているからね」
「うわあ。熱烈な視聴者さんだ。閲覧数を伸ばしてくれてありがとう」
「どういたしまして」
「いつも、スパチャをありがとう」
「ごめん、それはしてないや。私は基本的にコメントをしないし、ROM専だよ」
「でも、見てくれているだけで嬉しい」
「いえいえ。春菜も、いつも面白い配信をありがとう」
私と湊が会話をしていたところに、タイミングを見計らってエリ先生が話題を元に戻した。
「それで、筑紫春菜さん、南波さん、そして春日井君。アメリカへ行くというのは本当なのですか? しかもダンジョンを探索するということですか?」
「はい。ドラゴンで行けば、3時間で到着できるそうです。これなら日曜日の日帰りで行くこともできますし、見つからないようにこっそり行けるんじゃないかと」
「それは無理だと思いますよ。おそらくロサンゼルス・ダンジョンは以前の何倍も警備が厳重になっているはずです。2度と放射性物質など持ち込ませないように、荷物検査もあるはずです」
「言われてみると、確かにそうですね。じゃあ、こっそり入るのは無理かあ」
「無理ですし、そんなことをしたら国際問題になりかねません」
「それじゃあ、大和君に頼むとか? 大和君ならなんとかしてくれるかもしれません。正式にダンジョンに入る許可を貰えば堂々と入ることができるわけですし」
「大和君?」
「大和総理です」
「…………」
エリ先生は絶句して固まっている。
「春菜、それって、日本の総理大臣の? 本当に知り合いだったんだ」
「私の知り合いというより、瑞稀ちゃんの知り合いだけどね」
「瑞稀ちゃんって……」
「デバイスリンク・テクノロジーズの社長」
「だよね」
「そうだ、瑞稀ちゃんに湊のダンジョンデバイスも用意してもらおうか」
「私はハンターになるつもりはないよ。ちょっとダンジョンを見学したいだけ」
「それでもデバイスはあったほうがいいよ」
私の意見に同意するように、春日井君が頷いた。
「俺もそう思うな。ダンジョンに入るならデバイスは用意してもらったほうがいい」
エリ先生は完全に呆れ返っていた。
「……どうでもいいのですが、当然のようにダンジョンに入ることが前提で話が進んでいますね」
「日本のダンジョンは管理協会が管轄しているので、ハンター登録をしていないと絶対に湊は入れません。でも、ロサンゼルス・ダンジョンは管轄外ですから、湊でも許可さえ貰えば入れるんじゃないかと思うんです」
「まあ、その許可を貰えるかどうかが非常に難しいと思うのですが……」




