第172話 ミリアの正体はバレていた
湊ちゃんのグーパンチはまったく痛くなかった。つまり、春日井君の鼻血は湊ちゃんのパンチによるものではなかった。
「結局、春日井君が見た湊のおっぱいは幻覚だったということか」
「ミリアの推理が当たったのです」
「でも、そうすると誰が……。サキュバスがやったということは、やはり……」
「ミリアは探偵なのです。犯人がわかったのです! この中にサキュバスがいるのです。サキュバスはあなたなのです!」
腕をまっすぐに突き出し、ある人物を指さした。
その場にいる全員の視線が一点に集まる。
「わ、私!?」
湊ちゃんは困惑しながら、自分自身を指さしていた。
再びサキュバスの容疑をかけられた湊ちゃん。
「ミリアの推理はこうです。ミリアは探偵なので犯人じゃないのです。エリ先生は先生なのです。お姉様はお姉様なのです。つまり、犯人は湊、あなたなのです」
ミリアの荒っぽい論理に、湊ちゃんは強く首を振って否定する。
「犯人は絶対、ミリアちゃんでしょう。実は探偵が犯人でしたってオチ。だって、ミリアちゃんがサキュバスなんだから」
春日井君は私に目隠しをされている。その状態のまま、同意した。
「ミリアしかいないな。だって、俺たちはミリアの正体をわかっていたしな」
「制服を着ていてもミリアちゃんのキャラクターは隠せていないよ。ピンク色の髪に、中二とは思えない幼い顔立ち。おまけにアニメの声優のような可愛らしい声だし」
「俺たちはミリアがサキュバスだとわかっていたけど、知らないフリをしていたんだ」
「ということで犯人は決まりだよね。やったのはサキュバス。サキュバスはミリアちゃん。そういうことになるよね?」
湊ちゃんも春日井君も、ミリアが犯人だと結論づけた。エリ先生に膝枕をされたままの春日井君。顔を少し動かし、私のほうへ声をかけた。
「ところで筑紫。いつまで俺は目隠しされてんの?」
私の手はまだ春日井君の目の上に乗ったままだった。
春日井君はずっと視界を遮られた状態でしゃべっていた。
「ああ、ごめんごめん。今、外すね」
私が手を離そうとした瞬間、湊ちゃんが大きな声で叫んだ。
「だめええええ! まだ、私、出してる! 出しちゃってる!!」
湊ちゃんは慌ててジャージを引き下げた。湊ちゃんの安全を確認してから、私は春日井君の目隠しを外した。
なぜだか春日井君の顔が赤い。目隠しをされながら、あれこれと妄想してしまったのだろう。
一方で、ミリアは悔しそうに口をとがらせていた。
「ミリアがサキュバスだということはバレていたのですか。なら、開き直って宣言するのです。ミリアはサキュバスなのです!」
私はミリアの頭をこつんと小突く。とても弱い、お仕置きにもならないような力だ。
「あのね、ミリア。勝手に女の子のジャージをまくりあげたりしたら駄目なんだからね。危うく春日井君に見られちゃうところだったんだから」
「大丈夫なのです。ミリアはサキュバスの能力を使い、ちゃんとお姉様が目隠しをしたのを確認してからジャージをまくったのです」
「ほんとかな?」
「本当なのです。なぜなら、ミリアはレベル173だからなのです」
「まあ、動体視力がすごいのは認めるよ。私が疑っているのは、本当に目隠しを確認する気があったのかどうかだけど」
「ミリアは探偵なのです。お姉様の行動は予測済みだったのです。でも、まあ、探偵ミリアには真犯人がわかったのです。今回はミリアがやったことにしておくのです」
「犯人はミリア以外いないでしょうよ……」
私は呆れながらそう言った。
ずっと気配を消すようにして会話に加わっていなかったエリ先生だったが、5人分のマグカップをお盆に乗せて運んできた。
立ち昇る湯気とともに、甘い香りがふわりと漂ってくる。
「さあ、犯人がわかったことですし、みなさんホットチョコレートでも飲みましょう。ミリアちゃんのおかわりもありますよ」
「おかわり! さすがエリ先生、なのです!」
真っ先に甘い香りに飛びついたのはミリアだった。
私たちもソファに腰を下ろし、ホットチョコレートを飲むことにした。
私とミリア、それに春日井君と湊ちゃんがテーブルを囲む。
エリ先生は微笑ましそうに私たちを眺めていた。
ミリア以外に別の真犯人がいる可能性など、その時の私たちの頭には微塵もなかった。




