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推しの衣装を手がけてます!  作者: 葵 紀柚実
二章 揺れる想い
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20 新年の挨拶

みんな、お正月はどんな感じで過ごすんだろう。

温泉とか海外旅行?

テレビ見て寝正月?

私はカウコン終わりで元旦の夜中、というか…早朝に帰宅し昼まで寝たあとダラダラ過ごす。

そして今日、伯父の家へ来ていた。

私が仕事を始めてカウコンに関わるようになってから、元旦には顔を出せず、二日に集まるようになった。


伯父さんのところの長男、卓ちゃんはお嫁さんと半年ほど前に産まれた赤ちゃんを連れて年末から入り浸っているらしい。

私の両親は車で二十分ほどの距離だから、気軽にひょいっとやってくる。

居間と隣の和室を二間続きで使い、広いはずの部屋も、今日ばかりは手狭だな。

卓ちゃんの弟、郁ちゃんはまだ来ていないようだ。


ひととおり挨拶を済ませるとコタツにはご馳走が並ぶ。

「ぜひ食べていってね。凛々子ちゃんの分を取っておいたのよ」

夕飯にはカニも出すつもりなの。と、初枝(はつえ)伯母さんは機嫌がいい。

昔から、娘が欲しかったからと姪の私を可愛がってくれてたし、今ではお嫁さんを娘のように思って仲良くしているようだ。

「どうせ普段はたいしたもの食べてないんでしょ?」

伯母さんに比べると、娘に容赦ない母の言葉。元旦は寝起きにパンを食べたと言いにくい。黙っていよう。

初枝伯母さんの煮物は美味しいし、大好きな伊達巻を食べながら近況を聞いてあげていると、廊下から足音が聞こえて、和室の襖が開いた。

「ごめん、遅れた」

休日ダイヤで乗り換えうまくいかなくて、という郁ちゃんだ。

今年もカッコいいな。一般人にしては。


昔から、あぁ、この人モテるだろうな。って思ってたし、彼女とデートだから従妹とは会わないって何度か言われたことあるし。

私より五つ年上の兄、卓也(たくや)くんはどちらかというと、ほんわかしていて和やかな雰囲気。安心感とか家庭的なイメージ。

弟の郁人(いくと)くんは二つ年上で、キリッとしていて清涼感がある。なんでもテキパキこなす器用さも。

右目の泣きぼくろとか、背の高いところとか、アイドルなら武器になりそうな見た目してるけど、実際にアイドルを見てる私からすると、もう一息。


「あれー?りんりんちゃん久しぶり。じゃ、俺が最後か」

う。今年も『りんりんちゃん』って呼ばれた!

小さい頃からいつの間にかそう呼ばれるようになったけど、その呼び方は郁ちゃんだけだからね!

「ずいぶん大人っぽくなったね。サブチーフなんだっけ?…あぁごめん、綺麗になったって言うべきだった」

あからさまなお世辞はいいから。

「やっぱ、周りに男性アイドルいっぱいいると、綺麗になるのかな?それとも恋でもしてる?」

アイドル、恋。

その単語にドキリとする。

だって光稀くんに告白されたばかりだから。

なかったことになってるけど。

「変なこと言わないで。郁ちゃんだって芸能人と仕事で会うでしょ?」

「ま、多少はね」

嘘ばっかり。多少なんてことはないはずだよ。

でも、私がSSRに入りたいって両親に相談した時「芸能界に関わる仕事なんて辞めなさい」って言われなかったのは、郁ちゃんが先に業界人だったからじゃないかな?そんなふうに思うから、その点は感謝してる。

そうだよな、やっぱ音楽関係の仕事してるから、いわゆるフツーのサラリーマンとはなんか違うよね。

卓ちゃんの平々凡々さも悪いとは言わないけど、郁ちゃんは髪を染めても許される職場ってことだもんね。

焦げ茶の短髪は今日のようなカジュアルでもスーツでも、好印象を与えるだろう。

もしかしたら、きっちりとしたスーツじゃなくてオフィスカジュアルなのかも。

普段私が携わっている衣装だと、きらびやかなスーツになっちゃう。

サラリーマンのようなスーツはスタイリストさんが持ってくるからな、私は手掛けない。

おっと…私の悪い癖。スーツフェチなのもあって、衣装として脳内コーデ繰り広げてしまった。


背の高い男性の妄想コーデは楽しい。

が、周りの話題は年末年始のテレビ番組に。

「今年も凛々子が衣装を作ったんでしょう?」

夜中まで起きていられなかったおばあちゃんがSSRのカウコンについて聞いてくる。お嫁さんの真美さんが録画してあるよとBlu-rayを起動させた。

え?今から鑑賞会?私だって録画したまま、まだ見てないのに。

一般人の皆さんと、私の仕事をさらけ出すの?

『今年も残すところあとわずか!まずは挨拶がてら各グループのデビュー曲をお楽しみください!』

局アナが左手でセンターステージを指す。そこにいるGIFT BOXがライトを浴びて歌い出した。

「凄いねぇ、凛々子が全部作ったの?」

え?全部?おばあちゃん何いってんの?

「俳優もいいけど、SSRはイケメンよね。グループよくわからないけど」

…初枝伯母さん、よくわかってないんだ?

「凛々子ちゃんはCOUNTRYとF2でしたっけ?」

よかった、真美さんはちゃんとわかってくれてる。

去年もカウントダウンの話になって、『起きていれば見れたのに』とおばあちゃんが言ったのを覚えていたから、今年は録画してくれたらしい。

よくできたお嫁さんだ。

私なんか、そんな話したっけ?と思ってるのに。

そしたら来年も録画してくれて、同じ流れになるかな…。


一人で何着も作って大変な仕事だね。

画面に映る全ての衣装を手がけてる、と勘違いしているおばあちゃんのために、私はテレビの横に座って、

「これ!…と、こっち!ほら、四人組がCOUNTRYだから!」

指を差しながら解説させられた。

なんの罰ゲーム??

「F2なら知ってるよ、凛々子は昔から好きだったものね」

う。うん。そうだね。

今の気持ち的に微妙だから名前を出さないでほしいんだけど。

「どうせ凛々子のことだから、職場じゃネコ被って、ファンだなんて一ミリも見せてないんじゃないの?部屋にはあんな写真だらけなのに」

「ちょっとやだお母さん。実家の部屋はあれでもだいぶ片付けたじゃない」

ファンだってバレましたけどね。それも自分でバラしましたけど…。

「この間ね、凛々子ちゃんのことを知り合いに話したんだけど、なんて説明したらいいかわからなくて。アイドルのスタイリスト?なんて言ったらいいかしら」

やだな伯母さん、誰に私の事話てんの?

よくあるんだよね、SSRって聞くと芸能人だって思う人。私はスタッフで芸能人じゃないのに。

伯母さんは裏方だってことはわかってて、だからこそなんて説明すればいいかわからない様子。

そうだ。

「あ、まって。鞄に名刺入ってるかも」

企画部衣装課。

それだとよけい分からなくなるかもしれないけれど、芸能人でもスタイリストでもないよ。ってことはわかるだろう。


その後、羨ましそうにこちらを見ていた真美さんにも名刺を渡し、そしたら俺もあげるね、と郁ちゃんも彼女に名刺を渡す。

その流れで私と郁ちゃんの名刺も交換することになった。

既に交換していたと思ってたけど、まだ私が学生だった時に郁ちゃんから貰っただけか。

あから何年もたっている。名刺を比べれば部署や役職が変わっているのかな。昔貰った名刺は…どこかになくしちゃったけど。


その後は赤ちゃんを抱っこさせてもらったり、テレビ見たり、昔のアルバム出してきて思い出話したり。

お腹いっぱいの御馳走を頂いて、私は両親と実家へ帰る。

しゃべり疲れたけれど、来てよかった。

一人で家にいたら、光稀くんのことを思いだして、どうしょうもなく泣いていたかもしれない。

みんなで過ごすことで今の自分を客観的に見ることができた気がする。


もう、大丈夫。

正月休みがあけたら、元の頼れるサブチーフに戻れるよ。

大丈夫。

ここから二章。もう一度告白させるぞ。

今回はその為のキャラを。

次回はF2の音楽番組出演と小道具。


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