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推しの衣装を手がけてます!  作者: 葵 紀柚実
二章 揺れる想い
21/65

21 マフラー

年明け。正月返上で動いている部署が多い社内。

班ごと全員が休みだった私たちは今年一年のスケジュールを改めて確認していた。そこへ並木チーフから呼び出しの内線。

作業の進行具合を見にこちらへ来るのではなく、呼び出しか、なんだろう。

私は、雪乃ちゃんに後を任せてチーフ室へ急いだ。


「りこって編みものできたよね?」

部屋に入ると予想していなかった質問が来た。

「はい。かぎ針ですか?棒針ですか?」

「あー、そうゆうのよくわからないから聞いてるんだよね。完成するならどっちでもいいんだろうけど。F2の『銀華』のマフラーはもう見た?」

「はい、白の」

来週発売の新曲『銀華』は冬のバラード。

発売前だからMVは一部分しか見れてないけど、テレビCMと公式サイトで流れている。

白いダッフルコートに白いマフラー。

降りしきる雪へ愛おしそうに手をのばす、美しい映像。

ボトムやインナーは違うけれど、二人共完全に同じコートなのが珍しくも新鮮で、早くフルで見たいと思っている。

お揃いコートとか、可愛いでしょ。でも、カッコイイ!

「たしか、マフラーは既製品でしたよね?」

「最初の案だとマフラーはなかったらしいの、当日スタイリストが小道具として色々持ってきてくれたらしくて」

センパイは現場にいなかったので定かではないらしいが。

色々かぁ、帽子とか手袋バージョンも勝手に妄想したら楽しそうだな。

「本当は手編みのマフラーがイメージだけど、ほら、撮影時って手に入れるの大変でしょ?」

「大変?…あ、秋」

発売前のラジオで初オンエアのさい、MV撮影秘話を話していた。

楽しそうに。

冬ソングなのにかなり前の撮影で、スタジオ内とはいえ、コート着てマフラー巻くのは暑さの我慢大会だったと。

それでも撮影中はなぜか汗が止まるのかアイドルだって笑ってた。

秋というよりほぼ夏。の撮影日では手編み風の既製品は販売してないだろう。

「じゃあ、あのマフラーもスタイリストさん手持ちのコレクションから持ち出した感じですね。それを今後使えなくなったとか?」

「いや、使うつもりなんだけど、そういや手編みでもいいよね。ってことらしい。ふと思い出したからダメ元で依頼されたの。無理ならいいの、編める?」

「編みます!編みたい!」

だって、私が編んだら、私の手編みを光稀くんが使うんだよね?

私の手作りを、光稀くんが!

「ぜひ!絶対!編む!」

「りこ、必死すぎ。少し落ち着け」

えぇー。落ち着いてなんかいられないよ。

あのMVのイメージでしょ?

極太よりも太いスラブの入った糸でざくざくっと編んでもいいし、モヘアみたいに毛足のある糸でふわふわっとさせてもいいよね?

楽しみ!

「りこ、妄想してないで聞いてくれる?口が半開き。で、何日ぐらいで仕上がる?」

「へ?そんなの一日あれば…あ、嘘です。通常の業務もあるし、今から毛糸の手配をしないと…付属屋に…それより、今日は半休にして帰宅がてら手芸店で見つけて…。二人分か…だと数日、…三日もあれば出来ます」

「そんなに早いの?そう」

勝手に今日半休とか言い出したけど、受け流された。

そしたらセンパイは、じゃあ、休日申請の書類作るからサインして、だって。

受け流されたんじゃない、受け入れらてしまった。


CDは水曜発売だから、初お披露目は生で放送の金曜夜の歌番組か。

そこが締め切りなら、余裕を持って作れそうだな。

「もう、大丈夫そうね」

「はい、もっと早く依頼してくれたらお揃いの帽子とか編めたんですけど」

「いや、そっちじゃなくて。光稀くんの方」

そっちじゃなくて?どっち?

「告られたほう。心配して損したわ」

「あ、はい。光稀くんに会ったらドキドキするとは思いますが、ま、それって前からだし。仕事に支障をきたすような心理状況は抜け出してるんで。ご心配おかけしました」

なかったことにしてくれたから。

ファンだってバレちゃったけど、そんなみっともないところも、全部なかったのだから、今まで通り仕事ができるよ。

そうだよ、仕事してたら忙しくて恋の話なんて忘れちゃう。

だから大丈夫。

私は、ただのファン。

それだけの立場だ。



『銀華』 

舞い落ちる雪に気付いた君が

笑顔で空を見上げた

降り積もるは僕の恋


舞うように微笑む君に

手を差し伸べても

許されるのだろうか


積もることのない粉雪は

実ることのない恋心


なんど巡っても君を想うよ

この想いを銀華にのせて



新曲は冬の叶わぬ恋。

せやから、振り付けは激しいダンスなどではなく、少し手振りがある程度や。

長めの間奏が入ったあと、最後の小節はアイコンタクトで合わせる。

CD収録分とテレビサイズで異なるとこは念の為か、安心の為か光稀と目を合せることが多い。

カメラの向こうのファンに優しい微笑みを投げかけながら、相方へ視線を向けると、ほら、向こうも俺に視線をよこしてきた。

と、なんや?

光稀がそっとマフラーに手を添えてる。

それも、めっちゃ愛おしそうにして。

もお、マフラーにスリスリしてんのやない?って感じで笑顔全開。

うわ。

とりあえず俺も、負けないぐらいの天使スマイルぶちかましたろ。


生放送の歌番組。

本日出演のアーティストは本番中ひな壇におってトークしたり、他のパフォーマンスを拝見したりする。

『年末年始の一枚』

そんなお題で写真を頼まれてたから、F2はカウコンの楽屋で撮った写真を出した。

「カメラ準備しとったらみんな寄ってきたんですよ」

「結局俺らが埋まって、どこにいるかわからないっていう」

「ここ、とここらへんにおるはずなんですけど。わからんもんな」

その他、俺たち同様仕事をしていたという写真や、スキーや温泉に行っただの、家族で過ごしたなど、トークも弾んだ番組内容で生放送は終了した。


楽屋へ戻ってすぐ、小泉さんがいないときに言いたいことがあった。

「お前、マフラー好きすぎやろ」

「…?普通、つか、普段は使わない」

「ちょ、ちゃう」

別に普段マフラーを使うか聞いとんのやない。

「言い方変えるわ。りこさんの手作りマフラーを愛おしそうにモフモフすな」

「え?いや、そ…そんなことしてねーし」

おいおい、してたやろ。あの笑顔はちょっとやそっとじゃ出ぇへんて。

「りこさんの手編みって知っとったやろ?」

「聞いたよ、並木さんが照明当たるし手編みは暑いだろうから、次は元に戻してもいいって」

そうやな、暑かったな。でも、歌の直前に巻いて、終わったらすぐ取ったし。

光稀のあの笑顔見たら、次も使わなアカンやろ。

「りこさん、編み物もできるんだな。やっぱ凄いよな」

あぁ、そうやな。

気にしたり褒めたりするぐらいなら、なかったことにせぇへんかったら良かったんや。

はよ、もう一回告ったらええのに。


トントン。

メイクを落とし終わって、帰り支度してる時に楽屋へ来客。

小泉さんが呼び込んでもいいか聞いてきた相手は田口ゆずはちゃん。

「失礼します。本来なら本番前に挨拶するべきでしたが、私の入りが遅くて」

元気印のゆずゆずちゃんが明らかに緊張した面持ちで入ってくる。

「気にせんといて、さっきマネージャーさんから挨拶されたし」

「俺らとゆずはちゃん、リハ時間が噛み合わなくてその後わりとすぐ本番だったし、挨拶する余裕はなかったよ。気にしてわざわざ来てくれたの?ありがと」

何人ものアーティストが集る番組で、仲良くなって連絡取り合うようになることもあれば、全く接点なく終わることもある。

デビューシングルをだして『F・F』へゲスト出演したときは、企画ものや、一枚限りと思われ、他の音楽番組には呼ばれんかったそうや。

ボイトレに力を入れセカンドシングルを出せたなら、えらい頑張ったんやないの?


「あの、それで、光稀さんにお伝えしておきたいことがありまして!」

気恥しそうにしながらゆずはちゃんが光稀に一歩近付いた。

「その、アンケートで。雑誌の。好きなタイプを聞かれたんです」

あぁ、よくあるやつやな。それが?

「私、光稀さんって書かせてもらって。事前にご連絡もせずお名前を記入してしまったこと、気にしてたんです」

なんだ、そんなこと。

「え、いいよ。マネージャーからは聞いてたし」

へぇ、俺は初耳やのに。

「前回『F・F』で、その、色々聞いたのに丁寧に答えて頂いて。それで、気になりだしちゃって…他に、アンケートに書けそうな芸能人が見当たらなかったから」

「わかるよ、俺らも書きにくいアンケートなんてよくあるし、こちらこそ俺で良かったのかな?」

「はい。気を悪くしてませんか?」

ん?まてよ。

これって、ゆずはちゃん、光稀のこと好きなんか?

「してないよ。それよりファンなら『くん』で呼んで構わないから。これからも応援よろしくね」

うわ、光稀のはにかみスマイル出た!

これは、全人類が騎士様に落ちるやつや。

「そんな、あ、ありがとうございます。光稀…くん。…これからも頑張って新曲出せるようにします!」

「うん。待ってる。頑張って」

おっと、光稀の社交辞令でた!絶対待たんしすぐ忘れるくせに!

ゆずはちゃん本気だ。

あれは完全に光稀に落ちとる。

「俺も楽しみや。新曲出たらまた番組きてや」

ま、彼女は恋愛より、ファンって感じだからこれ以上どうこうなるとは思えんけどな。 

それに、スタッフもファンも国民的アイドルの光稀なら、漠然とした憧れとしてゆずはちゃんをスクープすることなく受け入れるだろう。

無難な相手として雑誌に掲載されたんだろうな。


それでも一応フォロー入れるか。

「なぁ、こーき。今のは…大丈夫やったろ?」

仕事の延長で告げられたファンなら、危機感はないだろう。

「あぁ、憧れとか応援とか、そんな感じだったし。ゆずはちゃんいい子だろ?迷惑かけるはずねぇよ」

「そっかぁ、ちょっと不安に思ってそばにいたけど、大丈夫だったか…」

楽屋の入口近くにいた小泉マネージャーが声をかけてきた。

どうしても会いたいって言われて部屋へ通したが、内心おだやかではなかったらしい。

あの程度が不安に感じるなら、光稀がりこさんに告白したなんて話聞いたら、小泉さん卒倒するんやないか?

光稀はみんなに愛されすぎや。

ま、俺がその筆頭やけどな。

ゆずはちゃんは一回だけのキャラのはずが。元気な子は好きです。

次回は衣装とか推しとか関係ない方向の話。でも、必要な部分。

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