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啓蟄のアヴァ  作者: 藤井咲
第二章
16/23

(2)

 この国では六歳になると手の甲にデジタルデバイスの液体を接種することが義務となっている。

接種証明として各家庭のシンボルが手の甲に印字される仕組みだ。

ソルトソル家のシンボルは三センチ程の真っ黒な丸でその中に白い丸線が一本浮かんでいる。

Jとジャックにも同じシンボルが手の甲にあるが、深海鉄で見た母の手の甲は丸にチェックを入れたような掠れが見えた。


「これでアヴァも大人になったね。おめでとう!」


「おめでとう、アヴァ」


デバイス接種に付き添ってくれた双子が家に着いてお祝いの言葉をくれた。


「有難うございます。」


面と向かって言われた言葉がなんだか面映ゆく、小さな声でそっと返す。

双子は私以上に嬉しそうに笑っていて、私は双子に恥じぬよう頑張っていこうと決意を新たにした。


 シンボルを印字した年から義務教育が始まる。

集団で行われる学習方法もあるらしいが、Jとジャックが元々自宅学習だったこともあり私もそれに倣った。

基本的に自宅学習は指定された映像を見て問題を解き、分からない部分は自身の見解を学習AIに送る。送り返される解説を元に再度問題に答える。

一日の学習タスクは決まっていて、目標が終わり次第自由だ。

自分のしたいことをしても良いし学習を先に進めることも可能である。

私は特にやりたいことがなく、自身のタスクを終えた後はJとジャックの学習に混ぜて貰うことが多かった。双子の部屋と私の部屋は分かれていて、私の勉強が終わるまで双子の部屋の立ち入りは禁止されていたので、出来る限り早くタスクを終えるように頑張っていた記憶がある。六歳の私が十六歳である双子の学習を見ても理解が及ばないものばかりだったが、ジャックの自己研究である海洋生物の話を聞くのはとても楽しかったし、Jがたまに「運動授業」と称して遊んでくれるのも嬉しかった。



 広い家の離れに位置し不格好に出っ張っている双子の部屋は、壁の上半分が全て窓になっていて光が四方から入りいつも明るい。部屋の中心に置かれた観葉植物は天井の出窓に向かって葉を伸ばし部屋全体を覆う天幕の様に美しかった。

双子は一枚板の柔らかい机を共同で使う。

Jの机は物がなく、机に埋め込まれた学習デバイスと付属のペンだけがいつも定位置にしまわれていた。反対にジャックの机は物が溢れかえっていて、様々な図鑑がホログラムとして浮かび上がり、デジタルウォールに見たこともない生物を書いては私にその生物の素晴らしさを話してくれる。

収納が可能なデジタルウォールだが、ジャックの机は収納ファイルがあちらこちらに転がっていて文句を言いながらそれを片付けるのはJの役目だ。

私は学習が始まると同時に月に一度の公友会への参加を義務付けられた。

公友会とは自宅学習者を集めて他者と交友を持つことを目的とした学習の一環で、様々な年齢が集まるそこでは家族以外とのコミュニケーションを学ぶことが出来る。

思い思いの話を聞くことの出来る空間は面白かったが、私には誰か特定の人物と仲良くすることは難しく思えて段々と億劫になっていた。

双子も同様に公友会に参加していたが私とはグループが違い、離れたところから双子を眺めていると交友関係の違いは興味深いものだった。

Jは広く浅くいろいろな人たちと付き合って毎回話をするグループが変わる。

ジャックはアカデミーに強い興味を持っていたようで、特にテッセラ州のアカデミー生が現れると色々な質問を投げかけていた。


 義務教育は十七歳で終了し、十八歳までに自身の進路を見つけることが一連の流れとなっていて、勉学専攻の場合、エナ州、テッセラ州、エクシ州いずれかの教育機関に籍を置く。

ジャックは十七歳を迎え迷うことなくテッセラ州のアカデミーに籍を入れ海洋学を専攻した。

元々この国は海に囲まれており、戦前から海洋学研究を牽引している国の一つだ。

Jは義務教育を修了し「勉強はもういいだろう」と言ってジャックに机も椅子も譲った。

その後一年間何をしているのかは分からないが家を空けることは多く、私はJと顔を合わせることが少なくなっていった。

ジャックはアカデミーに通っては机の上に資料を広げ、ますます海洋学にのめりこんでいった。

この頃になると「Jとジャックはいつも一緒」という印象はなくなり、私の方がジャックとの時間が多かったと思う。時々顔を見せるJは厳しい父親のように私に接することが増え、私は彼を避けるようになった。父親を知らないJが思い描く父親はどこかおかしく見えて格好悪く見えて嫌だった。

そんな私を見る度にジャックは面白がるように笑って「Jが寂しがってるよ」と、優しく諌めてきた。


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