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啓蟄のアヴァ  作者: 藤井咲
第二章
15/23

(1)

 私には兄が二人いた。

ハイメ・ソルトソルとジャック・ソルトソル。

ハイメは頭文字をとってJと呼ばれることが多い。ジャックはJの双子の弟で私の兄にあたる。

彼らは二卵性双生児だった。


「いた」、とジャックを思い出す時に過去を見るようになったのはジャックが死んだからだ。

ジャックが三十二歳という早すぎる死を迎えてから四年が過ぎた。


 私はジャックが大好きだった。

いつも笑顔で私を見ると宝物を見つけたみたいに真っ黒な瞳を向けてくれた。ジャックが私に怒ったり叱ったりするところを終ぞ見たことがなかった。常に優しい空気を向けてくれた。

私たち三人兄弟の仲をとりもってくれたのはジャックだと言っていいだろう。

私はジャックの傍にいつもいたくて、その反面ジャックといつも一緒のJが少し怖くて、Jは怖がられているのは分かっていた筈だけどお互いに何も言わなかった。私たちの間に入って空気を和らげるのはいつもジャックで、私はずっとジャックに甘えていたし甘やかされることが嬉しかった。

双子は仲が良く、ジャックはJをよく褒めJはジャックを親友だと常々言いお互いを認め合っているのが見て取れた。


 Jは基本的に非情で口が悪く、誰に何を言われても自分の意思を曲げない。

他人と自分という距離を完璧に使いこなしていたし、気に入らない人物には容赦がなかった。

しかし家族という形には特別な思いを持っていたと思う。そしてその中でも特に、ジャックを大切にしていた。


 ジャックはユーモアがあり、特にJに対してその側面をよく見せていた。

ジャックより二センチ低いJの身長をからかって「小さい王様」と呼んだり、Jが眠っている間にJの長い髪で遊んだり、双子だけの遊び、双子だけの言語で会話するのを幼い頃はよく見かけた。

ジャックはひょろりと細くて兄弟の中で一番身長が高く、Jはジャックより低い身長を逐一気にしていた。引き換えといった様子でジャックは髪を短く整えJは長く伸ばした。

ソルトソル家特有の黒髪は一本一本が太く毛量も多い。

双子が一月に一度一緒に美容院に行っていたのを覚えている。

私は髪を触られるのが苦手で、途中で一緒に行くのを辞めてしまったけど。


 双子は幼年時代姿形がとてもよく似ていたが、成長過程で体形や表情が離れていった。

肉食動物の様なJと植物の様なジャック。

ただ、二人が揃うと即座に双子だと分かる。Jの雰囲気がジャックに寄っていくのだ。

まるで一つの対のように見える二人が私は羨ましかった。まるでではなく、まさしく対偶だったのだろう。




 私は母ニュクスの三番目の子供として生まれた。最初の記憶は私を覗き込むJとジャックだ。

私が生まれた時彼らは十の年齢で、忙しい母の代わりに私の世話をしてくれたのが双子だった。

物心を覚えた頃にはすっかり双子を親だと思っていて、私は母を「時々現れる美しい妖精」だと思い込んでいた。

私の勘違いに慌てた双子は、母がいなければ私たちはこの世に生まれていない、という話を昏々と私に説き伏せ私はようやく妖精を母親と認知することになった。

母を理解し父という存在を知り、玄関で身支度をしている母に父はいるか、と聞いたことがある。「いない。」と言い母は颯爽と扉を開け家を後にした。



「母さんは凄い人だから、忙しいんだよ。」


時々私が思い出したように母のことを聞くとJは決まってこう言い、ジャックは私を抱きしめながら言う。


「また四人で深海鉄に乗るまでの辛抱だよ。」


ジャックは私が寂しいのだと思っている節があったが、私は全く寂しくなかったし双子を私の兄にしてくれて有難うと母に感謝の念さえ持っていた。

 


 深海鉄には〇歳から乗ることが出来る。

地上の空気に赤ん坊の頃から慣れさせることが目的のようだ。

 

 私は六歳頃にようやく深海鉄を適切に理解し、深海鉄と呼ばれる鉄で出来た楕円形の塊が海上都市から自国の領土に行ける唯一の交通機関なのだと知った。

海上都市の中心部にあるエレベーターで1分程下り、受付でIDを見せて荷物検査を済ませ待合室で待つ。地上に登るまでは自然光が全く見えない空間で、空調管理はしっかりとされているがどこか冷たい印象だ。


 私たちは一年に一度必ず深海鉄に乗った。

その日は母、双子、私の四人が深海鉄の一等車にある四人席に座り近況を報告することが恒例になっていて毎年「双子のおかげで立派に成長しています。」という内容を話した。

家族の中で一番真っ黒な色を持っている彼女は、毎年同じに長い髪を一つに結んでいて高貴な馬のようだった。少し怖かったかもしれない。とても静かに薄く笑いながら私たちの報告を聞いていた。


 深海鉄は大変人気なレジャーだが、特にジャックは深海鉄に並々ならぬ情熱を持って臨んでいるように見えた。

ジャックは毎年近況報告を終えると、深海鉄の壁に埋め込まれている双眼鏡を陣取りその場から離れなくなる。真っ暗闇の海をずっと眺めているジャックを私は不安を覚えながら見ていた。Jは興味がなさそうで、ジャックがその状態になるとすぐに目を閉じてふかふかの椅子の上でじっとしていた。母は思い思いに過ごす私たちを静かに見る。


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