15話 俺の選んだ2000日 Ⅰ
更新遅くなって申し訳ございません!
再開していきます!
〜2131年 1月20日〜
視点:天霧夜
地点:人間界 天霧邸 トレーニングルーム
「じゃあお兄ちゃん、始めるよ!」
「ああ、いつでも大丈夫だ。武器は槍で……速度は5.0から上げていくいつもので頼む。あれは10.0を超えてから起動してくれ」
「了解だよ!」
俺は部屋の中心で木刀を構え、いつも通り目を閉じる。
「スイッチON!」
ちなみに咲はトレーニングルームの別室にいる。そこから俺の訓練をサポートしてくれる。
俺の前に敵意が出現した。目を瞑っているから見えていないが、咲お手製の機械が配置されたはずだ。
『参、弐、壱──』
機械音が流れる。
緊張で固まった意識をリラックスさせ、認識範囲をこの空間全体に拡張する。
集眼の一点集中とは反対に意識を全体に広げ、安定した戦闘状態を維持する
【感覚拡張】
この六年間で身に着けた技の一つだ。
感覚拡張を使い、敵の攻撃に備える。
『──戦闘訓練【回避】を開始します』
「っ!」
そのアナウンスと同時に、咄嗟に反らした身体の上を風が通り抜ける。
その後も、次々と繰り出されているであろう槍撃を身体を捻り、武器でいなし、あえて踏み込んで回避していく。
勿論一度も目は開けていない。音や気配といった情報から、敵の位置や攻撃範囲を探って動いている。
『──速度を6.0に変更します』
繰り出される槍の速度が上がる。
『──7.0……8.0……9.0……』
「くっ……」
槍は加速し続け、感覚だけで避け続けるのも厳しくなってきた。
俺は目を開け、同じように避け続ける。
いくら気配察知能力が上がったとはいえ、やはり目で直接見た方が状況は理解出来る。
……あの頃は目を開けても速度5.0ですら避けきれなかったのに、成長するものだな。
『──速度10.0に達しました。【エアロプログラム】を作動します』
……きたか。
【エアロプログラム】
実戦を想定して咲が作り出したプログラムだ。
この部屋を不規則な風が吹き荒れ、時には木刀なんかも飛んでくる。戦場で何か起こるか分からない以上、こうして不確定要素に対応できる対応力を身に着けておくのは重要だ。
ジルとの戦闘でそれを実感した俺が、咲に頼んで作ってもらったシステムだ。
「まだ、まだぁ!」
後ろから飛んできた木刀を叩き落とし、その勢いを利用して、正面から迫る槍を身体を捻り回避。
『──11.0……12.0……』
避けて避けて避けまくる。
武器としての霊装が無い以上、俺には決定打になりうる高火力攻撃が出来ない。
だからこそ、俺は回避技術を磨き続けた。
回避し続けて敵の弱点を探り、天霧に伝わる多彩な技で弱点を突く。
これが俺の戦い方だ。
卑怯と言われれば仕方ないが、実戦に卑怯もクソもない。
『──15.0……最高速度に到達しました』
「目で、追えない……!」
反射だけで、なんとか身体を動かし続ける。
だが──
「うっ!?」
突如、背中に衝撃が与えられた。
エアロプログラムか……あまりの速度にこっちまで意識する余裕が無かった。
まだまだだな……
『──記録:2分43秒。到達速度は最高速度の15.0です』
「でも新記録だ」
速度15.0──補助魔法の得意なエルフの一流の戦士が、全力で補助魔法をかけて得物を振るった時の速度と同じだ。
いつもはこの速度に到達する前に攻撃をくらってしまうが、速度15.0で、ましてやその最高速度の状態から13秒間も耐えられたのは今回が初めてだ。
反省すると共に、素直にこの結果を喜ぼう。
「お疲れ様、今朝は一段と凄かったね。新記録?」
訓練が終わると同時に、咲が部屋から出てくる。
「ああ、あの頃は速度15.0なんて夢のまた夢だったからな……にしても、回避訓練もすっかり毎朝の恒例になっちまったな。毎朝ありがとな、咲」
「気にしないで、私もお兄ちゃん相手にいっつも実験してもらってるしね!」
「さて、俺はそろそろ道場に行ってくる」
「あ、今日ちょっと相談したい事があるんだけど、お昼に時間取れる?」
「ああ、12時半でいいか?」
「それで大丈夫、行ってらっしゃい!」
俺はトレーニングルームを出て、三年前に庭に作った道場に向かう。
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地点変更:人間界 天霧邸 道場
──ガラガラ
古風な音が響く。
こういった音の鳴る昔の扉をこの時代で見る事はほとんど無くなってしまったが、何とも言えないこの音が個人的に好きで、自分の道場に取り付けてみた。
俺が道場を作った理由はいくつかあるが、一番の理由はこの家を守る天霧流の継承者がいなくなる事を防ぐ為だ。
俺達兄妹はまだ幼いし人間なら相当強い方だとは思うが、他種族も含めればまだまだ上がいる。
まだまだ弱い俺達だ。何らかの事故で天霧流が途絶えかねない。
天霧家は人間界での影響も大きい。仮に無くなれば、戦争で憔悴した人間界の上層部の均衡を崩す事になる。
終戦したあの戦争が、再び起こる事だって無くはない。
──そうした事情から
「おはよーございまーす」
「……ん」
「おはようございます師匠、今日も頑張りましょう」
「三人共おはよう、さっそく訓練するぞ」
弟子を三人とって、天霧流を伝えるためにこの道場を建てた。
三人共住み込みで天霧流を習得する為に奮闘している。
俺も教えられる程じゃないが、後継者を作るメリットを考えたら早い方がいい。
弟子達はみんな13歳、俺の三つ下だ。
名をそれぞれ一条裕翔、ラト、一条花梨。
弟子を集める為に人間界を渡り歩いていた俺が、最初に見つけた逸材が裕翔だ。
一応弓使い──といっても、霊装が弓状というだけで、武器なら何でも扱える。
天霧流は数多の武器の技がある為、多くの武器が使える裕翔との相性は良い。
戦闘スタイルも俺と被るし、俺としては教えやすくて助かる。
ラトは俺の弟子──と言うより咲の弟子と言った方が正確か?
『もっと機械を弄りたいから、天霧家の警備用ロボットを作った人の弟子にして……』と、この家に直談判してきた時は驚いた。
咲の名前を直接言っていたわけではないが、秘匿していた咲の存在を知っている点から、当時のラトへの警戒度は最高クラスだった。
だが──
『あれだけ高性能な機械が、勝手に自立して動けるはずが無い。大まかな支持を出す司令官がいるはず。でも夜さんが出掛けている時でも機械が動きを変える事はあったし、中に誰かいると考えた……間違ってた?』
機械や俺の動きからここまで完璧に見破られてはどうしようもない。……咲はこれを聞いて気に入ったみたいだけどな。
ラトの咲への弟子入り以降、天霧家はよりスキの無い城塞へと進化した。
ラトも戦闘技術を習得する為に、俺との訓練はしている。
『咲さんがやってる事なら、ラトもやってみたい』
とのことらしい。
天霧の技術がラトから漏れる事を避ける意味でも、ラト自身の戦闘能力が高いに越した事はない。
技術が漏れる事は絶対に無いようにしてあるが、念には念を入れておく。
ラト自身の霊装は無いみたいだ。
そして最後に花梨。
裕翔の双子の妹らしく、裕翔を連れて行く事が決まった時は弟子にする気は無かった。
だが、裕翔を弟子にしてから1年後──
『私は兄さんより強くなる。だから弟子にしてください』
と、ラトと同じく直談判してきた。
その時の花梨から凄まじく圧のあるオーラを感じた俺は、試しに一年間天霧流を教えてきた裕翔と戦わせてみた。
結果、技は未熟なものの、凄まじい気迫を纏って善戦。
何があったのかは分からないが、これだけの気迫を出せるのなら天霧存続の力にもなり得るし、花梨自身も強さを望んでいる。
双方にメリットがあると考えて、俺は花梨を弟子にした。
ちなみに霊装は無い。
あの気迫が霊装の力かとも思ったが違うようだ。
そうした三人の弟子達との訓練を昼まで終え、訓練を一旦中断し、話をしたいといっていた咲の部屋へ向かった。





