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13話 私の選んだ2000日 Ⅰ

 





 〜2130年 10月24日〜




 夜が霊装を入手したあの日から六年が経過した。

 魔界は人間界の技術を更に研究し、遂には人間界を守る防壁を破壊し、【炎帝】率いる魔族軍は人間界へと侵攻した。

 長年の平和が招いた平和ボケでパニックになった人間界に、この侵攻は大きな影響を与えた。

 だがこの戦いを最後に何故か戦争は終結へと向かい始め、遂に2127年、五界戦争は終結した。


 ──そして戦争終結から三年




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 視点:シャル・アストリア

 地点:魔界 パープリン郊外 アストリア孤児院




「ねぇねぇシャルママ! こっち来て!」

「はいはい、今行くわよ! ちょっと待ってて! あとシャルママはやめなさい」

「なぁシャルママ、ご飯まだ?」

「すぐに作るから待ってて! あとシャルママはやめなさい」


 あの戦争が終わって三年。

 私は魔界に帰り、魔界の辺境の街で孤児院を開いていた。

 なんでこんな事になったのか。

 時は遡って六年前──




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 地点変更:人間界 とある孤児院




「あ、ありがとうございます」

「いいのよ、ゆっくり食べて?」

「…………」


 当時の私は状況が全く理解できていなかった。

 確か摩耶山を基点に、人間界の現状を知ろうと動いていたのよね。

 この日は摩耶山から離れている間に日が沈んでしまって、旅先にあった洞窟で眠った。

 ……のだけど、また朝起きたら天井が変わっていた。

 起きたら天井が変わってる……これ、心臓に悪いからやめてほしい。


「気が付いた?」


 この人間は紗綾(さや)

 15歳の普通の女の子ね、霊装使いでもないみたい。

 確かに見た目はそれらしいけど、醸し出している雰囲気からもう少し大人だと思っていた。

 紗綾は私の寝ていた洞窟をたまたま覗き込み、私の事を孤児だと思って連れてきたらしい。


「違った?」


 私はこの時こくこくと首を振って、孤児だということを肯定した。

 まあ本当の孤児ではないけど、人間界の現状を知るには良い機会かもしれない。当時の私はそう考えた。

 ……当時の自分は納得していたけど、今思うと、敵対種族とはいえ人の温もりに甘えたかったのかもしれない。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 そこから戦争が終わるまでの三年間、私はここで人間界の色んな事を学んだ。料理、洗濯、コミュニケーション、機械──他にも色々。

 人間達が幼い頃からこれだけ色々なことを学んでいるのだとすれば、確かにあれだけの学習能力を持っているのも頷ける。

 最初はそう思ってやっていたけど、いつの間にかそれらをするのが楽しくなってきていた。


 それと同時に、紗綾からは孤児や種族についても学んだ。どの世界にも孤児は多数存在する事、そして孤児には罪がないという事。

 そして彼女には、異種族とも手を取り合って、そういった子供たちを無くしたいという夢がある事。

 その考えに感銘を受けた私は、敵対種族だからといって何も知らずに子供たちを殺していた自分が、どれほど重いことをしていたかを実感した。

 私が殺した彼らに……何か罪があっただろうか。


 ──当時の私がそんな事を考えていた時、人間界が魔族に襲撃された。


 孤児院にも魔族が来るかもしれない。

 そう考えた紗綾は──


「みんなを地下室に連れて行って」


 孤児院の中で一番の年長だった私に他の子たちの誘導を任せて、自分は孤児院の外に出ていった。

 紗綾は身を(てい)してでも私達を守ろうとするだろう。三年も一緒に暮らしているんだ。紗綾がそういう性格なのはよく知ってる。

 そんな紗綾が私は好きだ。絶対に死なせない。

 私は皆を誘導した後、こっそり気配を遮断して孤児院を出た。

 例え私が魔族だとバレても、紗綾には生きていてほしかった。


「シャル、ちゃん?」


 結果──孤児院は襲われた。でも被害は無い。翼を展開して皆を守ったからね。

 でも──紗綾の前で翼を展開した私は、事情を話さざるをえなくなった。

 私が魔族だという事、この純白の翼がとある人間の霊装だという事、そして三年前の霊装神殿襲撃事件の首謀者が私だという事。


「魔族って事、私が気にすると思った? いつも言ってるけど、異種族と言っても同じ命だしそんなの関係ないよ。でもね……」


 この言葉は、今でも忘れた事はない。


「話を聞いた感じだと、シャルちゃん人を殺した事を後悔してるんじゃない? だとしたらその選択は間違いだよ。私は別に聖人君子じゃないし、殺した事情だってあると思う。でも大事な選択を人に任せたら、自分のやりたい事なんて何一つ出来ずに終わっちゃう。……結局何が言いたいのかって言うとね。『何をやるにしても、後に後悔しない選択を自分自身で選ぶのが大切』って事。自分の大切な事、他の人に決めつけられたら楽しくないでしょ?」


 私はふるふると頷いて、泣いたまま紗綾の胸に飛び込んだ。

 なんというか……人間界にいた頃は泣いてばっかりだ。

 自分のやりたい事を選ぶという発想が無かった私にとって、この言葉は衝撃だった。

 紗綾は黙ったまま頭を撫でてくれた。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「ホントに行っちゃうのね」

「紗綾、本当にありがとう。でもこれは【後悔しない選択】。大丈夫よ!」

「うん、それなら良し!」


 魔族の孤児院襲撃から数ヶ月後──五界戦争の終結と同時に、私は各世界を旅する事にした。

 五界戦争は多くの孤児を生んでしまった。

 紗綾の元でそれを学んだ私は、各世界の孤児達を私の建てた孤児院で養おうと思った。

 まがりなりにも魔族の部隊長をやっていたからそれなりに強いし、戦争も終わった。

 見た目が人間とはいえ、他種族から唐突に攻撃を仕掛けられる事もないと思う。


「またいつでも帰ってきてね? みんなシャルちゃんには懐いてたからきっと喜ぶよ」

「ええ、それじゃ行ってきます!」




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 そういえば夜……元気にしているかしら? あのしぶとい彼なら生きていると思うけど、やっぱり心配だ。

 彼から貰った【共鳴の翼(レゾナンス・ウィング)】、使い方はなんとなく分かってきた。

 翼は大きさは自在に変えることができて、大きさに比例して魔力の変換効率も魔法の威力も、そして飛行速度も上がる。

 そして飛行継続時間は無限? ……だと思う。

 飛んでて疲れを感じた事がない。


 その翼を使って私は世界を飛び回った。

 頂上が雲を突き破った世界樹、噴火の止まらない火山、鮮やかに色づいた不思議な雪の雪原……他にも色んな物を見た。

 そして、その何処にでも孤児はいた。

 できる限りの孤児を、魔界の辺境の街【パープリン】にある私の孤児院に連れて行った。

 悔しいけど、全員を私の建てた孤児院に集める事はできなかった。

 できる事なら一緒に連れてきてあげたかったけど、こればかりは仕方ない。……本当に自分の力不足を実感する。

 ともかく、そんなこんなで世界中の孤児を集めた私の孤児院は、様々な種族の子供達が共存する世界初の孤児院として有名になっていった。

 別に有名になりたくてこんな事をしたわけじゃないけど、これを機に世界中から孤児がいなくなればいいと思う。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 地点変更:魔界 パープリン郊外 アストリア孤児院




「せっせっせ!」

「「「せっせっせ!」」」


 約100人分の料理を大きな釜で煮込む。

 大きい子達の中には料理を手伝ってくれる子もいる。

 小さい釜じゃみんなの分を作るのに時間がかかり過ぎるからこれでいい。


 ちなみに、この釜はパープリンの倉庫から借りてきた。

 孤児院が大きくなるに連れパープリンからの援助も増えて、今では私が世界の各地に飛んでる時にも、ボランティアの人が孤児のためにご飯を作ってくれてたりするらしい。

 それにパープリンは自然豊かな街。

 この街に来たばかりの私は、紗綾の元で学んだ耕作を子供や街の人に教えた。

 魔族的特徴の無い私をよく信頼してくれたと思う。この街の人には感謝しかない。

 今まで魔界に農業は存在しなかったけど、パープリンでは畑も広がって、いい感じになっている。

 勿論、農業は孤児達にも教えている。

 私があまりここにいられない以上、自給自足をしてもらう必要がどうしてもあると思った。


 料理が出来たから、私は子供達を呼び回る。


「ご飯っ! 出来たわよー!」

「出来ましたー!」

「「したー!」」


 手伝ってくれていた三人も同じように呼び回ってくれる。

 うん、なんというか……可愛いわ。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「いただきます!」

「「「「「いただきます!」」」」」


 そうして朝食を食べようとしたその瞬間── 


 正面扉からノックの音が聞こえた。

 正面扉は食堂に近く、ノックの音は普通に聞こえる。


「ちょっと出てくるから、みんなは先に食べててねー!」

「「「「「はーい!」」」」」


 実はこういった来客は少なくない。

 大体は──


『この孤児院を買い取りたい』


 とか──


『シャルさんの話を聞きたい』


 とかそんなのばっかりだけど、パープリンの人の可能性もある。

 出ない訳にはいかない。


「はーい、なんのよ……う…………」

「ハァ……ハァ……!」


 けど、今回の来客は完全に予想の斜め上。


「母さま……!?」

「あぁ……シャル、シャル!!!」


 来客は母さま──マイル・アストリア、その人だった。


「シャルうぅぅぅぅ!!!」

「わっとと」


 そのまま突っ込んできた母さまを、私はしっかりと抱きとめた。

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